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当事者の自律支援のための技法

ドキュメント内 消費者相談の複合的な役割 (ページ 89-92)

消費者紛争を抱えた消費者は、一般に弁護士に相談するよりも先に消費者相談機関に相 談するため、相談員は法的知識などの専門知を活用して相談にあたることが必要となる。

そのため、自律支援のために機能を果たす場合においても、消費者相談には当事者が対話 や交渉を促進するために法・専門的情報が組み込まれているのである282。以上の前提をふ

280 ABA(2001)、pp.41-43.を参照。

281 池本誠司「消費者被害防止と事業者名公表」財団法人関西消費者協会 消費者情報 No.414(2010.9)、

pp.30-31.には、消費者の言い分に無理があると思われる場合は、当事者双方から丁寧に事情聴取すること によって、公平な解決に導くように消費者を説得することも必要となることが指摘されている。さらに、

事業者の弁明が不自然だと感じた時には、その不自然な点を粘り強く指摘して適正な解決線に向けて説得 を重ねることが重要であることも指摘されている。

282 和田仁孝「ADR手続における専門性と法情報」仲裁ADR法学会第1号 仲裁とADR(2006)、pp.14-15.

において、日本型ADRの機能化条件と手続主宰者の専門性について考察され、ADRニーズの複合性によ

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まえて、自律支援のために必要とされる相談員の技法について考察する。

(1) 相談の入口

相談の受付時は、相談員が相談者に傾聴する。特に、当事者の自律支援には、当事者の 感情を認識することが重要となる。その実現には、①相談員が相談者の話で表明された感 情を特定する、②相談者が伝えたものと同じ意味や感情の強さを持つ単語と言い回しを選 ぶ、③確認や明確化のために、その単語と言い回しを相談者に向けて話すという方法があ る。そうすることによって、相談員は、相談者に同意したり、相談者と同じ意見を持つこ となく、相談者の感情を受け容れることができるのである283

そして、相談者が主体的に問題を解決するためには、心理的カウンセリングで述べたよ うに相談員が相談者の話に聴き入り、相談者に共感していくことが重要となる。相談員が、

「相談者のことをわかろうとするよりも、すぐに解決しようとしてしまう」、「相談員が相 談者より上の立場に立つ」、「すぐにアドバイスや指示をしたくなる」、「沈黙に耐えられな い」などの応答をすれば、相談者の主体的な解決を妨げる可能性もある284。相談員が助言 を急がず、相談者に相談員の共感を伝え、相談者の話を引き出すために、オープン・エン デッド・クエスチョンやクローズド・エンデッド・クエスチョン、パラフレイジング、リ フレイミング、要約などの傾聴技法を活用する。

その上で、相談員は、当該消費者相談機関が対象とする相談であるかどうかを判断する。

その判断には、消費者法や消費者問題に関する理解が必要となる。

(2) 問題の明確化と助言

相談員が傾聴技法を活用して相談者と対話する際には、問題は相談者自身が一番よく知 っているということを認識しておくことが重要である。そのため、被害救済付与型よりも さらに、オープン・エンデッド・クエスチョンを実践することが求められると思われる。

また、当事者の感情に焦点を当てることで、当事者が状況への関わり方と自らの感情を 明確化することを支援する必要がある。そのための質問には、「どう感じていますか」、「そ う感じさせるような何か特別なことがあったのですか」、「ご自身の気持ちを変えるために、

相手に何をしてほしいと思いますか」、「今の気持ちを変えるために、何かされましたか」

などの質問がある285。電話相談の場合は、相談者の表情を見ることができないために、相 談者のため息、間合い、話題の変更、または歯切れが悪くなるタイミング、声の調子など り、手続主宰者の専門性を、職域専門機能、対話・交渉促進機能及びリーガル・カウンセリング機能があ げられている。

283 Moore , レビン小林訳(2008)、p.156.を参照。

284 村瀬旻「傾聴技法―心をこめて聴くということ」楡木満生『クライエントの問題を解決する面接技法』

現代のエスプリ No.515(2010)、p.34.では、カウンセリングの初心者が感じる聴くことの難しさがあげら れている。

285 Moore , レビン小林訳編(2008)、pp.157-160.において、当事者が感情を認識し、それを意識的に理解

し、克服するのを後押しする技法の一つとしてオープン・エンデッド・クエスチョンをあげ、その質問の 例を示している。

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そして、要約やパラフレイジングを通して相談者が問題を理解することを支援する。さ らに、相談者が自分の問題に前向きに取り組めるようにエンパワーするためには、リフレ イミングを活用することが重要になってくる。電話相談の場合は誤解が生じやすいため、

面談以上に、頻繁に傾聴技法を活用する必要がある287。ここでは、紛争の要因や当事者の ニーズに焦点をあて、当事者から話を引き出していくための分析力と相談者の話をリフレ イミングするための柔軟性、コミュニケーション技法が重要となるだろう。

また、相談員が問題や解決内容を判断するのではなく、相談者が解決策を考えることを 実現するためには、相談員には柔軟な発想力と寛容さが重要となる。相談員が「どこかを 探せば答えがあるに違いない」と考えると、創造的な機能が働かなくなる288。電話相談の 場合、相談員が資料を探しながら相談者と話すことが容易に実行できる。そこで、資料に 基づいて回答をすれば、相談員だけでなく相談者にもその回答が正しい答えであると思わ れやすくなるため、相談者自身が解決策を見出すという力を減じさせてしまう危険性があ ると思われる。そのため、相談員が資料から得た情報や専門的知識は、相談者が問題を考 えるための材料として情報提供するように努めなければならないであろう。

(3) あっせん・調停(mediation)

あっせん・調停(mediation)においても、相談員は当事者と対話をしながら、当事者が取 り組む問題を見出せるように支援し、そこで見つかった複数の問題から一つを選び出し、

双方のニーズを満たす解決案を当事者が協働して見つけることができるように支援する。

この時、当事者の言葉から攻撃性をはぎ取り、肯定的なメッセージとしてリフレイミング を繰り返すことによって、当事者が自らのポジションを調整し、相互に受け容れ可能な案 を出せるように支援していくのである。このような対話をそれぞれの問題毎に繰り返し、

解決案を深めていく289。これを実現するためには、相談員が対話促進型調停(mediation)の 技法を身につけておくことが必要であろう。当事者から複数の問題を引き出し、効果的に 相談員がリフレイミングするためには、相談員の柔軟な発想や当事者を尊重する姿勢が求 められる。さらに、どの問題から取り組めば当事者間の対話が促進されるかという分析力 や当事者の状況に応じては別の問題について話し合うなどの柔軟性も重要となる290

286 斎藤友紀雄、川島めぐみ『電話カウンセリング』川島書店(2001)p.31.を参照。

287 Boulle, Laurence., ColatrellaJr., Michael. & Picchioni, Anthony P:“MEDIATION Skills and Techniques” Lexis Nexis(2008), p.126.を参照。

288 D.レスター、G.W.ブロコップ編 多田治夫・田中富士夫訳『電話カウンセリングの技法と実際』川島

書店(1982)、pp.82-93.には、電話相談でおかしやすい失敗や誤解の一つとして、決定的な答えがあるとい う思い違いを指摘している。

289 レビン小林久子『調停への誘い』日本加除出版(2006)、p.83.、小林久子「分配から承認、そして再度 統合へ:紛争解決プロセスの重層性について」九州大学法政学会(2006)、p.915-917.に、そのプロセスが図 式化されて示されている。

290 小林(2006)、p.917.において、調停人がイシューや話し合いの順序を決めることについては、効率性と 当事者のやる気を損なわないことへの考慮があると指摘している。つまり、当事者はすでに対立関係にあ る人たちであり、彼らにイシューを選択させるということは、いたずらに彼らの対立感情を刺激すること

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また、問題解決のための対話は相談者と事業者の間の相互作用により促進されるため、

対話促進型調停(mediation)は、当事者が同席して話し合うことで実現される291といえる。

従って、相談員が一方当事者と電話で話し、当事者間の合意を形成する電話相談によって 実現することは容易ではないと考えられる。

以上、被害救済付与型と自律支援型について求められる相談員の技法を検討した。どち らの場合でも、傾聴技法を活用し、相談員と相談者の信頼関係を築くことが前提となる。

その上で、被害救済付与型の場合には、相談員の情報収集能力(相談者への傾聴と資料等 の調査収集)、問題の分析力、洞察力、説得力、柔軟性、交渉力が必要であろう。そして、

自律支援型の場合は、紛争を多角的に捉え、当事者にとっての紛争の意味を考慮するため の広い視野をもった分析力と、多様な発想ができる柔軟性や寛容さ、忍耐力が重要となる と思われる。

当事者双方の同席調停では、目の前にいる当事者に配慮しながら、問題の分析や洞察、

発想をすることが求められる。そのため、問題の分析、柔軟性はより高度な力が必要とな るといえるであろう。さらに、当事者の調停への参加意欲を高めるためには、当事者の対 話が促進されるように調停の場をコントロールし292、また、手続的公正さを確保するコミ ュニケーション技法も重要である。

ドキュメント内 消費者相談の複合的な役割 (ページ 89-92)

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