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暖化ダウンスケーリングについては,データの計算方法に加え,統計的ダウンスケ ーリングと力学的ダウンスケーリングの相違点や,直接ダウンスケーリングと擬似 温暖化ダウンスケーリングの相違点についてもまとめた.また,本研究の擬似温暖 化実験に使用する IPCC 第 4 次評価報告書および IPCC第 5 次評価報告書による温 暖化シナリオについても詳細に述べた.

第 3 章では,「台風と高潮に対する温暖化影響の地域差の定量化」および「全球気候 モデルが有する不確実性の定量化」を目的として,高解像度台風-高潮結合モデル を用いて,台風 0918号と台風1330 号に対する擬似温暖化実験を実施した.また,

台風1330号を対象に「入力する温暖化気候差分に含まれる各物理量の不確実性と台 風強度への影響」について評価することを目的とした感度実験を行った.以上の計 算より以下の結論を得た.

台風と高潮に対する温暖化影響の地域差

再現実験の結果を基準計算として,2 つの台風に対する擬似温暖化実験を行っ た.本研究では,温暖化シナリオ毎の擬似温暖化実験(SRES)と全球気候モデ ル毎の擬似温暖化実験(GCM)の2種類の擬似温暖化実験を実施した.以下に それぞれの計算において得られた成果についてまとめる.

本題となる擬似温暖化実験の前に,高解像度台風-高潮結合モデルを用いて対 象とする台風 0918 号と台風 1330 号および台風に伴い発生した高潮に対する再 現実験(現在気候実験)を行った.その結果,猛烈な台風の強度および発生した 高潮についても高精度に再現可能であることが明らかとなった.

台風0918号に関する擬似温暖化実験では,台風強度はピーク時および上陸時で ともに増大する傾向にあることが明らかとなった.また,その将来変化量は,上 陸時よりもピーク時の方が大きい傾向にあることも示された.さらに上陸時の 台風強度の増大に伴い,発生する高潮も増大する傾向にあることが明らかとな った.

台風 1330 号に関する擬似温暖化実験では,台風強度は温暖化シナリオ毎、全球 気候モデル毎のどの計算においても,現在気候とほとんど変わらない結果となった.

また高潮の場合も同様の結果となった.その要因として,温暖化により海水面温度 は上昇するが,それとともに上部対流圏(200 hPaから300 hPa)の気温が上昇する ために,大気が安定化することが挙げられる.したがって,台風強度および高潮に 対する温暖化影響量は,台風 0918 号の方が大きく,亜熱帯域から中緯度帯に襲来 した台風の方が温暖化により強まりやすい傾向にあるといえる.

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全球気候モデルが有する不確実性の地域差

SRES 毎と GCM 毎の 2 種類の擬似温暖化実験の結果を比較することで,GCM が有する不確実性を定量化した.以下に各台風に対する計算において得られた 成果をまとめる.

台風 0918 号では,ピーク時では,SRES 毎および GCM 毎でともに台風強度の 将来変化量以上にばらつきを示す標準偏差が大きいことが示された.またピー ク時に比べて上陸時の方が不確実性は抑えられるものの,上陸時においても将 来変化量以上に不確実性は大きいことが明らかとなった.さらに異なる年代お よび異なるシナリオで構成される SRES 毎のばらつきよりも,同一の年代かつ 同一のシナリオにおける GCM 毎のばらつきの方が大きい傾向が示された.ま た高潮の計算についても台風強度と同様の傾向が示された.

台風 1330 号においても,0918 号と同様に将来変化量以上に不確実性が大きい 結果となったが,その不確実性は 0918号に比べて 2分の 1 程度に抑えられた.

この理由として,0918号のケースでは,亜熱帯域から中緯度域を通過すること で,偏西風帯や地形等の影響を受けることが挙げられる.また 1330号に対する 擬似温暖化実験では,SRES毎に比べてGCM毎の不確実性の方がピーク時で約 1.6倍,上陸時で約2.2 倍大きい結果が示され,GCMが持つ不確実性はSRES毎 の計算における不確実性よりも大きいことが明らかとなった.

台風0918号と台風1330号の風の鉛直シアー(300 hPaと850 hPaの間)の温暖 化差分について確認したところ,全期間を通してばらつきは台風 0918号の方が 大きいことが明らかとなった.また台風0918号が亜熱帯域から中緯度域を移動 する期間において不確実性が特に大きく,亜熱帯ジェットや寒帯前線ジェット に伴う偏西風の将来変化に起因しているものと考察する.

温暖化気候差分に含まれる各物理量の不確実性と台風強度への影響

台風1330号を対象に,CMIP3が提供する計 15種類のGCM(SRES A1Bの2090 年代)が各パラメータ(気温,海水面温度,風速,相対湿度)のうち,どのパラ メータの将来変化が台風強度の将来変化の主要因となり,また不確実性の主要 因となっているのかについて定量的に評価した.以下にアンサンブル感度実験 を行った成果をまとめる.

GCM から得られた各パラメータのうち,特に気温と風速の温暖化気候差分は GCMによって傾向が大きくことなることから,これらのパラメータは他の2つ のパラメータに比べて大きな標準偏差が含まれており,台風強度に対する不確 実性への影響量も大きいことが明らかとなった.

続いて,各パラメータが台風強度の将来変化に与える影響について分析した.

その結果,気温と海水面温度のパラメータが大きく影響しており,気温は台風

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強度を約+45 hPa弱化させ,海水面温度は台風強度を約-20 hPa強化することが 明らかとなった.台風強度への影響度は気温の方が大きいが,標準偏差も大き く不確実性が大きいことが推察される.

第 4 章では,我が国に襲来する台風に対する詳細な温暖化影響を評価するため,

2000年から2017年の期間に日本に上陸した台風49事例を対象とする擬似温暖化実 験を実施した.これにより台風強度の将来変化に関する統計的な評価を行った.ま た,上陸時の強度に対する詳細な解析により,台風強度の将来変化に対して大きな 影響を与える物理量について明らかにした.擬似温暖化実験により得られた成果に ついて以下の結論を得た.

台風49事例に対する擬似温暖化実験

本題となる擬似温暖化実験の結果に先立って台風強度(中心気圧および最大風 速)と最大風速半径に対する再現実験(現在気候)を行った.その結果,高解像 度台風モデルによって台風強度および構造を高精度に再現することができた.

この計算を基準計算として擬似温暖化実験を実施した.

台風 49 事例に対する擬似温暖化実験の結果,台風強度はピーク時および上陸時 でともに増大する傾向にあることが明らかとなった.中心気圧および最大風速 の平均将来変化量は,ピーク時で−45.7 hPaおよび+16.4 m/sであり,上陸時では

−5.5 hPaおよび+5.2 m/sとなった.また,現在気候と将来気候で頻度分布を比較 したところ,将来気候では現在気候で事例数が 0 であった 930 hPa を下回る強 度や最大風速50 m/s以上の強度で上陸する事例がいくつか現れることが明らか となった.これらの結果は,既存のインフラの設計基準を超えることや,防災対 策の見直しをする必要があることを示唆している.

GCMから得られたパラメータのうち,台風強度に大きく影響する海水面温度と 風の鉛直シアー(300 hPaと850 hPa)の将来変化を確認した.その結果,台風 強度を強める働きをする海水面温度は将来気候下で大幅に上昇し,日本の南岸 まで30度を超える分布をしているが,台風強度を弱める働きをする風の鉛直シ アーについては現在気候とほぼ変わらないことが明らかとなった.したがって,

将来気候では海水面温度の上昇による台風強度を強める効果が大きく影響する ことが明らかとなった.

上陸時に着目した詳細な解析を行うことにより,台風強度の将来変化に大きな 影響を与える物理量について求めた.その結果,現在気候における台風の「発生 から上陸までの時間」と「上陸時の最大風速半径」のパラメータが台風強度の将 来変化に大きな影響を与えていることが明らかとなった.発生から上陸までが 短時間(6.87日以下)の事例や上陸時の最大風速半径が大きい事例(101.4 km)

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では台風強度が強まりやすい傾向にあることが明らかとなった.また,短時間 事例と長時間事例および小半径事例と大半径事例の間で生じる将来変化量には 統計的に有意な差があることが明らかとなった.

発生から上陸までの時間と上陸時の最大風速半径のパラメータの違いが上陸時 の台風強度に大きな影響を与える要因について分析を行った.その結果,いず れのパラメータも台風の急速発達(RI)の有無に関係していることが明らかと なった.また将来気候ではほとんどの事例(41事例)でRIを起こすようになる 結果が示された.さらに現在気候では RIを生じないが,将来気候では RI を生 じるようになる事例(49事例中16事例)の数は,短時間事例および大半径事例 ではそれぞれ長時間事例および小半径事例よりも2倍以上多い結果となった(と もに16事例中11事例ずつ).したがって,将来気候では海水面温度が上昇する ことで,より多くの事例でRIが起こりやすくなるが,その影響は現在気候では まだ発達の余地を残している短時間事例や大半径事例で大きいことが明らかと なった.

第 5 章では,我が国の三大湾(東京湾,大阪湾および伊勢湾)において自治体に よって実施されている高潮浸水想定をまとめ,その問題点について整理した.また,

現在の経験的手法に依る高潮浸水想定に代わり,計算コストを抑えつつ気候変動の 影響を考慮可能な簡易擬似温暖化実験手法を考案し,2018年の台風 3事例を対象に 妥当性の検証を行った.以上の計算より,以下の結論を得た.

我が国の三大湾における高潮浸水想定の現状

三大湾はともに南に開いた湾口をしており,かつ沿岸付近には海抜 0 m 地帯が 広がっており,都市が形成されている.したがって,高潮災害が甚大化しやすい 特徴を持っている.現在各自治体で行われている高潮浸水想定は,いずれも国 土交通省の提示する高潮浸水想定区域図作成の手引きにしたがって作成されて いる.この想定では,高潮に対する気象外力はいずれも過去に我が国に上陸し 大きな被害をもたらした台風事例をベースとして構築されている.したがって 気候変動による影響を考慮することができておらず,科学的設定が求められて いる.

高潮浸水想定が経験的手法に依らざるを得ない要因として,将来気候計算に用 いられる気象モデルは専門的な知識が必要であり,計算コストも高い点が挙げ られる.そこで,本研究では,第 4 章で得られた多数の台風に対する上陸時強 度の将来変化を利用して,そこから「発生から上陸までの時間」および「現在気 候における上陸時の最大風速半径」を説明変数として,中心気圧および最大風