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直観的な割合についての先行研究

第3章 割合の考え方の構成に関する授業実践

第1節 直観的な割合についての先行研究

1.「2倍・1/2(半分)」の直観的認知

 子供は,割合を学習する前から「半分」という比例的用語を使用している。ここでいう

「半分」は,数的に導き出された「1/2」というよりは,むしろ,直観的に導き出された

「1/2」であり,「およそ半分」という意味合いであると考えられる。第2章,第1節で 述べたように,spinillo,A. G.(2002)の研究からも,比例的判断において,子供は,「1/2

(半分)」という直観的アプローチを保持していることが分かっている。しかし,子供は,

2つ以上の割合を比較するために,「1/2(半分)」よりも大きい・小さい・等しいという 量:的な判断の基準として,「1/2(半分)」を用いているに過ぎない。

 したがって,この「1/2(半分)」と,割合の指導において重要となる「比較量÷基準 量=割合」という立式を結びつけるために,「2倍・1/2(半分)」という特殊な割合に対 する直観的な推論を一般的な数的割合の考え方へと変換する指導法が有効であると考えら れる。しかし,このような指導法に関する研究は,あまり報告されていないように思われ

る。

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図3−1.Central Concep加al Structureτaught in Rational Nu皿ber Program

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 このことに関して,Moss,J.&Case, R.(1999)の考案したRational Number Programの導 入の課題に,割合に関する概念的知識と手続き的知識を結びつける新しい指導法の重要な

ヒントを見い出した。ここでは,有理数に関するMoss,J.&Case, R.の研究について,概要 を述べることにする。

 Moss, J.&Case, R.は,有理数における2つの根元となるスキーマは,比例的評価に関す る構造と,「2倍・1/2(半分)」に関する数的構造であり,10才〜11才頃に,これら2つ の構造が協調し,相対的な比例や簡単な分数(1/2や1/4)に関する理解を生み出すと述べ ている。そこで,子供の初歩的な直観的な比に関する理解と,数を半分にすることに関す る手続きを結びつけるRational Nu田ber Pr・gra魏を考案した。この導入の課題において,

子供が構成すると期待されるスキーマを示すと,三富の図3−1になる。

 この導入の課題に関して,子供は,ビーカーの中の水の高さに対するいっぱい・ほとん どいっぱい・およそ半分・ほとんど空・空っぽという比例的な感覚と,1〜100までの数に 関する感覚にもとづいた直観的な「2倍・1/2(半分)」という感覚を備えている。この

2つの感覚を結びつけるために,親指と人差し指をビーカーの中の水の高さに合わせ,半 分の高さになるまで,人差し指を上下させるvisual−motor halving(視覚運動的に半分に すること)と,numerical halving(数的に半分にすること)を対応させている。また,1

〜100までの数を半分にする操作を通して,百分率に関する直観的理解を促している。し たがって,子供は,比例的な感覚と百分率によって,ビーカーの中の水の相対的な高さに ついて考えるよう求められた。

図の1段目:ビーカーの中の水の高さによって,視覚的に認知できる一連の比を示してい       る。各ビーカーを結ぶ矢印は,visual−motor halvingと連動している。

図の2段目:visua1−motor halvingと対応させることによって,基準となる百分率の値と       numerical halvingを結びつけている。

図の3段目:標準的な単位(ex.ミリリットル)での任意の量に対して, numerical halvingを       適用させ,「Doubling方略」「Halving方田各」として一般化を行っている。

 M・ss, J.&Case, R.の研究は,有理数に関してであったが,子供が,視覚的に「2倍・1/2

(半分)」を直観的に認知できるだけでなく,数的にも「2倍・1/2(半分)」を直観的に 認知し,「Doubling方略」「Halving方略」として一般化できることは,割合に関しても,

重要な意味を持つと考えられる。

 したがって,「2倍・1/2(半分)」は初期の直観的な割合の概念であり,第5学年の子 供が,割合の考え方を構成することにおいても,重要な役割を演じると考えられる。

2.類似性の認知

 子供が新しい概念を形成するきっかけとなるのが,既に持っている概念との類似性であ ると考える。崎谷ら(1988)は,類似性の認知が,誰でも行うことのできる,日常生活にお いて馴染みのある認知活動であることを指摘し,類似性を判断するという思考活動を通し て,子供が主体的に算数を構成するという類似探求授業(2004)を開発した。

 また,Markman, A. B.(1996)は,類似探求授業における「似ている」と「似ていない」の 例の提示方法に関係して,整列可能(alignable)な差異と整列不可能(nonalignable)な差 異を明らかにしている。整列可能な差異とは,一方のそれが他方のこれに対応するという 対応関係のある差異のことであり,整列不可能な差異とは,一方に存在するが他方には存 在しないという対応関係のない差異である。そして,これら2つの差異を考慮するとき,

整列不可能な差異よりも整列可能な差異のある提示方法が概念形成に効果的であることを 見い出している。

 したがって,概念形成を目的とした類似探求授業を通して,「一方が他方の何倍」とい う類似性を認知することができた子供は,割合の考え方を構成したということになる。そ して,「2倍・1/2」という割合を整列可能な差異として提示することが,割合の考え方 の構成に効果的であると考えられる。

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第2節

「2倍・1/2」を活用した類似探求授業

1.類似探求授業による実験授業の目的と概要

(1)実験授業の趣旨

 従来から,割合の単元においては,導入授業(1時間)として,割合の考え方を扱って いる。しかし,差による比較を行うことができない場面を提示し,子供に葛藤させること だけに終始してしまい,結局,子供が割合の考え方を自ら構成することなく,教師が,そ れを教えてしまうような授業になりがちであった。

 したがって,実験授業の目的は,子供が割合の考え方を自ら構成する授業を構築するこ とである。そのために,第3章,第1節で述べた「2倍・1/2(半分)」の直観的認知と 類似性の認知の2点を考慮し,「2倍・1/2」の提示の有無や「2倍・1/2」の提示順序を 変えた2クラスを対象に,第5学年の割合の導入授業として行った類似探求授業による実 験授業と,その結果をもとに,授業における「2倍・1/2」の有効性と活用の仕方につい て考察する。

(2)実験授業の参加者

 実験:授業の参加者は,神戸市内の公立小学校の第5学年(同一小学校における2クラス)

69名であり,その内訳は次に示す通りである。

 Aクラス:35名  Bクラス:34名

(3)実験授業の概要

 類似探求授業では,まず,基にするものを最初に提示し,続いて似ているもの・似てい ないものを例示し,どこが似ているかを考えさせる。また,実験授業では,似ているもの

・似ていないものを分類をさせることを通して,似ている仲間に共通した『一方が他方の 何倍』という類似性を認知させる。

 そこで,第2章,第2節で述べたように,子供が「部分一部分」に着目する傾向がある ことを考慮し,基にするものの題材として,あたり(白玉)とはずれ(目玉)の入ったく じの袋の絵を提示した。あたりとはずれを提示することで,部分の数を数え上げることが でき,「部分一部分」と「部分一全体」のどちらにも着目することができる。しかし,あ たり(白玉)とはずれ(黒玉)という「部分一部分」が視覚的に優位に捉えられるので,

あたり(白玉)とはずれ(黒点)を合わせたくじ全体は,あまり意識されないと考えられ

る。

 また,実験授業の目的である『授業における「2倍・1/2」の有効性と活用の仕方』を 明らかにするために,2クラスにおいて,授業展開は同じであるが,「似ていない」の提 示内容を変化させた。AクラスとBクラスにおける提示の様子を示すと,次頁の図3−2・

図3−3になる。なお,図3−2・図3−3における提示①〜提示④は,実験授業の展開における 提示の段階に対応する。

(基にするもの)

 (6・4)

提示①

(基にするもの)

 (6・4)

提示①

似ている  (倣ているもの)

(3・2) (9・6)

(15・10)(12・8)

提承②

提示③

似ていない

(似ていないもの)

   ●●oも    Oo ●

(4・2)(8・4)

GO・5) (6・3)

似ている  (似ているもの)

(3・2) {9・6)

q5・10)q2。8)

提示②

提示③

図3−2.Aクラスにおける提示の様子

提示④

舩ていない

(嚴ていないもの)

(3・1) (5・3)

(7・5) (8・6}

(4・2) (8・4)

qO・5) (6・3)

図3−3.Bクラスにおける提示の様子

Aクラス:「似ている」と「似ていない」の問に整列可能な差異のある提示として,似て      いないものに「部分一部分」に関して「2倍・1/2」の関係にある数値を提示      した(提示②・提示③)。

Bクラス:「似ている」と「似ていない」の問に整列不可能な差異のある提示として,似      ていないものに「差が2」の関係にある数値を提示した(提示②・提示③)。

     ただし,提示③の後,Aクラスと同じ,「部分一部門」に関して「2倍・1/2」

     の関係にある数値を提示した(提示④)。

 なお,類似探求授業による実験授業では,似ている理由を考えることを通して,割合の 考え方を構成させるため,基にするものと似ているものに,「部分一部分」に関して,「2 倍・1/2」の関係にある数値を提示し,似ていないものに「部分一部分」に関して,「3/2

・2/3」の関係にある数値を提示すると,似ている理由を直観的に判断できる「部分一部 分」に関して,「2倍・1/2」という類似性にだけ着目し,似ていないものを提示する意 味がなくなると考えられる。したがって,「似ていない」の提示をヒントにして,「似て いる」の提示に共通する割合の類似性を認知させるため,基にするものと似ているものは,

「部分一部分」に関して,「3/2・2/3」の関係にある数値を提示した。

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