第4章 結論と今後の課題
第1節 結論
1.障害者を取り巻く社会
第3章でも述べたように、障害者の雇用について、以前は中小企業の社長さんが就業か ら生活支援までをまる抱えにしていた時代があった。さらに、障害の重い人には、強制的 に収容という形をとってきた。しかし、現在は、r出られる人は訓練して、どんどん地域 にでていきましょう」と言われるようになってきた。東京都内の39施設の利用者を対象 にした「地域生活の可能性に関する調査1)」において、「施設以外で暮らしてみたい」と 答えた人が46%にのぼり、地域移行への関心の高さを示している。しかし、施設の生活 が長い利用者にとっては、地域移行の意味すら分からない場合や、高齢化のために移行の 意欲もなくなっている場合もある。厚生科学研究障害保健福祉研究事業の「知的障害者の 入所施設から地域への移行に関する研究2)」では、「地域生活移行者は『家庭引き取り』
を含めて978人で、退所者のほぼ半数になる(家庭引き取りを除くと536人、退所者の 26.6%)。いずれにしても、6万人以上の入所者のうち、年間で1〜2%の地域移行の実 態である」との報告がされた。地域移行が少ない理由としては、前節でも書いたように、
家族の反対が大きな障壁になっているケースや、在宅サービスと施設サービスにおいて、
サービスの基盤整備や利用者の実質的な金銭面での負担に不均衡があったことがあげられ
る。
平成12年に東京都が実施した「地域生活の可能性に関する調査〈入所更生14施設〉」
では、施設入所者の約3割は、地域で自立した生活が可能だと推測している。
支援費制度になると、障害者自身が必要な支援を組み合わせて契約しなければならない。
学校側も、障害者が、積極的に将来の生活について自己選択、自己決定できるような進路 学習を展開していくべきであり、地域では、支援や余暇の生活情報の提供を日常的に行い、
本人の意志による選択ができように支えるコーディネーターの必要性がさらに重要視され てくるであろう。このように、実際の支援を得るためには、生活の場や形態の特徴をよく 捉え、そこに関する関係者を有効に活用することが必要である。
2.地域資源及びサーピスの不均衡
本研究の質問紙調査の結果から、授産や更生の通所施設数は、ここ10年で2倍以上に 伸びているが、教師は、まだまだ充足感を感じていないことが分かる。これは、一般就労 が難しくなり、福祉就労に進むケースが増えていることが原因であると思われる。中でも、
通勤寮やグループホーム、就労生活支援センターなどのように地域移行の中核になる施設 が不足している。石川3)は、人口規模の小さい自治体では、立地条件などから起こる理由 で、どうしても連携や協力関係が結べない場合があり、地域の格差によるサービスの不均 衡が生じる恐れを指摘している。地方分権で地域資源やサービスに独自性を出していく時 代であっても、自治体間でサービスの大きな不均衡が生じることは望ましくない。東京都 の知的障害養護学校は、地域をブロック化し、情報交換することで学校間格差を無くす取 組をしている。
日本のシステムでは、グループホームと施設との結びつきが強く、施設からホームヘ、
又は通勤寮へという移行形態が多い。自活訓練も施設入所者だけが対象となる事業である。
在宅福祉サービスは、施設に比べ未整備で、未だ緒に就いたばかりである。その運営のノ ウハウも施設サービスと異なり、家庭に入り込むサービスだけに、我が国の住宅構造や家 庭内の人間関係や地域文化と密着しており、定着には一定の時問と経験が必要とされてい る4)。山口5》は、在宅の40歳未満の就労していない知的障害者については、決まった健 康診断の制度がなく方策の必要性を説いている。在宅の障害者に、支援の手を行き屈かせ るためにも家庭と地域そして学校や関係機関同士の横の連携を大切にする個別移行支援計 画は有効である。
しかし、今回の調査でも分かるように、学校側も関係機関側も「個別移行支援」や「地 域ネットワーク支援」の必要性はとても感じているが、実際にどの機関が中心となりコー ディネーター的な役割を果たすかが課題となっている。現在は、学校が中心となって個別 移行支援計画などは実践されているが、卒業後3年経過後は地域の機関への移譲を前提と
している。関係機関側も、補助金の削減などで一人で複数の仕事を抱えている現状が浮き 彫りにされた。このようなことから、両者とも、新しい支援を増やしていくことには、今
まで行ってきた自分達の仕事が不十分になる恐れがあり、課題の解決が望まれている。
このように、個別移行支援計画が充実していくためには、学校や関係機関の意欲や努力 だけでは補いきれないものがある。つまり、行政機関の介入が不可欠であると考える。足 立区には、区が設立・運営するr雇用支援室」が開設した。障害者の就労希望や就労生活
を続けるための相談窓口である。教育と行政が一体となって支援を展開していくものであ る。全国的には、14年度からr就労・生活支援センター事業」が始まり、障害者の雇用の 促進や職業の安定に期待が寄せられている。センターには、ジョブコーチが配置され、そ のための予算も計上されている。障害者の離職に歯止めがかかるものとして期待されてい るが、地域格差が著しい所も多く解決していかなければならない問題が多数存在している。
3.知的障害者の支援
肢体不自由と知的障害の併設養護学校へ実施した面接調査の中で、肢体不自由の子供た ちに比べて、知的障害児へのケース会議が実施しにくいことが挙げられた。その主な理由 として、肢体不自由の子どもの支援内容は、支援者にも分かりやすいが、知的障害児の場 合は多岐にわたっており、特に軽度の知的障害者は、福祉や医療の目からみると健康に見 えることが挙げられた。また、単独でのケース会議が開催しにくいことも指摘されている。
就労に関する法律も、1987年に「身体障害者雇用促進法」が「障害者の雇用の促進等 に関する法律」と改正されるまで、知的障害者や精神障害者が雇用促進の対象者から外さ れていた。身体障害者の場合は、スロープやエレベーター、トイレの改善というように支 援内容が分かりやすい。しかし、知的障害者は一緒に働く職場の同僚や上司に対して障害 理解から行う必要がある。知的障害者や精神障害者に対する就労面での課題6)は、犬飼
(1999)、佐伯(1995)、須田(1995)、藤原(1990)等が指摘している。これは、知的障害者 だけの問題ではなく、社会全体の問題としてとり上げられるべきである。福祉サービスは 障害程度別に設定されているため、軽度の知的障害者が利用できるサービスは限られてい る。軽度であるから支援を必要としていないわけではない。今回の面接調査からも分かる ように、職場の人間関係に悩み離職するケースもある。十分に支援の手をいき屈かせなけ ればならない。実際に、総理府が出した「障害者白書7)」によると、15歳以上の障害者の 就業率は、聴覚障害者の40.9%を筆頭に、身体障害者合計の32.8%に比べて知的障害者は、
22.6%であった。法律の改正により、知的障害者も雇用率に含められるようになったが、
公務員も含めてペーパーテストが実施されること自体、知的障害者に門戸を閉ざしている と言える。このように、知的障害者には支援の手が届きにくく、この傾向は、軽度発達障 害者で一般就労後離職したケースに特に顕著にみられる。今後は、個別移行支援計画やそ の他の地域移行の施策を通して、どんな障害者に対しても「誰が(支援者)」「いつから いつまで」rどんな支援を」rどの様に行う」といった具体策を明示していく必要がある。
また、知的障害者の余暇についても十分にサービスが整っているとは言えない。余暇支 援について米国では、トランジッション・サービスによる余暇・社交指導とプログラム開 発が、学校とリハビリテーションとの連携を中心に進んでいる。週末に行われるコミュニ ティでのスポーツやレクリテーションプログラム活用の機会が多く、それらがポジティブ な影響を与えていることが報告されている8)。
障害者の卒業後生活の余暇と地域生活の支援は、一般就労を支え、基本的な生活を維持 していくために大切な要因である。地域の余暇の場が、障害者同士のピアカウンセリング の場になったり、エンパワメントの場として期待されている。余暇・地域生活支援は、東 京都が行っている「個別移行支援計画」の大きな5つの具体的支援枠の一つとして位置づ
けられており、全国的にシステムの確立が望まれる。