1 心の通う生徒指導 (1) 生徒指導のねらい
生徒指導とは、一人一人の児童生徒の人 格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社 会的資質や行動力を高めることを目指して 行われる教育活動のことです。
生徒指導は、各学校の教育課程の内外に おいて一人一人の児童生徒の健全な成長を 促し、児童生徒自ら現在及び将来における 自己実現を図っていくための自己指導能力 の育成を目指すものです。
ア 個別的で発達的な指導
生徒指導は、すべての児童生徒のそれぞ れの人格のよりよい発達を目指していま す。したがって、一人一人の特性を理解し た上で、適切に行われなければなりません。
また、生徒指導が個別的で発達的な指導を 施すことを基本姿勢にしているということ は、生徒指導が単に、児童生徒の人格や行 動上の課題、問題行動を起こす要因となる 悩みや不安、問題行動の解消だけを目指し ているのではないということです。
むしろ、生徒指導は、それぞれの児童生 徒の現状を把握しながら、より健全な発達 を図るという、積極的な指導や援助に重点 が置かれています。言い換えれば、児童生 徒が直面している様々な課題を、究極的に は児童生徒自らが解決していくための力を 育てるということです。
イ 個性を伸ばし社会的資質を高める指導 児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を
図ることは、教育の基本でもあります。生 徒指導が対象としているのは、児童生徒一 人一人の人格そのものですから、生徒指導 は、児童生徒の個性に即し、かつ具体的に 進められなければなりません。そして、児 童生徒一人一人が自己の特性を生かしなが ら、集団や社会を構成するよりよい人間性 をもち、社会に貢献できる資質や能力、態 度を身に付けることができるように「指導
・援助」することが大切です。
同様に、社会の規律や秩序を尊重し、そ れを遵守する態度や行動についての指導も 重要になります。
当然のことながら、個性の伸長を図ると いうことは、自由放任や自分勝手な考えに 任せることではありません。生徒指導は、
児童生徒の自主性、自発性を大切にしなが ら、社会性の発達を図るように進めること が重要です。そうすることが、社会の規律 や秩序を尊重し、よりよい人間性の自覚に 基づく、社会の一員としての自己実現を図 ることにつながります。
ウ 実際の生活に即した指導
児童生徒に対しては、現在及び将来の社 会の中で、よりよく自己実現のできる資質 や態度を育成していかなければなりませ ん。つまり、現在の生活を充実させるため の努力こそが、よりよい将来につながるの です。
生徒指導を進めるに当たっては、児童生 徒の実態を把握し、正しく理解しながら、
児童生徒にとって望ましいと思われる経験 や活動の場を設定していくことが大切で す。そして、児童生徒の人格形成にとって 望ましくない要因や影響を可能な限り排除 したり、軽減したりすることも必要になり ます。また、様々な困難や事態に直面しても、
自己の人格がゆがめられ、阻害されることな く、強く、正しく生きるために必要な能力や 態度の発達を助成する積極的な働きかけも 必要です。
エ すべての児童生徒を対象とした指導 児童生徒は、心身ともに成長・発達の著し い段階にあるので、特に心身の健康の維持・
増進に留意した指導が必要になります。
そのためには、すべての児童生徒を対象 として、できる限り多くの教師が関われる ような工夫を図ることが重要です。特に初 任者の教員にあっては、学級(ホームルー ム)(以下「学級」)担任、教科担任、部 活動顧問、学年主任、生徒指導主任、養護
基本編 Ⅲ 生徒指導・進路 指導・キャリア 教育・防災教育
教諭などとの連絡を密にし、児童生徒への 指導・援助に当たることが望まれます。
オ すべての教師が行う統合的な指導 生徒指導は、教育課程における特定の教
科等だけで行われるものではなく、教育課 程のすべての領域において機能することが 求められています。そして、それは教育課 程内にとどまらず、休み時間や放課後に行 われる個別的な指導や、学業の不振な児童 生徒のための補充指導、随時の教育相談な ど教育課程外の教育活動においても機能す るものです。それらは、児童生徒の望まし い心身の発達をはぐくむ中で、相互に補い 合いながらされなければなりません。
学校において生徒指導を進めるに当たって は、指導計画、校務分掌などにより、全教師が 一体となって実践することが重要です。
(2) 生徒指導の実際
生徒指導というと、非行対策や問題行動 に対する指導としてとらえられる傾向があ ります。もちろんそうした指導も生徒指導 の重要な内容ですし、学校での実際の生徒 指導に占める割合が高いこともあります。
しかし、生徒指導はそれだけにとどまらず、
むしろ積極的に、豊かな人間性や人格のよ りよい発達を目指す教育として考えられて います。したがって、生徒指導は、学校に おける日々の教育活動の中で、児童生徒一 人一人の人格のよりよい発達を目指すこと や自己指導能力を育成することをねらいと して展開される教育指導と言うことができ ます。
ア 児童生徒理解から始まる生徒指導 生徒指導は、実際の活動においては集団
を対象に展開されることが多いのですが、
最終的なねらいは、集団を構成する一人一 人の児童生徒の育成にあります。
児童生徒一人一人の学校生活を充実さ せ、人格や能力を望ましい方向に最大限に 伸ばすためには、一人一人の児童生徒の性 格的特徴や傾向を把握し、一人一人を正し く、より深く理解することが大切になりま す。それにより、指導の目標が立ち、いつ、
どこで、どのような方法で指導するかとい う指導の目安も明らかになってくるのです。
なお、児童生徒理解のためには、能力、
性格、環境など、児童生徒にかかわる様々 な資料を集める必要があります。その資料 を集める方法としては、次のようなものが あります。
(ア) 観察法
観察法は、児童生徒の行動などを観察、
記録、分析することで理解を深める方法 です。児童生徒を観察する際は、できる だけ客観的に、あるがままの姿をとらえ、
記録することが大切です。
(イ) 面接法
面接法は、児童生徒との対話や質問に 対する回答などを通して理解を深める方 法です。面接の際は、児童生徒が心を開 いて話せるような雰囲気をつくることや 児童生徒の表情、態度、話し方などにも 留意することが大切です。
(ウ) 質問紙調査法
質問紙調査法は、児童生徒の知りたい 点を質問紙にして回答させ、回答結果を 評価・分析して理解する方法です。短時 間で多くの児童生徒に実施できる利点が ありますが、質問の仕方によって回答結 果が左右される点に留意する必要があり ます。
(エ) 検査法
教師自身の作成する学力検査や、市販 の標準化された検査の中から適切なもの を選んで実施することで児童生徒理解に 役立てることができます。例えば、学力 検査、性格検査、適性検査などですが、
客観的な結果を得ることができる反面、
その結果は児童生徒の一面であることに も留意する必要があります。
(オ) 作品法
児童生徒の作文や日記、絵などからは、
喜び、あこがれ、願望、悩みなどの心理 状態を読み取ることができます。さらに、
児童生徒の人生観や世界観なども作品に 表現されることもあります。かかれてい
基本編 Ⅲ 生徒指導・進路 指導・キャリア 教育・防災教育
る内容によっては、面談の必要性が生じ たり、日々の観察に新たな視点が加えら れたりします。
(カ) 事例研究法
児童生徒の蓄積された事例を基に理解 を深めていく方法です。この事例は、日 々の観察記録、面接記録、調査結果、他 の機関などからの情報を基に構成されま す。これは児童生徒の資料・情報の共有 を通した、学校の組織的な生徒指導の促 進を目的としています。ある児童生徒に ついて、複数の教員が持ち寄った資料を 分析・検討して適切な指導を考えること になります。
イ 学習指導における生徒指導
学習指導における生徒指導としては、次 のような二つの側面が考えられます。一つ は、各教科等における学習活動が成立する ために、一人一人の児童生徒が落ち着いた 雰囲気の下で学習に取り組めるよう、基本 的な学習態度の在り方等についての指導を 行うことです。もう一つは、各教科等の学 習において、一人一人の児童生徒が、その ねらいの達成に向けて意欲的に学習に取り 組めるよう、一人一人を生かした指導を行 うことです。
これからの生徒指導においては、後者の 視点に立った、一人一人の児童生徒にとっ て「わかる授業」の成立や、一人一人の児 童生徒を生かした意欲的な学習の成立に向 けた創意工夫ある学習指導が、一層必要性 を増していると言えます。
具体的には、一人一人の児童生徒のよさ や興味関心を生かした指導や、児童生徒が 互いの考えを交流し、互いのよさに学び合 う場を工夫した指導、一人一人の児童生徒 が主体的に学ぶことができるよう課題の設 定や学び方について自ら選択する場を工夫 した指導など、様々な工夫をすることが大 切です。
ウ 道徳、特別活動における生徒指導 生徒指導は、社会的に自己実現ができる ような資質・態度を形成していくための指
導・援助です。したがって道徳教育のねら う児童生徒の価値観の形成を無視しては達 成できません。道徳的価値の内面化と日常 生活における生徒指導には緊密な関係があ り相互に補充し合うものと言うこともでき ます。
特別活動も、また、自己指導能力や自己実 現のための態度や能力を育成する具体的な場 の一つです。特に集団活動の場として重要な 役割をもっているので、特別活動の指導を行 うときは、常に生徒指導の観点をもって臨むこ とが大切です。
エ 学級担任が行う生徒指導
(ア) 基本的な生活習慣の形成と学級の役割 生徒指導の基盤は学級であり、児童生徒 に対する最もきめ細かな観察や指導は、学 級担任によって多く行われます。
問題のある児童生徒の指導をしていて 気付くことは、多くの場合、日常の生活 習慣が乱れていることです。基本的な生 活習慣が身に付いておらず、不規則とも 言える生活をしています。基本的な生活 習慣の確立は、自主性や自立性をはぐく むという、生徒指導を進めていくために 不可欠です。
この基本的な生活習慣の指導は、学級 での集団指導と個別指導のバランスをと りながら行うことが重要です。
(イ) 児童生徒の問題行動への指導 非行などの問題行動を起こす児童生徒 に対しては、学級担任一人のみの判断で 指導するのでなく、校長、教頭や学年主 任、生徒指導主任などに相談し、指示や 助言・協力を受けて指導することが大切 です。児童生徒の問題行動を一人の教師 が抱え込むのではなく、校内の教職員や スクールカウンセラー等がチームを編成 して、児童生徒の問題行動への指導・援 助に当たることが効果的です。学級担任 としては、他の児童生徒への影響に気を 配りつつも、学級の一員として、存在を認 め指導・援助に当たることが大切です。
基本編 Ⅲ 生徒指導・進路 指導・キャリア 教育・防災教育