• 検索結果がありません。

意思決定支援法の制定と総合的な制度整備の必要性

第1 意思決定支援法の制定の必要性

1 統一的立法の必要性

「意思決定支援」については,既に見たように意思決定支援に関する法整備はほとんどなされて おらず,僅かに障害者基本法において,「国及び地方公共団体は,障害者の意思決定の支援に配慮 しつつ,障害者及びその家族その他の関係者に対する相談業務,成年後見制度その他の障害者の権 利利益の保護等のための施策又は制度が,適切に行われ又は広く利用されるようにしなければなら ない。」との規定が設けられており,また,障害者総合支援法及び知的障害者福祉法でも「意思決 定の支援に配慮し」という文言を用いた規定が設けられているにすぎない。

しかし,そこにも意思決定支援の理念や諸原則,具体的な支援のあり方については何ら規定され ていない。既に各地で様々な支援の取組が行われているところであるが,第1編第1章で述べたとお り,意思決定支援は多義的であるとともに,適切な支援としての指針もなく,思い思いの支援がな されている現状にある。

また,障害者基本法の上記規定では,意思決定の支援に配慮しつつ成年後見制度が「適切に行われ 又は広く利用されるようにしなければならない。」とも定められているが,第1編第3章で見たとお り,障害者権利条約は,障がい者の自律の保障のため,成年後見制度のような代理・代行の決定の 仕組みから支援付き意思決定の仕組みへの転換を求めており,成年後見制度に関する国の施策の進 め方について,条約との整合性が問われている。

そもそも意思決定支援は,障害者権利条約第12条第2項が「生活のあらゆる側面において」とす るとおり,法律行為に限定されないのはもちろん,医療行為や居所の決定,身分上の行為などの人 生における重要な意思決定が含まれるだけでなく,日常的・社会的な生活を送る上で必要とされる 場面における意思決定全般が含まれる。このような人の生活全般に関わる事柄が対象となる以上,

すべての人の人格的自律権が保障される社会を実現するためには,個別の法律で部分的に改正する 形で手当てするのでは不十分である。意思決定支援の理念,基本原則,支援のあり方,必要な体制 整備を進めるための国や地方公共団体の責務等,意思決定支援の法制度を基礎づける総合的な根拠 法を立法化する必要がある。

154

そこで,本報告書では,意思決定支援の理念を実現し,すべての人の人格的自律権の保障を図る ため,統一的な立法として「意思決定支援法」を制定し,それに基づき総合的な制度整備を推進す ることを提案するものである。

2 意思決定支援法の位置付け

意思決定支援法は,意思決定支援の基本原則や基本事項,国や地方公共団体の責務等を定め,関 連法制度を含めた法体系の要としての基本法的な性格を有するとともに,意思決定支援が尽きたと ころでは代理・代行が許容されるという考え方から,意思決定支援の延長上に代理・代行制度を位 置付け,成年後見制度はこの法律の下で再構築する。

そして,障害者権利条約における意思決定支援の原則の指導理念をできる限り反映させるため,

代理・代行が本来,他者決定として他人の領域に対する介入である点を考慮し,安易に代理・代行 に移ることや本人の意思や選好によらない濫用的な代理・代行を排除するという観点からの規制を 設ける。

第2 意思決定支援法で定める内容

1 意思決定支援の基本原則,基本事項,国の責務(第

2

章第

1

節)

第1 編で見たとおり,意思決定支援の捉え方は多義的な面があるが,共通して理解されるべき内容 も明らかになってきている。

そこで,意思決定支援法においては,関連法規の要となる根拠法として,意思決定支援の基本原則 と基本事項を定めるとともに,意思決定支援の総合的な制度整備を推進する国及び地方公共団体の 責務について定める。

本編第2章では,意思決定支援法に規定される意思決定支援の内容について述べる。

2 代理・代行における基本原則と成年後見制度の再構築(第

2

章第

2

節)

意思決定支援の尽きたところでは代理・代行による意思決定が許容されるとしても,代理・代行 が本来他者決定として他人の領域に対する介入であることからすれば,本人の意思や選好によらな い濫用的な代理・代行を排除するという観点からの規律を設ける必要がある。

そこで,本編第2章第2節において,代理・代行における基本原則について述べた上,事実行為に 関する代行決定で問題になることが多い医療同意,居所決定,身体拘束について述べる。

次に,第2章第3節章及び第4節章では,成年後見制度の再構築として,監督付任意代理(任意 後見の再構築)及び法定代理(法定後見の再構築)について述べる。

なお,現行の成年後見制度における行為能力制限(同意権留保,取消権)については,精神上の 障害によって判断能力が低下している者を属人的に区別し,一律に自己決定権を制限する点,様々 な欠格条項と結びついて差別の助長につながっている点等において,意思決定支援の理念に照らし,

大幅な改革が必要である。第2章第5節章では,この点について述べる。

155

第3 総合的な制度整備についての提案(第 3 章第 1 節~第 4 節)

意思決定支援の原則の指導理念を実現するため,意思決定支援法に基づき総合的な制度整備を進め る必要がある。

第1 編で見たとおり,意思決定支援の内容は多義的であり,様々な意思決定支援についての具体的 な制度整備や行動指針の策定等は,総合的かつ柔軟になされていくものである。

第3章では,求められる総合的な制度整備についての提案を行う。まず,全体的に必要な制度整備の 課題について第1 節で述べたその上で,意思決定支援法の整備とともに,重要な法整備の課題である 消費者被害等の経済的被害の予防・救済,虐待防止法の整備,精神保健福祉法の改正について,第 2 節~第4節で述べることとする。

156

第2章 意思決定支援法