人は、悩みが生じた際に、家族や友人・知人などに相談することがある。この時、相談 を受けた聞き手は、自分の体験を開示したり、問題を受容するように促しながら、相談者 の悩みを聞くことが多い。また、悩みの解決を目指すのではなく、励ましの言葉をかける こともある205。このような日常相談では問題が解決しない場合に、相談機関を利用するこ とが考えられる。また、日常相談というプロセスを得ずに、一人で悩みを抱えて、相談機 関に相談することもあるだろう。
現代社会では、紛争を抱えた人が利用できる様々な相談機関が整備されつつある。例え ば、法律分野ならば弁護士や司法書士、医療であれば医者、技術であれば建築士や土地家 屋調査士など特定領域の知識を持つ専門職による相談がある。また、心理社会的側面に重 点を置いた心理教育的な相談援助がカウンセラーによって担われている206。
消費者相談は、弁護士や司法書士等の専門職による相談を消費者が利用する前段階の相 談という位置づけがなされており、日常相談も包括する領域があると思われる。しかしな がら、一方では、消費者相談は日常相談とは異なり、消費生活の専門職として相談に応じ ることが求められる。つまり、消費者相談には日常相談と専門職としての相談の両方を包 括する相談であるといえよう。それは、他の専門職に重なりつつも、異なる領域の相談で あるといえるであろう。2章で述べたように、消費者相談は契約に関する相談が多いために、
相談員の専門知には消費者法の活用が包括される。また、紛争を抱えた当事者の特性を考 慮すれば、相談者に共感し、相談者が主体的に問題を解決することを支援することが重要 となる。そこで、相談に関する先行研究がみられる法律相談と心理的カウンセリングから
204 吉田勇「日本社会に対話促進型調停を定着させる二つの試み(二・完) 熊本法学 第118号(2009b)、
pp.119-205.において、実践知としての調停技法について、調停の理念と技法について論じられている。そ こでは、調停の理念と技法の本質が理解されない場合には、技法のマニュアル化が生じやすくなるという 問題点が指摘されている。
205 原田杏子『専門職としての相談援助活動』東京大学出版(2009)、pp.45-64.において、大学生同士の日 常的な相談場面を再現して会話分析を行い、日常相談がどのように遂行されるかについて明らかにされて いる。
206 原田(2009)、pp.5-26.に専門職による相談の特徴があげられている。
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示唆を得て、消費者相談の専門性について考察したい。
(1) 法律相談の概観
法律相談は、弁護士が法的に合理的な解決の道筋を示唆する側面が強調されるコンサル テーションとしての機能を持っている207。しかし、社会の変化とともに相談内容は、離婚 や相続、近隣紛争、多重債務、交通事故、労働災害、医療事故、消費者紛争、セクシャル ハラスメント、ドメスティックバイオレンスなど多様となり、感情的問題や複雑な社会背 景を抱え、相談者の人生に深く関わるような内容となってきた。そのため、相談者に法的 助言を提供するだけは、相談者のニーズと適合しないケースも生じてきた。そこで、近年、
法律相談を法律の専門家が相談者に法律判断を提示するだけでなく、法的知識を活用して、
相談者が直面している問題を解決するのを支援する援助活動である(菅原・下山、2007、
中村・和田、2007)208と捉えるリーガル・カウンセリングの研究が重ねられ、実践されつ つある。ここでは、コンサルテーションとしての機能を持つ従来の法律相談と、リーガル・
カウンセリングの特徴を概観する。
① コンサルテーションとしての法律相談
従来の法律相談は、相談者が抱える問題を聞き取り、弁護士が専門家として相談者に法 的要件を訊ね、法的見解から問題を構成して解決の方法を示すというコンサルテーション という機能をもつ。そのため、法律相談は、強い専門家が弱い相談者を救済するために助 言と判断を与える過程であると考えられていた209。
法律相談のプロセス210は、まず、相談者のニーズや事実を弁護士が把握することから始 まる。そこで、弁護士が相談内容を法律事件として扱うことが可能であると判断すれば、
要件事実を確認する。そして、法律や判例を基に得られた情報から解釈を行い、具体的な 解決策や対策を助言し、解決の可能性や相談者が負担するコストなどを説明するというプ ロセスになる。弁護士が受任すれば、相談者の代理人となって相手との交渉や訴訟などに 着手する。このような法律相談のプロセスにおいて弁護士が相談者に行う質問は、法的判 断をするために必要な情報を得るためのものであるので、「訊く」(asking)という形で実践 される。従って、相談を進める主導権は弁護士にあり、弁護士が相談者を指導し、管理す るためのコミュニケーションが中心となる211。
207 下山晴彦「カウンセリング的法律相談の可能性」菅原郁夫・下山晴彦編『21世紀の法律相談』現代の エスプリ415(2002)、pp.52-53.を参照。
208 菅原郁夫・下山晴彦編『実践 法律相談 面接技法のエッセンス』東京大学出版会(2007)、pp.14-15.
参照。
209 山田文「リーガルカウンセリングと弁護士倫理」、菅原郁夫・下山晴彦編『21世紀の法律相談』現代の エスプリ415(2002)、p.76.を参照。
210 菅原・下山(2007)、pp.19-21.に法律相談は、全体として「問題の共有」「情報の収集」「法的判断の形 成」「合意の形成」の4段階から構成されていることが指摘され、法的判断形成を中心とした法律相談の過 程が示されている。
211 下山(2002)、p.54.において、専門家が実践する調査面接では、「訊く」(asking)コミュニケーション技
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また、法律を中心に問題解決を図ろうとすると、社会一般に通じる規範としての法律に 照らして合理的、整合的な解決が目指されるために、個人の感情などは二次的な考慮とな る212。消費者法に関する規定を考えると、例えば、消費者契約法や特定商取引法において は、消費者の感情も取消要件となっているが、それは、「事業者の不退去や消費者への退去 妨害によって困惑した結果、契約した」という場合に限るために、その他の感情は契約取 消のための法的要件とはならない213。
このように、消費者紛争を法的視点のみで解決しようとすれば、相談者の感情や内面な どに焦点があてられにくくなる。その結果、相談の早い段階で法規範や社会規範を弁護士 から提示されると、相談者は自分の話を十分に聴いてもらえたという実感がなく、弁護士 から規範や結論を押し付けられたと思いがちである214。そのため、相談者の側に不満が生 じることも考えられる。そこで、相談者の側から法律相談を捉える試みがなされ、リーガ ル・カウンセリングが実践されるようになった。
② リーガル・カウンセリング
法律相談を利用する相談者は、法的結論を知りたいというよりはむしろ、現実の生活場 面での対策を決めるための助言を受けたいというニーズが多い。そこでは、単に専門的な 知識を提供するだけでなく、弁護士が相談者を理解し、紛争解決に向けて相談者自身が判 断し行動するような援助を行うカウンセリング型の法律相談が導かれる215。このような「弁 護士が相談者のニーズと向き合い、相談者が納得しエンパワーされるような応答の過程」
をリーガル・カウンセリングといい、相談者は弁護士から救済される対象ということでは なく、弁護士の判断、助言及び指示216を基に、相談者と弁護士が協働して問題解決を考え るのである。
相談のプロセス217は、コンサルテーションとしての法律相談と同様に、はじめに相談者 と弁護士が問題を共有し、その情報に基づき弁護士が法的判断を形成し、最後にその判断 を再度弁護士と相談者が共有し、解決方法を解釈するといった段階を踏む。このプロセス
術が求められ、専門家がクライエントを指導し、管理するためのコミュニケーションが中心的役割をとる と指摘されている。
212 菅原郁夫「法律相談における面接技法の試みとその意義」、菅原郁夫・下山晴彦編『21世紀の法律相談』
現代のエスプリ415(2002)、pp.17-24.を参照。
213 山本敬三「消費者契約法の意義と民法の課題」民商法雑誌 第123巻 第4・5号(2001)、pp.521-523.
において、不退去や監禁のように、事業者が一定の空間に消費者の身体を拘束しない場合は、たとえ困惑 を惹起したとしても、消費者契約法にもとづく取消は認められないという問題をあげている。そして、消 費者相談によくみられる執拗な電話勧誘や、SF商法などにより消費者が幻惑された場合などにも、事業者 の不当な誘導行為があると考え、消費者に取消権を認めるより包括的な規定を置く必要があったと指摘さ れている。
214 中村・和田(2007)、pp.82-83.参照。
215 菅原(2002)、pp.32-40.、長岡壽一「法律相談の現状と課題」菅原郁夫・下山晴彦編『21世紀の法律相 談』現代のエスプリ415(2002)、pp.41-49.を参照。
216 中村・和田(2007)、pp.1-3.参照。
217 市川清文「法律相談の流れ」、菅原・下山(2007)、pp.101-145.を参照。