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第 1 章 先行研究の概観と問題点

3. キルギス語のアスペクト形式に関する捉え方

3.6 アクマタリエワ (2014)

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私は 政府-GEN 仕事-3:POSS する-CVB jür-PRS-1SG

「私は政府の仕事をし て い る 。」

そして、同396ページで «Жүр жардамчы этиши-a /-y формасындагы чакчылдар менен айкашса, анда чакчыл формадагы биринчи компоненти жүр жардамчы этиши менен бирге аткарыла турган кошумча кыймылды билдирип калат.»(補助動詞のjür-は副動詞の-a /-yと接続されると、

前接する動詞が補助動詞のjür-と同時に実現される動作を表すことになる。)と述べ、次の例文 を示している。

(92) Ooruluu bala-nï kör-ö jür . 病気の 子-ACC 見る-CVB jür:IMP

「病気の子供のことを配 慮 し て お い て 。」

以上、Oruzbaeva et al., Red (2009)に示されている jat-、tur-、otur-、jür-補助動詞の記述を紹介

した。前述した辞典のYudahin (1969)で述べられていることが基本的に繰り返されている。

Oruzbaeva et al., Red (2009)は各補助動詞の文法的な意味について代表的な例を示し、簡潔な記

述でとどまっており、それぞれの使い分けや、それぞれの共通点である、〈動作の進行〉につい ても具体的にどのような相違点があり、補助動詞が接続される本動詞の関わり方がどのようにな っているかについても言及されていない。jat-、tur-、otur-、jür-は語彙的な意味がある程度残っ ており、完全に文法化されているとはといえないが、その中で、前接する動詞の種類によって〈動 作の進行〉の意味を表すだけではなく〈変化の結果の状態〉という文法的な意味を表す。しかし、

少なくとも以上に取り上げた伝統文法書では、〈動作の進行〉と〈動作のくりかえし〉の意味が 中心に記述され、〈変化の結果の状態〉の文法的な意味は無視されている。

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態動詞、内的感情動詞に各補助動詞が後接する場合、基本的に〈状態〉という文法的な意味を表 すとアクマタリエワ自身が認めている。

このような主動詞の意味的なタイプが、一番参考になるのは、各補助動詞がどのような種類の 主動詞と組み合わされ、どんな動詞とは結合しないかということであろう。例えば、動作動詞は、

V-(ï)p otur とV-(ï)p jürがもっとも多く現れていることと、変化動詞の場合は、V-(ï)p jatとV-(ï)p

tur の数が他の補助動詞より多いということなどである。そして、主動詞の意味的タイプの分類 では jat 形式の場合、《主体の再帰的な動作を表す動詞》があるが、このような分類は tur 形式 には欠けており、その代わり、《主体の視覚・聴覚活動動作を表す動詞》が取り出されている。

他の補助動詞形式にみられた《自然現象の動きを表わす動詞》、《主体の生理的な動きを表わす動

詞》は、V-(ï)p jür-形式には現れない。V-(ï)p jür-形式に現れる状態動詞の場合は、他の補助動詞

と異なり、《主体の空間的な関係を表わす動詞》、《主体の擬態的な様態を表わす動詞》のタイプ の動詞が出て来なくて、V-(ï)p jür-形式に特有の《主体の状態的な性質を表わす動詞》のタイプ が取り出され、この類の動詞の場合、主体の〈状態的な性質〉を表わすと位置付けたことなどで ある。以上のようなことは大量の実例に基づき明らかになっている点で評価できる。

その一方、賛同できない点もいくつかある。以下、アクマタリエワ(2014)が述べているそれぞ れ補助動詞の考察の中から重要だと思われる点を取りあげ、述べていく。これは、この方法の妥 当性を検討する上でも、本研究を進める上でも不可欠なことだと考えられる。

① 各補助動詞の構文的な位置、すなわち主節と連用節における場合の述語が区別されず、一つ の基準で分析されていること。語幹に様々な接辞が付くことによって、文中で使われている 語間のつながりが明確になるという膠着言語の性質から見ると、連用節で補助動詞が現れる 場合に付加される接辞と主節で現れる場合の接辞が異なるので、当然、それぞれは異なる文 法的な意味を表すことになる。

例えば、次の連用節における述語の用例では、otur-が、tarazalap oturup(検討し続けて)とい うように、動作がくりかえして行われ、主体の〈動作のくりかえし〉の意味を表していると主張 している。

(93) ...ošo-nun baarï-n kayra-kayra tarazala-p oltur-up それ-GEN 全て-ACC 再び 再び 検討する-CVB otur-CVB

biz-ge baškar-uu-nun parlamenttik ïŋgay-ï tuura 私達-DAT指導する-VN-GEN 議会制 方式-3:POSS 正確

kel-ěěr-i-ne köz-übüz jet-ti. (Ěrkin Too•No2) 来る-AOR:3:POSS-DAT 目-1PL:POSS 着く-PAST1

「…それらを何回も検 討 し 続 け て 、私達は議会制が正しいことに気がつきました。」

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(アクマタリエワ2014: 165、(343)の例文)

しかし、この用例を tarazalap oturat のように主節文に変えると、(検討している)のように主 体の〈動作の進行〉の意味が生じる。つまり、連用節では、tarazalap oturup の-up副動詞接尾辞 で現れているために、主体が動作をくりかえしているように思われるにすぎない。

(94) Al ěmi Kïtay mamleket-i-nen kel-ip jat-kan そして 今 PLN 政府-3:POSS-ABL 来る-CVB jat-PART jük-tör tokto-bo-gon-u menen

荷物-PL 絶える-NEG-PART-3:POSS と

ötö ěle az kölöm-dö bol-gon. (Kïrgïz Tuusu・№57) とても EMPH 少ない 量-LOC なる-PST2

「そして、今、中国政府からき て い る 荷物は絶えないが、量はとても少なかった。」

(アクマタリエワ2014: 84、(78)の例文)

(94)の場合も jat-は kan 分詞の形式で連用節に現れる場合、常に「〜テイル」と訳される。こ の場合、〈動作のくりかえし〉の意味を表すとされているが、主節文に置き換えると〈動作の進 行〉を表すことになると思われる。このように連用節の場合と主節文の場合と区別せず分析して いるので、それぞれの補助動詞が表す文法的な意味が異なってくる。

② 複数主語による動作が文法的な意味に影響しているということ。例えば、(95)の ooru-p

ja-tï-ša-t「病気になっている」と(96)のajïraš-ïp jat-a-bïz「離婚している」は両方とも複数主

語であるが、(95)では〈動作のくりかえし〉を表しているのに対して、(96)では〈変化の結 果の状態〉を表しており、これらの違いがどうして生じているのだろうか。(95)に Kiyinki

ubak-ta(最近)が最初にあるから〈動作のくりかえし〉を表すとしても、(96)におけるajïraš-

ïp jat-a-bïzは「離婚しようとしている」の意味で〈変化の結果の状態〉ではなく、現在進行

中の〈動作の進行〉を表すと考えられる。

(95) Kiyin-ki ubak-ta jaštar-ïbïz-dïn 50 payïz-ï

後-kï 時期-LOC 若者-1PL:POSS-GEN パーセント-3:POSS

kantamïr ooru-su menen köp ooru-p jat-ïš-a-t. (Šookum・№7) 血管 病気-3:POSS で 多い 痛む-CVB jat-RECIP-PRES-3

「最近、若者の 50 パーセントの層は血管の病気で多く悩 ん で い る 。」

(アクマタリエワ2014: 90、(96)の例文)

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(96) Birok amal-sïz ajïraš- ïp jat-a-bïz. (Kanïbek) しかし 仕方-NEG 離婚-CVB jat-PRES-1PL

「しかし、仕方なく離婚している。」 (アクマタリエワ2014: 94、(109)の例文)

③ 主動詞自体の語彙的な意味が〈動作の開始〉や〈変化の進展〉という文法的な意味に影響す ること。例えば、《主体の漸進的な変化を表す動詞》のグループに入る動詞の例として、以 下の(97)、(98)の「増える」「育つ」などを挙げているが、主体(物事)の変化が一定の方 向に進展するということは、動詞自体の語彙的意味からくるものだと思われる。つまり、こ こでの〈変化の進展〉という文法的な意味を表すのは補助動詞 jat-からくるものではない。

(97) Antkeni migraciya tolkun-u kïskar-mak tursun, というのは 移民 波-3:POSS 減る-VN どころか jïl-dan- jïl-ga küčö-p jat-pa-y-bï. (Kutbilim・№4) 年-ABL 年-DAT 増える jat-NEG-PRES-Q

「というのは、移民の波が減るどころか、年ごとに、増 え て い る じ ゃ な い か 。」

(アクマタリエワ2014: 95、(111)の例文)

(98) Anda jalgïz karagay ös-üp tur-a-t. (Turmuštan jaralgan čoku) あそこ:LOC 唯一 木 育つ-CVB tur-PRES-3

「あそこに唯一一本の木が育 っ て い る 。」

(アクマタリエワ2014: 143、(274)の例文)