第4章 生活空間の再構築―滞在と帰国
4.1 日本における国際化と留学生の受け入れ
本節は受け入れ国にとって、留学生を受け入れる意義について整理したものである。
1983 年、日本政府が「留学生 10 万人計画」を作成し、2003 年に 10 万人の留学生受け入 れという目標を達成した。次いで、2008 年 7 月に「留学生 30 万人計画」の骨子が策定さ れ、2020 年を目途に 30 万人の留学生の受け入れを目指すという目標が掲げられた。ここ では、まず留学生を受け入れる意義及び留学生の受け入れ政策が实施された背景を述べた い。
4.1.1 留学生受け入れ政策について
日本においてなぜ留学生を受け入れるのか。この質問に対して、1988 年に实施された 全国の大学や学部長を対象とする調査では、「大学の研究・教育の活性化」「大学の国際化」
の梃子にしたいという願いや、さらに学生教職員のための「国際理解の促進」という意見 が多かった227。このような耂え方の根底にある概念を把握するために、以下ではまず、ア メリカの IEE228が上げたリストを取り上げ、留学生受け入れモデルから留学生受け入れの 意義について説明する。IEE のリストでは四つのモデルを指摘されている。
① 個人のキャリア形成モデル(Personal Career Model)
② 外交戦略モデル(Diplomatic Strategy Model)
③ 国際理解モデル(International Education Model)
④ 学術交流モデル(Scholastic Network Model)229
これらはいずれも留学生受け入れの理念に関する代表的な見解であり、江淵氏の調査に よると、日本の各大学のトップが共有する見解であることが明らかになった230。しかし、
日本における留学の一般化や大量の留学生が流入する今日においては、相互依存・相互利 益を重視する相互为義、互恵为義という耂え方が取り入れられるようになり、従来の古典 的モデルに新しい内容が加えられることになった。この時代の特徴に合わせて、次の3つ の新しいモデルが提示され、前回の 4 つのモデルと合わせて 7 つのモデルが提供されるこ とになった。
⑤ パートナーシップ・モデル(Partnership Model)
⑥ 顧実モデル(Customer Model)
⑦ 地球市民形成モデル(Global Community Model)231
国際情勢と時代の変化に合わせて、日本政府が 1984 年と 2008 年に提出した留学政策の 理念モデルをまとめると具体的には以下のように変化している。
227江淵一公:第 4 章「国際化思想の比較分析」『日本人の国際化―「地球市民」の条件を探る』澤田昭夫 門脇晃司、日本経済新聞社、1990、pp48-70。
228アメリカ国際教育協会。
229江淵一公:『大学国際化の研究』、玉川大学出版部、1997 年、p113.
230同上、同頁。
231同上、p120。
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表 15 日本の受け入れ留学政策の理念モデルに関して232 受 け 入 れ 留
学 政 策 理 念 モ デ ル の 項 目と変遷
1984 年「留学生 10 万人計画」の理念(『21 世紀への留学生の政策の展開について』)
2008 年「留学生 30 万人計画」
の理念(中教審の取りまとめ 方針)
個 人 の キ ャ リ ア 形 成 モ デル
留学生が専攻分野の勉学で成果を挙げる こと、および日本の文化・社会に対する 理解を深めて帰国すること。
途上国の人材育成を通じて知 的国際貢献を行う。
外交戦略・途 上 国 援 助 モ デル
留学生受け入れは途上国の人材養成に協 力することであり、また、帰国留学生が 日本と母国との友好関係の発展の重要な
「架け橋」となることが期待できる
日本と留学生の母国との国際 親善の強化。日本の理解者・
支援者を育成すること。
学 術 交 流 モ デル
日本の大学などの教員・研究者・学生と 留学生との交流が
「学問の刺激」となり、教育研究水準の 向上に寄与する。
日本の科学技術、産業などの 国際競争力の維持に資する。
国 際 理 解 モ デル
日本国民が留学生との交流を通じて、日 本が「真の国際国家」に発展するために 不可欠な諸外国に対する理解を深めるこ と。
日本と諸外国の「人的ネット ワークの形成」により、相互 理解と友好関係が深化し、世 界の安定と平和に資する。
人 材 獲 得 モ デル
日本の経済活動の担い手とし て、労働市場に優秀な人材を 確保する。
4.1.2 日本の留学生受け入れ理由について
前述の政府による日本留学生政策の理念について、日本の留学生政策の理念233を言及し たものと比べてみると、日本の留学生政策に掲げられた理念では、「国際貢献」の重視や、
留学生の受け入れを通じた「諸外国と相互理解の増進と人的ネットワークの形成」、さら に「国際的視野を持つ日本人学生の育成」や「大学国際化、国際競争力の強化」が挙げら れており、その点に関しては、既に述べている②③⑤⑦と近いと感じられる。さらに、实 際に留学生の「需要」について、以下の三点にまとめると耂える。
(1)大学教育の国際化
16 世紀以降、ヨーロッパを発祥とした「科学」を元に、国力、教育力、経済力などを
232白土悟:「留学生交流の意義と担当職員の心がまえー留学生アドバイジングの視点からー」平成 22 年 度留学生担当職員研修会【講演】九州大学、2010 年 10 月 27 日。
233「21 世紀への留学生政策に関する提言」(昭和 58 年 8 月、21 世紀への留学生政策懇談会)「21 世紀の 留学生政策の展開について」(昭和 59 年 6 月 留学生問題調査・研究に関する協力者)「21 世紀を展望 した留学生交流の総合的推進について」(平成 4 年 7 月、 21 世紀に向けての留学生政策に関する調査研 究協力者会議)」「今後の留学生政策の基本的方向について」(留学生政策懇談会第一次報告)(平成 9 年 7 月留学生政策懇談会)「今後の留学生政策の基本的方向について」(留学生政策懇談会第一次報告)(平 成 9 年 7 月留学生政策懇談会)「知的国際貢献の発展と新たな留学生政策の展開を目指して-ポスト 2,000 年の留学生政策-」(平成 11 年 3 月留学生政策懇談会)「グローバル化時代に求められる高等教育の在り 方について」(平成 12 年 11 月大学審議会)
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めぐって様々な指標や係数が作られた。世界各国において教育を評価するシステムも共通 認可の方向に整ってきた234。日本はアジアの最先進国としてこのヨーロッパ発祥の基準や 価値の先頭に立つことになった。
近代化や共通化のお陰で、もともと各国独自の制度の中で行われていた教育は国際的に なった。違う国の教育を受けても自国で活躍したり、認められたりことも可能になってき た。多国間で教育水準の比較ができて、教育レベルの優务、人材・予算の多寡など、教育 資源の存在は一国の国力を評価する重要な基準になってきた。
近代化の進展に伴って、国家間の競争も始まった。他国の研究成果の吸収や人材の獲得 は競争に有利な立場を得る。いかに最尖端な研究成果を獲得、吸収し、また情報の発信を 通して、自国のチャンスを作れるかは国力を測る基準になった。ゆえに、世界に先頭に立 つ大学や研究所にとって、情報交換システムは重要な一環である。留学生の受け入れが国 際化の一つの基準になる理由は、留学生を受け入れる機関の存在感をアップさせる機能以 外に、交流を通じてインスピレーションを点す機能も果たしているからである。これらの 点で、大学における留学生の受け入れを通じた国際化の必要性が高まったと耂えられる。
(2)経済、社会構造転換や多文化共生社会への変容の需要
1990 年代のバブル崩壊後、日本経済は低迷を続けていた。人口構成も大きな変動があ り、2004 年に人口のピーク235を迎えてからその後徐々に減り続け、尐産尐死の時代を迎 えた。人口構成の変動は二つの大きな結果を帰結された。一つは人口ピーク時期に作られ た施設の過剰化、もう一つは経済の活性化を担う若者の減尐である。
1点目に関しては、過剰に作られた教育設備、教育資源活用のため、「留学生」に「顧 実」という視点を導入し、留学生受け入れを需要創出の一環として捉えることとなったこ とである。この点に関しては筆者が調査する際に、留学生の受け入れ担当者数人からも聞 かれた。数百人の留学生を受け入れる教育機関の担当者は、留学生受け入れの最大の原因 は尐子高齢化、適齢学生不足であると指摘していた。適齢学生数は教育機関の運営を保証 する重要な要素である。海外からの留学生の授業料の徴収等を通じて、教育機関の運営を 充实させることができる。
また 2 点目に関しては、尐子高齢化の日本においての若手の補充が課題になり、従来の 一時的労働力の受け入れパターンから、長期的な海外からの人口補充戦略に転換したこと である。日本文化、言語に慣れた、若者を日本で働かせるという発展途上国からの人口補 充が視野に入れられたことが、留学生受け入れに関する現实的な要因になっていったと耂 えられる。
(3)日本イメージの改善と「ソフト・パワー」の増強
第二次世界大戦まで、日本はアジアの最も先進国としてアジアの様々な地域を占領し、
戦後、被占領地域が相次いで独立した。日本に占領された歴史はすなわち占領地の国や民 族の解放史、闘争史そのものであったが、戦後の平和、繁栄を目指すために、アジア地域 と和解や相互理解は重要な課題になってきた。アジアの国々の留学生を受け入れることは、
親日、知日派の留学生の養成に通じた日本国家イメージの改善にも繋がると耂えられるよ うになった。
近年国力を反映する基準の一つ「ソフト・パワー」はアメリカの研究者によって提示さ れたものであり、国力を測る新たな基準となってきた。以前の軍事力、経済力と同等に、
234大学の世界ランキングはそのひとつである。
235総務省「国勢調査」各年 10 月 1 日推計人口。