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第4章
論 議 及 び 考 察以上の結果についての論議と若干の考察をおこなう.
4−1
付着ヌタと付着生物との関係付着微細物(Slime)と付着生物との関係は,基盤の浸漬初期と浸漬期間がかなり経過 した後とでは,両者の関係が異なる場合がある.
従来,主として論じられたのは,両者の関係中で浸漬初期の微細物がfilm状である時に おける幼生付着との関係であった.基盤が浸漬されると,生物が付着する前に基盤上には Slime filmが形成される.ZoB肌L等98)によると,これは基盤面の性質を物理的化学的電 気的に変え,またこれが幼生の餌料ともなって,幼生の付着を助けるとしている.しかし MILLER等54)は塗装板ではSlimeと塗料の基質成分との関係で,幼生の付着を促進させ たり,逆に阻止する場合もあることを述べている.だが,一般にはSlime filmは幼生の 付着に有利に作用すると考えられている*■5・9の.
浸漬期間が長期間となり,付着微細物がBacteriaや付着性Diatomを主体として,
かなりの量になると生物の付着を阻止する77・9■).船底や水路内ではこれは防除の役割と なるが,養殖業では被害となっている.
崎辺浦で実験した網の場合のように,Detritusを主組成とする付着ヌタでも生物の付着 に有利に作用したとみられる場合がある40). また網では生物の付着が始まると付着ヌタ
* Slimeの作用と同時にカキやフジツボの幼生では,幼生の付着時における群居性によっても付 着が促進される42).
の形成は,海水中のDetritusの量よりも付着した生物の種類や量に左右される.浸漬当 初の1カ,月間では生物はヌタ付着を助長するが,2ヵ月以上になるとむしろ阻止的な作用 をした.初期での助長作用の大きいものに,棲野性のAmphipodsがある.これはヌタを
tubeの材料としていることにより,この作用が大きい,またかかるAmphipodsはヌタを
固着させる作用も大きい.BARNARD■)は濁度が大きく, しかも充分な溶在酸素のある内湾では棲管性Amphipodsと管を作らない多毛類が代表種となり,これらによって作ら れた厚いtubeやヌタの層は他の付着生物や穿孔性動物の付着を阻止するという.貯木
場では,検討されてよい現象である. しかしヌタを固着させるAmphipodsの作用はノリやワカメ漁場では被害をもたらすことがある24).
濁度が大きくしかもカソザシゴカイの多い水域では,水平に浸漬した板上に多量のヌタ が沈積する.九州北西水域ではこのような内湾域も真珠養殖漁場としてかなり利用されて いる.かかる漁場では縦型籠が横型籠よりもヌタによる被害は少ないであろう.また貝掃除 は初夏から秋のカソザシゴカイの成長の旺盛な期間には,1カ,月間に1回おこなうのが望
ましい.これはカソザシゴカイの除去と同時にヌタ沈積による被害を防ぐためにでもある.
湖沼の付着微細物について研究したNEwcoMBE67・68)は,湖沼では付着量はSeston
量に比例し,その有機物量は水塊の生産力と相関するとしている.しかしこれらについて は,海ではかなりの問題がある.まず付着量がSeston量に比例するのは,生物の付着しな いごく短期間の浸漬の場合と考えられるが,板状基盤では付着物の流失があるので,流失 の少ない短繊維の吸水性の大きい糸で作った目のあらい布を使用することが考えられる.しかし,第1章の結果からは,海では浸漬期間が1ヵ月以上になると基盤の種類にかか わらず,付着量がSeston量に比例することは殆んどないものと考えられる.
4−2 付着生物の付着及び生育と基盤との関係
同じ環境条件でしかも毒物塗装のない基盤上でも,基盤の性状によって生物相が異なる.
それは基盤の色や大きさ,面の組織及び浸漬の状態等が生物の付着や生育に影響するから である.この影響の仕方は生物の種類により,また発育段階によっても異なる.
付着期幼生と基盤との関係は,基盤の色による反射光の刺戟や面の剛毛状の組織による 機械的刺戟が,幼生の探索行動と関連して論じられている2・92).この両刺戟は主として基 盤の生物への働きかけをとりあげたものであるが,幼生は能動的な探索行動により硬い滑 面よりも小さな凹凸や多孔性面または繊維二面に付着しやすいことも指摘されている73).
これらの点については第2章において観察結果を示した.かかることから,付着期幼生と 基盤との関係では,幼生の探索行動の大きい種類が小さい種類よりも関連性が顕著であり,
また付着期幼生の付着とでは,基盤の色や面の組織が,基盤の他の性質よりも関連が大き いと考えられる.
さらに第2章の結果から,浸漬期間が長くなり生物量が:噌加してくると,種組成や付着量 は,主として基盤の浸漬状態や大きさ及び形により規定されている場合が多いことから,基 盤のかかる性状は生育時との関連が大きいと考えられる。
浸漬状態では水平浸漬板上面の付着ヌタと生物との関係は,この顕著な例といえる.また 試験網や板の浸漬実験で,成長に伴なって基盤面に沿って伸長するカンザシゴカイやフジ
ツボ及び塊状または板状のBryozoa等では,竹や板への付着量が網や綱におけるよりも多
海産汚損付着生物の生態学的研究 73 いのは生育過程で要求される基盤の広さと関連した現象である.またこれとは逆にシロボ ヤやコブコケムシの如く,成長時に基盤を包みこむ種類は,板よりも網への付着が強固で昌 付着量も多い.さらに海藻やフサコケムシ,ナギサコケムシ等は,竹や板では縁部に付着 量が多く,これらよりも網や綱に付着量が多いのは,基盤の大きさや形に規定された付着 場所の潮通しの良否が関係しているものと思われる.生育時には海水との接触の仕方も重 要になる.
幼生の付着期さらに付着後の生育時における基盤との関係は,産業的な研究課題として も重要であるが,基盤の凹凸や模様がカキやフジツボの殻を変形し,またそれらの殻上に 再現される現象は化石学においても興味をもたれている・■エ・83).
4−3 付着生物群集の遷移
ScHEER80)は内湾の付着生物群の遷移についてMytilusが最終的生物であるとしてい るが,その移りゆきを具体的に示していない. 河原32)は個体数の増加曲線と成長曲線を 組合せた「生態現象の解析図」により優占種の発展と消滅状態を解析し得るとしている.
しかし,この方法は遷移過程で重要な生物相互の関連を解析するには,制約があると考え られる.すなわち「解析図」は三次元となるので二種以上を同時に表現すると図が複雑に なり,さらに優占種が死後に死骸を残さないで死滅が完結するホヤ類等には適用されるが,
死後に死骸を残すフジツボ等については死骸の付着を無視した取扱いをしなくてはならぬ ことになる.星合工8・19・20・2エ)は潮間帯の付着生物群集では被覆が遷移過程で重要な役割 をなすことを指摘し,フジツボ,カキ,ムラサキイガイ等よりなる群集の発達過程を追求
し,ムラサキイガイが最終生物群の優占種となる経過を示している.
被覆は常時浸水高め付着生物群集においても,遷移の大きな要因であるが,しかし常時浸 水帯では潮間帯の場合と同様に死後に死骸の残る生物によるのみでなく,群体ボや等の死 後に分解する生物の被覆もある.また生物相互によらないヌタによる被覆もある.ここで は生物相互作用のみについてみるなら,この被覆以外にも死後分解する生物により死骸の 残る生物群が崩壊される現象も遷移過程では観察される.
河原は「解析図」の表現方式を重視し,具体例としてあげたシロボヤやフサコケムシの 死亡が他生物に及ぼす影響については殆んど言及していないが,遷移に関してはかかる作 用の二二を具体的に示すことも重要であると考える.
i.筏の付着生物群集における遷移
被覆と崩壊が遷移の要因となった例として,1960年6月に崎三浦に設置した筏の浮竹に 付着した群集の遷移経過を示す。
浮竹の直径は15cmで2/3が浸水していた.この群集は1960年末にはカンザシゴカイを 主体とした群を形成していたが,1961年7月までにはごく表層部(水深0〜5cm)と水深 5〜10cmの場所ではそれぞれ異なった遷移をした.各場所での遷移経過をまとめたのが 第33表である.
遷移の概要は次の如くであった.
0〜5cm層では1961年1月にはカサネの大型とヒトエの小型よりなるカンザシゴカイ群 に少数のシロボヤとユウレイボヤが混入していた.1月から3月の間に大型のカサネとヒ 1・エは死亡し,3月にはカンザシゴカイの重量は1月の1/2に,全重量も60%に減少した.