面接を通じて収集された家族のエピソードの分析には 次の二段階の手続きが採用された。先ず,生涯に渡る世 代間関係への意味づけの質を捉えるための枠組みを用意 するために,世代間関係の関係性カテゴリーの作成が実施 された。次に,そのカテゴリーに基づき,世代間継承ある いは世代間緩衝を表出する参加者の生涯に渡る世代間関 係の秩序化の構造に関する類型の抽出作業が実施された。
1.世代間関係の関係性カテゴリーの作成
参加者の生涯に渡る世代間関係の秩序化の質を捉える ために,世代間関係のエピソードに付与される意味づけ のカテゴリー化が実施された。カテゴリー化を実施する にあたり,家族のエピソードを語らなかった男性1名及 び,次世代のエピソードを語らなかった男性2名が除外 され,男性11名,女性17名の計28名が分析の対象と された。
分析には,語りに現れる意味づけをシステマティッ クに抽出することが可能な「質的コード化」(Coffey &
Atkinson, 1996)の手続きが援用された。質的コード化 とは,語りの特徴に即して適宜コードを付与し,得られ たコードを繰り返し比較してその類似性と差異に基づき 統合を繰り返すことで,ボトムアップ的に語りの特徴を 捉えるためのカテゴリーを生成する手続きである。本研 究では,生涯に渡る世代間関係に対する意味づけを捉え ることを狙いとして,前世代あるいは,次世代との関係 性の各エピソードに対し,語り手が付与する意味づけの 質を評定者が評価し,その評定された意味づけの一つ一 つが,コーディングの一単位として設定された。コーディ ングは参加者の全ての世代間関係のエピソードに対して 実施された。コーディング作業の結果,計665のコード が付与され,その後,コードの統合作業を実施しカテゴ リーが抽出された。カテゴリー化の作業は全て筆者が実 施した。その結果,20の世代間関係の関係性カテゴリー が生成された。各カテゴリーの内容をTable 1に示す。
2.世代間継承及び世代間緩衝の語りにおける世代間 関係の秩序化の構造の類型化
世代間継承あるいは世代間緩衝の認識を生起する語り の秩序化の構造を捉えるために類型化を実施した。先ず,
「1.前世代からの正の遺産継承」,「10.次世代への正の遺 産継承」,「11.次世代への正の遺産継承の未達成」の3 つを世代間継承に関するカテゴリーとして,また,「12.
次世代への負の遺産分断」,「13.次世代への負の遺産分 断の未達成」の2つを世代間緩衝に関するカテゴリーと して定義し,それらを生起した参加者9名が抽出された。
これら9名の参加者の語りは,世代間継承もしくは,
世代間緩衝のいずれかの性質を持つ語りとして大別さ れ,次に,そこでの継承や分断が,次世代との関係の中 で受け入れられる「成立」の状態にあるか,部分的に受 け入れられる「半成立」の状態であるか,あるいは全く 受け入れられない「不成立」の状態であるかが判別され,
類型化された。
さらに,各類型の生涯に渡る前世代及び次世代との世 代間関係全体の性質を明らかにするために,各類型の参 加者の語りに該当する世代間関係の関係性カテゴリーが 付与された。この関係性カテゴリーを付与する作業では,
分析の信頼性を高めるため,筆者を含む2名で参加者の 逐語データを評価し,評定者個々が別々に該当するカテ ゴリーを当てはめる手続きが実施された。評定者間で評 価が異なる場合はその都度評定者間で協議し付与するカ テゴリーが決定された。次に,各類型に該当する参加者 3名中2名以上に見られるカテゴリーが各類型の世代間 関係の典型と定義された。
結 果
参加者9名の語りの分析を通じて,世代間継承及び世 代間継承に伴う世代間関係の秩序化のパターンの類型と して,1. 世代間継承成立型,2. 世代間継承半成立型,3.
世代間緩衝半成立型,の3つが抽出された。各類型の該
Table 1 世代間関係の関係性カテゴリー
関係性カテゴリー カテゴリーの内容
前世代との関係性
1.前世代からの正の遺産継承 祖父母や,親,きょうだいの有する信念や,生き方,関係性パターンに関する ポジティヴな要素の継承
2.前世代への心的配慮 祖父母や,親,きょうだいの苦労に対する配慮 3.前世代への手助け 親,家族に対する不満を伴わない手助け
4.前世代の厳しさ 祖父母や,親,きょうだいに対する苦難を伴う手助けや,前世代からの厳しい躾 5.前世代からの世話への感謝 祖父母や,親,年上のきょうだいから受けた世話に対する感謝
6.前世代からの世話の拒否 祖父母や,親,きょうだいからの世話に対する無視や拒否
7.前世代から世話を受けられない苦労 幼少期に親と死別や生き別れをし,世話が受けられなかったことの苦労 8.前世代の看取りの努力 老いた親,年上のきょうだいを看取る努力,死別した前世代の人生に対する敬意 9.前世代の看取りの苦しみ 老いた親,年上のきょうだいを看取りの中での苦しさや悲しみ
次世代との関係性
10.次世代への正の遺産継承 子どもや,孫,年下のきょうだいの中に,自身の信念,経験,関係性パターンに 関するポジティヴな要素を見出す,あるいはそれを引き渡そうとした努力 11.次世代への正の遺産継承の未達成 子どもや,孫,年下のきょうだいに,自身の信念,経験との間のギャップを見出し批判 12.次世代への負の遺産分断 子どもや,孫,年下のきょうだいに,自身の持つネガティヴな要素を引き渡さな
い努力,あるいはポジティヴに変換して引き渡そうとした努力
13.次世代への負の遺産分断の未達成 子どもや,孫,年下のきょうだいの中に,自身の持つネガティヴな要素を見出す,
あるいはポジティヴに変換して引き渡そうとしたものが十分に共有されない 14.次世代への心的配慮 子どもや,孫,年下のきょうだいを大切に感じる,あるいは, 成長した子どもや
孫の世話からある程度身を引く努力
15.次世代への世話 子どもや,孫,年下のきょうだいを育てる努力
16.次世代への世話の不足 子どもや,孫,年下のきょうだいを育てることに力を注げなかったと感じる,
あるいは次世代を育てることに無関心
17.次世代の成長への称賛 子どもや,孫,年下のきょうだいの経験,努力,成長へのポジティヴな評価 18.次世代からの世話 成長した子どもからの世話
19.次世代からの自立 成長した子どもから自立して生活する努力
20.次世代との上手くいかなさ 成長した子どもから世話が得られない,あるいは子ども夫婦との間の不協和
が成立しなかったと見なされる次世代の一面が批判にさ らされる【11.次世代への正の遺産継承の未達成】こと が表出される。
前世代との関係性 前世代を積極的に手助けしたが,
それがとても苦しい経験だった【4.前世代の厳しさ】と 意味づけられる。また,前世代から世話を受け,それに 感謝している【5.前世代からの世話への感謝】と意味づ けられる。前世代に対する否定的な意見は含まれないが,
前世代との生活の中の苦難が表出される。
次世代との関係性 次世代を熱心に世話し育て【15.
次世代への世話】,次世代が望ましい成長を遂げた【17.
次世代の成長への称賛】と意味づけられる。一方で,次 世代におけるポジティヴな継承を達成できていない側面 に対しての批判【11.次世代への正の遺産継承の未達成】
が表出される。
類型3:世代間緩衝半成立型(3名:女性3名)
世代間緩衝の性質 前世代との関係性の中で親の死別 や親との生き別れ等の理由から世話を受けることができ ずに苦しみを経験し,次世代との関係性の中でそれを伝 えないように分断した,あるいは,ポジティヴに変換し て伝えた【12.次世代への負の遺産分断】と意味づけら れる。一方で,次世代の中に,自身が分断しようとした ネガティヴな要素が見出されることや,ポジティヴに変 換した要素が次世代に十分に伝わっていない【13.次世 代への負の遺産分断の未達成】と意味づけられる。
前世代との関係性 親との死別や生き別れを経験した 幼少期は苦しかった【7.前世代から世話を受けられない 苦労】と意味づけられる。その一方で,親代わりとなっ た祖父母や年上のきょうだいからの世話への感謝【5.前 世代からの世話への感謝】が表出される。
次世代との関係性 次世代を,自身の親との関係性の 中の負の経験を伝えないように配慮しながら【12.次世 代への負の遺産分断】【14.次世代への心的配慮】,積極 的に世話し育てた【15.次世代への世話】と意味づけら 当者は共に3名であった。各類型に属する参加者の属性
をTable 2に示す。次に,各類型に見られる世代間継承
あるいは世代間緩衝の性質,また,生涯に渡る世代間関 係の性質を以下に示す。これ以降,引用される関係性カ テゴリーは【 】にて括り示すこととする。また各類型 の関係性カテゴリーとそれに該当する語りの例をTable 3に示す。なお,参加者の個人情報を遵守するため,語 りのデータの中の固有名詞は,文意を損なわないことに 配慮しつつ変更が加えられた。
類型1:世代間継承成立型(3名:男性2名・女性1名)
世代間継承の性質 前世代及び次世代との関係性の中 で,数世代に渡りポジティヴな要素の継承が円滑に成立 した【1.前世代からの正の遺産継承】【10.次世代への正 の遺産継承】と意味づけられる。
前世代との関係性 前世代の苦労を汲み取り【2.前世 代への心的配慮】,自発的に前世代を手助けした【3.前 世代への手助け】と,また,前世代から世話を受け,そ れに感謝している【5.前世代からの世話への感謝】と意 味づけられる。前世代に対する否定的な意見や情動は含 まれない。
次世代との関係性 次世代を熱心に世話し育て【15.
次世代への世話】,次世代が望ましい成長を遂げた【17.
次世代の成長への称賛】と意味づけられる。次世代に対 する否定的な意見や情動は含まれない。
類型2:世代間継承半成立型(3名:男性1名・女性2名)
世代間継承の性質 前世代との関係性の中でポジティ ヴな要素の継承が生じた【1.前世代からの正の遺産継承】
と意味づけられる。さらにその要素が,ある部分では次 世代に継承され【10.次世代への正の遺産継承】,また,
ある部分では次世代との間で十分に継承が成立しなかっ た【11.次世代への正の遺産継承の未達成】と意味づけ られる。継承が成立した次世代【10.次世代への正の遺 産継承】や,前世代を手助けした苦難【4.前世代の厳し さ】が引き合いに出され,それとの対比構造の中で継承
Table 2 各類型に該当する参加者の属性
類型 性別 年齢 同居している家族
世代間継承成立型 女性 68歳 無し(夫と死別し独居)
男性 77歳 妻
男性 82歳 妻
世代間継承半成立型 女性 72歳 息子夫婦 女性 72歳 息子夫婦
男性 74歳 妻
世代間緩衝半成立型 女性 70歳 息子夫婦,孫二人
女性 77歳 夫
女性 78歳 娘,孫