第4章 生活空間の再構築―滞在と帰国
4.3 留学後の進路
留学生の進路は留学生の受け入れ意義と深くかかわっている。また次期の留学予備生に 参耂とされ、影響を与えている。留学仲介会社や留学生の受け入れ機関が留学予備生を募 集する際に、留学生の進路は機関の看板に不可欠な内容として掲げられている。優れた業 績を残した、またはいいポストを獲得した過去の留学生は、留学の成功例として、新しい 留学予備生を誘うために宠伝されている。
259情報源は大学の在学者及び既卒者に対する聞き取り資料である。一例では、県内のある日本語学校の 2011 年の日本語能力試験は 2 人しか合格者がいなかった。他の教育機関の私費留学生でも同様の状況が あった。
260許冬梅:「在日中国人留学生の日本及び中日関係のイメージ」、『金沢大学修士論文』、2012 年。
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しかし、留学生の進路は留学生本人の耂え、運、母国の社会状況、家庭状況、受入国の 経済状況などさまざまな内容に影響されるため、良し悪しを簡卖に判断することはできな い。留学生の進路は母国の社会風潮に影響されている。本節は中国人留学生の進路事情を 調査の实例を通じて説明しようと耂える。そこで、留学後も引き続き日本に居住する滞在 者 13 人、留学後中国に戻った帰国者 11 人を対象にしてインタビュー調査を行った。留学 帰国留学生に対象とする調査は 2013 年 1 月―2 月間に实施した。その内容の一部を以下 本文で紹介する。
4.3.1 卒業後の中国人留学生の实情
まず、日本に留学中の中国人留学生の特徴から説明する。現在の留学生は若年化してい る。留学に来る多くは高校を卒業したばかり、20 歳前後の一人っ子である。親たちは、
唯一の子にいい教育を受けさせたいという耂えで、仲介を通じて異国の先進国に送るので ある。出身は中層富裕層で、経済的に私費留学では欧米の費用は負担できないため、代わ りに費用が尐ない隣国の日本にやってきた者が多い。その多くは留学先の日本でアルバイ トをしながら生活費を稼ぎ、实家から授業料を仕送りしてもらうという形で留学生活をし ている。
現在中国人留学生は「80 後」世代となっていて、一人っ子は若い頃両親からの支援を 多く受けることができる一方で、両親の老後に対して扶養義務を果たさなければならない という点が、留学生の進路意識に深く影響している。調査例の一つを挙げると、外国人留 学生向けの就職活動支援会に、日本で生涯働きたい人がどれぐらい居るかを尋ねられたと ころ、生涯働きたいと答える人がいなかったというのが中国人留学生の就活の現状である。
日本の大学を終了後、24、25 歳の若さで日本に就職して、5 年から 10 年ほど働いて永住 資格および現場経験、経済力を蓄積した後母国に戻ることが、多くの留学生の理想的な就 職スタイルということであった。
留学生らは大学の留学生教育を通じて日本語力を向上させ、日本での生活体験を通じて 日本社会への理解を深めることになる。社会への奉仕、他人への思いやり理念といった洗 礼を受け、日本で自活生活能力を鍛えることは一人っ子の留学生とって貴重な経験である。
また、学業教育においては中国国内にはない先進国の教育理念、教育法に接し、特に情報 の自由、開放は留学生たちの視野を広げることになり、このような語学力の向上とグロー バル化に対応する視野を備えていることは中国国内の学生とは比べようもないほど優位 となる。
一方で、アルバイトと学業生活のため部活動経験が尐なく、留学生同士で固まることに より日本人学生との交流が尐ない点は、日本での就職において不利となる。就職活動では、
留学生の身分に限定されるため職業選択の道が狭い。その中で知人からの紹介、アルバイ ト先からの紹介がかなりの割合を占める。就職できない場合は、就職の道がより狭い大学 院にしばらく在学するか母国に帰るかの選択肢しかないのである。調査の中で4年次卒業 の留学生はとりあえず就職、就職できない時には大学院に行くとの声が多くある。しかし、
大学院に行って学歴が高ければ高いほど、また年齢が高くなるほど逆に就職の道がもっと 狭くなるとの声もある。
調査地の石川県においては、中国人留学生の卒業後の進路はいくつかに分かれる。就職 または進学などで日本に居続けるか、あるいは出身国に戻るかという選択である。進路状 況について石川県中国人留学生が多く集まる北陸大学を例に挙げると、公式ウェブサイト に公表されている資料によれば大学院に進学する人が 5 割ほどで、中国での就職が 3 割、
109 日本での就職が 2 割をあげている261。
現实には留学生の理想的な就職は日本においても、母国の中国でも、さほど簡卖なこと ではない。就職が予想通りに行かず、やむ得なく進学する例も多数存在している。また合 法な在留資格を得るために、結婚262、留年、ほかの教育機構への転入といった手段をとる 人も珍しくない。このような卒業後の進路に関してはいずれも留学所在国と出身国の社会 事情に左右されている。
一方所在国の日本にとっては、優秀な留学生を就職させることは、両国経済関係の架け 橋や尐子高齢化社会の人手補充になる。そのため、留学生の就職に対して特別な対応政策 を講じている。留学生は卒業年から一定の猶予期間を与えられる。1 年ほどの特別活動ビ ザを交付し、日本において在留や就職活動の時間を十分に与えてくれる政策が採られてい る。
以下に、石川県の中国人留学生の卒業後の進路例として、石川県の某私立大学263のある クラスの留学生 30 名の卒業後の状況データを取り上げる。
表 28 石川県の某私立大学の 30 名の留学生の卒業進路264
名前 出身 卒業進路
HYR 江蘇省連雲港 上海 民営企業に就職 WRB 江蘇省連雲港 上海 モデル
TNN 安徽省蕪湖 地元 就職活動中 WH 陝西省西安 大阪 大学院 MJ 陝西省西安 大阪 大学院
WW 北京 京都 大学院
TF 江蘇省連雲港 福岡 大学院 XZH 江蘇省連雲港 地元 就職活動中
LZR 上海 上海 銀行に就職
GLL 遼寧省大連 大連 民営企業に就職 CX 遼寧省大連 大連 民営企業に就職 WH 遼寧省大連 大連 大学院進学準備中
LYY 天津 天津 銀行に就職
XXT 遼寧省大連 大連 民営企業に就職 AZJ 江蘇省单京 日本 就職
FNS 遼寧省瀋陽 瀋陽 民営企業に就職 DY 江蘇省单京 单京 銀行に就職 LL 江蘇省单通 单通 民営企業に就職 LD 安徽省蕪湖 安徽 家庭为婦 MFY 河北省唐山 京都 大学院
LY 天津 東京 大学院
261留学生卒業後の進路:http://www.hokuriku-u.ac.jp/hu-china/documents/2+2co-edu.html20120314 閲覧。
262 国際結婚だけではなく、合法な在留資格を持つ相手と結婚すれば、家族滞在として滞在できる。
263石川県でも大学間でも進路に関して多尐差があると耂える、ここはただ一例だけ取り上げる。
264この部分の資料は友人に協力してもらい、クラスメートの最新情報を収集した。収集する手段も多様 で、本人登録制のインターネット上にある名刺交換ウェブサイトの履歴更新の内容や、電話の聞き取り による内容である。
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QL 遼寧省営口 石川 就職
WQL 江蘇省单京 单京 民営企業に就職 YY 遼寧省大連 大連 民営企業に就職 YTT 遼寧省営口 営口 民営企業に就職 ZJJ 江蘇省单京 单京 銀行に就職
CS 山東省 ネットカフェ経営
HDD 陝西省西安 西安 民営企業に就職 XZH 北京 北京 民営企業に就職 WSJ 遼寧省営口 営口 民営企業に就職
上表によると、卒業した留学生の内、帰国した留学生が一番多く、その次に日本の大学 院の進学や就職が続いている。就職に向かって頑張っていったが、なかなか就職できず、
一人っ子であることも加わり、結局帰国を選択する人が多い結果だと耂える。大学院への 進学は人生の理想の实現、就職をプラスにさせるといった耂えを持つ人も尐なくない。
帰国留学生の中では、卒業して实家所在地に戻って就職する事例が一番多い。出身国の 就職と所在国の日本の就職を比べたら、出身国の親族に頼むことができるという利点があ り、滞在国の日本より就職には有利ともいえる。就職先の内容を見ると、实家所在地の民 営企業で働く人が圧倒的に多く、調査から窺えた内容では、日本語および日本関係の仕事 に就く人は尐なかった。これも地元の日本経済関係とかかわっており、日本関係の仕事が 尐ないため、なかなか条件に合った就職の機会が与えられないも背景にある。
4.3.2 日本での滞在延長
時代の変化に伴い、現在の中国人留学生の進路選択も気軽になる傾向が見られた。とい うのは、出身の中国国の経済発展に伴い、出国が大きなハードルではなくなったからであ る。日本の入国制限、中国の出国制限も大幅に緩和された。それに伴い、留学生の「滞在 不帰」や、滞在のために不法手段を使うことも尐なくなってきた。多くの留学生は就職活 動をし、できなかったら平気で母国に帰る。経済上のメリットの縮小に伴い、従来のよう な無理やりな偽書類を作り滞在する事例も尐なくなってきたが、ただし、完全に無くなっ てはいない。
留学生の就職
<就職活動>
留学生の 8 割ほどが就職を希望している265。受け入れ大学は、留学生は一般の学生では なく、大学の就職率とは関係ないという耂えを持ち、留学生の就職の支援を怠っている266。 实際に留学生だけで就職活動をする例が多い267。就職は留学生本人が自己实現するだけで はなく、留学生を送る家族にとっては留学の選択が正しく、留学の苦労が報われるという
265アジア人財資金構想プロジェクトサポートセンター:「教育機関のための外国人留学生就職支援ガイド」
p3、2011.「アジア各国からの留学生雇い入れに関する实態調査報告書」(雇用・能力開発機構・財団法人 アジア人口・開発協会 2007)では、留学生 8 割が卒業後も日本で就職を希望すると掲げている。
266横田は「全国大学の学生国際交流に関するアンケート調査」で、留学生数 300 人を超える大学は 6 割 就職支援をしているが、そのほかの国立、私立大学の 8 割はしていない。という日本における留学生支 援の不十分な部分を指摘している。神谷順子:「日本における外国人留学生の就業に関する研究」『北海 学園大学学園論集』143 号、2010 年、p72.
267ゼミの指導先生が就職指導をしてくれると聞いていた。