幼児のつまずき場面における幼稚園教師の
「敢えて関わらない行動」の機能
:幼稚園 3 歳児学年と 4 歳児学年の発達的変化に応じて
134
【問題と目的】
研究3の最後に今後の課題の一つとして挙げた,幼児の発達的変化に応じた教師の 行動について研究4では検討する。すなわち,研究3の3歳児学年の幼児が進級して 4歳児学年になると,教師あるいは同様に教育視点を持って筆者が捉えうる幼児の「つ まずき」の内容は変わるのだろうか。また教師が捉えうる幼児の情動を表出する様相 は変化するのだろうか。またその3歳児学年から4歳児学年の幼児の発達変化に応じ て幼稚園教師の行動は変化するのだろうか。
1. 推測される 4 歳児学年における幼児の発達的変化
実際に本研究のデータから明らかにしていく前に,既存の文献より4歳児学年に幼 児が進級した後,教師及び同様の視点を持った者がどのように幼児の発達的変化を捉 えているのか,どのような変化が推測されているかについて示す。例えば,岸(2008)
は幼稚園4歳児学年に求められる教育課程について述べる際に,幼稚園4歳児の発達 の特徴として,『自分中心の世界』から視野や感覚が広がり,『集団の中の自分』を感 じられるようになることや,人やものと出会い様々な経験をする中で,楽しさ,嬉し さ,喜びなどと共に,葛藤体験や自己抑制など,心の中に“いろいろなさざ波”が広 がる時期であることを指摘している。また,各幼稚園で個別に作成される教育課程を 参考に4歳児学年の幼児の多くが経験する「つまずき」を見出すならば,例えば,村 石(2009)は,東京学芸大学附属幼稚園小金井園舎の4歳児学年の教育課程のねらい を紹介している。その内容を見ると,3歳児のねらいでは単なる“友達”と書かれて いたものが,4歳児学年の5月からの期のねらいには例えば“親しみを感じる友達と”
であったり,翌年1月からの期のねらいには“仲の良い友達と”と書かれていたりす る。つまり,4歳児学年の幼児が,特定の他児との継続的な関係を築いていくことを 教師が捉え,その場には幼児の様々な思いが交錯することを教師は捉えていることが 推測される。またその他には4歳児学年のねらいの中には,主に生活の場面について
“自分でしようとする”,“自分から取り組もうとする”という内容が各期にある。つ まり,4歳児学年の幼児が,周囲の状況を見ながら自身で生活を進めていくことが可 能になり,そのようなより自立へと向かう姿を教師が重視していることが分かる。
135
これらの教師の読み取りを参考にするならば,本研究で筆者が教育的視点を持って 4歳児学年に進級した幼児の生活を観察した際にも同様に,特定の他児との関係から 生じる「つまずき」の内容や他児との関係から生じる葛藤する複雑な幼児の情動の表 出の仕方が観察されるだろう。また教師の語りの中にも幼児の仲間関係について同様 の捉えが見られるのではないだろうか。また教師が3歳児とは異なる4歳児の「つま ずき」や情動の表出を捉えているとするならば, 4歳児学年の幼児の発達を助けよう とする教師なりの行動があるのだろうか。
2. 本研究の目的
よって,研究4では,研究3の 3歳児学年の幼児が進級して4歳児学年になると,
教師あるいは同様に教育視点を持って筆者が捉えうる幼児の「つまずき」の内容は変 わるのか,また幼児が情動を表出する様相は変化するのか,またその3歳児学年から 4歳児学年の幼児の情動の発達変化に応じて幼稚園教師の行動は変化するのか検討す る。そして4歳児学年時に特徴的に見られる教師の行動があるとするならば,その行 動が幼児にもたらす働きを探索的に明らかにしていくことを目的とする。
136
【方法】
1. データ収集法
本研究は,研究3の対象児が 4歳児に進級した後の記録を分析したものである。よ って本研究のデータ収集法については,基本的に研究3と同様である。本研究は教師 がしていることを,保育をしない筆者が幼稚園教育のねらいや方法を理解した上で,
意味づけし直す研究である。そこで,教師が幼児をどのように捉え,何を意図して行 動を決定したのかを見る為に教師の振り返りの語りの収集を,実際に幼児と教師の間 でどのようなやりとりがされたのか両者の行動を捉える為に筆者による観察を行うこ ととした。教師の語りと筆者の観察による 2 つのデータは次のような手順で収集し た:①朝の準備の時間に寄り添いその日の保育者のめあてや幼児に関わる場面やポイ ントを保育者との会話から理解し予測する,②保育を観察し,幼児にとっての「つま ずき」場面を中心に記録する,③保育後の掃除や次の日の準備中また保育後の休憩時 間を共にしながら,保育者自身の気づきや悩みを交えつつ結果的に保育者の振り返り の機会となるような形で語りを記録する。
また,本研究では 3歳児学年を対象とした研究3以上に教師の語りを重視した。そ れというのも3歳児は幼児にとっての「つまずき」場面が分かりやすい“大きな声で 泣く”など明らかな情動の表出で見られるのに比べて,4 歳児になると幼児にとって の「つまずき」自体が幼児の心の中にくすぶる願いや理想といった周囲には分かりに くい感情の部分や人間関係といった物理的には見えない部分によって生じるようにな るからである(岸, 2008)。よって,4 歳児の「つまずき」はその場の観察のみで見 えてくるものではなく,一定期間観察による文脈の読み取りや当事者である保育者に よる幼児の感情の読み取りが欠かせないのである。
記録は幼児と教師のやりとりを言葉や行動,表情などその場でフィールドメモ用紙 に出来る限り詳細に記録する形で進め,その日のうちにフィールドノートにまとめた。
観察場所は主に保育室,テラス,園庭等である。
2. フィールドの概要
フィールドとした幼稚園は,東京都内にある3年保育を実施している地域の子ども
137
が通う幼稚園である。保育の内容は幼稚園教育要領の内容に準じており,そして幼稚 園教育要領で挙げられているねらいや内容を意識した上で,月案,日案と言われる日々 の保育計画を作成し,日々見直しを重ねながら計画的に保育を行っている園であった。
保育の特徴としては一人一人の個性を尊重し,子どもの考え方や取り組みを実現して いく過程を大切にしている。一日の保育の流れはおおよそ,まず登園後好きな遊びの 時間があり,その後クラスで活動する時間があり,お弁当,午後は再び好きな遊びの 時間があり,帰りにクラスで集まり,降園となる。
3. 対象者
4歳児学年 2クラス(幼児 66名)のうち,当園の3歳児学年から進級した幼児26 名と3歳児学年から持ち上がった教師 1名(保育歴 19年)。観察時対象は 66名全員 の幼児であったが分析過程においては3歳児学年時と比較する為に当園の3歳児学年 から進級した幼児に限定した。尚,分析の最後に補足データとして4歳児学年新入園 児40名のデータも追加した。子どもたちの名前はすべて仮名である。
4. 観察期間
3歳児学年時の記録及び教師の語りの記録は,2007年 6月から 2008年3月までの 間で計26日間。4歳児学年時の記録及び教師の語りの記録は,2008年4月から2009 年3月までの間で計27日間。基本的に週 1回の観察。観察時間は午前9時の登園か ら午後1時半の降園までの全ての保育時間である。
5. 教師の語りの記録について
毎回観察した日の保育後に,観察対象の幼稚園教師 1 名にその日の保育について,
観察記録をもとにインタビューを行い教師の語りを記録した。教師の語りの記録の方 法は,教師が意識して関わっていたと思われる場面について,その時どのようなこと を考えて行動したのか尋ねたり,観察者と教師とのやりとりの中で教師が自然に語り 出したことを書き留めたりする,という方法をとった。語りの記録は柴山(2006)で はインフォーマルインタビューに分類されるもので,保育後の自然な会話の中で行う ように心がけた。そのために,音声の録音等はしなかった。教師の言葉を書き取れる
138 範囲でノートに記録した。
6. 研究協力者に対する倫理的配慮
本研究の観察及び教師の語りの記録を開始するにあたって,幼稚園の責任者及び観 察対象の学年を担当する3名の教師に研究目的を説明した上で実施の許可を得た。ま た幼児の保護者についても担任より紹介してもらい,観察の許可を得た。さらに本研 究を発表するにあたり改めて幼稚園の責任者,研究対象者である幼稚園教師1名に研 究の目的と概要を説明し,納得できない点や発表することに抵抗を感じる箇所があれ ば遠慮なく言ってほしいことを伝えた上で本論文を読んでもらい,その結果,発表の 許可を得た。
7. 分析方法
データの分析にあたっても基本的には研究3と同様である。研究4では,幼稚園教 師が3歳児学年,4歳児学年それぞれにおいて,幼児の「つまずき」場面で,幼児の 何を見て,何を読み取り,理解し,どのような行動を取るのか,その結果,教師の行 動は変わるのか,その行動は幼児の発達をどのように促し得るのかを明らかにする為 に,データの見直しを繰り返し行った。そして,3歳児学年と 4歳児学年で比較する 中で対象とするデータを絞り,見出されたことについてさらにデータを見直すことで 深めていく方式で本研究の問いに対する仮説を導き出した。
具体的には,本研究では,大きく 2つの分析の手順を踏んだ。分析1つ目は,筆者 が観察から読み取った3, 4歳児学年の幼児の学年間の発達的変化についてである。分 析2つ目は,筆者の観察及び教師の語りから明らかにする 3,4歳児学年の幼児の学年 間の発達的変化に応じた教師の行動の変化とそのしくみについてである。それぞれを
<分析Ⅰ>,<分析Ⅱ>として間に補足的なデータ分析を挟みつつ行った(Table4-1, 4- 2)。