第2章 言語資料に基づくキルギス語の進行を表す補助動詞の考察
1.1 本動詞が動作動詞の場合
V-(ïp) jat-形式において、本動詞Vが動作動詞の場合、以下の(1)〜(3)の用例は、現在におけ
る〈動作の進行〉を表す。まず、人間の動作を表すものを見る。
(1) Azïr biz kïrgïz, orus til-inde okutuu mektep-ter üčün 今 私達 キルギス ロシア 言語:3POSS-LOC 教授する 学校-PL ため
okuu plan-ïn-ïn dolboor-un talkuula-p jat-a-bïz. (Kutbilim) カリキュラム:3POSS-GEN プロジェクト-ACC 議論する-CVB jat-PRS-1PL
「今、私達がキルギス語、ロシア語で教授する学校のためにカリキュラムのプロジェ
クトを議 論 し て い る 。」
(2) Azïr joob-u-n küt-üp jat-a-bïz. (Super.kg) 今 返事-3:POSS-ACC 待つ-CVB jat-PRS-1PL
「今、返事を待 っ て い る 。」
(3) Ĕmi ĕki sabak-tï birdey bilgen adis-ter jogorku 今 二つ 科目-ACC 同時 知る-VN 専門家-PL 高い okuu jay-lar-da dayarda-l-ïp jat-a-t. (Kutbilim) 勉強する 所-PL-LOC 準備する-PASS-CVB jat-PRS-3
「今は(以前と異なり)二つの科目がよく分かる専門家の育成は高等教育機関で行 わ れ て い る 。」
74
上記の例のように、発話時の「今」を示すazïr、ĕmiが用いられている場合、現在の意味が明確 に示され、発話時において動作が進行中であることが分かる。しかし、それと同時に(1)の「議 論する」ことと(3)の「育成が行われている」こととが長い時間を必要とする動作であるため、
発話時において動作が進行中であるとしても、発話後も動作が続くと考えれば、〈動作のくりか えし〉の意味を表すことになる。
第1章の 3.2 節で述べた、キルギス語における単純現在形の本動詞の語幹に-a/-y接辞を付加さ せたものがどのように異なるかも併せて考察していきたい。
(1)をtalkuula-y-bïzに、(2)をküt-ö-büzに、(3)をdayarda-l-a-tにというように単純現在形に変え ると、「これから議論する」、「これから待つ」、「これから行われる」というような未来の意味に なるので、補助動詞jat-が使われる場合とは異なり、発話時点での「動作の進行」を表す意味に はならない。
次の(4)〜(6)の例では、「今」を表す語が使われずに、過去のある時点における動作の進行を表 していることがわかる。
(4) Dal ošol ubak-ta men-in baldar-ïm pianino-do 丁度 その 時-LOC 私-GEN 子供たち-1:POSS ピアノ-LOC oynogon-du üyrön-üp jat-ïš-kan. (3 jaštan kiyin keč) 弾くこと-ACC 習う-CVB jat-RECP-PAST2
「丁度その時に、私の子供たちはピアノを習 っ て い た 。」
(5) Anï jalpï okurman-dar özünčö baala-p oku-p jat-ïš-tï. (Sïngan kïlïč) それ-ACC 一般 読者-PL 自分で 評価する-CVB 読む-CVB jat-RECP-PAST1
「それを一般の読者それぞれが評価し、読 ん で い た 。」
(6) Abil-biy ĕl-din tür-ü-n kara-p, söz jüyo-sü-n
PSN 人々-GEN 顔-3:POSS-ACC 見る-CVB 言葉 流れ-3:POSS-ACC jogot-po-y süylö-p jat-tï. (Sïngan kïlïč)
なくす-NEG-CVB 話す-CVB jat-PAST1
「アビルビイは人々の顔を見て、話の流れに沿って話 し て い た 。」
以下の(7)〜(11)の例は、主体の動作が発話時の前から始まっていて、現在も進行中であること を表している。
(7) Antkeni köp ilim-der juuru-l-uš-up, なぜかと言うと 多い 科学-PL 練る-PASS-RECP-CVB
75 birig-ip jat-ïš-a-t. (Kutbilim) 統合する-CVB jat-RECP-PRS-3
「なぜかと言うと、多くの科学は統 合 さ れ て い る 。」
(8) Ošonduktan bazistik okuu plan-ïn-da kĕĕ bir だから 基本的な 勉強 計画:3POSS-LOC ある 一つ predmet-ter integratsiyalan-ïp jat-a-t. (Kutbilim) 科目-PL 統合される-CVB jat-PRS-3
「だから基本的なカリキュラムにある科目は統 合 さ れ て い る 。」
(9) Birok biz-din bilim berüü-dö しかし 私たち-GEN 教育 あげる-LOC
kompyuter-ge keč üyröt-üp jat-a-bïz. (Kutbilim) コンピューターLOC 遅い 教える-CVB jat-PRS-PL1
「しかし、私たちの教育ではコンピューターの科目は遅れて教 え ら れ て い る 。」
(10) Siz42 mukaktan-ïp čert-ip jat-a-sïz, tarïh-ï karangï. (Küünün sïrï) あなた モタモタする-CVB 弾く-CVB jat-PRS-2 歴史-2:POSS 暗い
「あなたはモタモタして弾 い て い る 。曲の説明は不明である。」
(11) Kara-Suu rayon-unda 60 üy-bülö ĕlektr ĕnergiya-sïz jaša-p jat-a-t. (Ïntïmak.kg) カラスウ 区-LOC 60 家族 電気-なし 暮す-CVB jat-PRS-3
「カラスウ区に住んでいる60家族は電気がないなかで、生 活 し て い る 。」
しかし、(11)の動作の進行は、単純現在形の jaša-y-tでもを表せるが、補助動詞が使われる場 合とどう異なるかというと、補助動詞のjat-があると以前は電気があって何の不自由もなく生活 していたが、最近では電気がない困った生活をするようになっているというニュアンスがあるの に対して、単純現在形の場合にはそのようなニュアンスがなく、元々電気なしで生活してきたこ とが含意されている。日本語でも「今は電気のないところで苦労している」というニュアンスを
「生活し続けている」という表現で表すことができると思われる。
以上、動作動詞の場合、ある時点における〈動作の進行〉という意味を表わす場合について考 えてきたが、先行研究でも指摘されているようにV-(ï)p jat-形式は、必ずしも〈動作の進行〉の 意味だけを表すわけではない。例えば、文中にkündö(毎日)、jïl sayïn(毎年)、apta sayin(毎)」
などのように動作の頻度を表す副詞が現れる場合、V-(ï)p jat-形式は、〈動作のくりかえし〉とい
42 sizはsen(あなた、君)を敬称する形である。
76 う文法的な意味を担うことになる。
(12) Apta sayïn makala jaz-ïp kïrgïz ĕli-ne 週 ごと 記事 書く-CVB キルギス 民-DAT tarbiya ber-ip jat-a-sïŋ. (Men miŋ jïl jašadïm) 教養 あげる-CVB jat-PRS-2SG
「毎週、記事を書いて、キルギス人に教養を与えている。」
(13) Kïrgïzstan-da jïl sayïn aydooču-lar-dïn kübölüg-ün
キルギス-LOC 年 ごと 運転手-PL-GEN 免許証-3:POCC-ACC al-gan-dar köböy-üp jat-a-t. (de-facto.kg) 取得する-PART-PL 増える-CVB jat-PRS-3SG
「毎年、車の免許取得者は増 加 し て い る 。」
(14) Al apasï-n sagïn-ïp, kündö ïyla-p jat-a-t. (super.kg) 彼は 母-3:POSS 会いたがる-CVB 毎日 泣く-CVB jat-PRS-3SG
「彼はお母さんに会いたがって、毎日泣 い て い る 。」
(14)の用例は、泣くことは必ずしも発話時点において主体の動作が持続している過程を表さず、
発話時点前から始まっていて、その後も継続している可能性がある。jat-はキルギス語母語話者 にとって動作の始まりや終わりの表示なしで用いられると考えられる。その動作がどのくらい持 続しているかはjat-だけではなく、文脈によって決まってくる。
次の用例では、「雨/雪が降る」のような自然現象を表す動作動詞の場合、jat-は〈動きの持続〉
43という文法的な意味を担う。
(15) A ĕšik-te bol-so balbalaktagan, alma gül-dör-ü-nö 外-DAT なる-COND 真っ白の リンゴ 花-PL-3:POSS-DAT okšo-gon kar jaa-p jat-tï. (Almalar güldöyt) 似ている-VN 雪 降る-CVB jat-PAST1
「外には真っ白なリンゴの花のような雪が降 っ て い た 。」
後述の(16)の例に見られるkiyは日本語の「着る」に対応するが、日本語の「着る」は動作動 詞と変化動詞の両方の資質を持つ動詞である。
43 アクマタリエワ(2014)は〈動きの持続〉という用語を使用しているが、筆者も主に人の場合に〈動 作の進行〉、自然現象の場合に〈動きの持続〉という用語を使うことにする。
77
①今、着 物 を 着 て い ま す が、上手に着られないので、手伝ってください。(動作動詞)
②あの青い色の着 物 を 着 て い る 人は田中さんです。(変化動詞)
①は動作動詞で、今着つつある、進行中を表すが、②はもうすでに着物は着ていて、着物を着た 結果の状態を表している。これらに対して、キルギス語は、(16)のように、今進行中の意味で動 作動詞として使われる場合にjat-を用いる。しかし、(17)のように着物を着ている結果の状態を 表す場合はtur-と置き換えることで、〈変化の結果の状態〉を表すことになる。
(16) Anïn karbalasta-p šaš-ïp kiyin-ip jat-kan-ïn 彼-GEN 慌てる-CVB 急ぐ-CVB 着替える-CVB jat-PART-ACC Kudaybergen bayka-p: (Kara šumkar)
PSN 気づく-CVB
「彼が大急ぎで着 替 え て い る のをクダイベルゲンが気づいて:」
(17) Tigi kök kimono kiy-ip tur-gan adam Tanaka.
あの 青色 着物 着る-CVB tur-PART 人 PSN 「あの青色の着物を着 て い る 人は田中さんです。」
次に、キルギス語における動作動詞の一つである移動動詞の場合を見る。この移動動詞は次の 3つの形式の中で用いられる。なお、①と②の形式にはjat-だけではなく、tur- とjür-も使うこと ができるが、③の形式においては jat-のみが使われる。さらに、この形式の移動動詞2の位置に 現れるbar-a jat-a-t とkel-e jat-a-tは音韻縮約されて、それぞれbaratat- とkeltat-として使われる。
このことが文法化されてきていることを意味していると思われる。
①「移動動詞-(ï)p jat-」形式で現れる場合
②「V-(ï)p 移動動詞-(ï)p jat-」形式で現れる場合
③「移動動詞1V-(ï)p移動動詞2 -(a/e) jat-」形式で現れる場合
以下、それぞれを順に見ていく。
①「移 動 動 詞-(ï)p jat-」 形 式 で 現 れ る 場 合
移動動詞が本動詞として現れる場合、(18)〜(22)の複数主体の場合、発話時点前から継続して いる〈動作のくりかえし〉を表すが、(23)〜(25)から分かるように、同じ移動動詞でも単数主体 の場合は現時点での〈動作の進行〉を表すことになる。
78
(18) Biz-din aldan-ïp čet ölkö-gö čïg-ïp jat-kan 44 私達-GEN 騙される-CVB 外 国-DAT 出かける-CVB jat-PART
kïz-kelin-der-ibiz-din san-ï köböy-üp jat-a-t. (azattïk.kg) 女子−妻-PL-1PL:POSS-GEN 数-ACC 増加する-CVB jat-PRS-3SG
「騙されて外国へ出 か け る 女子達の数は増 加 し て い る 。」
(19) Šayloo-ču-lar dobuš berüü-gö kel-ip jat-ïš-a-t. (super.kg) 投票-者-PL 投票 あげる-VN-DAT 来る-CVB jat-RECP-PRS-3 「投票者達は投票するために来 て い る 。」
(20) Köö-nün küzgü kün-dörü kïzïktuu öt-üp jat-tï. (Kara šumkar) 金-GEN 秋 日-PL 面白い 過ぎる-CVB jat-PAST1
「金色の一色の秋の日が楽しく過 ぎ て い た 。」
(21) 1990-jïl-dar-dïn baš-ïn-da mamlekettik kvota boyunča 1990年-PL-GEN 初め-3:POSS-LOC 国立 クォータ によって
student-ter kel-e bašta-gan, azïr da kel-ip jat-ïš-a-t. (azattïk.kg) 学生-PL 来る-CVB 始める-PAST2 今 も 来る-CVB jat-RECP-PRS-3
「1990年代初頭から国のクォータ制度によって、学生が来始め、今も来 て い る 。」
(22) …ayrïm ěl ökül-dör-ü öz kaaloo-lor-u menen ある 国民 代表-PL-3:POSS 自分 希望-PL-3:POSS と
deputat-tïktan ket-ip jat-ïš-a-t. (ktrk.kg/post) 議員-ABL 行く-CVB jat- RECP-PRS-3
「ある国民代表者達は自分の希望で議員職を辞 任 し て い る 。」
(23) Menimče, biz-de jalpï ulut-tu bir maksat-ka bašta-gïday 私の考えで 私たち-LOC 一般 民族-ACC 一つ 希望-DAT 始める-ため lider čïk-pa-y jat-kan-ï-nïn negizgi sebebi ulut bol-o リーダ 出る-NEG-CVB jat-PART-3:POSS-GEN 主な 理由 民族 なる-CVB al-ba-y, ramatïlïk Alïm Toktomušev ĕske sal-gan uruučulduk 取る-NEG-CVB 死んだ人 PSN 記憶 残す-VN 部族主義 degen köödök kurak-tan ös-üp čïg-a al-bay jat-kan-ïbïz-da. (Kutbilim) と 幼い 時期-ABL 成長する-CVB 出る-CVB 取る-NEG jat-PART-1PL-LOC
44 この場合のčïg-ïp jat-kanを「出かけている」より「出かける」とする方が適格である。
79
「私の考えでは、国民全体を一つの夢に向かわせるためのリーダーが出 て い な い 。 その
主な理由はなくなったアリム・トクトムショフの言うとおり、部族主義という幼い頃から 考えが抜けられないからである。」
(24) Al jumuš-u-nan ket-ip jat-a-t. (super.kg) 彼 仕事-2:POSS-ABL 行く-CVB jat-PRS-3
「彼は仕事を辞 め よ う と し て い る 。」
(25) Šumkar kol-u-na kel-gen-den berki anïn kïyal-jorugun 鷹 手-3:POSS-LOC 来る-PAST-ABL 後 彼の 性格出来事
köz aldï-nan tasma-day čuba-p ötkör-üp jat-tï. (Kara šumkar) 目 前-ABL 映画-のように 並べる-CVB 通す-CVB jat-PAST1
「目の前で鷹が初めてきた頃から今までを彼は映画のように映 し て い た 。」
②「V-(ï)p 移 動 動 詞-(ï)p jat-」 形 式 で 現 れ る 場 合
この「V-(ï)p 移動動詞-(ï)p jat-」形式は、「移動動詞-(ï)p jat-」と同様に、複数主体による用例 が多い。この用例でも、jat-は、主体の〈動作の進行〉の意味を表す。
(26) Alïp-satuuču-lar arzan unaa-lar-dï 買う- 売る-者-PL 安い 車-PL-ACC
Rossiya-dan al-ïp kel-ip jat-ïš-a-t. (barakelde.kg) ロシア-ABL 取る-CVB 来る-CVB jat-RECP-PRS-3
「商売をする人たちはロシアから安い車を持 っ て 来 て い る 。」
(27) Alar atayïn šaar-dan jer jemiš sat-ïp kel-ip jat-ïš-a-t. (super.kg) 彼ら わざと 都会-ABL フルーツ 売る-CVB 来る-CVB jat-RECP-PRS-3 「彼らはわざと都会からフルーツを買 っ て き て い る 。」
なお、(26)と(27)の補助動詞jat-をtur-やjür-に置き換えると、「動作のくりかえし」の意味を表 す。しかしotur-に置き換えると、意味が通じなくなる。
③「 移 動 動 詞 1V-(ï)p 移 動 動 詞 2-(a/e) jat-」 形 式 の 場 合
ターライベクキズ(2007: 319)が述べているように、「走る」、「歩く」、「泳ぐ」、「飛ぶ」などの 移動動詞の場合には、単にjat-を添えるだけでは「〜テイル」で示されるような移動の進行を表 すことができない。そうした意味を表すには「V1-V2(bar-a/kel-e) V3(jat)」という形式をとること