第 1 章 先行研究の概観と問題点
2. 現代日本語のアスペクト研究の現状
2.2 現代日本語の基本的なアスペクト体系
ここで、現代日本語のアスペクト体系について明確にしておきたい。
奥田 (1977)は、「ル」、「タ」、「テイル」、「テイタ」をテンス・アスペクト形式として
認めた上で、無標形式(unmarked form)と有標形式(marked form)による相補的な対立関係を 成すテンス・アスペクト体系をまとめている。表にすると次のようになる。
<表9>現代日本語のテンス・アスペクト体系 アスペクト
テンス 完成相 継続相
非過去 ル テイル
過去 タ テイタ
奥田 (1977)によれば、現代日本語の基本的なテンス・アスペクト体系は、<表9>のように、
まず、「ル(テイル)」と「タ(テイタ)」が基本的には〈非過去:過去〉でテンス的に対立し、
そして「ル(テイル)」と「タ(テイタ)」が基本的には〈完成相:継続相〉でアスペクト的に対
24 三原 (1997: 117)は、一つの運動動詞が動作の継続も結果の継続も表す場合があるとし、奥田の動
詞二分法で「テイル」の意味記述が尽きる訳では決してないと指摘している。一方、森山 (1984: 73) は「設ける、見つける、終える」などの動詞を挙げ、“進行中の意味にならない主体動作動詞”と指摘 している。
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立する。つまり、それぞれの形式は二重の対立を成す形式として、すなわちテンスとアスペクト という文法的意味を同時に表す形式として位置づけられている。
日本語の動詞は、すべてが「ル」と「テイル」が共起し、対立を成しているわけではない。日 本語の状態動詞「ある、いる、できる」のように、ル形しか持たないものと、「優れている、そ びえている」のように「テイル」形しか共起できない動詞類がある。これらの動詞は、どちらか 一方の文法的アスペクトが欠けているため、アスペクトの対立が存在しない動詞として分類され ている。
このような状態動詞の他、もう一つ文法的アスペクトの対立を成さない一群の動詞がある。そ れは「存在する」と「存在している」のように、形式上にはル形とテイル形の対立があるものの、
意味的に完成相と不完成相との対立を成さない動詞として位置づけられる。
したがって、基本的なアスペクト体系を成す動詞とは、状態動詞と「存在する」のような動詞 を除外した運動動詞、すなわち下記のように形式上では「ル」、「テイル」を共に用いることがで き、意味的には完成相と不完成相の対立を成す動詞が該当する。
(14) それから一時間ほどぼくは乱雑な小部屋のなかで太郎と遊んだ。
〈完成相〉
(15) 枯れた藤棚の下に、ぼろを着た子供が二人でめんこをして遊んでいる。
〈継続相〉
(14)の「遊ぶ」、(15)の「遊んでいる」は、「ル」と「テイル」を用いて完成相と不完成相の対 立を成している。
以上のことから、現代日本語の基本的なテンス・アスペクトの体系を成す動詞は運動動詞に限 られる。そして、これらの動詞は、基本的には「ル」と「テイル」と共起し、完成相と不完成相 という文法的カテゴリーを表し分ける。
このように、現代日本語の不完成相(=継続相)の研究は、「テイル」の表すアスペクト的意 味と運動動詞の持つ語彙的意味は不完成相(=継続相)の解明に重要な役割を果たしているとい える。
以下では本稿の研究対象であるアスペクト、特に継続相(=不完成相)に焦点を当てて、文法 的アスペクトと語彙的アスペクトについて検討していく。
2.2.1 文 法 的 ア ス ペ ク ト 「 〜 テ イ ル 」 の 意 味
この節では継続相がどのように捉えられてきたのか、工藤 (1982)を取り上げ、見ていく。
現代日本語の継続相を表す文法形式「〜テイル」は、いくつかの意味を持っている。現在、「〜
テイル」の表す意味は、動詞の語彙的意味との関係から、大きく基本的意味〈動作の継続〉、〈変 化の結果の継続〉と派生的意味として〈パーフェクト〉、〈反復〉、〈単なる状態〉に分けられる25。
25 以上の「〜テイル」の表す名称と分類は、工藤(1995)に従ったものである。
37 2.2.2 工 藤 (1982、1995)
工藤 (1982)では、理論的な枠組みの中で「〜テイル」の表す意味について詳細な分析を行っ たことで知られている。工藤 (1982: 53-54)は、奥田 (1977)による形態論的なテンス・アスペク ト研究のパラダイムを受け継いで、「〜テイル」の表す意味を次のように5つにまとめている。
①基本的意味
(16) a. 廊下を先生が歩いている。 〈動きの継続〉
b. 玄関の戸が開いていた。 〈変化の結果の継続〉
②派生的意味
(17) a. 私達は去年の三月に結婚している。 〈現在有効な、過去の運動の実現〉
b. 私は朝日新聞を読んでいる。 〈反復〉
c. 太陽は地球から遠く離れている。 〈単なる状態〉
工藤 (1982)は、その後工藤 (1995)へとさらに発展するが、工藤 (1995)では派生的意味を中 心に豊富な実例を用いて詳細な分析を行った。その際に、上記の(16a)の〈動きの継続〉は〈動 作の継続〉へ、そして(17b)の〈現在有効な、過去の運動の実現〉は〈パーフェクト〉へと、そ の名称を変更している。
ここでの基本的意味には(16a)のような〈動作の継続〉と(16b)のような〈変化の結果の継続〉
が属しており、これらのアスペクト的意味は、継続という意味を持っている点においては共通し ているものの、何の継続であるかにおいて対立していると工藤は述べている。
それに対して、派生的意味26には、上記の(17)のように〈パーフェクト〉、〈反復〉、〈単なる状 態〉があるとし、それぞれの意味を次のように定義している。
(a) パーフェクト: 後続時点における、それ以前に成立した運動の効力の現在をあらわす もの
(b) 反復:幅広い期間において繰り返し起こる、ポテンシャルな運動をとらえるもの
(c) 単なる状態:もはや時間のなかでの展開性を問題にしなくなって、ものの性質や、空
間的配置関係をとらえるもの
(工藤1995: 39)
本論文も、工藤(1995)と同様「〜テイル」には二種のタイプがあるという立場をとる。す なわち、二つの基本的意味を、現代日本語の継続相を実現する文法的アスペクト形式として位置 づける。そして派生的意味のうち、パーフェクトと反復は、それ自身アスペクト性が認められる
26派生的意味は準アスペクト的意味とも呼ばれる。
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ことから、本論文も文法的アスペクト形式から派生したものと見なし、準アスペクト形式として 位置づけておく。