言語的側面
読み聞かせ中に,子どもが絵本の内容に対して自発的 に驚きや疑問を示した発話を「主体性発話」として抽出
した(Table 1)。本研究で用いた絵本は物語の展開の予
測が難しく,絵本に積極的に関わっているほど,このよ うな発話が多いと考えられるためである。特に,プラン ニング能力が発達した高年齢児で多いことが予想され る。主体性発話について,調査者と,独立した評定者と している様子が窺えた。次に,主人公のきつねをめぐる
共有型群と強制型群の相互作用(Table 3)を比較検討す る。まず,共有型群(Table 3–1)では,子どもが主人公 のきつねが死んでしまうという,予想もしていなかった 出来事に直面したときに,母親が子どもの驚きや悲しみ の気持ちを受け止め,共感していることが窺える。そし て答えを明示してしまうのではなく,子どもが納得して 次に進むまで十分に考える時間を与え,共感的に待つ様 子が見られた。一方,強制型群(Table 3–2)では,母親 は読み聞かせが終わると途端に子どもから体を離し,お 話に対する理解を問うような質問を投げかけていた。子 どもからの質問に対しては,説得的に説明しようとする 様子が見られた。子どもの「(きつねだっておおかみみ たいに爪が)ちょっと生えてる」というささやかな反論 も,母親は受け入れず,「え,でもだって(おおかみの 爪は)こんなにすごいんだよ」と自分の考えを押して,
子どもを黙らせてしまう様子が見られた。
以上分析Ⅰより,共有型群と強制型群の違いは,言語
Table 2–1 情緒的援助得点の高い例(共有型群女児44ヵ月)
発話者 発話(行動)
C 2ページだ!(別の場所へ移動する)
M うん,ひなちゃん,きつねさん,どこですかー?
C (うろうろする)
M むかーしむかし。おじいさんとおばあさんがいました(Cを目で追いながら)
C (Mと顔を見合わせる)
M あれ?
C あれ?
M ちょっと違うね(Cと一緒に視線を絵本に戻して朗読開始)
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
Table 2–2 情緒的援助得点の低い例(強制型群男児48ヵ月)
発話者 発話(行動)
C (別の場所へ移動する)
M じゃあ,そこ座ってよ(Cを見て,下を指差す)
C (Mの横に座る)
M そこでいい?じゃあ読むよ,いいですか?
C うん(返事をしながら違う方を見ている)
M これ何ですか?(指差す)
C きつねー(ちらりと見るが,すぐによそ見をする)
M うん。だいちゃんよそ見していると,お母さん読めないよ。じゃあ,半分持ってごらん(絵本をCの方へ差し出す)
C (持ちつつ,よそ見している)
M (朗読開始)
C (絵本に注意を戻す)
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
の間の一致度を算出したところ,信頼性係数Nは,0.76 であった。本分析ではさらに,このような子どもの発話 が母親の関わりと関連しているかどうかを検討するた め,母親の反応を,子どもの疑問や驚きに共感し,とも に考える「考える余地あり」反応(Table 4–1)と,子ど もの疑問や驚きに対して答えを明示したり,説得的な説 明をしたりする「考える余地なし」反応(Table 4–2)に 分類し,発話連鎖の分析を行った。母親の反応に関して,
調査者と,独立した評定者との間の一致度を算出したと ころ,信頼性係数Nは,0.84であった。
非言語的側面
絵本の導入場面は,新しいものに対する子どもの興味 をかきたて,探索が起こりやすい場面だと考えられる。
そこで,表紙を子ども自らページをめくったり絵本の中 身をパラパラと見たりする行為を「主体的な探索行為」
として抽出して検討した。また,これらの行為と母親の 関わりとの関係を明らかにするため,同じ絵本の導入場
面における母親の行動についても検討した。特に,子ど もの探索行為とは反対の性質をもつ,子どもに表紙の絵 をラベリングさせたり,タイトルの文字読みをさせたり する母親主導の行為について取り上げた。
結果と考察1:言語的側面
読み聞かせ中に生起した子どもの主体性発話に関する 各発話のアイディアユニット(IU)数および標準偏差
をTable 1に示す。子どもの主体性発話が子どもの全発
話数に占める割合(Figure 1)について,角変換後,養 育態度(共有型・強制型)× 年齢(低・高)の2要因分 散分析を行った。その結果,養育態度と年齢の交互作用 が有意(F(1, 25)= 4.75, p <.05)だった。単純主効果検 定より,年齢が高いときに,有意に共有型群で子どもの 主体性発話が多い傾向があった(p = .07)。さらに,子 どもの主体性発話に対する母親の反応(Figure 2)のうち,
「考える余地あり」反応と「考える余地なし」反応の占 める割合それぞれについて,同様に分析を行った。その Table 3–1 情緒的援助得点の高い例(共有型群女児44ヵ月)
発話者 発話(行動)
M きつねさん,死んじゃった(Cを見る)
C (Mと目を見合わせて悲しそうな顔をする)
M みんなを守るためにね…ゆうきりんりんで戦ったから C (ページを戻して3ページ前からもう一度見ていく)
M どうしてどうして? きつねさん,こんなぼろぼろになって死んじゃった C (Mと一緒にページを持ってめくる)
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
Table 3–2 情緒的援助得点の低い例(強制型群女児67ヵ月)
発話者 発話(行動)
M 「とっぴんぱらりのぷう」だって(文字を指しながら読み,Cを見て笑う)
C (Mの顔を見て笑う)
M 分かった?(それまでCに近づけていた体を離し,少し大きな声で言ってCを見る)
M きつねさん,ほんとはどうしたかったんだっけ?(Cを見る)
C 食べたかった(Mを見て,小さな声で)
M 食べたかったの?(Cを見て)
M だけど,その前に戦って(ページ15に戻す)死んじゃったんだって。ほら。(Cを見る)
C なんで戦って?(Mを見て,小さな声で)
M んとね(ページ14に戻す),おおかみって,きつねより全然大きいでしょ。
C うん(絵を見ている)
M だから強いの。見て(おおかみを指さして),だって,こんな牙だってすごいんだよ,爪だって。
C ちょっと生えてる(きつねの爪を指さす)
M え,でもだってこんなにすごいんだよ(おおかみの爪を指さしてCを見る)
C (黙る)
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
結果,「考える余地あり」反応で養育態度の主効果が有 意(F(1, 25)= 6.19, p <.05)であり,共有型群で子ども の疑問や驚きに共感し,答えを与えるのではなく,子ど もと一緒に考えたり,子ども自身が考えることを促した りするような反応が有意に多いことが明らかになった。
そして「考える余地なし」反応は,養育態度の主効果が 有意傾向(F(1, 25)= 3.49, p <.10)で,強制型群では答 えを教えてしまい,子ども自身に考える余地を与えない ような反応が多い傾向が明らかになった。
したがって,子どもの主体性発話には,子どもの年齢 が高いときに養育態度の違いが見られた。また,子ども の年齢にかかわらず,共有型群では,常に子どもの主体 性発話に対して考える余地を与える発話が多く,強制型 群では,逆に,子どもに考える余地を与えない発話が多
いことが明らかになった。このことから,共有型群では,
子どもに考える余地を与えるため,子どもの主体性発話 が促され,子どもの年齢が上がるとともに多くなってい く一方,強制型群では,子どもの主体性発話に対して,
子どもに考える余地を与えず,答え明示的に説明する傾 向があるために,子どもがもはや考えることをやめてし まい,主体性発話が少なくなっていくという可能性が示 唆された。
結果と考察2:非言語的側面
主体的な探索行為について,共有型群では,年齢低群 で7名全員,年齢高群で7名中4名に見られたのに対し,
強制型群では,年齢低群で9名中2名,年齢高群で6名 中2名のみであった。そこで,年齢群ごとに養育態度
(共有型・強制型)× 探索行為(有・無)のFischer の直 注.p < .10は † とする。各平均に交差した箱ひげは標準偏差を
示している。主体性発話とは,子どもが絵本の内容に対して自 発的に驚きや疑問を示した発話である。
Figure 1 子どもの全発話に占める主体性発話の割合
注.p < .05は * とし,p < .10は † とする。各平均に交差した 箱ひげは標準偏差を示している。余地ありとは子どもに考える 余地を与える反応,余地なしとは子どもに考える余地を与えな い反応である。
Figure 2 子どもの主体性発話に対する母親の各反応タ イプの割合
Table 4–1 主体性発話と考える余地を与える反応例(共有型群男児44ヵ月)
発話者 発話(行動)
M 「そうとも。よくある,よくあることさ」
C えっ!食べるの? この人がこれを?(きつねとひよこを指さす)
M どうだろうね? どうなるだろう?
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
Table 4–2 子どもの主体性発話と考える余地を与えない反応例(強制型群男児56ヵ月)
発話者 発話(行動)
M 「やせたひよこがやってきた」(ひよこを指さしながら)
C ひよこってどうしたんだろう?
M やせちゃったんだって。食べ物食べてないからやせちゃったんだって。
注.Mは母親,Cは子どもを示す。
†
* †