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29 本研究では,次の方法を取ることとする。
(1)保育の場面における保育者と子どものやりとり を自然観察によって記録し,
検討することを通して,子どもの発達に応じて保育者が行動を変えること,
そしてその保育者の行動のしくみを探索的に検討していく
(2)また保育者の子ども理解と自身の行動理由を明らかにする為に,保育者の自 身の行動についての語りの収集を行う
(3)上記(1),(2)を実施するにあたって,保育の場面の中でも保育者が捉え る幼児の「つまずき」場面に注目する
以下方法の詳細を述べる為に,<データの収集法① 保育の場面における自然観察
-第三者による伴走者的参加観察>,<データの収集法② 保育者の語りの収集><
分析方法-探索的研究>,の項目に分けて,本研究で用いる手法について説明する。
1. データ収集法① 保育の場面における自然観察-第三者による伴走者的参加観察法
本研究(研究2,研究3,研究4)では,幼稚園をフィールドに,自然観察という 手法によって,幼児と教師のやりとりを言葉や行動,表情などについて詳細にフィー ルドメモ用紙に記録していく方法を取る。自然観察法は一般的に参加観察法と呼ばれ る。よって,本研究の方法も単純に参加観察法と呼んでも良いが,本研究では敢えて
「第三者による伴走者的参加観察法」と名づけて説明していきたい。伴走者とは,本 来の意味は,マラソンや自転車のロードレースなどで,競技者のそばについて走るこ とを言う。ここでの意味は,保育者を競技者とたとえて,子どもの健やかな成長の為 にひたすら走る人と捉えた時に,実際に保育を行う(走る)のは保育者であるが,困 難などの様々な過程を共にし,子どもを保育者と同様に理解し,保育者を陰ながら支 える者として存在するということである。よって,どれだけ保育の世界に入り込める か,同じ立場に立って眺めることができるか,その上で教師の思考と行動の中身にア プローチし,そこから保育者の願いや意図,言うなれば人間性なども含めて教師の行 動を理解できるかを重視する。
また一方で,伴走者の立場から子どもの姿も捉えていく。つまり,保育者が子ども について理解し,意図して行う行動が,必ずしも子どもの姿を捉えたものではなく,
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また保育者が意図したように子どもに働くものとは限らない。先行研究において,保 育者自身によって記述された文字記録である保育記録をデータにしている研究はある が,実際に保育者がどのように行動したのか,そしてその行動が幼児にもたらした結 果については検討されていない(友定・白石・入江・小原, 2007)。保育者の理解と意 図が一方的なもので終わるのでは,意味がない。伴走者的参加観察のもう一つの意義 とは,保育者と子どものやりとりを教師の子どもについての読み取りと意図を理解し た上で再検討することができる点である。実際に教師の行動が子どもにどのように働 くものであったと考えられるか考察していく。
尚,この「第三者による伴走者的参加観察法」とは,言い換えると,保育を知る者 として,すなわち保育は行わないものの“(保育を行わない)第二の保育者”として保 育者の行為を観察し,捉え直していくというということである。このような“(保育を 行わない)第二の保育者”として保育者の行為を観察し,捉え直していくということ を通して,幼児の姿及び教師の援助の在り方について検討する方法は,保育の現場で は,日常的に行われている方法である。例えば,他学年間で保育を見合ったり,園外 から講師を招いて複数の人物で一つの場面を見て,実際に教師の援助が適切であった かどうかを検討したりすることがされている。この方法は,保育の質の向上の為には なくてはならない方法だと考えられている(河邉, 2009)。この点において,本研究 の手法は,保育の営みの中に存在する自然な方法であって,子ども理解の在り方を含 めて,子どもを理解しその成長を助けたいと思う教師の行動を,教師の頭の中を覗く ようにその内側から行動の生起理由を眺め,行動の仕組みを明らかにしていく研究で あると言うことができる。
2. データ収集法② 保育者の語りの収集
前述の「第三者による伴走者的参加観察法」を実施していくにあたっては,保育者 の幼児についての読み取りや意図の聞き取りが欠かせない。ここでは保育者の語りの 収集及びそのデータが保育学及び発達心理学でどのようになされているのか挙げ,本 研究における課題を述べる。
まず,保育学研究においては,保育者への意図の聞き取りを行っているが,実際は その保育者の語りはデータの中に組み入れておらず,参考にしたという記述に留めて いることがほとんどである(三谷, 2004; 塚崎・無藤, 2004; 相川・林, 1999)。また,
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保育学研究では,その観察されたエピソード記録の考察が研究を行った筆者による考 察なのか,保育を実際に行った保育者の考察なのか,区別のないものが多く,誰によ る視点なのか明らかにせず考察しているものが多い。つまり,これらの研究では,研 究者と実践者が暗黙のうちに,現実的には異なる点があると思われるにもかかわらず,
同じように考えていると想定されていると言える。
一方,発達心理学研究においては,高濱(高濱, 1993; 高濱・無藤, 1999)が保育者 との話し合いを行い,保育者の語りの収集を行っているが,これらの話し合いの結果,
高濱(高濱, 1993; 高濱・無藤, 1999)においても,観察記録と園長や担任の保育者と の見解の間に相違があったのかどうか,どのようにそれぞれの見解を合わせたのかに ついて記述がない。またその結果において教師の行動から教師が意図したことを推測 した考察を行っているが,どの程度そのことを教師が意識しているのか,本当に教師 がそれを意図していたのか,などの検証は行われていない。
つまり,保育学においても発達心理学においても,先行研究において保育者の語り の記録を一つのデータとして扱っている研究はほとんどない。しかしながら,保育者 と観察者の視点に相違点がなく,また観察者が完全に保育者のことを理解しているこ とは不可能である。保育者が実際に何を読み取り,何を考えて保育を行ったのか,明 確にすることは重要である。よって,本研究においては,幼稚園教師の語りを収集し,
その記録を一つのデータとして明記した上で,観察者である筆者の視点も明らかにし た上で,両者の視点を合わせて考察していく方法をとることとする。
3. 分析方法-探索的研究
本研究では以上述べた「第三者による伴走者的参加観察法」によって収集した,幼 稚園教師と子どものやりとりに関する観察記録と保育者の振り返りの語りのデータを 用いて,探索的に保育者の行動のしくみを明らかにしていく。
探索的に明らかにしていく方法としては,柴山(2006)が示した仮説生成型研究(仮 説探索型研究)における研究の手順が参考になる。
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<柴山(2006)による仮説生成型研究における研究の手順>
研究の段階 仮説生成型研究
第一段階 問題の設定
①フィールドの全体像を把握する。
②フィールドで現実を繰り返し見て,研究設問と観察の焦点を設定する
第二段階
データの収集 ③焦点を当てた事象を中心にデータを集める。データを見ながら,研究設 問を練り直し,観察の焦点を再設定する。
④データを集めながら,データ分析の概念を模索する。
第三段階
データの分析と解釈 ⑤データから析出された暫定的概念を使ってデータを分析する。
・概念の析出がうまくいったとき →データを蓄積する。
・概念の析出がうまくいかないとき
→④に戻り分析概念を作り直して,新たなデータを収集する。
⑥データの意味を解釈する。
⑦モデルや仮説を提示する。
第四段階 研究の発表
⑧口頭発表あるいは報告書や論文として公表する。
[注] 表中の矢印は,段階間の相互関連性を示している。
上記の表を見ると分かるように,仮説生成型研究(仮説探索型研究)とは,興味の ある対象や事象について観察や面接をしてデータを集めることから始め,そこから得 られたデータに基づいて理論的な説明やモデルを構築することを目指す研究を言う
(柴山,2006)。そして仮説生成型研究の大きな特徴は各段階間を柔軟に往復しなが ら,見出されることを練り直し,精緻化していくということである。
本研究においても,分析方法として,この柴山(2006)が示す仮説生成型研究(仮 説探索型研究)を参考とし,収集した観察記録と教師の語りから幼稚園教師がいかに