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簡易擬似温暖化実験手法の妥当性の検証

第 5 章 簡易擬似温暖化実験手法の提案

5.4 簡易擬似温暖化実験手法について

5.4.2 簡易擬似温暖化実験手法の妥当性の検証

本論文では,簡易擬似温暖化実験(SPGWE)の妥当性の検証に2018年台風12号

(Typhoon Jongdari),2018 年台風 21 号(Typhoon Jebi)および 2018 年台風 24 号

(Typhoon Trami)の3事例を採用する.いずれも我が国に上陸した台風であり,1812 号と1824号では伊勢湾で,また 1821号については大阪湾でそれぞれ高潮が発生し ている(気象庁,2018).

まず経験的台風モデルに入力する現在気候データおよび将来気候データを準備す る.現在気候データは気象庁ベストトラック(Pcp,TYposおよび Ms)および Myers の式により推定された推定値(Rmlp)を使用する(表-5.4.1).またそれぞれの事例で ΔPcおよびΔRmを算出した(表-5.4.1).発生から上陸までの時間Tlの値は,1812号 で4.17日,1821号で7.13 日,1824号で9.21 日である.また,Rmlの値は 1812号,

1821号および1824号でそれぞれ113.9 km,77.9 kmおよび109.3 kmである.これら の値を用いて各事例のΔPcおよびΔRm を計算すると,1812 号で−21.1 hPa および−

23.0 km,1821号で−8.6 hPaおよび+4.30 km,1824号で−11.7 hPaおよび−5.90 kmと なった.高潮計算の際には,この将来変化量に対してばらつきを考慮するため,推 定式の標準誤差を加減した値(±9.87 hPaおよび±23.1 km)も用いることで,各台風 事例につき 9 ケースずつの計算を行う(図-5.4.1 および表-5.4.1).高潮の計算対象 湾は,1812号および1824号では伊勢湾および三河湾(図-5.4.2a),1821号では大阪 湾を広くカバーする領域とする(図-5.4.2b).計算地点は,1812号および1824号で は名古屋港,1821号では大阪港とする(図-5.4.2中の赤点).計算期間は全て上陸前 から上陸後までの計1 日間(24時間)とする.その他の詳細な説明については第 2 章 4 節に従う.

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表-5.4.1 簡易擬似温暖化実験に使用する計算条件

[m] [m]

(a) (b)

図-5.4.2 高潮モデルの計算領域および海底地形図

(a)伊勢湾および三河湾(b)大阪湾およびその周辺海域 図中の赤点は計算対象地点である名古屋港および大阪港を示す

対象湾 伊勢湾 大阪湾 伊勢湾

113.9 77.9 109.3

入力条件

P

c

[hPa] 970 950 960

T

l

[day] 4.17 7.13 9.21

Typhoon Jongdari (2018)

Typhoon Jebi (2018)

Typhoon Trami (2018)

−11.7

ΔR

ml

[km] −28.6 +5.48 −9.40

R

ml

[km]

推定値

P

cf

[hPa] 946.4 940.6

将来変化量

ΔP

c

[hPa] −23.6 −9.36

948.3

±R

mle

±23.1

±P

ce

±9.87

R

mlf

[km] 85.3 83.4 99.9

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本題に入る前に,まず現在気候の再現結果について確認する(図-5.4.3中の青点).

再現された最大潮位偏差は1812号,1821号および1824号でそれぞれ0.75 m,2.85

mおよび1.33 mであり,観測された最大潮位偏差(0.73 m,2.77 mおよび1.44 m)

を精度よく再現できている(図-5.4.3 中の紺点).続いて,簡易擬似温暖化実験

(SPGWE)による結果を確認する(図-5.4.3中の箱ひげ図および赤点).入力条件に 𝑃𝑐+ ∆𝑃𝑐および𝑅𝑚𝑙+ ∆𝑅𝑚𝑙を使用した場合を中心に議論を行い,9 ケースの入力値を 用いた計算による標準偏差の値を併記する.簡易擬似温暖化実験による結果は1812 号で1.74 m(0.52 m),1821号で3.26 m(0.74 m)および1824号では1.98 m(0.54

m)である.以上のように,現在気候におけるPc,Rmlの値とそれぞれの将来変化量

の推定値を用いて,簡易的に将来の高潮計算が可能であることが確認できた.

次にこれらの値と力学的手法である擬似温暖化実験(PGWE)の結果を比較する ことで,本手法の妥当性を検証する.ここでは,力学的台風モデルである高解像度 台風モデルをベースとする擬似温暖化実験の結果を参照して議論する.PGWE によ る最大潮位偏差は1812号,1821号および1824号でそれぞれ 1.22 m,3.08 mおよび

2.05 mとなった(図-5.4.3中の橙点).この数値と各事例における潮位偏差の結果を

比較すると,いずれの事例についても PGWE の結果は,SPGWE の変域内に分布し ており,誤差はいずれの事例も小さいと判断でき,高精度な計算ができている.し たがって,構築した推定式を元に行う簡易擬似温暖化実験の結果は妥当な結果を示 しているといえる.以上より,全49事例の台風の現在気候実験と擬似温暖化実験の 間の台風強度に関する将来変化量を利用して,より計算コストの小さな経験的台風 モデルを活用することによって,高潮の擬似温暖化実験を合理的かつ効率的に行う ことが可能であることが明らかとなった.

本論文では,2018年に日本に上陸した台風 3事例による高潮の計算結果を一例と して示したが,今後は他の台風事例,他の地域(例えば東京湾,有明海)において,

それぞれの自治体や港湾管理者がこの簡易擬似温暖化実験手法による検討を行うこ とで,将来の高潮に対する想定の信頼性を向上させることができるものと期待され る.

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図-5.4.3 簡易擬似温暖化実験による潮位偏差の計算結果

箱ひげ図内の横線は中央値を示し,

ひげ部分はSPGWE全9ケースの結果の範囲を示す 青点:現在気候実験,紺点:気象庁ベストトラック,

橙点:PGWE,赤点:SPGWEの平均値 0

0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5

Typhoon Jongdari

(Ise Bay) Typhoon Jebi

(Osaka Bay) Typhoon Trami (Ise Bay)

Maximum sea level anomaly [m]

Present Observation PGWE

Average of SPGWE

- 139 - 参考文献

気象庁(2018):2018年(平成30年)の台風について(速報)https://www.jma.go.jp/

jma/press/1812/21f/typhoon2018.html( 2019 年 12 月 17 日閲覧)

内閣府(2018):経済財政分析ディスカッションペーパー「~自然災害による経済被 害額の推計手法について~-平成30年7月豪雨を例に-」,25p.

AON(2019):Weather, Climate & Catastrophe Insight 2018 Annual Report, 72p.

国土交通省(2015):高潮浸水想定区域図作成の手引き ver.1.00,60p.

東京都(2018):高潮浸水想定区域図について(説明資料),21p.

大阪大規模都市水害対策検討会(2018):大阪大規模都市水害対策ガイドライン,214p.

愛知県(2014):高潮浸水想定について(解説),18p.

愛知県(2017a):愛知県高潮対策検討委員会「第 1回技術部会資料」,45p.

愛知県(2017b):愛知県高潮対策検討委員会「委員会資料」,92p.

気象庁(2018):台風12号の位置表,

https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/position_table/

index.html(2019年12月13日閲覧)

気象庁(2018):台風21号の位置表,

https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/position_table/

index.html(2019年12月13日閲覧)

気象庁(2018):台風24号の位置表,

https://www.data.jma.go.jp/fcd/yoho/typhoon/position_table/

index.html(2019年12月13日閲覧)

Mitsuta Y., T. Fujii(1987):Analysis and synthesis of typhoon wind pattern over Japan, Disas. Prev. Res. Inst., Kyoto Univ., Vol. 37, Part 4, No. 329, 169-185.

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