第 3 章 私費日本留学の中間ネットワーク
3.3 留学斡旋仲介業者
3.3.4 留学仲介プロセス
留学希望者の募集
仲介会社が留学生を集めるルートには以下の 5 つがある。
ア 自立的にルート(語学学校)を作って、留学生を集める。
イ 同業の会社から人を集める。
ウ 留学仲介会社の CM を流し、希望者が直接コンサルティングに来るのを待つ。
エ 知り合いからの紹介。
オ 日本語学校に募集を出す。
この中でよくあるケースは知り合いの紹介である。現在の中国社会では、知らない人々 の間にお互いの信頼感が欠けている。コネクションを頼った紹介は目的国について知るル ートを増やすだけでなく、留学者自身も安心感が得られる。
仲介人は留学意欲がある希望者に対して勧誘を行い、仲介会社を紹介して留学する決心 を固めてもらわなければならない。国外大学の先進教育理念や公民教育を看板に市場経済
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に通用するスキルが身に着けられること、世界で留学先の認知度が高く、大学ランキング が高いこと、更に中国の受験戦争を回避し、大学入試倍率を低くさせる方法として留学希 望者を集める。例えば、仲介会社 D 社の仲介人 A さんは日本留学のメリットを留学相談に 来た W さんに、「中国の大学は世界で認知度が低い。一方で日本の大学は入試倍率が低い だけではなく、学歴が世界に通用する」と紹介していた。
更に、中国国内の大学の授業料個人負担化、学費の高騰、又は卒業後の就職難など切实 な現況と比べて、「日本に留学している学生はほとんどバイトをしている。バイト代で生 活費を稼ぎ、学費まで稼げる人も珍しくない」と説明している。バイトで学費を得るとい う方法で大学を通えること、また卒業して就職する際、帰国後外資企業で働けるなどと勧 誘する。
また、留学相談に来た人たちに日本の神秘感についても仲介会社 F 社の仲介人 S さんは 留学相談でふれ、「日本は美しい国、きれいな国である。到着するとすぐ心から好きにな る」、そして揺れている日中政治情勢に対しても「日中関係は僕ら一般民衆とは無関係で、
自己实現することが第一だ」と説明する。ビザの審査についても、仲介人は自分の手腕を 示すためにこれまでの仲介歴を留学相談者にアピールする。留学相談に来る人が必ずしも 留学目的国を確定して相談に来るわけでもない。ただ「出国」の耂えを持つ相談に来る人 も尐なくない。その際、仲介人は自分の説得に力をかけて留学生を誘う。
仲介が対象とする留学予備生
筆者は調査期間内に、複数仲介会社の 30 名ほどの日本留学予備生と付き合い、留学予 備生家族を観察、インタビュー調査を行った。しかし調査対象者の留学予備生と長い付き 合いによる信頼関係はなく、調査には難しい面があった。留学にかかる出費は一般家庭に とってかなり高額な支出である。その費用は一般家庭の給与収入では賄えないほどの額で ある。そうなると、留学費用の出所はどこかという問題と関係してくる。中国は未だ私有 財産に関する法律が不十分で、法律的にはグレーゾーンの収入が存在する。調査対象者は 筆者の調査に抵抗感を持っており、また微妙な問題であるため付き合いの長くない筆者を 警戒する。しかし時間が経つにつれて調査対象と信頼関係を築き、費用の捻出についても より確实な情報を収集した。取材対象は日本への留学予備生である。仲介対象の留学生予 備生は以下のように分類できる。
ア 出身家庭は経済的にみると富裕層。若者文化に魅力を感じており、日本留学を希 望する。
イ 出身家庭は経済的にみると資金が負担できる中間層。目的国を問わず、先進国の 教育を受けることを希望する。
ウ 日本に親戚や知り合いがいる学生。社会人になっても進路が見つからず、国外に 行く。この人たちは日本の情報を多尐持っており、日本に憧れているものの渡航手段を手 に入れることができていない。観光ビザの申請にも困っている。
山西省の留学仲介会社はほとんど省都の太原に集中している。留学仲介会社 Z 社の仲介 人社長 Z 氏は、「必ず良い高校があるところ」に仲介会社の出張所を作る。良い高校には 学力と経済力のある高校生が集まっている。仲介会社が狙っている募集対象は経済能力を 備え、かつ学力がある学生だが、このような条件を満たす学生は良い教育資源の集中して いる中心都市にしかいない。優秀な高校生は国内大学の教育内容に不満があり、国外の大 学を目指す例がしばしばあるが、仲介を経由して国際トップクラス大学に行く例は珍しい。
経済、学問両面に優れた留学希望者は、仲介を介す必要がないからだ。
实際に仲介が対象としているのは、留学希望者の出身学歴が高校生、高校新卒生、専門
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学校卒業の社会人、短期大学在学生、四年制大学卒業生である。このうち、高校卒業生(職 業高校を含めて新卒、一浪)と短期大学生(在学、卒)が最も多く、その次に専門学校(卒) である。4 年制大学や高校在学生は尐ない。高校卒業生の中に大学進学試験に 4 年制公立 大学の点数「第二ライン」217を満たさず、私立大学にも行きたくないため、仲介を通じて 国外の大学に進学する者もいる。留学希望者の年齢は高卒年齢より 2、3 歳上で、20 歳前 後である。
高卒の日本留学希望者が、国内の大学を出ても就職できないことを心配している。両親 は「留学に行かせて少なくとも外国語を身につければ、それも一種のめし食う技能だ」「専 攻は簿記を勉強させたい、いつでも役に立つから」(男性 個人経営者 40 代半ば)、あ るいは「新聞記者の収入がいいから、新聞記事の専攻を勉強させたい」(男性 教師 40 代後半)と就職希望先と選考を結びつけて考える傾向にあるが、「権力者の子どもがみん な出国したから、留学に行って人脈を広げたほうがいい」(男性 経営者 40 代後半)と いう就職以外の考えもある。またその他の留学理由として「中国の教育内容は信用しない」
「環境汚染していない、食品安全の世界に行かせたい」(男性 教員 40 代後半)などの 声も聞かれ、中国社会への不満も伺える。
一方、留学予備生自身の考えが単純かつ幼稚な場合もある。「友達が留学のことを自慢 している、私も行きたい」(女性 高卒 19 歳)「日本に遊びに行きたい」(女性 高卒 20 歳)「日本のアニメが大好き」(男性 高卒 19 歳)。職場に何年か勤めて、職や生活に不 満を持ち、留学するケースもある。「人生、少なくとも一回は外国に出て見聞を広げたい」
(男性 会社員 29 歳)として留学仲介に相談するケースもあるが、「大卒して、何年か 働いたが希望が見えなくて、留学を通して挑戦してみたい」(男性 会社員 27 歳)、経 済的な面から単純に「出国して稼ぎたい」(女性 会社員 28 歳)などの考え方もある。
これらの考えに対して、留学仲介業者はその人との会話を通じて、個人の経済能力や学識 能力などで選別し、相談しながら留学仲介作業を進める。
留学と進路に関する考えの一例として、下記のケースを紹介する。
ケース:HFJ は 1992 年生まれ、現在、東京にある私立大学の女子留学生である。
2012 年 4 月仲介会社を通して来日し、東京の日本語学校に入学した。その 1 年後、東 京の私立大学 1 年生として入学した。
両親ともに山西省の大手国営企業の西山鉱務局に勤めている。西山鉱務局は大手国家企 業であるが、近年石炭資源の減少や石炭市場の低迷などにより、利益が減少している。
HFJ は小中高ともに西山鉱務局の付属教育機構で教育を受けた。HFJ の父親は HFJ さんに 医学を習わせ、鉱務局に就職させたいと考えていた。鉱務局は内部の職員家族のために就 職プランをたてており、それは父と母のどちらかが定年前に子供と交代するという計画と なっている。西山鉱務局の職員の子弟のうち、就職ポストを待つ人が、もう 3,4 千人ほど 溜まってきた。そのうち、女子の就職ポストは男子より少ない。男子なら地下の炭鉱に入 らせることが(石炭を掘る作業)、比較的容易だからである。また現在、就職するには交際 費用 10 万元ほどを使わなければならない。また、ポストを得ても、辺鄙な炭鉱に送られ ることもあるので、本社地勤務に変更してもらうには、その上 10 万元ほどの交際費用が 必要である。彼女の父親は、彼女の就職と勤務地変更のために、20 万元の貯金を貯めて いた。その資金は彼女の将来のために貯めたものなので、使用の主導権も彼女に任せた。
結果的に彼女はその資金を日本留学に使用することになった。
HFJ さんは大学を卒業しても、続けて大学院で学びたいと思っている。就職先を探すと
217中国の大学入試の全国統一試験結果を受けて大学を選ぶ際の基準の一つ。「第一ライン」と「第二ライ ン」がある。成績が「第二ライン」に達していなければ、私立大学と短期大学にしか進学できない。