本研究では、エネルギーの大量消費に起因する地球環境問題の現状を生徒に認 識させ、それらの克服への意欲を培う環境教育をエネルギー環境教育と定義し、
中学校におけるエネルギー環境教育の推進が、さらなる環境教育充実にとって必 要であると考えた。この視点から、中学校におけるエネルギー環境教育の現状と 課題を探り、望ましいあり方を提言することを本研究の目的とした。
第2章では、自然科学的な視点から語られることの多い地球環境問題を、主に 社会科学的側面から考察した。地球環境問題は、地球温暖化、酸性雨、オゾン層 破壊、等それぞれ別個の問題として考えられる場合が多いと思われる。しかし、
これらは複雑に絡み合い、総体としての地球環境問題を形成している。そして、
これらの問題の多くが、エネルギーの大量消費という共通の背景を持っている。
ゆえに地球環境問題の根本的解決のためには、エネルギーの大量消費の上に成り 立つ現代社会そのものを問い直さねばならない。それゆえ地球環境問題解決のた めの国際合意は困難であると考えられてきた。1997年に締結された京都議定 書は、このような困難を乗り越え、国際社会が「共通だが差異のある責任」を認 め合うことによって得られた初めての合意である。京都議定書は2005年に発 効することが決まった。エネルギー消費は今後開発途上国で急速に伸びることが 予想され、開発途上国の削減目標の設定が今後議論されることになるであろう。
わが国においても京都議定書の削減目標達成に向け、再生可能エネルギーを中心 とする非化石エネルギーの利用を促進することと、エネルギーの有効利用が求め られている。以上の内容は学校教育においても大変重要と思われ、地球環境問題 が私たちの生活そのもののあり方に対して突きつけられた問題であることを感じ させ、その克服に向けての意欲を養う指導が必要であると考えられる。
第3章では、エネルギーと環境に関連する内容を持つ社会科、理科、技術・家 庭科および総合的な学習の時間におけるエネルギー環境教育のあり方について述 べた。社会科におけるエネルギー環境教育は、社会事象としてエネルギー環境問 題を認識させ、地理的、歴史的な観点からその原因を考察させるとともに、その 克服に向けての取組の現状と見通しを知らせることが重要である。理科における エネルギー環境教育は、エネルギーとは何かを実感を伴って理解させるとともに、
エネルギーの有効利用が地球環境問題の解決に向けて重要であること、また、科 学技術の成果が地球環境問題の解決のために用いられるべきであることを理解さ
せることが重要である。技術・家庭科におけるエネルギー環境教育は、生活の中 での様々な形でのエネルギー利用を実体験させるとともに、省エネルギーやリサ イクルについて関心や意欲を持たせることが重要である。
総合的な学習の時間におけるエネルギー環境教育は、各教科で得た知識を活用 し、より発展的な学習を行うとともに、より生徒主体的な学習形態をとりながら エネルギー環境問題への理解を深めていくことが大切である。
第4章では、中学校におけるエネルギー環境教育の現状と課題を、学習指導要 領及び社会科、理科、技術・家庭科の教科書の記述調査、エネルギー環境教育に 関する中学校教員アンケート調査より明らかにした。学習指導要領及び教科書に おけるエネルギーと環境に関する記述は、環境教育充実の方向性を反映して確実 に増えていると結論できる。しかし、社会科においてはエネルギー利用と環境問 題の関連性が明示されておらず、別個の問題として記述される傾向が強かった。
理科においては、エネルギーの定義づけが教科書により少しずつ違い、エネルギ ーの有効利用の重要性を理解させるために必要な「損失」や「効率」についての 記述に乏しい傾向が見られた。技術・家庭科では、教科の時間数が削減されたた めにエネルギーに関する内容の一部が必修ではなくなり、扱われる内容も非常に 簡略化され不十分なものと思われた。エネルギー環境教育に関する中学校教員ア ンケート調査では、教員はエネルギー環境教育を重視しているが、自己のこれま での授業実践には満足していないことが明らかとなった。満足していない理由と して、エネルギー環境教育における資料・教具の選定の難しさ、配当時間の少な さ、学校業務の多忙さが指摘された。また、エネルギーや環境に関する内容につ いては、各教科で重複して扱われているもの、各教科の特性を生かして扱われて いるものがある一方、「地球環境問題への国際的取組」や「南北問題」がどの教 科でも扱われていないことが明らかとなった。また、教員は、エネルギー環境教 育における望ましい授業形態として、実験・実習、フィールドワーク、施設見学 などの生徒参加型、体験型の授業形態を挙げているが、実際には教員の説明中心 の授業形態となっている現状も明らかとなった。一方、現行の学習指導要領より 導入された総合的な学習の時間には多くの教師が期待しており、総合的な学習の 時間においてエネルギー環境教育を行うべきであると考える教員が多かった。ま た、各教科間及び各教科と総合的な学習の時間における連携の必要性も多くの教
員が指摘した。
第5章では、第4章において明らかになった中学校におけるエネルギー環境教
育の諸課題の解決のために、3っの提言を行った。第1に、社会科、理科、技術
・家庭科において行われているエネルギーと環境に関する内容を整理して8つの 小単元に再編成し、各教科の特性を考えて配置した。実施時期も、第3学年の総 合的な学習の時間においてエネルギー環境学習を行うものとし、これに要する基 礎知識を養うことを目的として第2学年後半〜第3学年前半に集中して行うもの とした。第2に、社会科公民的分野において「地球環境問題への国際的取組」を 扱うものとし、これを1つの小単元とした4時間扱いの授業案を作成した。地球 環境問題への国際的取組の歴史、京都議定書の内容、京都議定書の課題を主要な 内容とし、統計資料等を多く用いてエネルギーの大量消費と地球環境問題の実態 を具体的に把握できるようにした。また、討論活動を入れ、生徒が主体的に参加 しうる授業を目指した。第3に、総合的な学習の時間におけるエネルギー環境学 習の一例として、発電所などのエネルギー関連施設の見学をとりあげた。従来、
社会見学の計画立案は教員が行ってきたが、総合的な学習の時間におけるエネル ギー環境学習では、生徒が各自の問題意識に基づき適切な見学計画を立案するこ とが望ましいと思われる。そこで、見学計画の立案に用いる資料として、生徒の 利用を前提としたウェブ形式のr見学施設リスト」を作成した。
以上、本研究では、中学校におけるエネルギー環境教育が重要であることを示 すとともに、その現状と課題を明らかにし、課題克服のための提言を行った。今 後、本研究で行った提言が有効であるか、学校現場において実践し、検証を進め ていく所存である。