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方 法

参加者 関西の大学生313名(男性155名・女性158 名)であった。平均年齢は19.3歳であった。

調査用紙 調査用紙はA3サイズで両面印刷であった。

下山(1992)によるアイデンティティ尺度は,アイデン ティティの基礎とアイデンティティの確立の各10項目 2因子から構成される。アイデンティティの基礎に関す る項目は,アイデンティティ形成の基礎となる自己の安 定が得られず,不安や孤独におそわれる気持ちを反映し た内容を示す(e.g.,「私の心は,とても傷つきやすく,

もろい」)。一方,アイデンティティの確立に関する項目 は自己の主体性や自己への信頼が形成されていることを

示す(e.g.,「私は十分に自分のことを信頼している」)。

評定は「よく当てはまる(4)」,「どちらかといえば当て はまる(3)」,「どちらかといえば当てはまらない(2)」,

「全く当てはまらない(1)」の4件法であった。調査用 紙の片面には日誌の記入欄が印刷され,別の片面にはア イデンティティ尺度が印刷されていた。

日誌法の作成および手続きについては,先行研究

(Berntsen, 1996; 神 谷,2003,2007; 山 本,2008) を 参 考とした。日誌は想起状況および想起したエピソードに 関する記入欄から構成された。想起状況の記入欄では,

想起時の日時,想起のきっかけ,場所などについて具体

的な記述を求めた。想起したエピソードの記入欄では,

出来事が生起した時期および想起された出来事の内容の 自由記述を求めた。想起された内容について,感情喚起 度(その出来事からは全く感情が呼び起こされない(1)

−強い感情が呼び起こされる(5)),快不快度(その出 来事の感情は不快である(1)−快である(5)),想起頻 度(その出来事はほとんど思い出さない(1)−1ヶ月に 1回程度思い出す(5)),鮮明度(その出来事の記憶は ぼんやりとしている(1)−はっきりとしている(5)),重 要度(その出来事は自分にとって全く重要ではない(1)

−とても重要だ(5)) の5種類の評定を求めた。

また,日誌用紙には教示として行った以下の注意点を 記載した。「日常生活において思い出そうという意図が ないにもかかわらず,ふと過去の出来事がよみがえって くることがあると思います。この調査の目的は,このよ うな現象がどのような状況で生じるのか,想起されたエ ピソードにはどのような特徴があるのかについて調べる ことです。なお,ここで扱うエピソードは,自分自身が 実際に経験した出来事であり,かつ,自然に想起された ものだけとします。したがって,意図的に思い出したエ ピソードや想起したエピソードから連想された別のエピ ソード,社会的な出来事のように自分が実際に直接関与 していないエピソードは対象としません。」

手続き まず,参加者には負担のある場合にはいつで も研究から離脱できることを説明し,参加の同意を確認 した。その後,アイデンティティ尺度を行った。全員が

終了したのを確認した後に,日誌法の教示として記載し た注意点を読み上げ,各項目について説明を行った。日 誌は調査期間中,常に携帯し,出来事を思い出した際に はできる限り早く記録するように求めた。日誌法は参加 者への負担が大きいことを配慮し,期間内で最初に生起 した1ケースのみについて記述させた。期間内に一度も 無意図的想起が生起しなかった場合には無記入で提出す るように求めた。日誌は配布から,1ヶ月後に回収され,

その際にディブリーフィングを行った。

結果と考察

評定値や尺度等に記入漏れがあった参加者9名,無意 図的想起を1回も生起しなかった参加者7名のデータを 除外し,297ケースが回収された(回収率= .95)。全体 の各評定平均値をTable 1に示す。平均値をみると全体 的にやや感情喚起度が高いが,想起頻度および鮮明度は やや低かった。想起された自伝的記憶の生起時期につい て,参加者の自由記述内容に基づき小学生以前,中学・

高校時代,最近,その他の4カテゴリに分類を行うと,

中学・高校時代に該当するケースが約40%と最も多かっ た。各カテゴリに分類されたケース数およびその比率を

Table 2に示す。想起された自伝的記憶の内容について

KJ法による分類を行った。その結果,「学校行事・クラ ブ活動(e.g.,「高校の卒業式のこと。一生会わなくなる わけじゃないのに寂しくて友達みんなとめっちゃ泣いて た」)」,「人(e.g.,「前の彼氏といつもカラオケに行って よく歌を歌っていたこと」)」,「失敗・事故(e.g.,「ボー

Table 1 全体および群ごとの自伝的記憶特性評定平均値と分析結果

アイデンティティの確立

評定値 全体(n = 297) 高群(n = 55) 低群(n = 53) t値(106)

重要度 3.05(1.43) 3.40(1.50) 2.74(1.33) 2.41*

感情喚起度 3.87(0.94) 3.96(0.79) 3.56(0.96) 2.23*

快不快度 2.93(1.39) 2.98(1.38) 2.77(1.24) 0.82

想起頻度 2.64(1.33) 3.00(1.43) 2.41(1.31) 2.20*

鮮明度 2.63(1.28) 2.86(1.38) 2.43(1.17) 1.69 注.( )内はSD。p <.10,*p <.05

Table 2 全体および群ごとの自伝的記憶の生起時期におけるケース数の分類

アイデンティティの確立

生起時期 全体(n = 297) 高群(n = 55) 低群(n = 53)

小学生以前  85(28.62) 14(25.45) 16(30.19) 中学・高校 121(40.74) 22(40.00) 20(37.74)

最近  86(28.96) 15(27.27) 17(32.08)

その他  5 (1.68)  4 (7.27)  0 (0) 注.( )内は%。

ルを蹴ろうとして左足をひいたらその時に音がなって 痛くて歩けず,病院に行ったら骨盤が骨折していたこ と」)」,「その他(e.g.,「浪人が決定してA県からB県 に出て,その時B県で桜を見たこと」)」の4カテゴリ に分類された。各カテゴリに分類されたケース数および その比率をTable 3に示す。「学校行事・クラブ活動」が 最も多く,全体の約40%を占めた。

無意図的想起のきっかけとなった手がかりについて,

神谷(2003)を参考とし,参加者の記述をもとに実験者 が分類を行った。その結果,多い順に「視覚的手がかり

(e.g.,「小学生の時の自分自身が書いた字を見た」)」116

ケース(39.06%), 聴覚的手がかり(e.g.,「音楽番組で

レミオロメンの「粉雪」という曲が流れたこと」)」105 ケース(35.35%),「活動的手がかり(e.g.,「自転車に乗っ た時」)」38ケース(12.79%)であった。無意図的想起 の契機として視覚的手がかりが多くなることは先行研究 と 同 様 で あ っ た(Berntsen, 1996; 神 谷,2003,2007)。

これらのデータを分析対象として,以下ではアイデン ティティ確立度の個人差と無意図的に想起された自伝的 記憶との関連性を検討する。

アイデンティティ尺度水準による群分け Table 4に は,アイデンティティ尺度における2つの因子ごとの平 均値とSDおよび合計点の平均値とSDが示されている。

アイデンティティ尺度のうち,アイデンティティの基礎 に関する因子の項目は逆転項目として処理した。合計得 点における最高得点は74点,最低得点は26点であっ た。ここでは,先行研究(e.g.,植之原,1993)に倣い,

尺度に基づいて質的に異なると想定される2群を設定し た。具体的には,平均値の±1 SDを基準として,合計 点の上位者と下位者をそれぞれ高群(55名),低群(53 名)とした。各因子における高群と低群での平均得点は,

Table 4に示されている。

自伝的記憶特性 Table 1では,アイデンティティ確 立高低群ごとの各自伝的記憶特性の平均値とSDを示し ている。アイデンティティ確立の高低群によって想起さ れる自伝的記憶特性に差がみられるかどうかについてt 検定を行った(Table 1)。その結果,重要度,感情喚起度,

想起頻度,鮮明度の評定値に有意あるいは有意傾向が示 された。すなわち,アイデンティティの確立高群が低群 よりも重要で感情喚起度が強く,かつ鮮明な自伝的記憶 を頻繁に想起することがわかった。快不快度においては 有意な差がみられず,アイデンティティ確立との関係性 が示されなかった。これに関して,快および不快な自伝 的記憶は両方ともアイデンティティの形成に関与して いるという解釈がある(e.g., Berntsen, Rubin, & Siegler, 2011; Rubin & Berntsen, 2008/2008)。たとえば,Rubin &

Berntsen(2008/2008)は,快な自伝的記憶は自己を肯 定するものであるため,直接的にアイデンティティの形 成に貢献するが,不快な自伝的記憶であったとしてもそ れが人生の転機となったり,アイデンティティの中心成 分となる可能性を指摘している。それゆえに,本研究結 果においてもアイデンティティの確立度によって快不快 度との間に差が生じなかったのかもしれない。

生起時期についてアイデンティティ高群,低群ごとに ケースを分類した(Table 2)。その結果,両群において 中学・高校時代が最も多く,群間に大きな差はみられな かった。また,自伝的記憶の内容を高群,低群ごとに分 類すると(Table 3),想起内容についてもアイデンティ ティの群間による大きな差はみられなかった。

以上のように,無意図的に想起される自伝的記憶の内

Table 3 全体および群ごとの自伝的記憶の想起内容におけるケース数の分類

アイデンティティの確立 生起時期 全体(n = 297) 高群(n = 55) 低群(n = 53)

学校行事・クラブ活動 128(43.10) 21(38.18) 24(45.28)

人  92(30.98) 20(36.36) 17(32.08)

失敗・事故  53(17.85)  9(16.36)  5 (9.43)

その他  24 (8.08)  5 (9.09)  7(13.21)

注.( )内は%。

Table 4 アイデンティティ尺度の各因子における平均得点

基礎 確立 合計値

全体

M 24.66 27.66 52.32

SD  5.46  4.93  8.74 高群

M 31.20 33.63 64.83

SD  3.41  2.96  3.43

低群

M 17.66 21.59 39.25

SD  3.42  2.93  3.99