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怒りの多次元構造と発達的変化

ドキュメント内 問   題 (ページ 99-106)

全体的討論

研究 2  怒りの多次元構造と発達的変化

研究1の調査対象と同集団3)に対し,約3年後の中学2・ 3年生時に再度調査を行い,同様の怒りの構造が認めら れるか検討する。分析には研究1で得られたデータも併 せて用い,怒りの各側面における発達的変化についても 検討する。

方 法

調査対象 研究1の調査協力校と同地区の公立中学校 に通う2・3年生の生徒307名中,フェイスシートにて A校またはB校出身と回答した生徒283名(男子143名,

女子140名)。無記名調査であり,研究1の対象者との 対応づけは行っていない。

調査時期 2006年7月。

調査内容 研究1の因子分析の結果採用された項目を 用いた。

結果と考察

怒りの多次元構造の確認 怒りの各側面に関する項目 について研究1と同様に主成分解による因子分析(バ リマックス回転)を行った。5因子構造を想定して行っ たところ,小学生時と同様MSAIの積極的対処の項目が 2つの因子に分かれて負荷を示した。また,慢性怒りの

「いらだち」と「敵意」に関する項目が全て同一の因子 に負荷を示した。これは,「いらだち」と「敵意」が慢 性的な怒りというひとつの概念の異なる側面であること を裏付けるものであったと言える。6因子構造では「怒 り体験」の項目のうち教師と関わりのあるものとない ものとがそれぞれ異なる因子に分かれて負荷を示した

ため,解釈のしやすさから5因子構造が適当であると 考えられた。5因子での累積寄与率は42.6%であり,因 子の固有値は順に4.07,3.78,2.50,2.12,2.00であっ た。各下位尺度項目の因子への回転後の負荷量は,「慢 性怒り」で.42 – .69,「怒り体験」で.44 – .62,「破壊的 表出」で.55 – .67,「怒り制御」で.41 – .61,「社会的共有」

で.79,.83,各下位尺度項目の他の因子への負荷はすべ て.30未満であった。

因子分析の結果,研究1と一部異なる構造を示したた め,これらの怒りの構造を整理し,異なる調査時期にお いて適用可能かどうかを調べる目的で,最尤法による確 認的因子分析を行った4)。「いらだち」「敵意」「怒り体験」

「破壊的表出」「怒り制御」「社会的共有」の6つの因子 を仮定し,「いらだち」と「敵意」の上位に「慢性怒り」

を,「怒り制御」と「社会的共有」の上位に「積極的対処」

を仮定した高次の因子分析も併せて行った(Figure 1)。

小学生時のデータへの適合度はGFI=.869,AGFI=.848,

CFI=.894,RMSEA=.040であり,中学生時のデータへの適

合 度はGFI=.858,AGFI=.835,CFI=.858,RMSEA=.046 であった。いずれも十分とは言えないまでも,許容範囲 であると考えられた。「積極的対処」から「怒り制御」「社 会的共有」へのパス係数に小・中学生時で違いが見られ,

積極的対処のあり方や意味合いが発達段階で異なること が示唆された。また,潜在変数間の相関関係にも調査時 期間に違いが見られ,小学生時に有意であった「破壊的 表出」と「積極的対処」の間の負の相関が中学生時で認 められず,これらが中学生では関連しないことが示され た。

発達的変化について 中学生における男女ごとの記述

統計量をTable 5に示した。研究1の小学生時の結果と

比較するため,怒りの変数を従属変数として学年(小学 5・6年,中学2・3年の2水準)と性別の2要因分散分 析5)を行ったところ,学年の主効果が「いらだち」(F

(1, 563)=22.23,p < .001,η2=.04),「敵意」(F(1, 563)

=45.33,p < .001,η2=.07),「 破 壊 的 表 出 」(F(1, 563)

=17.22,p < .001,η2=.03)で認められ,いずれも小学 生時よりも中時学生で高い値を示した。「いらだち」と

「破壊的表出」では小学生で大きかった変数の歪度が中 学生で小さくなり,正規分布に近づいていることから も,これらの傾向が対象生徒の間により一般的に認めら

3)研究1の調査協力校であったA校,B校の児童のほとんどが同 地区の中学校に進学しているため,他小学校出身と回答した生徒,

出身校が無回答であった生徒を除き,研究1と同集団とみなして いる。

4)分析にはAmos16を用いた。

5)調査時期間でデータに対応がないため,分散分析においては学年 を調査対象者間要因として扱っている。個人内変動が誤差分散に 含まれており,タイプⅡエラーの可能性がある。結果には効果量 を付記した。

れるようになると考えられる。「怒り体験」では学年と 性別の主効果(F(1, 563)=6.13,p < .05,η2=.01;F(1, 563)=4.26,p < .05,η2=.01)がそれぞれ認められ,小 学生よりも中学生で,男子よりも女子で高い値を示した が,効果量は小さいものであった。「積極的対処」のう ち「社会的共有」では性別の主効果(F(1, 563)=52.77, p < .001,η2=.09)が認められ,女子で男子よりも高い 値を示した。これは日比野・湯川・小玉・吉田(2005) が中学生を対象に行った調査結果と同様であるが,本研 究では小学生においても女子の方が社会的共有を行いや すいことが新たに示された。尺度のα係数については,

「積極的対処」のうち「怒り制御」で研究1の小学生時 よりも低い値を示した。積極的対処は一元的な概念でな いことが指摘されているが(Furlong et al., 2002),発達 に伴いこれらが分化していくという可能性も考えられ る。また,慢性怒りのうち「敵意」については小学生時 で低い値を示したが,中学生時では.74とある程度の信 頼性を示した。これは,得点の上昇とあわせて,敵意が

小学生から中学生にかけて意識されるようになるという 秦(1990)の指摘を支持するものであった。小学生時で 因子分析の結果それぞれ異なる因子に負荷を示した「い らだち」と「敵意」の項目が中学生時では同一の因子に 負荷を示したことも,このような認知機能の発達と関係 している可能性があると考えられる。

怒りの各側面間の関連 怒りの各側面の特徴を検討す るため,性別ごとに変数間の相関係数を算出した(Table 6)。怒りの行動的側面である「破壊的表出」との相関は,

男子では「いらだち」との間で,女子では「敵意」との 間で最も大きく,女子において研究1の小学生時と異 なる傾向を示した。一方,「破壊的表出」と「怒り体験」

との間の相関は男女共に弱く,男子で中程度であった小 学生時と異なっていた。これらのことから,中学生では 男女共に,場面状況的な怒りの強さよりも慢性的な怒り の強さが破壊的な表出傾向と関連しやすいことが示唆さ れた。また,慢性怒りと「怒り体験」の関連においては,

女子では「いらだち」「敵意」とも小学生時と同様の弱 Figure 1 高次因子を含めた確認的因子分析による怒りの多次元モデル

注.有意なパス・係数( p < .05)のみを表示。係数は左が小学生時,右が中学生時。破線は小学生時のみの相関係数を表して いる。下部のa1c12は項目番号。

Table 5 中学生における怒りの各変数の平均値

いらだち 敵意 怒り体験 破壊的表出 怒り制御 社会的共有 男子 8.2 (2.8) 14.3 (3.7) 34.2 (7.3) 10.3 (3.7) 9.8 (3.3) 4.2 (2.1) 女子 8.5 (2.5) 14.5 (3.9) 35.0 (5.7) 10.7 (3.5) 9.4 (2.7) 5.7 (2.0) 全体 8.3 (2.7) 14.4 (3.8) 34.6 (6.6) 10.5 (3.6) 9.6 (3.0) 5.0 (2.2)

Skewness .28 .22 –.14 .39 .50 .02

α .74 .74  .79 .72 .54 .81

注.括弧内は標準偏差。N =269(男子:n =134,女子:n =135)。

破壊的表出

積極的対処

社会的共有

2 1.00/.53 0

い相関が認められたが,男子では中学生時でいずれも有 意でなく,慢性的な怒りの強さと場面状況的な怒りの強 さが男子では関連しないことが示された。もう一方の行 動的側面である「積極的対処」については,小学生時に 女子で「怒り制御」とその他の怒りの側面に弱い負の相 関が見られたが,中学生時では女子で「社会的共有」と

「敵意」との間に弱い負の相関が見られた以外はいずれ も有意でなく,男女ともに怒りの強さと積極的対処とが 関連しないことが示された。これには,先述のように中 学生時では「怒り制御」のα係数が大きく低下しており,

項目が実際の行動を捉えられていないことも影響したと 思われる。

総 合 考 察

怒りの多次元構造

本研究の第一の目的であった怒りの多次元構造の確認 については,小・中学生時における因子分析により,慢 性怒りが状況刺激下での怒り感情,行動表出と弁別され ることが確認された。さらに,「慢性怒り(いらだち・

敵意)」,「怒り体験」,「破壊的表出」「積極的対処(怒り 制御・社会的共有)」という構造が両調査時期に共通し て当てはまることが確認された。これにより怒りを多次 元的に捉えることの妥当性が示されたと言える。

本研究では,慢性怒りを認知的側面である「敵意」と 情緒的側面である「いらだち」から捉えた。「敵意」に ついては小学生時で低かったα係数が中学生時で高く なっており,秦(1990)やWoodall & Matthews(1993) が指摘するように,敵意は中学生から高校生にかけて明 確に意識されるようになると考えられた。一方,情緒的 側面である「いらだち」では小学生でもある程度の信頼 性係数が得られたことから,小学生においても意識され やすいいらだちに注目することが有用であることが示さ れた。また,いらだちはわずかな刺激で否定的感情を爆 発させる予備状態である(Buss & Durkee, 1957)とされ ているように,男女ともに日常的ないらだちを感じやす いほど破壊的な表出をしやすいことも示され,認知的側 面の敵意だけでなく情緒的側面のいらだちも含めて慢性

的な怒りを捉えることが,児童期・思春期における怒り を理解する上で重要であると考えられた。

MSAIの「積極的対処」の項目については特に中学生 時で尺度のα係数が低く,Smith et al.(1998),Furlong

et al.(2002)と同様の結果であった。これには項目数

が少ないこと,概念が一元的なものではなく抑制,リラ クセーションや認知の再構築による情緒コントロールな ど幅のある反応を含むこと(Furlong et al., 2002),また それらが発達に伴い分化していく可能性があることが要 因として挙げられる。なかでも,「社会的共有」はその 他の反応と区別して捉えられる必要があることが本研究 の結果から示唆された。特に男子で学力と関連があるこ とが示されたことからも,言語化やコミュニケーション 能力と怒りへの対処の関連の研究が今後望まれる。本研 究で「怒り制御」とした積極的対処のその他の項目につ いては,小学生時では女子で「慢性怒り」,「破壊的表出」

との間に負の相関が認められたが,一方男子では怒り制 御をしやすいほど教師によって不人気であると認知され る傾向があり,こういった対処が必ずしも適応的な意味 合いを持たない可能性も示された。何をもって積極的な 対処とするか,さらに検討が必要である。

怒りの発達的変化と男女差

「積極的対処」以外の各側面において,小学生時より 中学生時で高い値を示した。秦(1990)は「中学生は 青年期の初段階で第二反抗期に入り,精神的動揺に伴っ てどの時期よりも攻撃的に行動化しやすい傾向を持って いる」と述べており,本研究の結果もこれを支持するも のであったと言える。また,「慢性怒り」や「怒り体験」

に関しては,認知機能の発達に伴って中学生で高くなっ た可能性も考えられる。これは尺度得点の分布が中学生 時でより正規分布に近づいていたこととも関係している と思われる。

攻撃行動には従来男女差があることが指摘されてい るが,国内では男女差があるとする研究(例えば秦,

1990;日比野ほか,2005;坂井・山崎,2004)と,な いとする研究(例えば坂井・山崎,2003;勝間・山崎,

2007)があり,一貫していない。本研究では「破壊的表 出」において男女差は認められなかったが,これには項 目に直接的な身体攻撃を含まないことが影響した可能性 がある。一方で,教師による行動評定との関連では,破 壊的表出をしやすい男子が攻撃的と認知される傾向があ るのに対し,女子は不注意であると認知されやすく,男 女で実際の表出の仕方が異なると推察された。また,小 学生時には刺激下で怒りが喚起されやすい男子ほど破壊 的表出をしやすいことが示されたが,中学生時ではその 傾向は認められず,このような男女差は児童期に特徴的 である可能性が考えられた。

積極的対処のうち「社会的共有」については,小・中

Table 6 中学生における怒りの各変数間の相関係数

1 2 3 4 5 6

1 いらだち .54 .10 .46 –.14 .15

2 敵意 .45 .04 .30 –.16 –.09

3 怒り体験 .24 .17 .20 .06 .05

4 破壊的表出 .40 .49 .27 –.14 .12

5 怒り制御 –.12 –.10 –.08 –.03 .38

6 社会的共有 –.06 –.20 .13 .00 .01 注.上段は男子,下段は女子。太字の係数は有意( p <.05)。

ドキュメント内 問   題 (ページ 99-106)