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第 2 章 研修の実施

2.7 まとめ

原子力施設立地の 16 道府県および指針の策定に伴い新たに緊急時防護措置を準備する 区域の対象となった5県については、初心者を対象とした緊急被ばく医療初級講座を、さ らに、原子力施設立地の 16 道府県については、実務に携わる者を対象とした緊急被ばく 医療基礎講座Ⅰ(除染コース、搬送コース)、緊急被ばく医療基礎講座Ⅱ(救護所活動コー ス)、緊急被ばく医療基礎講座Ⅲ(ホールボディカウンタコース)、専門的な知識の習熟を 図るための緊急被ばく医療専門講座Ⅰ(救護関係者コース)および緊急被ばく医療専門講 座Ⅱ(医療関係者コース)を実施し、地方公共団体における緊急被ばく医療対策の実効性 向上並びに原子力防災対策のより一層の充実を図った。

初級講座は、現地型の研修として21道府県において開催し、1,208名の参加を得た。そ れぞれの地域の実情を踏まえながら講義および机上演習を行ったが、新規5県については、

隣接地域であること、さらに、これまで緊急被ばく医療に関する対応を行ってきていない ことから、原子力施設立地の 16 道府県と講義および机上演習の内容を、地域の実情に合 わせ、一部変更して行った。特に机上演習では、「防災対策を重点的に充実すべき地域の範 囲(EPZ)」に代わり、「原子力災害対策重点区域」として、①予防的防護措置を準備する 区域(PAZ:原子力施設から概ね半径 5km)、②緊急時防護措置を準備する区域(UPZ: 原子力施設から概ね半径 30km)が定められ、各道府県内における対象地域が拡大すると ともに、富山県、岐阜県、滋賀県、山口県、福岡県の5県が新たに緊急時防護措置を準備 する区域の対象となった。そのため、受講者もこれまでの被ばく医療機関およびそれらの 医療機関を管轄する搬送機関に加え、救護所対応やスクリーニングを今後行っていくと考 えられる関係機関からの参加が多くみられた。そのため、福島第一原発事故の教訓も踏ま え、今まで以上に“顔の見える関係”を構築していくことが望まれる。

基礎講座Ⅰ(除染コース、搬送コース)は、現地型の研修として 16 道府県において開 催し、775名(除染コース:449名、搬送コース:326名)の参加を得た。「講義 放射線 防護と事故事例」、「講義 緊急被ばく医療に必要な放射線測定」および「放射線測定実習」

については両コース合同で行い、その後、除染実習(除染コース)および搬送実習(搬送 コース)に分かれ、実習を行った。除染実習では、実際に被ばく・汚染患者を受け入れる 医療機関の処置室等で実施し、かつ、当該医療機関の被ばく医療チームが医療処置を行う ことにより、実際に被ばく・汚染患者が搬送されてきたことを想定しながら、受け入れ体 制、チームの体制、連携等を確認することができた。特に福島第一原発事故後、各医療機

関の関係者の意識が高まり、院内マニュアルの作成、改訂等を行う機関が多くなっており、

本実習を通して、課題の抽出等を行うことができた。搬送実習では、参加者や講師の意見 に基づき、今年度ガイダンスの動画(ビデオ)を新たに作成したが、これまでの悪い事例 を見せてから正しい事例を見せるという手法ではなく、正しい事例のみを標準的な形とし て見せることにより、汚染防止措置、傷病者の汚染拡大防止措置、車内収容、搬送中の車 内対応の留意点、医療機関での引継ぎ、汚染防止措置の解除についての流れや注意点等を スムーズに理解することができ、より効果的な実習を行うことができた。

基礎講座Ⅱ(救護所活動コース)は、現地型の研修として、16 道府県において開催し、

313名(A 救護所の開設:93名、B 診断除染:154名、C 安定ヨウ素剤:66名)の参加 を得た。「講義 救護所における初期被ばく医療活動」、「実習1 救護所におけるスクリー ニング」については全グループ合同で行い、その後、「Aグループ 救護所の開設」、「Bグ ループ 救護所における診断除染」、「Cグループ 安定ヨウ素剤の取り扱いと調製」に分か れ、実習を行った。さらに、各グループでの実習終了後、①被災者の受付から一次スクリ ーニングまで、②除染および二次スクリーニングから問診まで、および③安定ヨウ素剤の 配布の三つの場面に分け、救護所における初期被ばく医療活動の一連の流れについて演習 を行った。特に本講座は、地域により救護所の設置、運営方法、スクリーニング体制等が 異なっているため、地域の実情に応じて実施することが非常に重要であるため、地域の被 ばくマニュアル等に記載されている内容に基づき、より現実に近い形で効果的な実習を行 った。

基礎講座Ⅲ(ホールボディカウンタコース)は、現地型の研修として 10 道県において 開催し、150名の参加を得た。「講義 緊急被ばく医療における被ばく線量評価」、「演習ガ イダンス」の後、開催施設のホールボディカウンタを用いて実習を行い、講義および実習で 学んだ知識を活用し、被ばく線量評価の演習を行った。実習については、設置場所のホー ルボディカウンタの使用目的(住民測定用あるいは原子力施設作業員用)に合わせ、現実 に即した形で実習を行った。また、甲状腺の測定については、簡易測定法およびホールボ ディカウンタによる測定の両方の実習を行い、指針にも記載されている「簡易測定法により スクリーニングを行い、次に、詳細な測定が必要な場合には核種に応じて甲状腺モニター やホールボディカウンタ等を用いて計測を行う」にも対応した内容であった。

専門講座Ⅰ(救護関係者コース)は、原子力施設が立地・隣接する全ての道府県を対象 として、参加者を一堂に集めるセンター型として4地域において実施し、88名の参加を得

た。「講義 救助のための危機管理総論―我々に必要なリスク認知と判断―」、「講義 救助 活動特論―活動の困難性と放射線リスクを踏まえて―」、「実習 1 空間線量率計の取扱方 法と防護服の着脱方法」、「机上演習 放射線災害における救助活動と指揮判断」および「原 子力施設における消防活動(実習2)ガイダンス」については、原則として原子力施設を管 轄する消防機関で実施し、「実習2 原子力施設における消防活動」および「検証」は原子 力施設を利用して実施した。特に、原子力施設で実習を行うことにより、施設内の状況(騒 音、活動スペース等)、事故の発生の可能性および施設内放射線管理要員との連携等につい て、より現実に近い形で実習を行うことができた。また、これまで実習の時間が足りない といった意見が多かったが、2回目以降、想定を3想定から2想定に変更して実習を行っ たことにより、救急隊員の引き上げ(汚染検査と隊員の脱衣)まできちんと実習を行える ようになった。

専門講座Ⅱ(医療関係者コース)は、原子力施設が立地・隣接する全ての道府県を対象 として、参加者を一堂に集めるセンター型として4地域において実施し、76名の参加を得 た。「講義 患者対応のための危機管理総論-我々に必要なリスク認知と判断」「講義 放 射線災害時の外来処置に伴う院内対応―アクションカードの活用―」、「机上演習 患者対 応を緊急度と放射線リスクから考える」、「実習・検証」、「講義 職種毎の立場から見た緊 急被ばく医療」、「講義 社会心理学からみた放射線災害」、「ワークショップ 放射線災害 時の入院患者対応(患者の線量評価)―高線量外部被ばく(局所、全身)、内部被ばく―」、

「講義 福島第一原子力発電所の事故について」、「講義 JCO事故時の臨床経験を継承す る」を行った。病院全体としての対応、社会心理学についての講義、開催医療機関・地域 での緊急被ばく医療の取り組みを通して、地域内または院内での今後の取り組みについて、

受講者に意識付けを行うことができた。今年度から実施した「講義 職種毎の立場から見た 緊急被ばく医療」については、アンケート結果からもわかるように、職種ごとの役割や考え 方等を受講者にきちんと理解してもらうことができた。

また、緊急被ばく医療に関係する関連資料(各種手引き・マニュアル等)の展示、放射 線測定コーナーを設置した。さらに、各講座において、受講する前と後に同じ設問に回答 してもらい、受講前後でどれくらい理解度に変化があるのか確認を行うために受講効果判 定を実施するとともに、受講後にアンケートを実施し、修了証を発行した。

緊急被ばく医療に関する関連資料 放射線測定コーナー