第 1 章 先行研究の概観と問題点
3. キルギス語のアスペクト形式に関する捉え方
3.2 現在形:単純現在形と複合現在形
3.2.1 単純現在形
単純現在形には、動詞の語幹に直接接続する派生接尾辞として、次の2種類がある。
(i) 動詞の語幹に-aまたは-ïという接尾辞+人称語尾35を構成することによって成り立つもの
(ii) 動詞の語幹に-uuda または-oodo36の-uu/-oo という分詞の接尾辞と-da または–do 位格語尾に
35 キルギス語は名詞述語、形容詞述語と同様に、動詞述語にも主語を表す人称語尾を必要とし、人 称語尾はそれぞれの述語の語末に追加される。このことに関しては、本論文の 12-13 頁のキルギス語 の文法的特徴を参照のこと。
36 キルギス語には母音調和があるので、-üüdö/ -öödöになる場合もある。
50 よって成り立つもの
キルギス語のテンスの研究者である Tursunov (1959)においては、単純現在形の(i)の種類は、
現在において行われる動作を表すという基本的な意味以外に、文の中にある語彙的な条件によっ て以下の意味を表すとしている。
① 文中に時を示す副詞成分が現れて、発話時点で動作が行われなくても、長い時間前から行わ れている動作を表す場合:
(27) Al Burma-nïn tobu-n-da kečke ürön tazala-š-a-t.
彼 ブルマ-GEN グループ:3POSS-LOC ずっと 種 精査する-RECP-PRS-3PL
「彼はブルマのグループでずっと前からシードを精 査 し て い る 。」
② 一般自然現象を表す場合:
(28) Jer ӧz ogu-n-da aylan-a-t.
地球 自分 軸-POSS-LOC 回る-PRS-3SG 「地球は自分の軸を回 っ て い る 。」
③ 時折繰り返して行われる動作の場合:
(29) ... ěki jag-ïn-dagï-lar-ga birde kïyïgï menen 二 側-POSS:3-LOC-PL-DAT ある時 横 と
kara-sa, birde aldïrtan alaya kara-y-t.
見る-COND ある時 前から じっと 見る-PRS-3
「左右にいる人々をある時横から見たり、ある時前からじろじろ見 た り し て い る 。」
④ ずっと前から動作が始まっており、現時点でも行われている動作を表す。いわゆる長期的な 動作を表す場合:
(30) Ošon-don beri jeti-nči lampa šiše-siz küy-ö-t.
それ-ABL 7番目 ランプ ガラスなしで 火がつく-PRS-3 「それから七番目のランプはガラスなしで火 が つ い て い る 。」
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(31) Ĕrmek ěköö-büz ar išembi sayïn kečkurun šaar-dan kel-üüčü avtobus-tu tos-o-buz.
PSN 二人:1:PL 毎土曜日 ごと 夕方 街-ABL 来る-VN バス-ACC 迎える-PRS-1:PL
「エルメクと二人で毎土曜日の夕方に町から来るバスを迎 え に 行 き ま す 。」
⑤ 過去に行われた動作、いわゆる歴史的な現在の場合:
(32) Bala-nï Ayïmjan törö-dü bol-up, döŋ-dö otur-gan 子供-ACC PSN 生む-PST1 なる-CVB 丘-LOC 座る-PART
Bektur-ga süyünčü bar-a-t. Ïyla-p otur-gan Bektur PSN-DAT いい知らせ 行く-PRS-3 泣く-CVB 座る-PART PSN özü min-ip jür-üüčü toru kaška at-ïn süyünčü-gö ber-e-t.
自分 乗る-CVB 動く-VN 白 黒 馬-3:POSS いい知らせ-DAT あげる-PRS-3
「アイムジャンが赤ちゃんを生み、丘に座っているベクトルによいニュースを知 ら せ る 。泣
いていたベクトルは自分が乗っていた馬をよい知らせをしてくれた人にあ げ る 。」
また、この種類の単純現在形の動詞に助動詞ěleが付加される場合、過去に起きた動作を表すよ うになる。次の例を見よう。
(33) Al šaar-da jašay-t ěle.
彼 都会-LOC 住む-PRS-3 ěle
「彼は都会に住 ん で い た 。」
なお、過去に行われた動作について尋ねる場合、ěle の前にbが付き、bel-eになる。
(34) Al šaar-da jaša-y-t bel-e?
彼 都会-LOC 住む-PRS-3 Q-ele 「彼は都会に住 ん で い た の ?」
(35) Ušul jak-ta biröö altïn sat-a-t ěken.
この 辺-LOC 誰か 金 売る-PRS-3 ěken
「この辺で誰か金を売 っ て い る よ う だ 。」
ここでは、助動詞ěkenによって、現在行われている動作について誰かから聞いた意味、または、
偶然聞いた意味を表す。
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次に、単純現在形のもう一つの種類を見ていこう。(ii)に示したように-uuda/-oodoは-uu/ -ooと いう分詞の接尾辞と-da -do位格語尾によって成り立つ。
この現在形は使用範囲が限られ、特に文献などでしか使用されず、以下のような意味を表す。
① ある動作・出来事が発話時点において行われ、継続される動作を表す場合:
(36) Karangïlïk parda-sïn jamïn-ganday köl üstün iŋirt kaptoo-do.
闇 カーテン-POSS:3 冠る:REFLのように 湖 上 夕暮れ 覆う-PRS 「闇のカーテンをかぶったように湖は夕暮れに覆 わ れ て い る 。」
② 文脈によってある動作・出来事が昔から継続され、現在も続けられ、将来も続けられる場合:
(37) Ayïl –kïštak-tar-da ěl-ge bilim berüü iš-i-nin 田舎-PL:LOC 国民-DAT 教育 あげる 仕事-POSS-GEN abal-ï jïl sayïn jakšïr-uuda.
状況-POSS:3 年 ごと よくなる-PRS 「田舎で学校教育機関の水準が毎年上 が っ て い る 。」