• 検索結果がありません。

主節が「テイタ」形の場合

第2章 言語資料に基づくキルギス語の進行を表す補助動詞の考察

本章の概要

2.5 主節が「テイタ」形の場合

(40)a 私が学校に行くとき雨が降っていた。

b 私が学校に行ったとき雨が降っていた。

(41)a Men mektep-ke barat-kan-da jaan jaa-p jat-tï.

私 学校-DAT 行っている-PART-LOC 雨 降る-CVB jat-PAST1 b Men mektep-ke barat-kan-da jaan jaa-p jat-kan.

私 学校-DAT 行っている-PART-LOC 雨 降る-CVB jat-PAST2 c ??Men mektep-ke barat-kan-da jaan jaa-p jat-ïptïr.

私 学校-DAT 行っている-PART-LOC 雨 降る-CVB jat-PAST3 d ??Men mektep-ke barat-kan-da jaan jaa-p jat-ču.

私 学校-DAT 行っている-PART-LOC 雨 降る-CVB jat-PAST4

(40a,b)に対応するキルギス語を示すと上記のように4通りがある。ただし、(41c,d)は不自然な

文になる。いずれも過去に起きた出来事であることが共通しているが、主節に現れる過去形の種 類で文のニュアンスが異なっている。これらの中で当該の日本語の文に一番適切な文は(41a)

のjaa-p jat-tïのような確定過去である。それに対して、(41b)のような主節に-kan接尾辞の過去形

を使う場合には前後の文脈が必要となる。すなわち、過去に起きたある特定の日について思い出

139

して「その日学校に行っている時、雨が降っていた」という意味になる。次に、(41c)のような-ïptïr 不定過去と(41d)のような-ču習慣過去はこの文では不適切である。なぜなら、(41c)の場合には、

話し手が雨が降っていることを分っていないような文になり、学校に行く時に雨が降っていたの を誰かに気づかされた時の発言になってしまい、非論理的になる。(41d)も習慣過去の場合には、

学校に行く際にいつも雨が降っていたと言えないために不自然な文となる。

D2 シ タ と き

(42) 私がここに来たとき、彼はもう夕食を食べ始めていた。

(43) Men bul jer-ge kel-gen-de al ěbak tamak je-p bašta-ptïr.

私 この 場所-DAT 来る-PART-LOC 彼もう 料理 食べる-CVB 始める-PAST3

(42)の主節の「テイタ」は、通常の継続と異なり、「食べ始める」という行為が継続している わけではない。この場合の「テイタ」は基準時以前に行われたことを示し、完了を表す。キルギ ス語の場合は、je-p bašta-ptïrのように動詞bašta-(始める)に-ïptïr接尾辞が付加された過去形が 用いられる。この接尾辞は不定過去を表し、上記の(41c)と同様に基本的に時期や実現がはっき り確認されていない過去の動作を表し、人から聞いた動作や予想外の動作などを表すが、ここで は、従属節の事態が生起する前に動作が始められ、「来たとき」も食べることが継続していたと いう意味で使われている。このように過去完了の用法に対して、次のように従属節が「ル」形の 場合には、主節の「テイル」は未来完了を表すとされている。

(44) 来週ここに来るときにこの本を読み終わっているだろう。

(45) Emki juma bul jer-ge kel-eer-de bul kitep-ti oku-p büt-ö-t boluš kerek.

次 週 ここ-DAT 来る-PART-LOC この 本-ACC 読む-CVB 終わる-PRS-3 だろう 必要

キルギス語の場合も、主節のoku-p büt-ö-tは未来における完了を表している。

D3 シ テ イ ル と き

(46) あの雨が降っているとき、弟はサッカーをしていた。

(47) Ošol kün-ü jaan jaap jat-kan-da ini-m futbol oyno-p jat-tï.

その 日-3:POSS 雨 降る-CVB jat-PART-LOC 弟-1:POSS サッカーする-CVB jat-PAST1

(47)のキルギス語の場合には従属節にも主節にも補助動詞 jat-が使われて、-tï過去接尾辞を付加 することによって過去のある時点における動作の進行を表している。そして、他の補助動詞では なく、2つの位置にjat-を使うことが特徴だと言える。これとは対照的に、次の(49)のキルギス 語の文が挙げられる。

140 D4 シ テ イ タ と き

(48) 僕が会社で仕事をしていたとき、母は家事をしていた。

(49) Men firma-da ište-p jür-gön-dö üy jumuš-tar-ïn apa-m kïl-ïp tur-ču.

私 会社-LOC 仕事する jur-PART-LOC 家事-PL-ACC母-1:POSS する-CVB tur-past3

上の(46)と(48)の従属節における「~テイル/~テイタ」と呼応する主節が「テイタ」形式の特徴 は、主語が一つではないということである。すなわち、(48)は「僕が会社で仕事をしていたとき、

僕は家事をしていた。」のように使えない。これに対して(49)のキルギス語は、従属部分にはište-p

jür-gön-dö のようにjür-補助動詞と主節はkïl-ïp tur-čuのように tur-補助動詞が用いられている。

主節の述語は、習慣として行っているという意味でtur-補助動詞を使用することが適切である。

そして過去接尾辞として-čuを接続することによって過去における習慣のように毎日行われる動 作を表すことになる。次の(50)のキルギス語は従属節に同じjür-補助動詞が用いられた例である。

(50) Soodager bak ič-in arala-p jür-gön-dö bir-inen biri aš-kan 商売者 木 中-ACC 歩く-CVB jür-PART-LOC 一-ABL 一 溢れる-PART ukmuš-tar-dï kör-ö ber-ip, ěmi alar-dïn kaysï-nïsï-na

不思議-PL-ACC 見る-CVB あげる-CVB もう それら-GEN どれ-3:POSS-ACC taŋ kal-ar-ïn da bil-be-y kal-dï.

驚く-FUT-ACC も 知る-NEG-CVB 残る-PAST1

「商人は庭を歩いているとき次々優れた不思議を見ていてどれに驚くかは分からなくなってきた。」

以上が、日本語において主節のテンス・アスペクトが「テイタ」形の場合、トキ節の使用実態 と対応するキルギス語の例を示したものである。

最後に、Dグループに示した日本語の特徴及びキルギス語との相違点をまとめると次のように なる。

Ÿ 日本語とキルギス語では、どちらも従属節における「~テイル/~テイタ」と呼応する 主節が「テイタ」形式の特徴は、主語が一つではないということである。

Ÿ 日本語の従属節は「~テイル/~テイタ」形式に時間を特定する要素があれば、キルギ ス語はjat-補助動詞を使用し、出来事の進行を表す。

Ÿ 全体的に言えることとして、主節では動詞の語彙的な意味は文法的意味に影響するが、

従属節では動詞の語彙的な意味が補助動詞の選択に関わる。

なお、第2節を締めくくるに当たりキルギス語における小説からの従属節の実例とその日本語 訳を付記すると、以下の(51)~(55)のようになる。付記した理由は、これまでの議論とは逆の方 向でキルギス語の従属節におけるテンス・アスペクト形式から日本語を見てみると、日本語の従

141

属節におけるテンス・アスペクト(例えば、「タ」形や「テイル」形など)が融合的で包括的で あるという特徴が分かるからである。

(51) Šaar-ga alïp kel-gen-de özü-nün ěmne bol-up jat-kan-ïn 都会-DAT 取る-CVB 来る-PART-LOC 自分-GEN 何 なる-CVB jat-PART-ACC tüšün-bö-dü, ayabay zerig-ip kusa bol-du. (Mumu)

分かる-NEG-PAST1 とても 退屈する-CVB 恋しい なる-PAST1

「都会に連れて来られた時に自分がどうなっているかわからなくて、とても退屈した。」

(52) Gerasim-di kïštak-tan al-ïp kel-iš-ken-de, Tat`yana PSN-ACC 田舎-ABL 取る-CVB 来る-RECP-PART-LOC PSN

anïn ebegeysiz zor tulkun kör-üp, ěsi oo-p kal-a jazda-gan.

彼-GEN 巨大 大きい 体型 見る-CVB 意識 なくす-CVB しそうになる-PAST2 「ゲラシムを村から連れて来た時にタチヤナは彼の巨大な体型を見て、意識をなくし 倒れそうになった。」

(53) …üy-dön kir juuy tur-gan jay-ga šaš-ïp baratkan-da, Gerasim-din 家-ABL 洗濯 洗う 立つ-PART ところ-DAT 急ぐ-CVB 行っている-PART-LOC PSN-GEN janïnan čïmïn kuyun bol-up čurka-p ötüp ket-ken učur-larï bol-gon.

隣-ABL ハエ なる-CVB 走る-CVB 通る-CVB 行く-PART とき-PL なる-PAST2 「家から洗濯する場所に急いで行く時にゲラシムのそばを走って通ってしまうことが あった。」

(54) Al biyik kerebet-ten turgan-da, kiyim-keče-si bütündöy dayar ěken, 彼 高い ベッド-ABL 起きる-PART-LOC 洋服-3:POSS 全部 用意 MOD

jüz čaykaš üčün hrustal` čara-ga suu kuyul-up tur-a-t, al kiyin-ip,

洗う ため クリスタル容器-DAT 水 注ぐ-CVB tur-PRS-3 彼 着る-RECP-CVB juun-up, bul jaŋï ukmuš-ka dagï taŋ kal-ïp otur-du: stol-dun 洗う-RECP-CVB この 新しい 不思議-ACC も 驚く-CVB otur-PAST1 机-GEN üstün-dö čay menen kofe, alar-dïn janïn-da tattuu tokočtor.(K.k.g) 上-LOC お茶 と コーヒー それら-GEN そば-LOC 甘い パン-PL

「彼は高いベッドから起きた時に洋服が用意され、顔を洗うためのクリスタル容器に水が注いで あった。彼は着替えて、顔を洗った後にまた新しい不思議に驚いている。テーブルの上にお茶と コーヒー、そばには甘いパンが置いてあった。」

142

(55) Ošentip jol jür-üp kelatkan-da tün da tüš-tü;.

そうする-CVB 道 歩く-CVB 来ている-PART-LOC 夜 も 降りる-PAST1 aylana köz-gö say-sa körün-güs karaŋgï.

周り 目-DAT 指す-COND 見える-NEG 闇

「そうして帰っている時に周りは目を指しても見えないくらい真っ暗になった。」