分析1 日本語母語幼児と中国語母語幼児全体における
英単語スパン
参加児の英単語スパンの平均を音韻構造および母語別 に示したのがTable 2である。母語(日本語,中国語)
× 音韻構造(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)の2 手続き
日本語母語幼児に対する実験実施は,第1著者と実験 協力者として大学院生1名が行い,中国語母語幼児に対 する実験実施は,第3著者と実験協力者として中国の大 学に通う学生2名が行った。課題は幼稚園の別室で個別 に行われた。参加児はパソコンの画面とスピーカーを前 にして座り,イヤホンを通して,実験に参加した。
参加児には,イヤホンから聞こえてくる音を真似るよ う教示を与えた後,1単語反復と2単語反復の練習問題 を行った。2単語反復の練習において,最後にまとめて 反応するという系列再生課題の趣旨および手続きを参加 児が理解するまで練習問題を繰り返し行い,本試行へと 移行した。実験中,反応に困難を示す参加児に対しては,
音声が流れる前に実験者が声掛けを行い(「今から言葉 が流れてくるからよく聞いてね」),音声が流れ終えた後 に参加児に反応するように声掛けを行った(「今どんな 言葉が聞こえたか教えてくれるかな」)。参加児の反応に 対しては明確なフィードバックは行わず,反応しない場 合には「大丈夫だよ」といったフィードバックを与え,
参加児に安心感を与えた。なお,練習段階において実験 の趣旨を理解できなかった,および,実験途中で試行を 拒否,あるいは,継続困難と判断された5名の幼児にお いては,実験を中断して実験参加児から除外した。実施 時間は1人当たり,約30分程度であった。
英単語記憶スパン課題 1単語の段階から始め,次第 に単語数を増やしていった。参加児には,反復する単語 数が増える際には,事前に説明して,提示された順番通 りに反復するように求めた。各段階で3試行用意し,そ のうち,2試行以上で,無反応など明らかに失敗した場 合,その段階で中止した。参加児の反応は,全てICレコー ダーに録音し,以降に述べる評定基準で評定を行い,成 功と判断された反復が2試行以上存在する最も単語数の 多い段階の単語数を参加児の記憶スパンとした。
英単語記憶スパン課題への反応の評定基準 参加児の 反応は,実験者がその場で記録用紙に記録し, ICレコー ダーで録音したものをパソコンに取り込み,その後,第
Table 2 5種類の音韻構造別記憶スパンの平均 (標準偏差)
音韻構造 F値 多重比較
CV CVC CVCV CVCC CVCVC
日本語母語幼児 2.4
(0.7)
1.9
(0.7)
2.2
(0.7)
1.1
(0.8)
1.2
(0.8) 26.69 ***
CV > CVC,CVCC,CVCVC CVC > CVCC,CVCVC CVCV > CVCC,CVCVC 中国語母語幼児 2.7
(0.9)
2.2
(0.9)
2.4
(0.7)
1.8
(0.9)
2.2
(0.7) 4.99 ** CV > CVCC CVCV > CVCC 注.C は子音,V は母音を示す。
**p < .01,***p < .001
要因分散分析を行った。その結果,母語の主効果(F(1, 59)=10.73, p <.01),音韻構造の主効果(F(4, 236)=
28.23, p <.001),母語と音韻構造の交互作用(F(4, 236)
=3.57, p <.05)がいずれも有意であった。母語と音韻構
造の交互作用が見られたため,単純主効果の検定を行っ た。
まず,日本語母語幼児,中国語母語幼児ともに,音 韻構造の単純効果が見られた(F(4, 56)=26.69, 4.99, p <.001, p <.01)。ボンフェローニの多重比較を行った ところ(以下,多重比較は全て同法),日本語母語幼 児 で は,CVとCVC,CVCC,CVCVCの ス パ ン 成 績,
CVCとCVCC,CVCVCのスパン成績,そして,CVCV
とCVCC,CVCVCのスパン成績において,有意差が見
られた。すなわち,CVのスパンが最も大きく,次に,
CVCとCVCVのスパンが大きく,CVCCとCVCVCの スパンが最も小さかった。このような記憶スパンのパ ターンは,Table 1のモーラ単位の大きさとまさに逆で あった。一方,中国語母語幼児では,CVとCVCVのス パン成績がCVCCのそれより有意に大きかったが,そ れ以外で,有意差は見られなかった。このような記憶ス パンのパターンは,Table 1のモーラ単位,または音節 単位のいずれとも対応していない。
次に,音韻構造別に日本語母語幼児と中国語母語幼児 を比較したところ,CVCCとCVCVCのスパン成績にお いて,日本語母語幼児の方が中国語母語幼児よりも有 意に低かった(F(1, 59)=8.17, 21.04,それぞれp <.01, p <.001)。CV,CVC,CVCVのスパン成績では,両幼児 間に違いは見られなかった(F(1, 59)=2.04, 1.99, 1.78, ns)。
最後に, 成功 と評定された反応のうち,1)〜3)の 割合を母語別および音韻構造別に算出してTable 3に示 した。1)の完全反応の割合を各参加児について求め,
それを逆正弦変換したうえで,音韻構造別に母語間でt 検定を行った。ただし,分析においては,スパン成績自 体が0の参加児は分析対象から除外した6)。その結果,
全ての音韻構造において,母語間で有意差は見られな かった(CV; t(58)= 1.43,CVC; t(54)= 1.25,CVCV; t(59)
= 1.33, CVCC; t(48)= 1.74, CVCVC; t(50)= 0.68, ns)。
分析2 日本語母語幼児と中国語母語幼児における反復
音声持続時間
ICレコーダーに録音した参加児の反応をコンピュー タに取り込み,音声分析ソフト(Sound Engine Free)を 用いて,個々の単語に対する反復音声の持続時間を求め た。測定対象とした持続時間は,参加児が発話し始めた 時点から,完全に発話し終わるまでの反応時間とし,実 験者(第1著者)による聴覚判断と,音声分析ソフト
(Sound Engine Free)で提示した音声波形による視覚的
判断を踏まえて測定を行った。なお,2単語以上の反復 音声持続時間の測定に関しては,参加児の発話時の反応 時間のみを測定対象とし,単語反復間に生じた潜時は省 いて持続時間を求めた。
ただし,2系列の刺激リストを作成していたため,単 語の提示順序が幼児間で異なっていたこと,また,参加 児によって記憶スパンにおける最終的な単語段階が異 なっていたことを考慮して,反復音声持続時間に関して は,幾つかの異なる観点から分析を行った。
第1に,1単語の段階の試行(Appendixのa,b,cの うち,2試行または3試行)における反復音声持続時間 の平均を各参加児について求め,その平均をTable 4–1 に示した。平均反復音声持続時間について,母語(日 本語,中国語)× 音韻構造(CV,CVC,CVCV,CVCC,
CVCVC)の2要因分散分析を行った。その結果,音韻
構造の主効果(F(4, 136)=23.79, p <.001)が見られた。
多重比較の結果,CVとCVCV,CVCC,CVCVCの持続
時間,CVCとCVCVCの持続時間,CVCVとCVCVCの
持続時間,そして,CVCCとCVCVCの持続時間におい て有意差が見られた。母語の主効果(F(1, 34)=0.57,
ns)と母語と音韻構造の交互作用(F(4, 136)=0.74,
Table 3 日本語母語幼児と中国語母語幼児における評価基準別 成功 判断の割合(%)
音韻構造
CV CVC CVCV CVCC CVCVC
評定基準 1) 2) 3) 1) 2) 3) 1) 2) 3) 1) 2) 3) 1) 2) 3) 日本語母語幼児 79.3 20.2 0.4 71.8 27.2 1.0 66.1 33.9 0.0 63.6 35.7 0.8 59.0 41.0 0.0 中国語母語幼児 74.1 25.0 1.0 62.9 35.1 2.0 59.1 40.4 0.4 58.3 41.7 0.0 66.8 32.7 0.5
注.C は子音,V は母音を示す。評定基準はそれぞれ,1)完全反応,2)不完全反応,3)付加反応を示す。
6)例えば,スパン成績が 2 で,1)完全反応による評定が0の場
合,0%の割合となる。同様に,スパン成績が 0 の場合も0%
の割合となる。しかし,本分析の目的は,スパン成績において 成 功 と判断された反応における,1)完全反応での評定判断の割 合を検討することであるため,後者のパターンを分析に加えるこ とは目的から逸脱すると考えられる。そのため,両者の違いを区 別するために,本分析においては,後者のスパン成績を示した参 加児は分析対象から除外した。
ns)は見られなかった。
第2に,最終的な記憶スパンの段階の試行(例えば,
記憶スパンが2の場合,Appendixのd-e,f-g,h-iのう ち,2試行または3試行)に含まれるすべての単語の反 復音声持続時間の平均(例えば,記憶スパンが2で,3 試行全てに成功した場合,6単語(Appendixのd〜i全て)
の反復音声持続時間の平均)を各参加児について求め,
その平均をTable 4–2に示した。その平均反復音声持続 時間について,母語(日本語,中国語)× 音韻構造(CV,
CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)の2要因分散分析を行っ
た。その結果,母語の主効果(F(1, 41)=5.30,p <.05)
が見られ,日本語母語幼児の平均反応時間の方が中国語 母語幼児のそれよりも有意に長かった。また,音韻構造 の主効果(F(4, 164)=29.08, p <.001)が見られ,多重 比較の結果,CVとCVCV,CVCC,CVCVCの持続時間,
CVCとCVCV,CVCC,CVCVCの 持 続 時 間,CVCVと
CVCVCの持続時間,そして,CVCCとCVCVCの持続
時間において有意差が見られた。母語と音韻構造の交互 作用は見られなかった(F(4, 164)=0.32, ns)。
第3に,1単語の段階から最終的な記憶スパンの段階 までの成功した全試行に含まれるすべての単語の反復音 声持続時間の平均(例えば,記憶スパンが2で,それま での全ての試行に成功した場合,9単語(Appendixのa
〜i全て)の反復音声持続時間の平均)を各参加児につ いて求め,その平均をTable 4–3に示した。平均反復音 声持続時間について,母語(日本語,中国語)× 音韻構 造(CV,CVC,CVCV,CVCC,CVCVC)の2要因分散 分析を行った。その結果,母語の主効果(F(1, 41)=6.13, p <.05)が見られ,日本語母語幼児の平均反応時間のほ うが中国語母語幼児のそれよりも有意に長かった。また,
音韻構造の主効果(F(4, 164)=40.33, p <.001)が見ら れ,多重比較の結果,CVとCVCV,CVCC,CVCVCの 持 続 時 間,CVCとCVCV,CVCC,CVCVCの 持 続 時 間,CVCVとCVCVCの 持 続 時 間, そ し て,CVCCと
Table 4–1 1単語段階における反復音声持続時間(標準偏差)
音韻構造 F値 多重比較
CV CVC CVCV CVCC CVCVC
全体 0.59
(0.10)
0.65
(0.10)
0.67
(0.12)
0.71
(014)
0.82
(0.11) 23.79 ***
CV < CVCV,CVCC,CVCVC CVC < CVCVC
CVCV < CVCVC CVCC < CVCVC 日本語母語幼児 0.61
(0.07)
0.67
(0.09)
0.67
(0.09)
0.70
(0.11)
0.83
(0.11) 中国語母語幼児 0.57
(0.14)
0.62
(0.10)
0.67
(0.17)
0.73
(0.18)
0.80
(0.11) 注.C は子音,V は母音を示す。単位は,s (秒)。
***p < .001
Table 4–2 最終段階における反復音声持続時間(標準偏差)
音韻構造 F値 多重比較
CV CVC CVCV CVCC CVCVC
全体 0.58
(0.11)
0.60
(0.11)
0.68
(0.11)
0.68
(0.14)
0.76
(0.11) 29.08 ***
CV < CVCV,CVCC,CVCVC CVC < CVCV,CVCC,CVCVC CVCV < CVCVC
CVCC < CVCVC 日本語母語幼児 0.60
(0.09)
0.64
(0.11)
0.70
(0.10)
0.70
(0.12)
0.79
(0.11) 中国語母語幼児 0.56
(0.12)
0.56
(0.11)
0.64
(0.11)
0.65
(0.17)
0.72
(0.09) 注.C は子音,V は母音を示す。単位は,s (秒)。
***p < .001