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○石川朱見,新保秀仁,石川千恵子,小野寺進二,川井善之,鈴木達也,大島 晃,山 崎伸夫,團 智子,大久保力廣,細井紀雄

鶴見大学歯学部有床義歯補綴学講座

6-year clinical results of removable prosthetic rehabilitation with flexible denture

Ishikawa A, Shimpo H, Ishikawa C, Onodera S, Kawai Y, Suzuki T, Ohshima A, Yamazaki N, Dan T, Ohkubo C, Hosoi T

Department of Removable Prosthodontics, Tsurumi Univesrsity School of Dental Medicine

Ⅰ. 目的

部分床義歯の構成要素のうち,人工歯以外をす べて熱可塑性樹脂で製作した弾性義歯がフレキシ ブルデンチャーあるいはナイロンデンチャーと呼 ばれている.フレキシブルデンチャーは審美性と 装着感に優れ,破折しづらく,軽量で金属アレル ギーの心配がない等,利点も多い.素材であるポ リアミド系樹脂は酸とアミンが反応してできたア ミド結合によって生成されたポリマーであり,耐 衝撃性に優れ,特徴的な弾性を有している.ポリ アミド系樹脂の中でもバルプラスト(バルプラス トジャパン)は,アメリカにて50年以上の歴史が あり,多数の臨床応用例も報告されている.

本邦でも20084月の義歯床用材料として許認可 後,フレキシブルデンチャーは有床義歯臨床にお いて急速な普及をみせている.しかしながら,適 応症や設計の詳細も明らかでなく,補綴学的評価 が定まらないまま,メーカーや技工所主導で製作 されているのが現状と考えられる.

当講座では2004年から2005年にかけて,バルプ ラストの臨床治験を行った.そこで今回は,フレ キシブルデンチャー装着から約6年経過した症例の 予後調査を実施し,臨床評価を行った.

Ⅱ. 方法

鶴見大学歯学部附属病院補綴科にて行われたバ ルプラストの臨床治験に参加した43名を対象とし た.現在も義歯を使用しており,リコールに応じ た患者には以下の臨床評価を行った.

・咀嚼能力(ピーナッツによる篩分法)

・咬合力(デンタルプレスケール・オクルーザー システム,GC)

・適合検査(フィットチェッカー,GC)

・使用感,会話,安定性等に関する主観的評価

・支台歯と顎堤粘膜の観察

咀嚼能力,咬合力,適合検査については義歯装 着3ヵ月後と6年後に評価し,義歯の清掃状態,嗜 好食品および術者の主観的評価は予後調査時のみ に行った.さらにフレキシブルデンチャーの使用,

不使用患者数と欠損歯数および咬合支持域数との 相関を分析した.

Ⅲ. 結果と考察

6年経過後に確認できたフレキシブルデンチャー の 使 用 患 者 数 は43名 中18名 (41.9% ) で あ り

(図),その中でリコールに応じた患者は12名

(27.9%)であった.義歯を使用していない理由 としては,支台歯の喪失が7名(33.3%)と最も多 く,ついで不適合による義歯の新製(28.6%),

装 着 後 か ら ほ と ん ど 義 歯 を 使 用 し な か っ た

14.3%)の順であった.欠損歯数別にみると義 歯使用,不使用患者数の間に明らかな相関は認め られなかったが,咬合支持域数別では咬合支持域 数が減少するにしたがい,義歯の不使用患者数が 増加する傾向にあった.

今回の予後調査から,フレキシブルデンチャー の適応症は口腔衛生状態に対して高い意識を持っ ている患者で,咬合支持域を2つ以上有する症例 と推察された.しかし,今回のリコール調査数が 12人と少数であったことから,今後さらに調査対 象を増やし,検討する必要があると考えられた.

Ⅳ. 文献

1) 大久保力廣,細井紀雄,高林洋太ほか.ノン

クラスプデンチャーの特徴と臨床応用.デン タルダイアモンド, Vol.34, 22-44, 2009.

図 フレキシブルデンチャーの使用状況 義歯使用 義歯不使用

不明 1 ― 3 ― 35

全部床義歯装着者における顎堤形態,咬合力と咀嚼能率との 関係

○ 久留島悠子,松田謙一,池邉一典,前田芳信

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座(歯科補綴学第二教室)

Relationship between Residual Ridge Shape, Occlusal Force and Masticatory Performance in Complete Denture Weares

Kurushima YMatsuda KIkebe KMaeda Y

Depertment of Prosthodontics, Gerodontology and Oral Rehabilitation, Osaka University Graduate School of Dentistry

Ⅰ. 目的

全部床義歯装着者において,顎堤の吸収が著し いと,咀嚼能力を回復することが困難であると考 えられている.これまでにも,顎堤の面積,体積,

高さと咀嚼能率に関する報告がみられ,顎堤が吸 収するほど咀嚼能率が低くなることが示されてい る1).しかし,これらの報告の多くは,二変量間に よる解析であり,顎堤の形態以外の因子を含めて どの因子がどの程度,咀嚼能率に影響を与えてい るか,多変量解析を用いて示しているものは少な い.

そこで本研究は,全部床義歯装着者の顎堤形態 と咀嚼能率との関係を他の客観的機能評価を含め た多変量解析を行うことによって検討することを 目的とした.

Ⅱ. 方法

大阪大学歯学部附属病院咀嚼補綴科にて全部床 義歯を製作した無歯顎患者52名(男性27名,女性 25名),平均年齢75.8±6.5歳を対象に,客観的機 能評価として,デンタルプレスケール(ジーシー 社)を用いた最大咬合力(以下咬合力)と咬合接 触面積,検査用グミゼリーを用いた咀嚼能率,パ ラフィンペレット(オリオン社)を用いた刺激時 唾液分泌速度(SSFR)の測定を行った.また,各 被験者に対して,American College of Prosthodontics による難易度分類のうち顎堤形態評価(以下顎堤 形態分類)2を用いて各症例をⅠ〜Ⅳのグレード に分類した.

得られたデータの解析には,統計解析ソフト

SPSS Statistics ver.19 IBM company)を用いた.

まず,顎堤形態分類のグレードと各項目との関係 については,Jonkheere-Terpstra検定を用いたトレ ンド検定を行った.さらに,口腔機能の中で最も 義歯の機能を反映していると考えられる,咀嚼能 率を目的変数とし,年齢,性別,BMI,咬合力,

SSFR,顎堤形態分類を説明変数とした,強制投入 法による重回帰分析を行った.なお,有意水準は

5%とした.

Ⅲ. 結果と考察

トレンド検定の結果,顎堤形態分類各グレード との間に,咬合力(p=0.006)ならびに咀嚼能率

p=0.008)において有意な関連性が認められた.

次に,咀嚼能率を目的変数とした重回帰分析にお いて,咬合力は有意な説明変数(p=0.02)となっ たが,顎堤形態分類は有意な説明変数とはならな

かった(p=0.70)(表).以上のことから,咀嚼

能率には顎堤形態より咬合力の方が重要であるこ とが示唆された.顎堤の吸収が著しい症例におい ても,適切な義歯によって咬合力の回復が得られ ると,十分な咀嚼能力を維持できると考察された.

Ⅳ. 文献

1) Koshino H, Hirai T, Ishijima T, and Ohtomo K.

Influence of mandibular residual ridge shape on masticatory efficiency in complete denture wearers. Int J Prosthodont. 2002; 15: 295-298.

2) McGarry TJ, Nimmo A, Skiba JF, Ahlstrom RH, Smith CR, Koumjian JH. Classification system for complete edentulism. J Prosthodont. 1999; 8:

27-39

(表)咀嚼能率を目的変数とした重回帰分析 1 ― 3 ― 36

ガン終末期医療における歯科介入:緩和ケア病棟看護師への 歯科治療に関するアンケート調査

○向山 仁

横浜市立みなと赤十字病院歯科口腔外科

Dental services for palliative care patients: Questionnaire on Oral care and dental treatment to nurses working in palliative care wards.

Mukohtyama, H

Department of Oral Surgery, Yokohama City Minato Red Cross Hospital

Ⅰ. 目的

緩和ケアにおいて,歯科の介入は患者の苦痛を 取り除き,QOLを維持する重要なケアであると Paunovich ED1)は述べている.Schimmel M2)は 口腔内の問題について,専門家が医療を提供する ことは緩和ケアにおいても意味深いとしている.

一方で,Wiseman M3)は緩和ケアにおいて歯科医療

と連携が少ないのも事実であり,緩和ケアにおけ る歯科医による口腔内の問題の対応の重要性やそ の実際を説いている.実際にわれわれの知る限り では緩和ケア病棟と歯科との連携について報告さ れたものは少ない.そこで,今回演者は患者ケア や歯科治療依頼の主体となる緩和ケア病棟看護師 にアンケート調査を行い,今後の緩和ケア病棟に おける歯科介入のあり方を検討するために本研究 を行った.

Ⅱ. 方法

関東の48病院913床(全国緩和ケア病院209病 院4173床中)の緩和ケア病棟に勤務する看護師を 対象に看護部長あてに、本研究の趣旨を記載した 手紙とともに歯科治療に関するアンケートを郵送 し、48病院のうち36病院501人の看護師より回答が 得られた。

なお、アンケートは無記名で行い、回答されたア ンケート用紙は個人別の封筒に封をして回収しプ ライバシーを保護した.

Ⅲ. 結果と考察

歯科に治療を依頼したことがありますか?の質 問については501人中461人で歯科治療依頼の経験 があった。治療内容(複数回答可)ではa.義歯に関 するもの426名、b.動揺歯258名、c.粘膜や歯肉の異 常(疼痛、腫脹、出血など)189名、d.う歯(虫 歯)171名、その他e.その他14名であった。歯科治 療を依頼したことがないと回答した人の理由は

(複数回答可)はa.必要性を感じなかった10名、b.

依頼するタイミングがわからない15名、c.医師に依 頼することが面倒1d.患者の予後が短い7e.すぐ に受診できる歯科がまわりにない8、f. 患者もし くは家族が希望しない。7、g.その他10。であった。

歯科による治療の介入があったケースについて、

歯科治療によって何らかの改善はありましたかと の問いにはa はい,373名、bいいえ27名、cわから ない57名、d無回答44名であった。また改善があ った点については、a.食事内容の改善152名、b.食 事摂取量の改善214名、c.患者の態度の変化126名、

d.患者家族の態度の変化73名、e.その他59名であっ た。

以上の結果より多くの看護師が歯科治療依頼を経 験しており、その中で義歯に関する訴えに対応し たことがある看護師が91.9%と次点の動揺歯57.2%

を大きく上回っていた。歯科治療については80.9%

の看護師が歯科治療により改善があったと答えて いた。

当院緩和ケア病棟から歯科口腔外科への治療依頼 についても、義歯に関するものがもっとも多く

53.3%あったことを第120回大会で報告しており、

今回の研究結果とあわせると、歯科治療は緩和ケ ア患者の口腔症状改善に有効であり、義歯治療が 緩和ケアにおける歯科介入のなかで大きな役割を 果たす可能性を示していると考えられる。

本研究の一部は() 日本ホスピス・緩和ケア研究 振興財団2011年度「ホスピス・緩和ケアに関する 調査・研究」助成の援助により行われた。

Ⅳ. 文献

1) Paunovich ED, Aubertin MA, Saunders MJ, Prange M., The role of dentistry in palliative care of the head and neck cancer patient. Tex Dent J.

2000; 117: 36-45.

2) Schimmel M, Schoeni P, Zulian GB, Müller F., Utilisation of dental services in a university hospital palliative and long-term care unit in Geneva. Gerodontology. 2008; 25: 107-112.

3) Wiseman M., The treatment of oral problems in the palliative patient.m J Can Dent Assoc. 2006;

72: 453-458.

4) 向山 仁、がん終末期医療における歯科介 入:義歯治療について,日補綴会誌2011;3:120 回特別号 123.

1 ― 3 ― 37