3.1.1 各教科におけるエネルギー環境教育
学習指導要領において、「環境」は総合的な学習の時間の内容の一つとして例 示されている。しかし、エネルギー環境教育は総合的な学習の時間のみでは担い きれない。エネルギーと環境に関連する内容はきわめて広い範囲にわたる。また、
地球温暖化をはじめとする地球環境問題は複雑な背景をもち、その要因を探る学 習を行うためには、自然科学的、社会科学的な基礎知識が多く必要とされる。総 合的な学習の時間は、生徒主体の学習活動により行われるが、この学習形態は、
基礎知識の獲得というよりはむしろ、獲得した知識を発展、深化させていくのに 適しており、エネルギーと環境に関する基礎知識の習得に総合的な学習の時間の 時間を充てることは、総合的な学習の時間の趣旨にそぐわないと考えられる。ま た、学習指導要領では、「環境」は「例示」されているが必ず環境に関わる学習 を行うと定められているわけではない。したがって全ての生徒が履修する各教科 において、エネルギーと環境に関連する内容を明確に位置づけ、体系化させた上 で指導していくことが重要であると思われる。
環境教育指導資料には「学校における環境教育は、すべての教科において行う のが望ましいが、環境にかかわる事象の扱いは、当然、教科等の性格や目標と関 連付けて考えなければならない。」(Dと述べられている。各教科におけるエネル ギーと環境に関連する内容は、各教科の目標を実現するために扱われるが、その 学習の過程でエネルギー環境問題への理解を深め、結果としてエネルギー環境教 育の推進につながると考えられる。
また、エネルギーと環境に関連する内容は複数の教科にわたり扱われているた め、各教科における扱いが全体として体系性をもったものとなるよう、教科間の 連携も重要であると思われる。環境教育指導資料には「留意しなければならない 点は、事象の扱いについて教科等間の連携をうまく図ることである。」(1)と述べ
られている。
これらのことから、各教科におけるエネルギー環境教育の望ましいあり方とし て、次の二点を掲げる。
(1)各教科においては、教科の性格や目標に根ざしたエネルギーと環境に関連 する内容が取り扱われ、教科内での一貫性が保たれ、体系化が図られるべ
きである。
(2)各教科間の内容が相互に補完しあい、全体として体系化されたエネルギー 環境教育となるために、教科間の連携が必要である。
この二点のうち、特に(1)をもとに、各教科におけるエネルギー環境教育の あり方を述べることとする。
3.1.2 社会科におけるエネルギー環境教育のあり方
社会科では「広い視野に立って,社会に対する関心を高め,諸資料に基づいて 多面的・多角的に考察し,我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め,公民 としての基礎的教養を培い,国際社会に生きる民主的,平和的な国家・社会の形 成者として必要な公民的資質の基礎を養う。」(2)ことが教科目標とされている。
環境問題を1つの社会事象としてとらえ、多面的・総合的に理解することは環境 教育の中心におかれるべきだが、これは社会科で養われる力なしでは実現し得な いものである。また、環境問題を社会科教材として扱うことで、社会問題一般を 多面的・多角的に考察する力も養われるものと思われる。したがって、環境教育 指導資料は、社会科の教科目標は環境教育の目標と「きわめて共通性が高いと言 える。」(3)と述べている。また、山下(2000)は、r環境教育における豊かな感性は 必須である。しかし、豊かな感性だけでは環境問題は解決できない。社会的、経 済的、文化的な検討が重要である。社会科は、こうしたことに大きな責任を担っ ている」(4)と述べ、環境教育における社会的、経済的、文化的な領域を社会科が 担当すべきであるとしている。佐々木(1997)もこれらとほぼ同様の観点から、社 会科では環境認識のための基礎学習のうち、とくに社会環境の認識をねらいとす べきであるという考えを示している(5)。これらをもとに考えると、社会科におけ
るエネルギー環境教育は、諸資料に基づいて社会事象としてエネルギー環境問題 を考察させ、その原因を地理的、歴史的な観点から考えさせ、エネルギー環境問 題の克服に向けての国際的な取り組みの現状を知らせ、克服への意欲を持たせる
ことをねらいとし、その内容を構成すべきであると思われる。
小川ら(1991)は、エネルギー関連指導内容の一改善案として、中学校社会科に おいては「我が国におけるエネルギー需要の歴史的変遷」「エネルギー資源の分 布と埋蔵量等」「将来の課題jの3っの内容を中心に構成すべきであると主張し ている(6)。この主張で注目すべきは、エネルギーに関する問題を歴史的な観点か
ら見るべきであるという点である。今日のエネルギー問題の背景を辿ってゆけば 必然的に、有史以来の人類のエネルギー利用の歴史、特に産業革命以来今日まで
の爆発的なエネルギー需要の増加の歴史に触れることになる。しかしながら、歴 史的分野の学習においてエネルギー問題にはほとんど触れられていないのが現状 である。この主張は、社会科におけるエネルギー環境教育で歴史的分野からのア プローチが重要であることを示唆するものである。この主張を基に、社会科にお けるエネルギー環境教育の内容を考えてみたい。
地理的分野では、エネルギーや資源に地域的偏在があること、また、我が国は エネルギーのほとんどを輸入に頼っていることを理解させることが重要となる。
また、先進国と発展途上国間の資源配分にも大きな偏りがあることも知らせたい。
一方、身近な地域の学習においても、地域の自然環境、社会環境の現状とその抱 える問題点、公害等の地域環境問題について積極的に触れることが望まれる。
歴史的分野では、火の使用に始まる人類のエネルギー利用の歴史を時代の流れ の中でっかませ、便利さ、豊かさの追求が今日のエネルギー大量消費社会を生み 出したことに気づかせたい。特に産業革命以降のエネルギー消費量の急増が、現 在のエネルギー環境問題の大きな原因となっている点について押さえたい。また、
欧米諸国の植民地支配が現在の南北問題を生じさせ、エネルギーや資源の配分の 偏りの一因となっていることも、エネルギー環境問題に関連する事項として重視 する必要があると思われる。
公民的分野では、地球環境問題の現状とともに、それら複雑な因果関係を有し ていることに気づかせたい。例えば地球温暖化問題については、CO、の大量排出 が原因であることはもちろんであるが、その背景としての先進国のエネルギーの 大量消費、その裏にある南北問題の存在に気づかせることが必要である。さらに、
京都議定書をはじめとして現在行われている地球環境問題解決のための国際的努 力にも目を向けさせ、最終的には小川らのいう「将来の課題」を考えさせるよう
にしたい。
3.1.3 理科におけるエネルギー環境教育のあり方
理科では「自然に対する関心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,
科学的に調べる能力と態度を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を 深め,科学的な見方や考え方を養う。」(7)ことが教科目標とされている。環境問 題は、自然環境に対しての人類の持続的なはたらきかけの結果、自然環境が変化
し生じている問題と考えることができる。したがって、理科における環境教育の ポイントは2つあり、1つは、人類が働きかける対象としての自然環境の認識で ある。この分野は第2分野の内容として行われるほか、第1章でも述べたように
「狭義の」環境教育としてさかんに実践が行われている。この分野が環境教育に とって非常に重要であることは論を待たずして明らかであろう。しかし、環境教 育は自然環境認識教育のみで構成されるのではない。環境教育に、地球環境問題 の認識とその解決に向けての意欲を養うため、エネルギーと環境の関連という視 点が必要であることは、第1章ですでに主張したところである。したがって、理 科におけるエネルギー環境教育を考える上では、もう1つのポイントが重要とな ってくる。それは、自然にはたらきかける人間の営み、すなわち科学技術につい ての認識である。佐島(2000)は、「現在の地球的規模の環境問題は、現代文明を 支える科学技術の発展と、物質的な豊かさを追い求めてきた人間の生き方が大き くかかわっている。」(8)と述べ、環境問題の解決のためにr物質的な豊かさや便 利さを追求するために使われてきた自然科学を、人間と環境との共生のために利 用していく必要がある。」(8)としている。このような目的を達するためには科学 や技術についての認識を深めさせ、さらに環境保全、環境問題解決に向けての科 学技術の有効な利用方法を考えさせる教育を行わなければならない。これらの内 容は、主に第1分野で扱われるべきと考える。
次にその具体的内容について述べる。第1分野でのエネルギー環境教育は、ま ず、エネルギーというものの概念を子どもたちに具体的に形成させるところから 始めたい。位置エネルギー、運動エネルギー、熱エネルギー、電気エネルギーな どエネルギーが様々な形態をもち、また相互に変換できることを理解させること がエネルギーの概念を形成させるうえで基礎となる事柄であろう。このようなエ ネルギーに関する基礎概念を形づくらせた上で、エネルギーの変換や伝達に伴い 損失が生じることを理解させたい。損失が生じることの認識はエネルギー環境問 題を理解する上で大変重要である。損失を少なくすることにより効率よくエネル ギーを利用することができ、結果としてエネルギー消費の総量を抑制することに つながる。このことはエネルギーの大量消費を主原因とする地球環境問題の解決 に向けて重要であると思われる。小川ら(1991)は、理科においては、電気エネル ギーから熱エネルギーへの変換に関する量的な関係、エネルギー保存則を理解さ せるとともに、変換や伝達の効率についても理解させるべきと主張している(6)。
そしてこれらの学習を進めていく中で、地球環境問題の背景となっているのはエ ネルギーの大量消費により豊かな社会を実現した科学技術であり、地球環境問題 を解決するのも、最終的にはエネルギー利用効率の向上、新エネルギーの開発等 を進めていく科学技術なのだということをわからせたい。これらの内容は、第1