第 2 章 研修の実施
2.2 緊急被ばく医療基礎講座Ⅰ(除染コース、搬送コース) 〔基礎講座Ⅰ〕
基礎講座Ⅰは、地域で行う研修(現地型)として16道府県において実施した。
基礎講座Ⅰの開催にあたっては、地域の緊急被ばく医療関係者と協議・検討の上、開催 日、開催場所を決定した。基礎講座Ⅰのカリキュラムは下記の通りである。
緊急被ばく医療基礎講座Ⅰ(除染コース、搬送コース)カリキュラム 項 目 時 間 除染コース 搬送コース
9:30~ 9:45 オリエンテーション 講義1 9:45~10:10 放射線防護と事故事例
講義2 10:10~10:40 緊急被ばく医療に必要な放射線測定の基礎
10:40~10:50 (休憩)
実習1 10:50~12:00 放射線測定実習-サーベイメータによる放射線測定-
実習2 13:00~16:00 除染実習
汚染を伴った外傷患者の取り扱い
搬送実習
汚染を伴った傷病者の搬送
・「 医 療 機 関 に お け る 実 際 の 対 応 」
(ビデオ)
【以下、病院内で実施】
・情報の収集
・処置室の汚染防止措置
・服装、装備の準備
・処置室でのスタッフの配置、役割 の確認
・ 処置室の資機材、医薬品の確認
・処置室での除染を含めた医療処置
・医療スタッフの退出および後片付け
・ガイダンス
・ 情報収集
【以下、病院駐車場等で実施】
・出動準備(救急車等の汚染防止措置)
・ 現場到着
・ 初期評価と対応
・ 傷病者の車内収容
・搬送中の車内対応
・医師への引継ぎの報告
・汚染防止措置の解除
16:00~16:20 質疑応答 16:20~16:30 閉会
(1)開催実績
地域 開催日 時間 開催場所
参加人数
( )内は募集定員 除染
(30)
搬送
(20)
合計
(50)
1 茨城県 7月 28日 (土) 9:30~16:30 水戸医療センター 28名 17名 45名
2 北海道 8月 5日 (日) 9:30~16:30 北海道社会事業協会岩内病院 27名 11名 38名
3 青森県 8月 26日 (日) 9:30~16:30 弘前大学医学部 24名 19名 43名
4 宮城県 9月 2日 (日) 9:30~16:30 石巻赤十字病院 29名 32名 61名
5 岡山県 9月 8日 (土) 9:30~16:30 岡山医療センター 26名 27名 53名
6 佐賀県 9月 23日 (日) 9:30~16:30 佐賀県立病院好生館 35名 18名 53名 7 大阪府 9月 29日 (土) 9:30~16:30 りんくう総合医療センター 18名 24名 42名 8 愛媛県 10月 7日 (日) 9:30~16:30 西予市立宇和病院 他 21名 16名 37名 9 福井県 10月 13日 (土) 9:30~16:30 市立敦賀病院 41名 22名 63名 10 新潟県 10月 20日 (土) 9:30~16:30 県立中央病院 23名 27名 50名 11 島根県 11月 11日 (日) 9:30~16:30 松江市立病院 35名 17名 52名 12 静岡県 11月 24日 (土) 9:30~16:30 榛原総合病院 29名 23名 52名 13 福島県 12月 1日 (土) 9:30~16:30 いわき市総合保健福祉センター 31名 25名 56名 14 石川県 12月 9日 (日) 9:30~16:30 金沢大学附属病院 34名 16名 50名 15 神奈川県 1月 19日 (土) 9:30~16:30 横須賀市立市民病院 20名 13名 33名 16 鹿児島県 1月 27日 (日) 9:30~16:30 鹿児島市医師会病院 21名 14名 35名 合 計 442名 321名 763名
(2)実施内容
基礎講座Ⅰの講義、実習に関する実施内容は以下の通り。
講義1 放射線防護と事故事例
「緊急被ばく医療」を実施する際に、多くの医療関係者が持っている「自分自身が被 ばくするのではないか」(被ばく防護)あるいは「医療対応を行った自分が家族と接触し ても家族は大丈夫なのか」(汚染拡大防止)という不安に対して身近な例え(被ばく防護
→たき火、汚染拡大防止→ペンキ塗りたて)を用いて説明を行った。主な項目は以下の 通り。
・被ばくと汚染
・被ばく防護と汚染拡大防止
・放射線の単位
・放射線防護の三原則
・過去に起こった事故事例とその分類
講義2 緊急被ばく医療に必要な放射線測定の基礎
「緊急被ばく医療に必要な放射線測定の基礎」として、除染実習、搬送実習において 必要とされる体表面汚染測定(検査)、個人被ばく線量測定を中心に放射線測定の目的と 使用される測定機器等について基礎的な説明を行った。主な項目は以下の通り。
・原子力施設の事故に関わる放射性核種について
・想定される被ばくの形態
・放射線の特性と放射線測定器の種類
・放射線測定の目的と方法
・空間線量率、体表面汚染の測定と個人線量計による測定 実習1 放射線測定実習-サーベイメータによる放射線測定-
緊急被ばく医療に必要な放射線測定として、個人線量計および体表面汚染測定用サー ベイメータを用いて実習を行った(線源としてマントルを使用)。実習は、6名~10名程 度の参加者により班を構成し、個人線量計については2~3名に1台、体表面汚染測定用 サーベイメータについては各班に1~2台を用意するとともに、各班には実習協力者(放 射線管理要員等)を配置し、取扱方法や実習の方法等について指導、助言を行った。な お、一部の地域では、事前打合せに基づき、医療機関や搬送機関に配備されている測定 機器(GM サーベイメータ、プラスチックシンチレーションサーベイメータ)を用いて 実習を行った。また、実習を円滑に進めるため、測定実習キットを準備した。標準的な 実習内容は以下の通り。
① 個人線量計の取り扱い
使用方法と装着位置(男性:胸部、女性:腹部)を確認した。
② GMサーベイメータの取り扱い
使用前点検(測定レンジの選択、時定数の設定)、自然放射線および線源(マントル)
の測定を行った。
③ 放射線の性質
垂直方向の距離、水平方向のずれおよび遮へいによりどのように放射線が減衰して いくのかを測定した。また、GM サーベイメータのプローブの移動速度を変化させる ことにより、どのように指針の振れが変化するのかを確認した。
サーベイメータの取り扱い 放射線の性質(垂直方向の減衰)
放射線の性質(水平方向の減衰) 放射線の性質(移動速度による針の動き)
実習2 除染実習-汚染を伴った外傷患者の取り扱い-
原子力施設(原子力発電所、核燃料施設等)の管理区域内で発生した労災事故により、
汚染を伴った外傷患者が被ばく医療機関に搬送されてきたことを想定し、患者の受入準 備(情報の収集、処置室の準備)、医療処置、後処理に必要な放射線管理、汚染管理につ いて実習した。なお、医療処置については当該の医療機関から医療チームを編成した。
実習は以下の順で実施した。
① 情報の収集
原子力施設と医療機関の担当者により、患者の受入要請と患者の状況について、救 急連絡票に基づき情報伝達を行った。主な伝達項目は以下の通り。
・患者が発生した事故の概要
・病院に搬送される患者の人数
・患者の重症度
・放射性物質による汚染の有無
・放射線管理要員等の同行の有無
② 処置室の汚染防止措置(受入前の処置室およびストレッチャーの養生)
処置室の床・壁等を養生シートで養生し、一時的な汚染管理区域とする。さらに、
汚染区域とする範囲を除染水等が滴下しても吸収されるように、ろ紙シートにて養生 した。また、医療処置に使用するストレッチャー、処置台、点滴台等を養生シートで 養生した。
③ 服装、装備の準備
医療処置を行うスタッフの服装、装備を確認し、医療チームのスタッフは服装を着 替え、装備を装着した。
④ 処置室でのスタッフの配置、役割の確認
医療チームの構成および役割について確認した。
参考:標準的な医療チーム構成とその役割 医 師(2名):チームリーダー、医療処置
看護師(3名):医療処置の介助、機材出し、記録
診療放射線技師(2名):患者の汚染検査、処置室内の汚染管理
⑤ 処置室の資機材、医薬品の確認
外傷患者の医療処置に通常使用している資機材に加え、汚染患者を処置する際に必 要な資機材を確認した。
⑥ 処置室での除染処置等
バイタルサインにより全身状態が安定していることを確認した後、生理食塩水等を 用いて汚染部位の除染処置を実施した。除染処置の前後および医療処置後には、汚染 検査を実施した。
⑦ 医療スタッフの退出および後片付け
医療チームのスタッフの脱衣を行った。処置室の養生シート等をはがし、原状復帰 を実施した。いずれの場合も、汚染が拡大しないように表面を内側に巻き込むように 処理し、これらの廃棄物は事業所の放射線管理要員に引き渡した。さらに、スタッフ および処置室の汚染検査を実施した。
処置室の汚染防止措置 服装、装備の準備
患者の処置室への搬入 処置前の汚染検査
除染処置 後処理(服装の脱衣)
後処理(脱衣後の汚染検査) 養生の撤去
実習2 搬送実習-汚染を伴った傷病者の搬送-
汚染を伴った傷病者を原子力施設から被ばく医療機関まで、または被ばく医療機関か ら被ばく医療機関の間(初期被ばく医療機関から二次被ばく医療機関、二次被ばく医療 機関から三次被ばく医療機関)で搬送することを想定し、必要な汚染防止措置、傷病者 の汚染拡大防止措置、車内収容および搬送中の車内対応の留意点、医療機関での引継ぎ、
汚染防止措置の解除について、今年度作成した紹介動画を含むガイダンスにて流れや注 意点等について説明の後、救急自動車を用いて実習を実施した。実習は以下の順で実施 した。
① 情報収集
放射性物質による汚染の有無(除染の実施)等の入電時に聴取・確認すべきポイン トと救急隊が現場に到着するまでに事業所に依頼すべき事項について確認した。
② 出動準備
汚染を伴った傷病者を搬送する際に用いる資機材について確認した。特に、一般救 急対応において使用していない物品について確認した。また、養生シートを使用し、
救急自動車内およびストレッチャーを養生した。さらに、汚染防止の観点から必要な 救急隊員の装備を確認し、着装した。
③ 現場到着
現場到着時に、一般救急対応において収集する情報の他に、汚染・被ばくに関する 情報および傷病者収容地点が、放射線管理上安全であるかどうかの情報を得ることが 必要であると確認した。
④ 初期評価と対応
傷病者(ダミー人形)の作業着に汚染に見立てた絵の具を塗布し、実際に脱衣させ ることにより汚染拡大防止の留意点を確認した。脱衣後、必要な処置を行い、さらに 傷病者搬送用シートを用い、搬送の準備をした。
⑤ 傷病者の車内収容
脱衣により傷病者に汚染のないことを確認の上、ストレッチャーに乗せ替えて救急 自動車に収容した。このとき、放射線防護の支援のため、放射線管理要員等に同行を 依頼した。
⑥ 搬送中の車内対応
搬送時に必要な放射線管理上の注意事項を確認し、嘔吐あるいは観察時の対処方法 および放射線管理要員等との共同作業内容について確認した。
⑦ 医師への引継ぎの報告
医療機関へ到着した際の引継ぎ内容について、一般救急対応の他に伝えるべき情報
(汚染状況とその対応)について確認した。
⑧ 汚染防止措置の解除
汚染の有無の確認後、救急自動車およびストレッチャーの養生をはがし、原状復帰 を行った。その後、救急隊員の防護装備の脱衣を行った。いずれの場合も、汚染が拡 大しないように表面を内側に巻き込むように処理し、これらの廃棄物及び車内対応に て回収した嘔吐物について放射線管理要員に引き渡した。その後、再度、救急自動車 および救急隊員の汚染検査を実施した。
汚染防止措置(救急自動車の養生) 汚染防止措置(ストレッチャーの養生)