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産業上の諸問題と本研究の応用

 汚損付着生物の産業上の問題は,防除,未利用資源としての利用,養殖生物及び漁場の 管理上の問題,付着生物を指標として利用すること等に分けて考えられる.

 防除問題については,特に被害の大きい船舶と海水利用工場の水路内汚損がある.これ らでの基本的な防除に対する考え方には,有効で実用的な有毒物質:とこれの適用技術の開 発という共通性がある.そうしてこの際の生物学的研究は,これらを側面から援助する役 割をなすものである.

 未利用資源として付着生物を利用するには,まず水産業に関連した利用方法が考えられ  る.養殖生物の汚損付着生物については,谷田等Sのは付着生物が付着することでカキ

の成長が良くなった例を報告しているが,むしろ養殖業の被害となっている場合が多い.

養殖漁場では船舶や海水利用工場とは異なり,有毒物質を利用して付着生物を防除できな いことが多いので,有用生物と加害生物が共存しながらも後者による被害を最小にとどめ る方策を考える必要がある.このためには群集生態の資料を必要とするが,この方面の研 究は現在ではまだ有効な知識を提供するまでに進んでいない.むしろ真珠養殖漁場では,

付着生物を機械的に簡単に除去する方法の開発が現実的であると考えられる.

 付着生物の群集生態学的研究成果の直接的な応用の一つとして,指標付着生物群の利用 があげられる.

5−1  防

 付着生物の被害の大きい船舶と海水利用工場とで防除対策上の差となっている点は,有 毒物の使用方法,付着場所の環境や構造,主な加害種等が異なっていることである.

 現在我国では,海水利用工場においては火力発電所で防除研究がかなり積極的に行なわ れている.ここでの主な加害種はムラサキイガイであり,防除法として塩素注入法がとら れているが,その効果は大きくないといわれている26・5■).この問題について,馬渡等51)

は当面の対策として冷却海水水路機構の改善を提案している.

 本論丈ではムラサキイガイの防除問題を直接取扱ってはいないが,第2章の破滅の生態 に関する知見は防除対策の基礎的資料の一部になると考える*.

 船舶や海水利用工場におけるよりも産業上の重要度は低いが,第2章までの結果から考 えられる防除対策の二・三をあげる.

 付着微細物と付着生物との関係では,前者の量が少ない時は付着生物の幼生付着に有利 となり,量が多くなると付着を妨げる.付着微細物が付着ヌタである場合は基盤面の組織

海産汚損付着生物の生態学的研究 89 や吸水性の違いでヌタの付着量が異なる.付着ヌタの初期付着をおくらせるには,網やロ ープ類は短繊維性のものよりも長繊維のものを,植物性繊維よりも合成繊維のものを使 用する〆のがよい.沿岸漁業や養殖業で短繊維よりなる網やロープまたは藁綱を使用する 際には,コールタール染にして表面を滑らかにし,また吸水性を低下させて使用するのが 付着ヌタの付着をおくらせることになり,この点からでも付着生物の付着防止の一助とな

る.これとは逆に付着ヌタを早期に多量に付着させ,この被膜で付着生物や穿孔性動物の 付着を妨げることも考えられる.貯木場においては可能なことではないかと思われる.

 長崎湾や佐世保湾で調査した灯浮標の管理上の問題についてみると,カンザシゴカイ,

特にカサネカンザシの多量に付着する水域では,交換浸漬期を秋から春の間にすることで カサネの付着量を最小にとどめられる(第2章).例えば佐世保港内では,カサネの付着 量を初夏から夏に浸漬した灯浮標におけるよりも減少させ得るなら,浸漬期間を現在の2 年以上に延長しても著るしい浮力の減少はないであろう.またカサネ付着量が少ないと交 換作業は容易になる.『佐世保湾東部水域ではカサネと共にホヤ類も多数付着し,ここでは 港内とは付着生物群の遷移状態が異なり,3年以上浸漬しておくと固着性貝類が増加する.

この場合にはカサネよりも貝類の付着が管理上では問題となろう.それ故,浸漬期間を3 年以内にしておくのが生物除去作業上からは有利である.また3年以内で交換するのであ

るなら,シロボヤの死亡期の5〜6,月に交換作業をおこなえば,カンザシゴカイ群はシロ ボヤの死で崩壊しているのセ作業は比較的容易である.

5−2  未利用資源としての利用

 古くからの利用法として農作物の肥料としての利用があるが,近時ではかかる需要は著 るしく減少している9■).

 現在積極的な利用はみられないし,またかかる研究もおこなわれていない.しかし将来 期待がもてる利用法に水産業における餌料としての利用が考えられる.現在かかる利用の 実例は多くないが**,一例をあげると長崎県戸石漁協では蓄養マダコに附近の真珠養殖漁 場にあるムラサキイガイを餌:として与えている.しがしここでの恒常的な餌はアジや小魚 の切身で,ムラサキイガイは日常の餌料計画の中に入っていない.これには採集労力の問 題が解決されねばならないが,蓄養責任者は魚類よりも貝類を好むという.

 天然でも付着生物は魚類に捕食されているので60),魚の餌として利用できる.例えば 付着生物の生体または乾燥物を釣の撒餌にしたり蓄養魚の餌として利用することが考えら

* 防除対策上重要と考えられるムラサキイガイの生態には次のようなものがある.滑面や気泡が   常に当る場所には付着しがたい,幼貝は付着後もかなりの移動力がある5■).水温が280C以上   では付着貝は死ぬ9■).我国の中部以南の沿岸では,産卵期及び付着期は秋から初夏にかけて   である(第2章)。この他にも,ムラサキイガイを捕食する巻貝(ParPura eapillas)62)や寄生   Copepoda(Mits・licolαintestinalis)52)が知られている.またイソギンチャク年上には付着し   難いことが報告されている5■).防除の一方法として,天敵利用や害の少ない生物により付着   を阻止する方法も検討してみる必要がある.

**皮ハギ,フグ類の蓄養で真珠養殖漁場の付着生物を餌として好成績をあげている業者がいると   いわれる(内海区水話談). 佐世保市ではムラサキイガイをブタの餌として利用することを考   えている.

梶 原

第40表  佐世保湾附近の真珠養殖漁場における付着生物を指標とした

漁場数

5 6 2

(付着生物を指標とし売)

内 溶性

中強内湾性

中内湾性 町内野性

貝,籠の付 着生物の量

(5〜11月)

大中小

 貝

死亡,率

 (%)

18tv20

18 一23 18 一20

貝  の  大  き  さ

馨m嘉)!聲m醤)黙劇)!重(9)量感量

79rv83 80tv87

84 一85

72 一74 74 一77 77 一78

27 w28 28 一29 28 一29 

68 一74 73一一80 76 s」84

4.2・v5.1 5,2・v5,8 5.0〜5a5幽

れる.かかる餌としては多毛類,貝類,Amphipoda, フジツボ等が利用できる. また AmphipodaのGammaridsは魚やタコ・イ売類の幼若時の餌として利用できよう.

Gammaridsの大量採集には筆者がおこなった漁網浸漬が簡単でしかも有効な方法である.

5−3  養殖漁場の管理上の問題と付着生物を指標とした真珠養殖漁場の価値判定  九州北西海域の真珠養殖漁場では,カンザシゴカイの多い漁場は,付着ヌタも多いのが 普通である.かかる漁場では養殖籠は横型より1も縦型のを使用する方が付着ヌタの沈積量 が少なく.なるであろう. またカンザシゴカイの付着量の大きい初夏から秋では,これを麦 柱としてヌタの沈積が急増す・る.このために付着生物の除去は,この時期には1ヵ月に1 回の割合でおこなわないと付着ヌタにより貝が死亡するようになる.またシロボヤの多い 真珠養殖漁場では,これが多数付着している場所は初夏と夏から秋にかけてのシロボヤ の死亡期にはかなりの腐敗臭がしている.このため,この時期にはかかる場所附近に養殖 貝をおくことは避けるべきである.

 環境変化の指標として,工場排水による汚染拡大域を潮間帯生物を指標として測定した 例がある44).常時浸水帯の付着生物もかかる指標生物として利用できる.

 伊藤等2のは魚礁の付着生物は効果判定の好資料となるという. しかし付着生物を指標 として利用する意義は,これを魚礁効果を最大とする漁場を選定するための資料とするこ とにある.しかしこの段階まで研究は進んでいない.

 筆者は付着生物群を真珠養殖漁場の価値判定の指標に利用するための基礎的調査を溶こ なった.調査は1958年から1960年にかけて,・.佐世保湾附近の13漁場でおこなった.今回は・

予備調査であったので,付着生物群を指標とした各漁場の内湾度の違いにより,貝の成長 度や珠の品質に差異があるか否かを確かめることを目的とした.

 漁場の内湾度は第4章の内湾性指標付着生物群を基準にして,各漁場の筏や貝及び籠の 付着生物群により決定した.

 試験貝として同一漁場で飼育した大きさの等しい貝(殻高60mm,殻長54mm,殻巾

20mm,重量30,19)6,570個を使用した.1958年5.月5日より5月21日の間に,同一一方 法で同仁施術をおこない,各漁場に同数当配布し,各漁場での管理条件を同じにして養殖

した.冬期には同じ避寒漁場に避寒した.この間,貝掃除は1958年6月から同年12月まで,

1959年5月から同年12,月まで毎月1回おこなった.1960年2,月に各漁場の試験貝を1ヵ所 に集め,漁場別に貝.の死亡率,貝の大きさ,珠の良否の割合,珠の色の割合,珠価格によ

***珠の検査は:専門業者がおこなった.

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