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また、問題解決のための対話は相談者と事業者の間の相互作用により促進されるため、
対話促進型調停(mediation)は、当事者が同席して話し合うことで実現される291といえる。
従って、相談員が一方当事者と電話で話し、当事者間の合意を形成する電話相談によって 実現することは容易ではないと考えられる。
以上、被害救済付与型と自律支援型について求められる相談員の技法を検討した。どち らの場合でも、傾聴技法を活用し、相談員と相談者の信頼関係を築くことが前提となる。
その上で、被害救済付与型の場合には、相談員の情報収集能力(相談者への傾聴と資料等 の調査収集)、問題の分析力、洞察力、説得力、柔軟性、交渉力が必要であろう。そして、
自律支援型の場合は、紛争を多角的に捉え、当事者にとっての紛争の意味を考慮するため の広い視野をもった分析力と、多様な発想ができる柔軟性や寛容さ、忍耐力が重要となる と思われる。
当事者双方の同席調停では、目の前にいる当事者に配慮しながら、問題の分析や洞察、
発想をすることが求められる。そのため、問題の分析、柔軟性はより高度な力が必要とな るといえるであろう。さらに、当事者の調停への参加意欲を高めるためには、当事者の対 話が促進されるように調停の場をコントロールし292、また、手続的公正さを確保するコミ ュニケーション技法も重要である。
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員、消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタント294がある。そのうち、消費生活専門 相談員と消費生活アドバイザーについては、資格試験が実施されている295。当事者のエンパ ワメントの実現に貢献するための相談員の能力を検討するには現在のイギリスの制度が参 考になると考えられるため296、ここでは、イギリスにおける消費者相談担当者の資格を検 討の参考とする。
表 6-1:試験範囲
消費生活専門相談員 消費生活アドバイザー TSQF (DCATS)
① 法的専門知 消費者行政に係わる関連法規 消費者問題に係わる基礎的な法 律知識
消費者のための行政・法律 知識
公正な取引(刑法)
公正な取引(民法)
法定計量 消費者信用
② 紛争分野に 関する専門 知
消費者問題に係わる一般常識 消費生活に係わる経済知識 消費生活上の商品・サービスに係 わる知識
消費生活相談に携わるにあたっ ての基礎的知識
消費者問題
消費者のための経済知識 (企業経営、生活経済、経済 統計と調査の方法の知識、
地球環境問題など) 生活基礎知識
(衣食住、広告と表示、商 品・サービスの安全性と品 質、医療、情報、福祉など)
食品基準 農業基準
動物の健康と保護 知的財産
製品の安全性 助言・解決・救済
③ コミュニケー ション技法
助言・解決・救済 金銭的アドバイス イギリスでは、取引基準会(Trading Standards Institute)が、TSQF(The Trading
Standards Qualifications Framework)に基づく資格を付与している。TSQFで求められる
主な技法は、対人関係技法・対面や電話でのコミュニケーション技法、組織技法(仕事量
294 消費生活コンサルタントは、財団法人日本消費者協会が主催する消費生活コンサルタント養成講座の修 了生に付与される資格である
295 消費生活専門相談員試験は、1 次試験が択一式及び○×式筆記試験と小論文(1000字以上1200字以内)
で、2次試験が面接試験である。消費生活アドバイザーは、1次試験が択一式及び○×式筆記試験で、2次試 験が小論文(800字程度)と面接試験である。
296 イギリスでは、現在、TSQFにおいて求められる資格の見直しに関する議論があるようである。TSIが 発行している雑誌には、アドバイスの提供や従わない場合の調査技法は大切であるとしつつも、法律学や 食品基準に関する技法の必要性が求められていると指摘がある。これについては、”Getting to the CORE” , TSITODAY (2010.8.), pp.36-37.を参照。筆者の考えであるが、イギリスの消費者白書(2009)に調停
(mediation)の導入があげられ、BBCにも消費者紛争について調停(mediation)利用を勧める記事が掲載さ
れており(http://www.bbc.co.uk/watchdog/consumer_advice/mediation.shtml)、CABなどの民間相談機関 が発展していること、行政の消費者相談機関が訴訟提起の権限を持っていることなどの背景から、法律学 や食品安全に関する専門知が重視されるようになったのではないかと推測される。
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や優先させる仕事やサービスの目的への貢献を体系づける能力)、情報提供技法(通常の道 具の利用や探求、収集、記録、体系化、報告)、文書におけるコミュニケーション技法、認 識技法(発見、説明、利用する能力)、調査技法があげられている。TSQFの枠組みは5段 階あるが、ここでは、相談担当者として求められる資格であるDiploma in consumer affairs
and trading standards(以下DCATSと示す)を取り上げる297。
表6-1は、消費生活専門相談員と消費生活アドバイザーとDCATSの試験範囲を示したも のである298。日本の場合は、どちらの試験にも実際のコミュニケーション技法に関する評価 はなく、消費生活に関する専門的知識を問うものである。一方、イギリスでは、助言など のコミュニケーションも試験範囲に含まれる。
表6-2:「助言、解決、救済」の評価基準 (DIPLOMA IN CONSUMER AFFAIRS AND
TRADING STANDARDS SKILLS PORTFOLIO 2008年7月より抜粋)
実践的助言 交渉
① 法的専門知 法律の理解 慣習法
違反を適切に特徴づける。
裁判での証拠やコスト、専門 家の予約など法的に必要な ものを相談者に説明する。
② 紛 争 分 野 に 関 する専門知
情報を記録する。
相談者が望む解決を支援するために困 難を避ける方法を助言する。
業界団体や規制当局やオンブズマンな どによる紛争解決の説明。
相談者が紛争解決の代替手段を考慮す る理由を示す。
交渉の特徴や利益やリスク を相談者に説明する。
③ コ ミ ュ ニ ケ ー ション技法
苦情申出者の求める情報の全てを聴き 出 す 。(Questioning skill, Listening skill)
効果的な交渉技法を示す。
相談者の代わりに文書や口 頭や論法技法を示す。
共通 適切な助言をする。
合理的な問題解決アプローチ。
EU裁判外紛争解決メカニズムを示す。
交渉が解決をもたらすケー スの特徴づけ。
意図の合理性や偏見のない 文書の利用を示す。
297 TSQFの枠組みについては、http://www.tradingstandards.gov.uk/jobs/jandc-tsqf.cfmを参照。
298 消費生活専門相談員の試験については、http://www.kokusen.go.jp/shikaku/09shiken.html を参照。
消費生活アドバイザーの試験については、http://www.nissankyo.or.jp/adv/sikenhani.pdf を参照。TSQF の試験内容(シラバス)については、http://www.tradingstandards.gov.uk/quals/syllabusesandregs.cfm を参照。
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そこで、資格試験で求められている相談員の技法をより具体的に考察するために、イギ リスの TSQF の試験で課される「助言・解決・救済」について検討する。試験は、知識に 関するものは筆記試験、技法に関するものは口述試験である。
試験内容には、実践的助言、交渉、少額訴訟に関する助言、少額訴訟でのヒアリングの ための準備、少額訴訟での主張と弁明のプレゼンテーションに関する知識や技法がある。
実践的助言では、口頭、電子メール、文書、リーフレットなどを通じて相談者とコミュニ ケーションすることを示さなければならない。
表6-2は、実践的助言と交渉の評価基準を示したものである。実践的助言には相談者が望 む解決を支援するという視点があるため、相談者の意思を尊重する技法も重視されている と思われる。また、交渉では、相談者に対する法的な説明をするため、相談員には法的知 識が必要である。さらに、交渉の特徴や利益やリスクを相談者に説明することは、当事者 がその紛争の解決方法を選択する機会となるために、当事者に主体性が生じる。そして、
文書や口頭での交渉技法についても評価される。以上のように、イギリスのTSQF の試験 では、法や紛争に関する専門知、当事者の主体性への配慮に基づいたコミュニケーション 技法が課されていることがわかる。
日本における資格試験は、専門知識を求めるような試験内容であり、それらの専門知識 を活用する専門知やコミュニケーション技法を測る内容ではない。そのため、相談員への トレーニングが必要となるといえよう。最近では、相談員のコミュニケーション技法が実 践で培われるよう、国民生活センターが発行する雑誌で聴き取り方法に関する情報提供が なされつつある299。けれども、1人の相談員が1日に多くの相談を扱うことを余儀なくされ るような状況であれば、現場の相談員として従事する前提となる資格試験や相談員の研修 の中で、専門知やコミュニケーション技法を確保するような体制が必要ではないかと思わ れる。そこで、次に、相談員の専門知やコミュニケーション技法を高めるための研修トレ ーニングについて考察したい。
(2) 相談員へのトレーニング
消費者紛争に関するADR機関のガイドラインを示したISO10003によれば、トレーニン グの内容は、①紛争への適格性、②公正さの重要性とそれを達成する方法、③当事者を支 援するテクニック、④紛争解決方法の運営方針や手続、⑤適用される法原則や自主行動基 準があげられている300。本論文では、消費者相談が当事者に対する対人援助職であること に焦点を当て、「当事者を支援するテクニック」を高めるトレーニングについて考察する。
現在、行政機関の消費生活相談員には国民生活センターや地方消費者行政が研修を実施
299 例えば、国民生活センター発行の月刊国民生活では、2009年5月号から電話での聞き取りの基本につ いて掲載されている。また、平成22年度に行われる国民生活センター主催の相談員向け研修には、「相談 対応技法の向上のためには」というテーマも設定されている。また、平成22年度の国民生活センターによ る「消費生活相談専門家による巡回訪問事業」で利用される資料として、「相談処理における『聞き取り』
のポイント」(仮題)が発刊される予定である。
300 ISO10003 (2007), Annex G, p.25.を参照。