本研究においては、船型データベースの活用にした船尾伴流場設計法(伴流設計 システム)を提案し、その有効性を確認した。
本研究で得られた結論は以下のとおりである。
第 1 章においては、本研究の必要性ならびに関連する研究を整理して概説し、船 尾伴流場設計法に関する研究課題について述べるとともに、本研究の目的と論文構 成を示した。
第 2 章においては、推進性能および船尾伴流場の評価手法について詳説するとと もに、本計算手法の不確かさ解析を行った。さらに、船型データベースを作成する載
貨重量33,000トンのケミカルタンカー、82,000トンのバルクキャリアおよび749総トン型
一般貨物船の3船型について水槽試験を行い、計算手法の精度検証を行った。
第2章で得た結果をまとめると次のようになる。
• 本研究の CFD 計算手法および格子は、データベースの船型データ数(数百〜
数千)の計算規模に対して、妥当な数値解析不確かさレベルを有している。
• 本研究のCFD計算は、3船型を対象とした水槽試験で得られた形状影響係数、
自航要素と比較したとき、数%程度の計算精度を有しており、大規模船型データ ベースを構築に対して、妥当な計算精度を有している。
• 本研究のCFD計算は、3船型を対象とした水槽試験による伴流計測結果と比較 したとき、船尾伴流に形成される縦渦をよく評価するとともに、プロペラ周方向全 体において、定量的に十分、船尾伴流場を推定できる。
第3章においては、船型データベースの構築手法とその概要について述べた。
第3章で得た結果をまとめると次のようになる。
• 船型ブレンディング法の利点は、基本船型に数式船型のような船型制約がなく、
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実用船型を直接使用できることであり、船型ブレンディング法により過去の設計 資産を活用しながら大規模な船型データベースを効率的に構築することが可能 である。
• 船型ブレンディング法を、2 次元または 3 次元の設計パラメータ空間に拡張する ことにより、船首バルブの長さ(長短)と船首バルブの幅(細太)の検討のような、よ り実用的な船型変更を、船型ブレンディング法により取り扱うことが可能になる。
• 船尾V型フレームライン船型よりもU型フレームライン船型の方が船尾縦渦は強 い。また、このとき推進性能は、形状影響係数(1 + 𝑘)の悪化に伴い、有効伴流 係数(1 − 𝑤𝑇)は改善するいわゆるトレードオフ関係となる。
• 船尾 V 型フレームライン形状からから U 型フレームライン形状への連続的な船 型変形に対する推進性能の変化は、船尾に大規模な 3 次元剥離現象を伴う流 場においても比較的連続性を持って変化する。
• 本研究で構築した 749GT DB1 船型データベースは船型パラメータ𝐶𝐵と造波抵 抗との間に強い相関がある。また、要目と𝐶𝑃カーブの異なる749GT DB1には、船 尾縦渦の強弱がはっきりした豊富な船尾伴流場のデータが含まれている。
• 749GT DB2 の伴流分布は、DB1 の伴流分布と比較して、船尾伴流縦渦の強弱
の変化がより大きく、またプロペラキャビテーションに対する影響の強い、プロペラ 面上部の流速変動についても、より豊富なデータを包含している。
第 4 章においては、船尾伴流に関する従来研究を概観するとともに、船尾フレーム ライン形状が系統的かつ連続的に変化する 33CT DB および82BC DB を用いて、船 型周りの流場をRaNSに基づくCFDによって詳細に解析することにより、船型(特に船 尾フレームライン形状)と船尾伴流場の関係性について詳細に議論した。
第4章で得た結果をまとめると次のようになる。
• 船尾フレームライン形状は、模型船レイノルズ数と実船レイノルズ数でともに、船 尾船体表面圧力の船尾圧力ポケットの最小値より、むしろ船尾剥離線の傾斜角 に対して影響の強い、圧力コンターラインの傾斜角に特徴付けられる。
• 船尾 V 型フレームライン船型と比較して、U 型フレームライン船型の負圧領域は、
船型の凹み部に対応して水面方向へ拡大し、この負圧領域の拡大が、U 型フ レームライン形状の粘性圧力抵抗の増加に寄与している。
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• 形状影響係数(1 + 𝑘)に及ぼすレイノルズ数影響は船尾フレームラインの形状に よって異なり、例えば本研究の 33CT では、模型船レイノルズ数において船尾フ レームライン形状による形状影響係数(1 + 𝑘)の差は 2.9%であるのに対し、実船 レイノルズ数では4.3%と、船型により1ポイント以上の差が現れている。
• 特徴線である稜線を持たない滑らかな船型で、またその船型変化が連続的で、
かつ大規模剥離が発生しない場合には、模型船および実船に関わらず、船型形 状の形状差が小さい範囲において、船型および伴流の線形補間(船型ブレン ディング)が可能である。
第 5 章においては、熟練技術者の試行錯誤によって従来行われてきた船尾伴流の 設計に対して船型データベースを活用した伴流設計手法を提案し、この手法の有効 性を示した。
第5章で得た結果をまとめると次のようになる。
• 伴流設計システムは、経験豊富な技術者による試行錯誤によって従来行われて きた伴流設計に対して、少なくとも実現可能性の高い船型形状を提示する点に おいて、有効な船尾伴流場の設計が可能である。
• プロペラおよび省エネ付加物に適した船尾伴流を実現する船型の設計に対して、
伴流設計システムは極めて有効である。
➢ 伴流設計システムによって実現したシステム出力船型は、ダクト型 ESD 効果 が原船型の1.9%から4.9%に向上したことでダクト型 ESDを搭載した原船型 と比較し、トータルで2.2%の省エネを達成できることを水槽試験で確認した。
➢ 船尾形状の簡易モデル化による船型データベース精度低下に課題があるも のの、伴流設計システムにより、CFD 計算上プロペラキャビテーションの低減 に資する意図した伴流分布を実現する船型が設計できる。
• システム出力船型では、S.S.2.0 船底部の肥大化により誘起される、強い負圧領 域により、ダクト型 ESDの性能向上に資する強い縦渦が形成される。
• 排水量一定の一軸船のさまざまな船型変更において、プロペラ軸方向速度(𝑢) の周方向分布は、全て 70 度位置付近に節を持って変化し、またダクト翼断面へ の流入角は、全て20度付近および 90度位置付近に節を持って変化する。
➢ これらの知見を活用すれば、設計予算の制限により、流場評価を実施しない
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小型船舶に対しても、有効なダクト形状の設計が可能である。
本研究で提案した船型データベースを活用した船尾伴流場設計法(伴流設計シス テム)により、熟練技術者の試行錯誤によって従来行われてきた船尾伴流の設計がシ ステム化され、プロペラおよび省エネ付加物に適した船尾伴流を実現する船型を設計 することが可能となった。
今後の課題を三つ挙げる。
• 高精度 CFDを適用した船型データベースの高精度化と船種の拡張。
• 伴流設計システムの入力となる、理想伴流設計手法のフィン型省エネ付加物等 のダクト型以外への拡張。
• 船型データベースをより詳細に解析することによる新たな物理的知見の創出。
最後に、この設計手法が普及し、船舶の省エネ化や騒音抑制等の船型設計課題 の解決につながることを願う。
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付録 .A 修正 Spalart-Allmaras ( MSA )モデル
修正Spalart-Allmaras(MSA)モデルについて、詳細を述べる。ベースとなる
Spalart-Allmaras(SA)モデル [104]は、渦動粘性係数(𝑣𝑡)を(A1.1)式に示す移流拡散方程式
によって求める。
𝐷𝑣̃
𝐷𝑡 = 𝑐𝑏1[1 − 𝑓𝑡2]𝑆̃𝑣̃ +1
𝜎[𝛻 ⋅ {(1
𝑅𝑒+ 𝑣̃) 𝛻𝑣̃} + 𝑐𝑏2(𝛻𝑣̃)2]
− [𝑐𝑤1𝑓𝑤−𝑐𝑏1
𝜅2 𝑓𝑡2] (𝑣̃
𝑑)
2
+ 𝑓𝑡1𝛥𝑈2
(A1.1)
ここで、
𝑣𝑡 = 𝑣̃𝑓𝑣1, 𝑓𝑣1 = 𝜒3
𝜒3+ 𝑐𝑣13 , 𝜒 = 𝑅𝑒𝑣̃
𝑆̃ = |𝜔| + 𝑣̃
𝜅2𝑑2𝑓𝑣2, 𝑓𝑣2= 1 − 𝜒 1 + 𝜒𝑓𝑣1
𝑓𝑤 = 𝑔 [1 + 𝑐𝑤36 𝑔6+ 𝑐𝑤36 ]
1/6
, 𝑔 = 𝑟 + 𝑐𝑤2(𝑟6− 𝑟), 𝑟 ≡ 𝑣̃
𝑆̃𝜅2𝑑2
𝑓𝑡1 = 𝑐𝑡1𝑔𝑡exp (−𝑐𝑡2 𝜔𝑡
∆𝑈[𝑑2 + 𝑔𝑡𝑑𝑡])
𝑓𝑡2 = 𝑐𝑡3exp(−𝑐𝑡4𝜒2) , 𝑔𝑡 ≡ min (0.1,∆𝑈 𝜔𝑡 ∆𝑥𝑡)
であり、(A1.1)式の右辺はそれぞれ、乱流渦粘性の「生成」、「拡散」、「破壊」そして
「乱流への遷移」を表す。また、|𝜔|は渦度ベクトルの大きさ、𝜎は乱流プラントル数で
2/3、κはカルマン数で0.41、𝑑は最近傍壁面からの距離、∆𝑈は遷移点(壁面)と計算点
と速度差、𝑑𝑡は遷移点(壁面)と計算点との距離、𝜔𝑡は遷移点での壁面渦度、∆𝑥𝑡は遷 移点壁面での格子スペースである。さらに、各係数は単純流れに対する数値実験に よって設定されており、𝑐𝑏1= 0.135、𝑐𝑏2= 0.622、𝑐𝑤1= 𝑐𝑏1/𝜅 + (1 + 𝑐𝑏2)/𝜎、𝑐𝑤2= 0.3、𝑐𝑤3= 2、𝑐𝑣1 = 7.1、𝑐𝑡1= 1、𝑐𝑡2 = 2、𝑐𝑡3= 1.2、𝑐𝑡4= 0.5である。
ただし、SA モデルは、船尾伴流場のような大きな剥離を伴う流れに対して、縦渦中
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心近傍の渦動粘性係数を過大評価してしまう欠点がある。そのため、MSAモデルでは、
(A1.1)式の右辺第 1 項の生成における渦度ベクトルの大きさ(|𝜔|)を(A1.2)式のように
修正する [63]。
|𝜔| → |𝜔| + 𝐶𝑉𝑂𝑅× min(0, |𝑆| − |𝜔|) (A1.2)
ここで、|𝑆|は歪速度テンソルである。縦渦中心近傍では、(A1.2)式により生成項が小さ くなり縦渦の成長を促進させる一方、薄い境界層流れでは、SA モデルとほとんど同じ 生成項が得られる。
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付録 .B 749 総トン型一般貨物船原船型
749 総トン型一般貨物船原船型は、「日本船舶海洋工学会の内航海運のための省 エネ母船型の研究開発プロジェクト [72]」で開発された船型である。この船型の特徴 は、船型のみで 1990 年に建造された船を基準に 38.1%の CO2排出量削減を達成す る高い省エネ性能である。
ここでは、749 総トン型一般貨物船原船型の開発経緯について文献 [85] [86]を参 考に記す。
CFDを活用した船型最適化
船型最適化の方針は、造波抵抗の低減と推進効率の向上の両立を目指すことであ る。本船型開発では、まず造波抵抗の低減に取り組み、その後推進効率の向上に取 り組むといった手順をとった。なお、本船型開発で使用している CFD 計算手法は、本 研究において採用したものと同じである。
浮心位置と船首バルブ寸法の最適化
(1) 浮心位置と𝐶𝑃カーブの傾向の2次元船型ブレンディング
造波抵抗の低減には浮心位置と船首バルブ形状の最適化が最も効果的である。
本研究の初期船型に対し、浮心位置と𝐶𝑃カーブの肩張り・肩落ちの変化量をパラメー タとする 2 変数船型ブレンディングによる設計検討を実施した。船型ブレンディングに はまず二つの変数の変化量が最小または最大となる組み合わせの 4 船型を生成し、4 船型の内部に位置する中間船型を 25 船型(5×5)生成した。その 25 船型に対する CFD 計算結果(波紋図)を Fig. A2.1 に示す。この中から波形が最も小さい船型を選 択し第 1次最適化船型とした。