現代社会における情報通信システムは必要不可欠なシステムであり,その情報通信シス テムを支える通信基盤の高信頼化設計問題は重要な研究課題の一つである。一般に,シス テムは処理機能により複数のサブシステムから構成され,さらに,サブシステムは複数のユ ニットから構成されている。システムの高信頼化を実現するひとつの方法として,フォー ルトトレランスという考え方がある。フォールトトレランスとは,付加装置や付加機能の 影響を自動的に防ぎ,フォールトが起きてもシステムとしては正しい機能を保持させよう とするアプローチである。言い換えると,このアプローチではシステムの一部が故障して も他の部分がその不具合を補い,全体として正常に機能するような仕組みである。このよ うなシステム構成を冗長構成と呼ぶ。本研究では,システムの高信頼化を実現する手法と して,並列冗長構成および待機冗長構成を想定している。システムの高信頼化設計では,
サブシステムの容量や重量など,資源の制約下において,各サブシステムのユニットを待 機冗長構成や並列冗長構成とすることで,システム信頼度や稼働率を最大化し,総コスト を低減化する信頼性最適化設計問題として扱える。
本論文では,システムの高信頼化設計における信頼性最適化の手法としてハイブリッド 型多目的GA(多目的GA:Multiobjective Genetic Algorithm)を提案した。このハイブリ ッド型多目的GAを多目的信頼性最適化設計に適用し,その有効性を数値実験により検証 した。
1. システム信頼性最適化設計のためのシステム不稼働率による数学モデルの構築方法 を提案した。この方法は,故障の木解析(Fault Tree Analysis)で使われる最小カットセ ット(minimal cut set)を用いてシステム不稼働率の数学モデルを構築する方法である。
複雑な構成のシステムをモデル化する場合に有効な方法である。この方法を通信シス テムの信頼性最適化設計に適用し,3つの不稼働率モデルの数値実験で有効性を検証 した。なお,3つの不稼働率モデルとは,サブシステムを直並列に接続した通信シス テム,ブリッジ状に接続した通信システム,15サブシステムをネットワーク状に接続 した通信システムである。
2. 単目的信頼性最適化モデルを用いて,適応型スキームによる局所探索技法を提案し,
その有効性を数値実験で検証した。単目的 GA の探索効率を上げるために,適応型ス キームによる局所探索を採用した。この適応型スキームは評価値が最適解の近傍にあ ると判断した場合,局所探索を働かせる制御を行う仕組みである。適応型スキームに
よる局所探索技法の評価は,効果を比較のために,基本的な GA と適応型スキームを 持たない局所探索によるハイブリッドGA,適応型スキームを持った局所探索によるハ イブリッド GA を用いる。数値実験は,あらかじめ最適解が知られている2つの複雑 な信頼性最適化問題を使用した。単目的 GA における局所探索は有効に働くことが知 られている。さらに,局所探索を適応的に制御する「適応型スキーム」は,探索時間の 短縮に大きな効果があることを示した。
3. 単目的信頼性最適化モデルを用いて,交叉率と突然変異率を制御する適応型スキー ムを備えた適応型ハイブリッド GA を提案し,その有効性を数値実験で検証した。こ の適応型スキームはファジィ論理制御を用いて交叉と突然変異を制御する方式である。
この適応型ハイブリッド GA の効果を評価するために適応型スキームを持った2つの ハイブリッド遺伝的アルゴリズムを使用した。この2つの適応型スキームは Mak,
WongとWang,SrinivasとPatnaikで使われた手法である。また,局所探索アルゴリ
ズムはIterative Hill Climbing techniqueを使用した。3つの適応型スキームの比較には 2つの複雑な単目的の最適化問題を使用して評価を行った。最初に,ハイブリッドGA の探索能力は適応型スキームを使うことで改善することを示した。さらに,ファジィ 論理制御を用いた適応型スキームは,他の2つの適応型スキームより効率的であるこ とを検証した。
4. 多目的GAのためのいくつかの技法を多目的信頼性最適化設計問題に適用し,その有 効性を数値実験により検証した。多目的 GA の技法は,①パレート解保存戦略,②改 良パレート解保存戦略,③適応型スキームによる局所探索,④適応型スキームによる 交叉と突然変異,⑤シェアリングによる解の多様化である。これら提案した多目的GA の技法はパレート解の探索に大きな効果が得られた。本論文で提案した解法の成果を 要約すると,次のとおりである。
① パレート解保存戦略
この戦略は,世代の進化ループにおいてパレート解を保存し,このパレート解から 次世代の親を選ぶ,選択の技法である。このように,進化ループの中に次世代の親の もととなる解候補群を保存する方式は多目的 GA の基礎となる考え方と言える。パ レート解保存戦略の場合は解候補群をパレート解とする。この戦略の効果は,次の 改良パレート解保存戦略には及ばない。なお,この方法を適用する場合,親集団を 少なくし,初期解を変えて試行することが望ましい。
② 改良パレート解保存戦略
この戦略は,多目的 GA の基本的な技法と言え,パレート解の探索に大きな効果が 得られた。パレート解保存戦略と比較して,この戦略の効果は大きなものがある。
パレート解保存戦略と基本的な構成は同じであるが,保存する解候補群が異なり,
現世代のパレート解と縁側部分の実行不可能解を蓄積する方式であり,解数の増加
率が大きい。この縁側に分布する解数の多さが,解の多様性を維持すると共に,シ ェアリングとの相乗効果で高い探索効率を実現している。しかし,弱点は解候補が 多量に保存されるため,一定数での廃棄が必要になる。本論文では,パレート解が 多く重なっているものから廃棄している。この方法で良い結果が得られているが検 討の余地がある。なお,現在のパレート解は残すことが望ましい。
③ 適応型スキームによる局所探索
多目的 GA用適応型スキームは,単目的 GAの適応型スキームとは異なり,パレー ト解の多様性(均等な分布)が求められることから,シェアリング度を使用して,パレ ート解の少ない部分を集中的に探索するスキームとした。なお,局所探索は多目的用 に提案した指向性遺伝子法を用いている。この適応型スキームは局所探索の欠点で ある広域探索を阻害することを抑制し,パレート解の多様性を改善すると共に,よ り縁側近傍の解を求めるのが目的である。この点の有効性は数値実験により確認さ れた。さらに,多目的GAでの適応型スキームは改善が必要である。
④ 適応型スキームによる交叉と突然変異
ファジィ論理制御(FLC)を交叉と突然変異の制御に適用した適応型スキームである。
各目的関数の評価値からファジィ関数を使用して交叉率と突然変異率の変化量を算 出する方式である。多数のパレート解を探索すると同時にパレート解の広域探索能 力を高めることができた。FLC を導入することで,探索時間を短縮する効果を得ら れた。効果的な手法であるが,FLC パラメータの設定に時間を要するのが弱点であ り,FLCパラメータの設定の自動化が課題である。
⑤ シェアリングによる解の多様化
シェアリングにより選択基準である評価値を補正してパレート解を均等に分布させ る仕組みは,改良パレート解保存戦略と組み合わせて,大きな効果が生まれる。シ ェアリング度を用いて他の機能を強化することに意味があり,単独では効果が発揮 されない。シェアリングは解の多様化に効果があり,言い換えれば,パレート最適 解の探索能力を低める逆効果もある。この弱点のひとつの解決方法は,多数のパレ ート解候補を保存することである。このため,多目的 GA は,改良パレート解保存 戦略と適応型スキームを用いた局所探索,交叉や突然変異を効果的に組み合わせる ことが改善のひとつの方法である。本論文では,この方法を用いてシェアリングを 効果的に使用している。
本論文では、システムの高信頼化設計における信頼性最適化問題の解法としてハイブリ ッド型多目的GAを提案した。このハイブリッド型多目的GAは多目的信頼性最適化設計 において、効率的に複数のパレート妥協解を得る方法として有効であり,これらの技法は 多目的GAにおける基本的な技法である。今後,大規模な通信システムネットワークや階 層型ネットワークシステムの最適設計問題に多目的GAを適用する。さらに,ファジィ論理 制御のように効果はあるが,その取扱いが難しい技法を改善することである。