5,1,学級経営と社会的スキル指導
観察した2つの学級を比較したとき,その大きな違いは環境である.
B小学校は人口が少ない地域にあり,自然に囲まれた学校である.学校 全体も落ち着いた雰囲気を持ち,保護者も学校に対して協力的である.
D小学校は県内でも人口の集中する地域の中心部にあり,転勤による児 童の移動も多い.児童数もB小学校の2倍以上で,生徒指導上の問題も 多い学校である.このような環境が,学級の雰囲気や児童に影響を与え ているのではないかと考えられる.
しかし,観察を行ったD小学校第6学年の場合はそれだけではない.
学級に問題行動が見られる児童が多く,担任ゴ人ではとても抱えきれな い状況であった.担任は教職歴20年近いベテランだったが,1学期間 を通して見る限り,決してよい学級とは言えなかった.「学級がうまく 機能しない状態」とまではいかなくても,それに近い状態だった.これ
は,学級経営研究会(2000)の調査にもあるとおり,「学級がうまく機能し ない状態」は,ベテラン教師の指導下においても起こることを裏付けて
いる.
集団への社会的スキル指導は予防的・開発的な視点から行われる.し たがって,学級が学級として機能している状態であることが前提である.
問題行動が顕著な児童に対しては,当然個別な取り組みが必要である.
また,学級にいじめがあることがはっきりしていれば,いじめをなくす ことが先決である.学級経営がうまくいかない:場合は,学校全体による 学級サポートも必要となってくるだろう.当然,学級担任も学級経営力 を高める努力が求められる.今後,社会的スキルに関する研究において も,学級経営の視点を取り入れ,より多角的な視点から行われることが
必要となる.
5,2,担任へのコンサルテーション
本研究では,筆者が社会的スキルについて担任に説明し,理解を得る ように努めた.その上で社会的スキル指導を筆者がLeaderとなってす すめ,担任はCo−leaderもしくは,参観者として参加した.このように,
研究者が学級に介入する場合,いくつかの留意点がある.
(1)担任に社会的スキルに関する理解を得ることが最重要である.
本研究にかかわった学級担任は,筆者に対して好意的であり,社会的 スキルについてもその必要性と重要性を認識していた.しかし,それは
どの担任にも可能なわけではない.
(2)担任との時間調整を綿密に行うことが大切である.
学校行事や学年行事は年度当初にある程度決定しているが,突発的な 行事が入ったり,担任の予定が変更されることもある.そのため,常に 担任と協議しながら進めることが必要となる.
(3)担任へのコンサルテーションが重要である.
学習したスキルを実行し,般化・維持を得ようとすれば,担任が児童 に対してどのようにかかわるかが重要となる.社会的スキルについて学 習したとしても,それが生かされなかったり,逆に社会的スキルの実行 を阻害してしまう状況があれば般化・維持は困難である.したがって,
担任に対して,学級経営や指導方針・指導方法に関するコンサルテーシ ョンが必要となる.しかし,実際は困難なことが多い.事前に理解を得 るとともに,研究者は担任に対して常に受容的・援助的な姿勢を持ちな がらコンサルテーションをすることが大切である.
5,3,社会的スキル指導の位置づけ
一教育課程編成基準一
2002年度より,新教育課程が実施される.ここでは,新教育課程編 成基準をもとに,社会的スキル指導の実施に関する可能性について検討
する.
5,3,1 社会的スキル指導が可能な時間数の算出
教育課程編成基準における授業予定時数(5年生の例)をTable16に
示す.
まず,2002年度の暦から授業日数を各学期ごとに算出する.授業日 数に予定されている時間割にもとつく時間数をかける.これが授業予定
時数である.
そして,各教科の標準時数を各学期ごとの時数に換算する.各学期ご との予想される行事や児童活動の時数を算出する.この総和が必要な時
数となる.
授業予定時数から必要な時数を引いた時数が予備となる.
Table16 教育課程編成基準から算出した授業時数
月
1学期 2学期 3学期
授業予定時数
383 418 266
教科
ケ徳
w級活動 麹㈱w習
s事
剴カ活動
274 @13
@13 @40
@27 @ 4
300 @14
@14 @43
@30
@ 4192 @ 8
@ 8 @27
@19 @ 3
必要な時数 371 405 257
予備 12 13 9
各学期とも10時間前後の予備時数が得られる.しかし,実際は欠課 等もあり,そのほとんどが消費されてしまう.したがって,表に挙げた 項目以外に実施することは困難である.
また,社会的スキル指導の実施時数を確保するためにはいくつかの条 件がある.それらを列記してみる.
・各学期とも,学期初めは座席決定,当番活動の決定等に3時間程度の 学級活動が必要である.また,社会見学,児童会活動(例えば七夕集 会)等の準備のために学級活動が必要となる.およそ各学期とも2時 間程度必要とされるごとが予想できる.その他,水泳に関すること,
運動会に関すること等,必要と思われる時数を考慮すると,学級活動 で社会的スキルに充てることが可能な時数は以下の通りである.
1学期………3時間 2学期………3時間 3学期………1時間
・総合的な学習は学校によってその内容が決定しており,社会的スキル 指導を加えることは難しい.
・教科学習の実施時数が標準時数:を超える場合があるが,ここでは考慮 しない.
・道徳は,「親切・思いやり」「友情・信頼・助け合い」の項目で時間を 確保することができる.その時間を各学期とも2時間とする.
・道徳,学級活動等で実施する場合は学期内で時数を調整する.
以上の点から,社会的スキルを学級活動と道徳で行う場合に実施可能
な時数は以下の通りである.
1学期………5時間 2学期………5時間 3学期………3時間
5,3,2 社会的スキルの年間計画案
相川(1999)を参考に,本研究の成果と4.5.1に挙げた実施可能時数から 年間指導計画案を提案する.
なお,この年間計画は,どの小学校でも実施可能な時数と内容である と考えている.しかし,総合的な学習の内容が明示されていない場合や 行事計画時数が表よりも少ない場合はさらに時数を確保することができ
る.
また,指導内容の根拠も学習指導要領に準じたものであるため,時数 報告に際しても問題はないと考える.
内容の次に示す数字は実施時数である.ただし,教科での指導につい ては随時行うこととし,時数は示さない.
上述したように,道徳においては「親切・思いやり」「友情・信頼・
助け合い」で実施する.学級活動においては,「学級の生活をよりょく する」内容が示されているのでここでは明示しない.
道徳や学級活動において,学級全体に対して集中的に指導を行う場合 は,相川(1999)の進め方を基本とするが,学級の実態に応じて工夫する
ことが必要である.ロールプレイ未経験で,ロールプレイに対して抵抗 が大きい場合は,教師によるロールプレイから徐々に児童のロールプレ イを多くすることも考えられるだろう.
また,社会的スキル指導を実施する場合は,動機付けの違いによって
もその効果が大きく異なると考えられる.児童の動機付けを高める工夫
も必要である.その意味でも,人間関係づくりゲームは動機付けになる
とともに授業のちょっとした時間を利用することもできるので,できる
だけ活用するとよいだろう.
Tabl e 17 社会的スキル年間指導計画案
月
道徳 学級活動 教科
4 人間関係づくりゲー
?@
上手な聴き方 竄ウしい頼み方 5 ( )
@ 気持ちを分かっては スらきかける① 上手な聴き方 竄ウしい頼み方
6 あたたかい言葉か
ッ①
気持ちを分かっては スらきかける①
上手な聴き方 竄ウしい頼み方
7
9 人間関係づくりゲー
?@
上手な聴き方 竄ウしい頼み方
10
トラブルの解決策 考える①
あたたかい言葉かけ
11
( ) @
@ @ ( )
12
1
( )
@ 人間関係づくりゲー?@
上手な聴き方 竄ウしい頼み方
2 トラブルの解決策 考える①
3
※( )は,学級の実態に応じた内容を選択できるようにしてある.
※4月,9月,3月は行事にともない,時数を確保することが困難な場
合があるため,最小限の指導時数としている.
5,4,今後の課題
研究成果を踏まえ,先行研究を参考にしながら今後の検討されるべき 課題について述べる.
(1)行動指標を用いて社会的スキル指導の効果が検討された研究がほと んどないといってよい.社会的スキルとは先述したように「対人関 係技能」である.したがって,技能がどれだけ高まったかを評価す るためには,自己評価や他者評価だけではなく∫行動が評価されな ければならない.行動の評価基準にもとつく査定方法を併せた研究 が必要である.
(2)先行研究において,社会的スキル指導そのものを評価した研究はな い.社会的スキル指導の理論的枠組みが正しくても,学級の実情に 沿った指導法でなければ効果はあがらない.となれば,指導法や展 開が学級に即したものかどうかが検討されなければならないだろう.
本研究では,2つの学級の実態に応じて,指導法や展開を工夫して みた.しかし,それが実際に学級の実態に即したものだったかを詳 細に検討するところまでには至らなかった.今後,社会的スキル指 導の効果を検討する場合,スキル指導自体を詳細に検討する必要が あるだろう.
(3)本研究では,結果的に筆者がLeaderとなることがほとんどであっ た.B小学校においてのみ担任がLeaderとなって指導を行う時間を 取り入れることができた.先行研究においても「教師に社会的スキ ル訓練について知ってもらい,実際の訓練内容を活動案の中にどの ように取り組むかという問題(藤枝・相川,1999)」が指摘されている.
今後は,社会的スキル訓練を理解し,SSTの技能を身に付けた学級
担任が行う「学級への社会的スキル指導」の効果を検討していきた
い.
ドキュメント内
学級への社会的スキル指導の効果とその可能性
(ページ 86-99)