第 4 章 日本に襲来する台風に対する温暖化影響評価
4.4 台風 49 事例の強度に対する擬似温暖化実験
- 102 -
- 103 -
表-4.4.1 現在気候データの作成に用いたCMIP5提供のGCM
一覧 GCM
緯度(度) 経度(度)
MOHC Met Office Hadley Centre
水平解像度
モデリングセンター名 開発機関
CMCC-CESM 3.4431 3.75 CMCC Centro Euro-Mediterraneo per I Cambiamenti Climatici
CNRM-CERFACS Centre National de Rcherches Meteorologiques / Centre Europeen de Recherche et Formation Avancees en Calcul Scientifique
CNRM-CM5
1.4008
IPSL-CM5B-LR 1.8947 3.75 IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
IPSL-CM5A-MR 1.2676 2.5
CNRM-CERFACS Centre National de Rcherches Meteorologiques / Centre Europeen de Recherche et Formation Avancees en Calcul Scientifique
IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
HadGEM2-CC 1.25
MOHC Met Office Hadley Centre
IPSL-CM5A-LR 1.8947 3.75 IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
2.8125 MIROC
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Atmosphere and Ocean Research Institute (The University of Tokyo), and National Institute
for Environmental Studies
NorESM1-M 1.8947 2.5 NCC Norwegian Climate Centre
MIROC
Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology, Atmosphere and Ocean Research Institute (The University of Tokyo), and National Institute
for Environmental Studies MPI-ESM-LR 1.8653 1.875 MPI-M Max Planck Institute for Meteorology (MPI-M)
MRI Meteorological Research Institute
INM-CM4 1.5 2 INM Institute for Numerical Mathematics
NorESM1-ME 1.8947 2.5 NCC Norwegian Climate Centre
1.40625
1.4008 1.40625
MRI-CGCM3 1.12148 1.125
MIROC-ESM 2.7906 2.8125
HadGEM2-ES 1.25 1.875
CNRM-CM5-2
1.875
MIROC-ESM-CHEM 2.7906
- 104 -
表-4.4.2 将来気候データの作成に用いたCMIP5提供のGCM一覧 GCM
図-4.4.1 は,擬似温暖化実験による全49事例の台風のPcの時系列を示す.前述の 再現実験と同様に,図の星印はピーク時,丸印は上陸時を表す.全体的に見て,中 心気圧の下がりが現在気候に比べて将来気候ではより深まっていることが見て取れ る.特に強まっているのは2004年台風10号(Typhoon Namtheun)であり,ピーク
時のPcは850.4 hPa,上陸時のPcは905.1 hPaとなった.現在気候と将来気候の差
は,ピーク時で−101.1 hPa,上陸時で−59.9 hPaであった.この将来変化量は,ピーク 時および上陸時でともに全事例で最も大きな変化である.また全49事例の平均を取 ると,ピーク時に関しては,現在気候のPcは946.2 hPa,将来気候のPcは900.5 hPa となる.また,上陸時に関しては,現在気候の Pcは965.8 hPa となり,将来気候の Pcは 960.3 hPaとなる.将来気候においては,現在気候に比べて平均的に見てPcが 低下する傾向にあり,ピーク時において−45.7 hPa,上陸時においても−5.5 hPa の低 下量となった.ピーク時に比べて上陸時では将来変化量が小さくなる傾向について は,これまでの知見と同じである.日本に上陸する時刻付近では,偏西風や地形の 影響により台風の減衰が起きているため,温暖化による強度増大が抑制されるため であると考えられる.またピーク時のPcについて,現在気候と将来気候の間には有
意水準5 %(片側検定)で有意な差があることが明らかとなった.
次に図-4.4.2および図-4.4.3は,ピーク時(図-4.4.2)および上陸時(図-4.4.3)の 現在気候および将来気候の台風強度の相対頻度分布を示す.ピーク時の分布による
緯度(度) 経度(度)
CanESM2 2.7906 2.8125 CCCma Canadian Centre for Climate
Modelling and Analysis 水平解像度
モデリングセンター名 開発機関
HadGEM2-CC 1.25 1.875 MOHC Met Office Hadley Centre
CMCC-CESM 3.4431 3.75 CMCC Centro Euro-Mediterraneo per I
Cambiamenti Climatici
IPSL-CM5A-MR 1.2676 2.5 IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
IPSL-CM5A-LR 1.8947 3.75 IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
NorESM1-M 1.8947 2.5 NCC Norwegian Climate Centre
IPSL-CM5B-LR 1.8947 3.75 IPSL Institut Pierre-Simon Laplace
NorESM1-ME 1.8947 2.5 NCC Norwegian Climate Centre
- 105 -
図-4.4.1擬似温暖化実験による台風49事例のPcの時系列
星印:ピーク時,丸印:上陸時を示す.線色は図-4.3.1に同じ
図-4.4.2 ピーク時のPcの相対頻度分布図(紺色:気象庁ベストトラック,
水色:現在気候,橙色:将来気候).図中のAve.は平均値を示す
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4
840~860 860~880 880~900 900~920 920~940 940~960 960~980 980~1000
相対度数
P
c[hPa]
観測値 現在気候 将来気候
Ave. 900.5
Ave. 945.1 Ave. 946.2
- 106 -
と(図-4.4.2),現在気候(青色)で最も事例数が多いのはPcが920 hPa以上940 hPa未 満の強度(約33 %)であるのに対して,将来気候(橙色)では840 hPa以上860 hPa未 満の強度(約27 %)の事例数が最も多い.この分布図からも,地球温暖化によって ピーク時の強度が大幅に増大し,全体的にPcの分布が左に移動していることがわか る.一方で,上陸時の出現頻度分布を確認すると(図-4.4.3),現在気候(青色)で 最も事例数が多いのは,Pcが960 hPa以上970 hPa未満の強度であり,全体の約22 %を 占めている.将来気候(橙色)では,最も事例数が多いのは950 hPa以上960 hPa未満 の階級にシフトしており(約18 %),現在気候では一事例も無かった930 hPa未満の 事例も7事例に増加している.以上の点からも,ピーク時ほど明瞭な強度変化はない ものの,上陸時の強度も温暖化により全体的に増加しているといえ,強い勢力で上 陸する事例が増加する傾向にある.将来気候下における台風強度は,ピーク時では 全49事例で増大する結果となり,上陸時では30事例で増大する結果となった.
以上より,将来気候下で日本に上陸する台風の多くはピーク時と上陸時でともPc
は低下し,特にピーク時でより大きく変化する可能性が高いことが明らかとなった.
次に図-4.4.4は,擬似温暖化実験による全49事例の台風のVmの時系列を示す.前述 の再現実験と同様に,図の星印はピーク時,丸印は上陸時を表す.特に強まってい るのは2007年台風5号(Typhoon Usagi)であり,ピーク時のVmは70.6 m/s,上陸時の Vmは57.3 m/sとなった.現在気候と将来気候の差は,ピーク時で+30.4 m/s,上陸時で +22.5 m/sであった.この将来変化量は,ピーク時および上陸時でともに全事例で最
図-4.4.3 上陸時のPcの相対頻度分布図(紺色:気象庁ベストトラック,
水色:現在気候,橙色:将来気候).図中のAve.は平均値を示す
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
相対度数
Pc[hPa]
観測値 現在気候 将来気候
Ave. 960.3 Ave. 969.6
Ave. 965.8
- 107 -
図-4.4.4 擬似温暖化実験による台風49事例のVmの時系列
星印:ピーク時,丸印:上陸時を示す.線色は図-4.3.1に同じ
図-4.4.5 ピーク時のVmの相対頻度分布図(紺色:気象庁ベストトラック,
水色:現在気候,橙色:将来気候).図中のAve.は平均値を示す
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4
~25 25~30 30~35 35~40 40~45 45~50 50~55 55~60 60~65 65~70 70~75 75~80
相対度数
Vm(m/s) 観測値
現在気候 将来気候
Ave. 44.6
Ave. 61.0
Ave. 42.9
- 108 -
も大きな変化である.全49事例の平均を取ると,ピーク時に関しては61.0 m/sとなり,
上陸時に関しては 38.7 m/sとなる.将来気候においては,現在気候に比べて平均的 に見てVmが増大する傾向にあり,ピーク時において+16.4 m/s,上陸時においても+5.2
m/sの増加量となった.またピーク時および上陸時におけるそれぞれのVmについて,
現在気候と将来気候の間にある差は有意水準5%(片側検定)でともに有意であるこ とが明らかとなった.次に図-4.4.5および図-4.4.6は,ピーク時(図-4.4.5)および上 陸時(図-4.4.6)の現在気候および将来気候の台風強度の分布を示す.ピーク時の分 布によると(図-4.4.5),現在気候(青色)で最も事例数が多いのはVmが50 m/s以上 55 m/s未満の強度(約27 %)であるのに対して,将来気候(橙色)では65 m/s以上75 m/s未満の強度(約37 %)の事例数が最も多い.この分布図からも,地球温暖化によ ってピーク時の強度が大幅に増大し,Vmの分布が右に移動していることがわかる.
一方で,上陸時の分布を確認すると(図-4.4.6),現在気候(青色)で最も事例数が 多いのは,Vmが30 m/s以上35 m/s未満および35 m/s以上40 m/s未満の強度であり,と もに約24.5 %(合計で全体の約半分)を占めている.将来気候(橙色)では,最も事 例数が多いのは30 m/s以上35 m/sの強度(約22 %)であるが,次いで40 m/s以上45 m/s の強度(約20 %)となっている.さらに,現在気候では無かった50 m/s以上の事例も
7事例に増加していることに加え,Vmが25 m/s未満の事例数は,現在気候で6事例で
あったものが将来気候で1事例に減少している.以上の点からも,Pcと同様にピーク 時ほど明瞭な強度変化はないものの,上陸時の強度も温暖化により全体的に増加し
図-4.4.6 ピーク時のVmの相対頻度分布図(紺色:気象庁ベストトラック,
水色:現在気候,橙色:将来気候).図中のAve.は平均値を示す
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
~20 20~25 25~30 30~35 35~40 40~45 45~50 50~55 55~60
相対度数
Vm(m/s) 観測値
現在気候 将来気候
Ave. 33.5Ave. 38.7 Ave. 32.3
- 109 -
ており,強い勢力で上陸する事例が増加する傾向にある.将来気候下における台風 のVmは,ピーク時では全49事例で増大する結果となり,上陸時では38 事例で増大す る結果となった.
以上より,将来気候下で日本に上陸する台風の多くはピーク時と上陸時でともに Vmが増加する可能性が高いことが明らかとなった.