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監督付任意代理制度(現行任意後見制度)

第2章 意思決定支援法

第3節 監督付任意代理制度(現行任意後見制度)

第1 総論

意思決定支援法の下において,特定の個別的な事柄について精神上の障害により意思決定に困難を 抱える人が,周囲の支援者から支援を受けても意思決定ができない場合には,当該事柄についての代 理・代行の場面に移行することになる。このことは,本人があらかじめ特定の人物に,そうした場面 における代理・代行を委ねるという仕組みの存在を否定するものではなく,そうした仕組みは自己決 定の一つの発現として,当然に認められるべきものである。

現行制度の下においても,本人の自己決定を尊重する趣旨から任意後見制度が設けられているが,

実際の利用件数は予想されていたほど多くない。そして,現行の任意後見制度については,次に述べ る問題点も指摘されている。

・財産管理の主導権を握ろうとの意図の下,判断能力が低下した本人に,内容をきちんと理解させ ないまま任意後見契約を締結させてしまう(即効型の場合)。

・本人の判断能力が低下したにもかかわらず任意後見監督人による監督を避けたいがために監督人 選任申立てが行われず,本人が放置された状態が継続してしまう(移行型,将来型の場合)。

そこで,本法において現行の任意後見制度を再構築するに当たっては,こうした問題点を改善する 仕組みが必要となる。なお,本法では現行任意後見制度と区別する意味で,「監督付任意代理制度」

との名称を使用する。

第2 制度概要各論

1 契約の方式・形式

監督付任意代理制度は,本人が行うべき意思決定を第三者に委ね,第三者がこれを代理・代行す ることを内容とするものであるため,委任もしくは準委任の一種であって,任意・代理の一種であ るとの位置付けになる。

一般的な任意代理においては,代理人の行為について本人による監督・是正が期待可能であり,

実際にも本人が監督・是正している。しかし,監督付任意代理契約においては,任意代理人が権限 を行使する場面では,本人は精神上の障害により支援を受けても意思決定ができない状態,すなわ ち本人による監督や是正を期待しがたい状態にあることから,本人の利益保護のために,一般的な 任意代理とは異なる仕組みが必要である。

そこで,監督付任意代理契約の締結は,現行の任意後見契約と同様に,公正証書の方法によらな ければならないものとする。そして,監督付任意代理契約の作成に携わる公証人に,契約内容につ いての実質的審査権を認めるべきである。

すなわち,現行制度では公証人には契約内容についての実質的審査権がないため,契約内容が本 人に不当に不利益を及ぼすおそれがある場合,公証人はその旨のアドバイスはできても本人がその アドバイスに従わない場合には,そうした内容の任意後見契約公正証書を作成せざるを得ないとの 問題点が指摘されている。

そこで,監督付任意代理契約では,公証人に同契約の内容についての実質的審査権を与え,一定

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の場合には公正証書の作成を拒否することができることとし,監督付任意代理契約の発効場面にお いて本人に不当な不利益が及ばない様,本人の利益を擁護する役割の一端を担ってもらうべきであ る。この点については,2009年に日弁連が示した「任意後見制度に関する改善提言」でも述べてい るところである。

2 監督機関への登録・嘱託

現行の任意後見制度においては,公証人は,任意後見契約公正証書を作成したときは,登記所に 任意後見登記の嘱託をすることを要するものとされている(公証人法第57条の3)。監督付任意代 理制度においても,これと同様に,契約締結後直ちに監督機関である行政機関に登録されるものと し,かかる登録については公証人が嘱託するものとする。

3 代理・代行事項の定め方

(1) 対象事項

代理・代行事項(以下「代理事項」という。)は,法律行為に限らず,事実行為や医療行為,

身分行為についての意思決定も含まれる。

(2) 代理権目録への記載

監督付任意代理制度は,現行制度よりも一層本人意思の尊重の理念を推し進めたものとすべき であることから,監督付任意代理契約における代理事項は,個別具体的に定められることが望ま しい。

しかし,(1)の通り,監督付任意代理契約においては日常生活におけるありとあらゆる行為につ

いての意思決定が対象行為となり得,これを逐一個別具体的に代理権目録に記載しなければ契約 を締結できないというのも煩雑である。また,後述するように代理権限の段階的付与を認めるた め,代理権目録の記載が包括的であっても,本人に特段の不利益はない。

そこで,代理事項の記載に当たっては,一定程度包括的な記載でも許容されるものとする。

4 代理・代行権限の発効

(1) 総論

代理・代行権限(以下では単に「代理権限」とする。)は,支援を受けても意思決定ができな くなった当該行為についてのみ認められる。ある行為について支援を受けても意思決定ができな くなったからといって,現行の成年後見制度の様に,当該行為を超えて広く一般的に代理権限が 認められることはない。

(2) 申立権者について

現行の任意後見制度においては,監督人選任の申立権者は,本人,配偶者,四親等内の親族又 は任意後見受任者とされている(任意後見に関する法律第4条第1項)。

監督付任意代理制度においては,任意代理人候補者への代理権行使許可の申立てに関する本人 への意思決定支援が最優先されることを大前提とした上で,代理権行使許可の申立ては,本人,

任意代理人候補者の他,本人の支援をしている者に広く申立権を認めるものとする。申立権者の 範囲を広く認めた方が,特定の行為について支援を受けても意思決定ができない状態に本人が陥 った場合に,速やかに代理権行使許可の申立てへと繋げることができ,本人の利益に適うと考え

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られるからである。なお,申立権者の範囲を広く認めると,本人の意思に反したり,適切かつ十 分な支援を受けていないにもかかわらず代理権行使許可の申立てがされてしまい,本人の利益が 害されることが懸念されるが,この点については,現行の任意後見制度と同様に,原則として本 人の同意を必要とすることにより防ぐことができるというべきである。

(3) 申立義務を認めるか

既述の通り,現行の任意後見契約においては,監督人による監督を避けたいがために,適切な タイミングで監督人の選任申立てが行われず,本人が放置される事態が生じてしまう,という問 題が指摘されている。

これは,監督人選任の申立権者が必ずしも常に本人の側にいるわけではないことから発生する 問題であるため,根本的には後見人候補者や親族をはじめとする支援者が,本人に寄り添ってそ の状態を把握し,任意後見を開始するのが適切な状態になったときには直ちに申立権者にその旨 を通知して速やかに監督人選任の申立てを行う,という支援体制を構築して解決するのが望まし い。

しかし,本法では,次に述べる理由により,明文で任意代理人候補者に申立義務を課すことと する。

すなわち,監督付任意代理契約を締結する本人の意思は,「支援を受けても意思決定ができな くなったときには自分に代わって任意代理人に意思決定を行ってほしい。」というものであり,

本人のこうした意思を合理的に解釈すると,その中には,「支援を受けても意思決定ができなく なったときには,任意代理人候補者に代理権限の行使を許可してもらうために,速やかにその申 立てをしてほしい。」という意思も含まれているということができるのではないか。そうである ならば,監督付任意代理契約の一方当事者である任意代理人候補者には,ある行為について本人 が支援を受けても意思決定ができない状態に陥っていないかどうかを見守り(任意代理人候補者 自ら本人を見守ることが困難であれば本人を日常的に支援している者からそうした情報を収集 し),もしそのような状態に陥ってしまったのであれば速やかに意思決定についての代理権行使 許可の申立てをするべき法的義務を課し,本人が放置されることのないよう努めなければならな いとするべきである。

(4) 代理・代行権限の段階的行使許可

監督付任意代理制度は,特定の行為について支援を受けても本人が意思決定できない場合に,

第三者に意思決定の代理権限の行使を許可するものであるところ,本人の意思決定が可能な部分 についてはできるだけ本人に決定をしてもらうべきであって,本人の現有能力を尊重すべく,任 意代理人に対しては,必要な事柄についてあるいは事柄に応じて段階的に代理権限行使を許可で きるものとする。

(5) 法定代理との関係について~取消権・同意権を含めて

現行任意後見制度では,権限の抵触の防止等の理由から,法定後見が開始する場合には任意後 見は終了するものとされている(任意後見に関する法律第10条第3項)。そのため,任意後見が 開始した後,本人に取消権や同意権による保護が必要になったとして法定後見が開始した場合に は,任意後見が終了してしまうため,本人の意向がその時点で断絶されてしまうという制度とな っている。

監督付任意代理では,現行任意後見制度と異なり,代理権目録に記載された事項のうち個別的