第三章 Word Units から Multi-Word Units へ
3.4. 中間言語 とフレイジオロジー
3.4.1. 理論的背景
Pawley and Syder (1983)が指摘するように、母語話者は多くの MWUs
を記憶してい るため、正確で流暢に書いたり話したりすることができる。たとえば、この点についてAltenberg (1998)は London-Lund Corpus of Spoken English
を用いて、3語以上からな るMWUs
について分析を行った。その結果、完全節、節構成要素、不完全句の3
つの観 点から、母語話者のMWUs
の使用を明らかにした。その結果は、以下の通りである。1)
完全節完全節の中で、独立節について分析を行ったところ、機能の大半は応答であっ た(
yes I do, that’s all right
など)。また、I don’t know
やI’m not sure
などの陳 述緩和付加句も見られた。これらは、法的評言節として機能している。これらのMWUs
に特徴的な点は、語用論的に特殊化されており、特定の発話の状況に限定 されている事であった。また、多くのMWUs
は可変的で合成表現が可能であっ た。そして、拡張されて出来た変異形の方が拡張されていない中核表現よりも多 く見られた。たとえばI see
が単独で生起される回数よりも、I see
の合成表現の 方が2
倍の頻度であった。次に従属節を分析したところ、従属節は評言節(発話形式や発話内容について話 者が意見を表明する節)、婉曲的条件(丁寧性やメタ言語的意見を表明するもの)、
そして同格標識(言い直しを行うもの)の
3
つ機能に分類することが出来た。なお、評言節は
as it were, as you know
、婉曲的条件はif I may, if you like
、同格標識 はthat is to say
などである。2)
構成的要素主語の前におかれた主題要素から構成されているフレームの位置には、相互作 用的、対人関係的、テクスト的機能を持つ
MWUs
が多く現れた (and you know, well I mean, well you see
など)。主部と動詞を含む主観部には、陳述緩和機能を 持つI think
や存在を意味するthere BE
、そして伝達機能を持つand he/I/she said
などが見られた。また、サンプル内で繰り返し生起される単独的節構成要素 には、曖昧性付加句(and so on, or something like that )、緩和表現( in a way )、強
意詞や数量詞(the whole thing, a bit more )、接続表現( first of all )、時間的表現 ( at the moment )、空間表現( in this country )などが見られた。
3)
不完全句不完全句に特徴的だったのは 、
as…as
やa…of
のような、コロケーション枠が 多く見られた点であった。以上から、Altenberg は、母語話者は
MWUs
の巨大貯蔵庫のようなものを持っていて、そこから慣習化された建設ブロックを自由に使用していると結論づけた。
これらの MWUs は、第一言語習得だけでなく、第二言語習得にとっても有効であると 広く認知されるようになってきている (Cowie 1998: 1)。なぜなら、MWUsを使用する際 には処理労力をあまり要さないと考えられるからである (Schmid 2003: 255)。実際、
“good morning”の各単語は学習者によって個別に認識されておらず、固まりとして学習
され、使用されていると考えられる。つまり、各単語は既知のものから成り立っているが、その表現の使用頻度が高いために一つのかたまりとして捉えられている 。このよう な MWUsも多く存在する (Nation and Meara 2002: 36)。
言語学習には当然、高頻度のコロケーション、句、イディオムなどの MWUs が含まれ るべきであろう (Véronique 2008 : 626)。また、学習者がより流暢に話したり書いたりで きるようになるために、もし
MWUs
が有効であるのであれば、教科書に取り入れるべき である(Granger 1998: 3)。しかし、母語話者に近い言語習熟度が、さまざまな困難度や 内部構造の固定度を持つMWUs
を蓄積することによって本質的に決定するという考え方 は、生成文法に根付く原子論的見方と対立すると言える。なぜなら生成文法の考え方によ れば、言語の働きは一般的な適応可能性のある規則体系、主に最小単位で構成されている 語彙項目、そして一組の基本的な意味解釈の原理から説明できるからである (Cowie1998: 1-2)。生成文法の流れを組むように、今日もなお語彙教育は、もっぱら単語が基盤
である。しかし、特に非母語話者の教師は、言語のフレイジオロジーの側面に注意を払う べきであり、フレイジオロジーに関する研究によって効果的と認められた練習やツールを 取り入れていくべきである (Granger and Meunier 2008: 251)。中間言語研究におけるフレイジオロジーを分析するのに役立つ可能性があるのは、伝統 アプローチと頻度アプローチを組み合わせることである。まず頻度アプローチを使用し、
非常に幅広い概念から分析を出発するのが望ましい。しかし、量的手法によって確認され た全ての MWUs が有益であるとは限らない。そこで伝統的なアプローチの理論によって 補完される必要が出てくる。伝統アプローチによって、計量的単位を言語的に定義された カテゴリーに細分化することができる (Granger 1998: 3)。
しかし、第二言語習得の分野では
MWUs
の研究は目立って行われてこなかった。研究 の中心は、第二言語習得における創造的処理や規則に支配された処理の重要性や、学習者 言語の体系的特徴に重点が置かれてきたが、MWUs の側面は無視されてきた (Myles etal. 1998 : 324)。その原因の一つは、母語の研究でも MWUs
に関する明確な定義の基準が設けられていないため、中間言語研究における MWUs の分析はより困難を極めるから だと考えられる。たとえば、学習者の産出言語の
MWUs
をエラーかエラーでないかとい う区分をはっきりと行うことはできない(Nesselhauf 2005: 39)。しかし学習者言語の特徴として、Kjellmer (1991 : 124)は以下のように比喩を用いて述 べている:
(learner’s) building material is individual bricks rather than prefabricated sections ((学習者の)建築資材は、既成の部分というよりは個々のレンガから成り立っている。)
つまり、学習者言語は語の連鎖よりも個々の語として特徴付けることができる。また、
中間言語における
MWUs
の特徴として、Peters (1983, 1985)やWeinert (1995)の研究を
基にして、Myles et al. (1998 : 325)は以下の点を挙げている:1)
少なくとも2
つ以上の形態素から成り立つ。2)
音韻的にまとまっており、流暢に発音されている。3)
学習者の話し言葉における生産的パターンとは関係ない。4)
学習者の別のアウトプットと比較して、複雑性が高い5)
同じ形を繰り返したり、いつも使ったりする。6)
統語的、意味的、語用的に不適切、または特異である可能性がある。7)
状況に依存する。8)
使用は同じ学習者グループ内に見られる。さらに、Myles et al. (1998 : 327)は、学習者の
MWUs
の使用理由について、ストラテ ジーの観点からもまとめている。まず、学習者のMWUs
の使用はコミュニカティブスト ラテジーであると考えられる。つまり、学習者はMWUs
を目標言語の規則を補うために 使用している。また、生産における流暢さや処理を早めるための生産的ストラテジーとして使用される場合もある。しかし、第一言語習得研究と第二言語習得研究の両方で、三つ 目の機能について広く議論されている。それは、学習者が非分析的発話を模倣することで 文法能力が発達するという機能である。議論の中心は、学習者が非分析的発話を徐々に分 解し、新しい発話を生成する際に生産的にそれらの部分を使用し始めるのかどうか、また は、学習者は話し言葉のインプットリストの中から単に機械的に学習した発話を引き出し ているのかどうかについて扱われている (Myles et al 1998 : 327)。
語の連鎖を分析することで学習者の「外国語らしさ」や発達状況を特定することは可能 であるかもしれない。