ここでは、一つの組織の中に、助言、あっせん・調停(mediation)、仲裁の機能を持ち、
それぞれの段階で対応する担当者が連携して消費者紛争の解決を支援しているオンブズマ ンのガイドラインと利用者調査の結果を考察し、相談員がいかにして消費者支援を実践し ているかについて検討する。また、相談員の行動基準が規定されている業界団体の自主行 動基準も検討の材料とする。
(1) BIOAのガイドライン
イギリスおよび北アイルランド地方オンブズマン協会(British and Irish Ombudsman
Association 以下BIOA という)179は民間オンブズマンに対するガイドラインを策定してい
る。ガイドラインでは、①目的の明確さ、②アクセスのしやすさ、③自由度、④オープン 性と透明性、⑤つりあい、⑥実効性、⑦結果の質について述べられている。その中で、相 談者をエンパワーする相談員の対応について考慮するためには、実効性と結果の質につい
179 BIOAの会員には、不動産業、金融サービス、健康サービス、住宅、法サービス、地方政府、議会、
年金、警察(北アイルランド)、引越し、テレコミュニケーションのオンブズマンがある。
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てのガイドライン180が参考になる。そこには、「相談者は感情的になっていることが多いた め、相談員が話を十分に聴き、相談者に起こったことを明確に説明し、苦情を公平で偏り なく扱うことが重要である」と書かれている。そして、「相談者に対して、苦情取り扱いプ ロセスや救済内容を明確にすること」、「プロセスは相談者のニーズや関心に適合するため に自由度があること」、「相談者にとって透明性があること」、「その結果が相談者と事業者 の今後の関係に影響を与えること」が言及されている。また、「事業者の話も十分に聴かな ければならない」と示されている。
この規定から、相談員は当事者双方と対話し、相談者のニーズや関心に適合するような 形で支援をするという行動基準が示されており、手続の透明性を確保し、相談者の主体的 な行動を支援するような条件の整備が求められていることがいえると思われる。
さらに、BIOAガイドラインでは、ADR手続の実効性を高めるために、「手続実施者の採 用やマネージメント、手続実施者の役割や限界を理解するためのトレーニングや調査技術 のトレーニングが重要であること」、「相談への明確なガイドラインの必要性」や、「技術を 正式に認定すること」なども規定されている。相談員が手続の限界を認識することは、相 談者が訴訟等の解決のための次のステップをふめるよう支援することにつながるであろう。
また、質を保証するためには、利用者の満足度を調査することを奨励している。ここで は、利用者調査を行っているオンブズマンのうちの一つであるテレコミュニケーション・
オンブズマン(the Telecommunications Ombudsman(Otelo))181によってなされた利用者満 足度調査から、相談員の対応について検討する。
(2) Otelo利用者の満足度調査
Otelo は、相談チーム、調査チーム、オンブズマンチームと各段階に機能分化している。
ここでは、2008年に公表された利用者への満足度調査182を検討の対象とする。この調査は、
Oteloに介入を依頼した消費者と、相談時期が事業者への苦情申し出から3ヶ月未満であっ
たことや他の事情により「助言のみ」に終わった消費者へ郵送調査を行っている。
① Oteloに介入を依頼した消費者への調査
調査によれば、Oteloに対して満足したという回答は、「親しみやすい」90%、「役に立つ」
88%、「知識」88%、「信頼性」82%、「自分の問題への理解」81%、「自分の問題の取り扱い」
78%とされている。「親しみやすい」という回答が90%と高いことは、相談者が手続実施者
180 The British and Irish Ombudsman Association: “Guide to principles of good complaint handling”
(2007), pp.25-31.
181 Oteloは、テレコミュニケーションの規制当局Ofcomが認証したオンブズマンであり、電話や携帯電
話サービス、インターネットプロバイダなどの250社が会員となっている
182 Office of the Telecommunications Ombudsman: “Customer Satisfaction 2008” (April 2008) を参照。
手続を申し出た消費者調査の結果はpp.37-49.に掲載。回答者数は498件。郵送調査。調査期間は2008年 1月7日~2月25日。また、相談のみとなった消費者の調査結果はpp.26-36.に掲載。回答者数は307件。
郵送調査。調査期間は2008年1月14日~3月7日。
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を信頼しやすい状態であるといえる183。また、再相談の回数は、「0回」18%、「1回」33%、
「2回」31%、「3回以上」18%となっており、電話で苦情を申し出た場合は、回答者の36%
がOteloと3回以上話したと報告されている。
そして、Oteloからの情報についての満足度は、「情報収集が簡単である」84%、「タイム リー」79%、「明確」84%、「幅広く全て」78%とされている。相談については、「手続開始 で期待できることの説明」84%、「アクセスの簡単さ」66%、「調停(mediation)や交渉を通 じた苦情解決について」61%、「実効性」69%、「迅速さ」63%、「サービス全体」75%とさ れていた。
結果については、「相談者の希望通り」が 64%で、「相談者の希望に反したもの」が29%
となっている。そして、解決内容(複数回答)について相談者が期待していたものは、「謝 罪」68%、「サービス改善」24%、「契約解除」30%、「金銭的補償」73%であった。実際の 解決内容は、「謝罪」60%、「サービス改善」9%、「契約解除」28%、「金銭的補償」76%で あり、サービス改善以外はほぼ相談者の希望を満たしていたことがわかる。
そして、プロセスに関する全体の満足度は、回答者の 71%が満足したと回答し、満足し なかった回答者は23%とされている。Oteloに関する満足度は、その解決内容が完全に相談 者の希望通りの場合では94%、どちらかといえば相談者の希望通りの場合には91%と非常 に高くなっている。それだけでなく、どちらにも有利でないような解決結果でも、回答者
の85%が満足したと答えている。完全に相談者の希望に反した場合では、Oteloに満足した
回答者は3%で、85%が不満足であるが、どちらかといえば相談者の希望に反した場合には
34%が満足し、49%が不満足だと報告されている。このことから、自分に都合のよい解決と
はならなかった利用者でさえも Otelo の手続を肯定的に捉えているケースがあるというこ とがわかる。
さらに、「相手事業者の信頼性が増した」という回答が 40%で、「信頼性が減少した」と いう回答が30%とされていた。このことから、Oteloでの紛争解決手続は、消費者が相手事 業者への信頼性を高めることにもなるといえよう。
② 助言のみの対応となった相談者への調査
次に、助言のみの利用者への調査を考察する。スタッフに対して、「親しみやすい」94%、
「役に立つ」93%、「知識」94%、「信頼性」83%、「自分の問題への理解」91%、「自分の問 題の取り扱い」に86%が満足したと回答している。ここでも、「親しみやすい」という回答 の多さから、助言の段階においても相談員を信頼しやすい状況だったことがいえる。
そして、Oteloの役割については、アンケートで例示された回答に「そう思う」と回答し た消費者は、「Otelo はすばらしい。私の問題に役立つアドバイスを与える」65%、「Otelo は役に立つ。私のケースにアドバイスを与え、私は自分自身で、もっとよく事業者に対応
183 中村・和田(2007)、p.72.では、傾聴によって培っていく信頼関係は、親しみやすさ、わかりやすさ、
ていねい、親切、自然さによるところが大きいと指摘されている。
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することができた」54%、「事業者は私がOteloに相談したことがわかってから苦情を迅速 に解決した」48%、「Otelo は私の問題を探るのに役立った」43%であり、肯定的な意見が 多い。一方、否定的な意見では、「まだ事業者は自分の申出を拒否したままである」42%、
「Oteloは私のケースについて取り扱えないと言った」32%、「Oteloは全く役に立たない。
彼らは私にただ話しただけである」19%とされている。この結果から、助言のみの場合も、
相談担当スタッフとの対話によって、相談者が自分の問題を理解し、相談後に自分で事業 者と話し合いをする力を得たことが推測される。
結果については、相談者の希望にかなった人が 56%、相談者の希望にはかなわなかった
人が30%とされている。さらに、その結果が完全に相談者の希望に反した相談者33人のう
ち、Oteloに満足していない者は26人であるが、それでもOteloに満足した者が4人とさ れている。どちらかというと相談者の希望に反した結果となった 14 人のうちでは、Otelo に満足していない者も満足した者も同じ 5 人とされている。ここからも、解決結果に満足 しない場合でもOteloに対する満足感があることがわかる。
そして、相手事業者の信頼性が増したという回答が 40%で、信頼性が減少したという回
答が 28%とされていた。ここでも、スタッフとの対話が、消費者が相手事業者への信頼性
を高めることにもなるといえよう。
以上のように、利用者調査によれば、ADR手続を利用した相談者においても助言のみの 利用であった相談者においても、消費者相談が相談者の自律支援や、当事者間の信頼関係 を高める可能性があるといえるだろう。
(3) CCASによる自主行動基準
業界団体の自主行動基準は、消費者の観点が常に事業者より優先されているとは限らな いという批判も推測されるが、公正取引庁が認証した自主行動基準(CCAS)は、消費者団体 や他の利害関係者の意見を取り入れた十分な根拠があると考えられている184。そこで、相 談者支援に関する具体的な行動を確認するために、CCAS185の中から、調停(mediation)に おける相談員の対応に関する行動基準を抜粋する。
・Bosch Car Service(車の修理・車検)186
消費者の苦情を迅速で公正に解決するために、調停は消費者と会員と共に行う。
Bosch は苦情の説明や苦情を調査する他の情報が必要であれば、その提供を消費者
184 Oughton ,David & Lowry, John: “Textbook on CONSUMER LAW 2nd ed”., OXFORD UNIVERSITY PRESS , Oxford (2000), P.51.を参照。
185 CCASを取得している業界団体は、平成22年5月1日現在で、Bosch Car Service(車の修理・車検)、
The Carpet Foundation(カーペット)、The Property Ombudsman Ltd (Sales) (住宅販売)、Direct Selling Association(訪問販売)、Motor Codes Ltd (New Car Code)(新車販売)、Vehicle Builders and Repairers Association Ltd(車の修理)、British Association of Removers(引越し)、Debt Managers Standards Association (DEMSA)(貸金)、British Healthcare Trades Association(医療機器)、Institute of Professional Willwriters(遺言作成)の10機関である。
186 http://www.boschcarservice.co.uk/pdf/OFT%20BCS%20Code%20of%20Conduct%20A5.pdf