前章では、消費者相談の「消費者への被害救済付与」と「自律支援」という複合的な機 能について明らかにした。そこで、次に、それらの機能を実現する消費者相談手続の種類 と方法を明らかにしたい。ここでは、現在の日本の実情を捉えることを目的としているた め、消費者相談の第一次的相談機関として機能していると考えられる「行政機関によって 実践される消費生活相談」を中心に検討する。
92 消費者トラブルをめぐる紛争解決機能の在り方に関する研究会「消費者トラブルをめぐる苦情処理・紛 争解決機能のあり方」内閣府(2003年3月)、pp.18-20.を参照。
32 (1) 手続の種類
2章で述べたように、紛争解決手続は、消費者相談の実務においては、当事者双方の和解 成立を目指し、相談員が相手事業者と連絡を取り、消費者と事業者に相互の主張を取り次 ぐあっせんや、両当事者と相談員の三者で話し合いをするあっせんという調整型手続も「相 談」として理解されている。そこで、本論文においては、消費者相談の手続を、①助言と、
②あっせんに分類する。
① 助言 a) 定義
消費者相談における助言とは、特定の消費者に生じた個別の問題の解決を支援するため になされる情報提供のことである93。消費者がそのような情報を求めて相談する際には、消 費者紛争が生じる前の段階と紛争をかかえた段階とがある94。それは、消費者が事業者に苦 情を申し出る前に効果的な交渉のために有益な情報を求めて相談する段階と、事業者と自 主交渉した結果、紛争となった段階である。相談者は、このような段階によって、自らの 権利や商品に関する情報、交渉方法、紛争解決支援機関などの情報が得られる消費者相談 を活用する場合が多いと思われる95。助言は、そうした消費者のニーズを満たす機能を持た なければならない。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク・システム)では、相談の処理結果を、「他機関
紹介」、「自主交渉の助言」、「その他情報提供」、「斡旋解決」、「斡旋不調」、「斡旋不能」、「処 理不要」と分類している96。このうち、「他機関紹介」とは、センター等であっせん、アド バイス等一切の処理をせず他機関を紹介した場合、「自主交渉の助言」とは、自主解決に必 要な情報および方法のアドバイスを行うことを指す。そして、「その他の情報提供」には、
相談内容に対する基本的な考え方や周辺の情報提供を行って他機関を紹介した場合などが 該当する。
本論文では、助言が相談者の問題解決を支援するという機能を持つという考えに基づき、
助言を、国民生活センターの分類でいう「自主交渉の助言」、「その他情報提供」と捉える ことにする。また、消費者相談では、電話相談があっせんにも活用されており、その場合 は、相談員が当事者一方と話したことを、他方当事者へ伝えることを繰り返すという形式
93 Wang, Fang., Bernnan, Carol., Galloway, Alison. & Hughes, Alan: “Consumer Support Networks:
assessment of needs for consumer information and advice service” International Journal of Consumer Studies, 29,2, (2005), pp.159-167.において、消費者への情報提供と助言の特徴と違いが説明されている。
94 吉田勇「紛争解決システムの競合と連携」吉田勇編『法化社会と紛争解決』成文堂(2006)、p.39.におい て、相談には、紛争になる前と当事者が紛争をかかえた場合の2種類があり、相談過程の重要性を確認す る必要性があると指摘されている。
95 高田昌宏「紛争解決の類型と救済」経済企画庁国民生活局編『消費者取引と紛争解決―消費者取引をめ ぐる紛争解決に係る緊急調査―』(1998)、pp.163-164.において、当事者は第三者の相談を受け、そこでの 助言により自主的解決能力を獲得して、再度、相対交渉に臨むことができると指摘されている。
96 国民生活センター 相談・危害情報部『消費生活相談入門マニュアル―相談担当者のこころえ―』(1990)、
pp.15-17.を参照。
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で和解を促進する場合が多い。このような状況では、あっせんにおいても当事者の自主的 紛争解決の促進に寄与する助言が実践されており、あっせんと助言を明確に区別すること は難しいと考えられる。
以上、学説や国民生活センターの分類により助言の定義を試みたが、助言は相談員一方 のみの実践で決定されるものではなく、相談者との相互行為により構築されるものである と思われる。そこで、社会的相互行為の理論を基に助言について考察する。
b) 相談員と相談者の社会的相互行為としての助言
消費者相談は、相談員が当事者の話に傾聴し、当事者の問題解決を支援するために助言 し、かつ、相談員と当事者が協働して合理的な解決方法を発見する過程であると考えるこ とができる97。しかしながら、その過程は、常に相談員と相談者が建設的な相互行為をして いるとは限らず、逆に、相談員と相談者の間にコミュニケーション・ギャップが生じるケ ースも存在する。
消費者相談の現場では、相談者への対応に悩む相談員もみうけられ、それは、国民生活 センターによって実施された「消費生活相談員等の意識調査」98によっても明らかにされて いる。消費生活センター勤務者の回答のうち、「無理な要求をする相談者への対応に困って いる」という回答は79%であった。また、自由記述による回答を抜粋すると、「常識がない 消費者や身勝手な消費者が増えているように思う」、「無理な要求をしておきながら、思う ような結果が得られなかった場合など相談者に逆切れされる」、「高齢者や心を病んでいる と思われる相談者などの場合、聞き取りが難しい」という意見があった。消費者相談の現 場においては、自分の話を相談員に感情的にぶつけてくる相談者は多く、自分の要求を強 く主張する、自分の望む話が相談員から聞くことができなければ相談員を非難するなど、
相談員が相談を受けづらい消費者も存在する。
このような場合、「権利意識が強く、義務の意識が弱い消費者」、「クレーマー」、「精神的 疾患をかかえる人」という枠組みで相談者を捉えた上で、相談員が対応することも考えら れる。その考えを否定するわけではないが、相談員と消費者の相互作用が破壊的に作用し、
両者の信頼関係が構築されないことに起因するケースも多いのではなかろうか。
そこで、Goffman により研究された人間の社会的相互行為におけるフェイスの概念を基 に、消費者相談における助言について考察する。フェイスとは、特定の出会いの際に、そ の人が打ち出した方針と他人が想定する方針にそって、その人が自分自身に要求する積極 的な社会的評価であり、自分をめぐる心象のことをいう。人は他人と出会った際、自らの フェイスを保つことを期待している。そして、そのフェイスがつぶされたと感じるならば、
97 加賀山(1990)、pp.54-56.には、消費生活相談を、相談員と相談者が共に考え、合理的な解決方法を発見 する過程であると考えれば、これほど理想的な消費者教育はないと指摘されている。
98 調査対象 消費者相談窓口1990ヶ所で働く相談員 調査期間 2007年11月 郵送調査 回答数1723 人。 ワン松子「地方自治体における消費生活相談現場の相談員の意識」消費者法ニュース77(2008年10 月), pp. 12-15.を参照。
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その人は恥ずかしさや劣等感を感じることになる(Goffman、1967)99。そのため、人は他 者が自己について抱く心象を管理して自己表現しており、他者に不信感を与えないように 配慮している。椎野(1995)は、一般に相互行為者は、どのように会話の場で振舞うべきで あるのかを、保持する自己イメージ=フェイスに対向して、その行為の潜在的な象徴的意 味を確かめることによって決定していると述べている100。
消費者相談において、相談員は相談員としての役割を果たそうと自己のフェイスを保持 し、相談者もまた、問題を抱えた当事者であるというフェイスを保持している。そして、
相手に対して、その属性や能力による特定の役割を期待している。Goffman (1967)は、あ る特定のタイプの接触において、相互行為者はフェイスを保つことができると期待し、フ ェイスを保つことこそが道徳的に正しいのだと考える結果、本来自分が備えている属性よ りもたくさんの責任を負わされることになると指摘している101。
そこから検討すると、相談員はそのフェイスを保つことが道徳的に正しいのだと考え、
相談員らしい服装、言葉遣いや声などの態度で自分を示す。そして、相談員が消費者の被 害救済付与を重視する場合は、「相談には、必ず何かを答えなければならない(沈黙はでき ない)」、「相談者に助言を与え、相談者を解決へと導かなければならない」など、自分達が 問題を解決するという責任を感じ、弁護士や裁判官のように法的判断を下したり、その問 題を相談員の観点で評価して、相談員が考える解決内容に合意するように相談者を説得し たり、事業者を強制的な姿勢で説得するような行為が生じる可能性があるだろう。そのた め、相談者が相談員の助言に反論するなど「指導者としてのフェイス」が保たれなくなれ ば、相談員は相談者に対して不快な感情を持つことになるであろう。
一方、相談者のフェイスは、自分は「悪質商法の被害にあった弱い消費者」なのだから、
相談者は相談員に自分の怒りや困惑を理解してもらいたいという気持ちがある。個人は受 容してもらえる自我を相互作用で効果的に明示する(Goffman 、1967)102と言われるように、
相談者は、消費生活センター等が悪質商法にだまされた消費者という枠組みで相談者を捉 えるであろうことを意識し、自分が「いかに事業者にだまされた弱い消費者であるか」と いうことを相談員に明示しているのであろう103。そのため、相談者は、自分の受けた権利侵 害が大きいことを示すために、相談員に対して感情的に話をぶつけ、相談員に自分の辛さ や怒りを理解してもらおうとするのである。さらに、消費生活センター等は、常に消費者 の味方であるべきであると思い、相談員に解決してほしい、もしくは、相談すれば解決す ると思う場合もあるかもしれない。
99 Goffman, Erving: “INTERACTION RITUAL Essays on Face-to-Face Behavior” (1967)邦訳 浅野敏夫
『儀礼としての相互行為』法政大学出版局(2002)、p.5, 8.を参照。
100 椎野信雄「ドラマトゥルギから相互行為秩序へ」安川一編『ゴフマン世界の再構成』世界思想社(1995)、
p. 55.を参照。
101 Goffman(1967)邦訳 浅野(2002)、p.7.を参照。
102 Goffman(1967)邦訳 浅野(2002)、p.106.を参照。
103 これは、消費生活センター等が消費者紛争の原因を「悪質商法」という枠組みで捉え、そのような情報 提供を消費者に実施していることにも原因があると思われる。