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特許群(発明群)の戦略的管理

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 156-172)

 

【1】群管理に向けて   

1.群管理が求められる背景   

(1)技術の複合化に対応するために   

我が国は世界一の特許出願大国であり、我が国の企業は多数の特許を取得して いるが、その数の多さのために各社が特許を適切に管理しきれなくなっているという 現実的な問題も指摘される。そこで、複数の特許を、ある程度の塊の特許群として管 理することで、特許権を保有する目的に合致した管理を行うことが可能となる。特に、

技術の複合化が進んでいる分野においては、一つの商品を数百にも及ぶ特許権で 保護することもあり、そのような商品を扱う企業においては、研究開発成果である発 明を、個々に単体でとらえるのではなく、商品や技術テーマ等との関係で「群」としてと らえていくことの必要性に迫られている。そして、自社の特許権だけでなく、他社の特 許権も含めて管理することは、「群」としての実態をとらえるに当たってより有効であ る。 

また、その際、出願されて権利化されている特許発明だけでなく、いわゆるノウハ ウとして企業内に蓄積されている技術に加え、意匠や商標もあわせて全体を群として 管理することも重要な知的財産戦略となってきている。 

   

(2)研究開発戦略・事業戦略と知的財産戦略の連携を深化させるために   

事業戦略、研究開発戦略及び知的財産戦略を三位一体のものとして推進するた めには、経営トップから末端に至るあらゆるレベルでの連携体制を構築し、また、企 業活動のグローバル化の進展に伴い、グローバルな事業戦略とそれを支えるグロー バルな知的財産戦略の確立が重要である。 

例えば、他企業との提携やM&A等における企業評価においても、知的財産を基 にした評価が実施されるようになり、近年の知的財産業務は事業戦略の策定に大き な影響を与えるものである。 

 

また、企業における知的財産を効果的に活用するためには、知的財産に関する情 報を他部門と共有化し、広く事業戦略・研究開発戦略等に役立てることが重要となる。

実務レベルにおいては、事業部門・研究開発部門と知的財産部門の担当者間の連 携を図ることにより、将来の事業展開を考慮した知的財産権の取得が可能となる。 

具体的には、 

①知的財産意識を持った研究開発への取組(パテント・マップの作成等により他社

の知的財産と今後開発する技術との関係を整理した上で、研究開発に取り組む

等) 

②知的財産担当者による研究開発部門との頻繁なコミュニケーションを通じて、研 究開発の現場で生まれる研究成果の迅速かつ的確な権利化 

③重要な研究開発テーマにおける、開発までのロードマップの作成等による適切 な研究開発の方向付け、研究開発成果の迅速かつ的確な権利化を行うための 知的財産部員の張り付け、研究開発の初期段階や段階ごとの特許群の構築  等が重要となる。 

また、事業戦略を踏まえ、コア事業に係る基本特許等の取得による強い知的財産 ポジションの確保に加え、他社に迂回技術や代替技術等による参入余地を与えない 特許権等により、攻撃・防御・予防の面から知的財産権を取得し、それらを群管理し ていくことが重要となる。 

さらに、他社からの攻撃を予測するとともに、他社権利の侵害に対する予防又は回 避が効率的な研究開発投資に結びつくという視点が重要である。また、国内市場の みでなく、グローバルな市場でも研究開発成果が活用され、高い水準の研究開発費 の回収ができるように、グローバルな事業展開との密接な連携を図ることも同様に重 要である。 

   

2.ポートフォリオ   

「知的財産ポートフォリオ」という言葉がある。それは、必ずしも統一的な概念に基 づいて使われているとは言えないが、複数の知的財産を最適に管理し、的確な経営 戦略に反映できることと観念されることが多い。 

本事例集では、複数の特許(知的財産)を何らかの観点に基づいて集合体と認識 して管理することを特許(知的財産)の「群管理」と表現し、この管理された群が、群と して管理される何らかの目的に対して最適化された状態を特許(知的財産)ポートフォ リオと表現することにする。 

 

一般的に、知的財産ポートフォリオを観念したときの切り口としては「技術的な広が り」と認識されることが多いが、一部には「地理的な広がり(海外出願)」と認識される ことがある。本事例集において、「地理的な広がり」については、第4章【4】の海外出 願の項目で詳細に記載している。したがって、本事例集では、特許群・発明群・ポート フォリオの観念として「技術的な広がり」を意識して構成している。 

 

以下に、各社の発明の群管理や知的財産ポートフォリオ管理について、多様な取 組を紹介していく。しかし、現実には日々改善をしながら取り組んでいる企業が多く、

最終的な最適管理に到達していると考えられる企業はほとんどない。その中で、次の ように指摘する企業もある。 

 

 

 

 

 

[335] 知財ポートフォリオ管理について聞いて回るものの・・・ 

 

最近、発明の群管理や知的財産ポートフォリオ管理について、機会があるごとに、他社の取組を 聞いている。しかし、他社が行っている管理のレベルは高いものから低いものまで多様で、同一の 言葉で扱って良いか疑問に感じてしまうほどである。 

例えば、大きなくくりでの技術の管理として、A社が○件、B社が○件、C社が○件の特許を持っ ているとか、そういうことを管理しているだけでは意味がない。群として管理するに当たっては細分 化して管理し、将来予測を明確化することで意味が出てくる。具体的に言えば、大くくりの技術をさ らに細分化していき、「○○式の製品に関して△△△という技術を用いた部品」と細かく技術を特 定し、○年後には、その技術がどうなっているのかの予測を、市場性と技術開発動向の予測と共に 管理することが必要である。 

これにより、他社技術と自社技術との相対的な関係及びその将来予測を明確にすることが可能 となり、研究開発戦略に関して、より具体的な提言をすることができる。例えば、○○式の製品に関 して△△△という技術を用いた部品については、A社にかなわないから、△△△ではなく、□□□

という技術開発に注力すべきであるといった提言である。 

   

3.群管理のメリット   

上記企業が指摘したように、群管理を始めたきっかけや群管理の内容、手法等は 各社様々であり、群管理をする目的にも各社違いがある。 

まず、群管理を始めたきっかけとして挙げられているのは、個々の管理ゆえ、重複 して特許出願してしまうことや特許出願漏れなどの明確なデメリットを解消するために 群管理をし始めたケース、特許紛争の多発により、1、2件の基本特許では守りきれ ないという意識から特許網を積極的に構築するために群管理をし始めたケース、

個々の発明の相対的な位置づけを把握し、各フェーズにおいて点ではなく面での判 断を行うために群管理をし始めたケースなどが一般的である。 

 

そして、この群管理を行うことのメリットを実感している企業は多く、そのメリットとし て、次のような点が挙げられている。 

①各発明の相対的価値が一目でわかるようになった。 

②自社と他社の技術的レベルを相対的に把握できるようになった。 

③今後、注力すべき技術を見いだすことができるようになった。 

④基本特許に対する上流技術から下流技術までを網羅的に権利化できるようにな った。 

⑤必要な周辺技術をもれなく特許出願することができるようになった。 

⑥自社で軽視した特許でも、他社にとっては重要という判断が可能となった。 

⑦自社の未利用特許をうまく活用できるようになった。 

⑧研究開発スケジュールと知的財産取得スケジュールの連動が可能になった。 

⑨特許及び経費の選択と集中が効率的に行えるようになった。 

⑩知的財産部門以外との情報共有を図るツールとしても、群管理で整理された情 報はわかりやすく、情報共有、また意思疎通が容易となった。 

 

他方、群管理を始める当初は、相当の労力が必要になる点についても指摘してい

る企業がある。また、理想的な知的財産管理のために群管理を開始したものの、単 に網羅的な特許出願をすること自体が目的化してしまい、本来の目的と関係なく特許 出願が増え、数ばかりで使えない特許権の集まりを保有することになって、結果とし て知的財産管理費用も増大してしまうケースもある。 

したがって、特許を取得する目的、および、特許を群として管理する目的を、予め 明確にして、自社に適した群管理の手法を選択することが重要である。 

   

[336] 選択と集中の深化の中で 

 

当社は、数年前から群管理を開始した。群管理を始めたきっかけは、社内で「選択と集中」が推 進されるようになったためである。群管理が導入されるまでは、知的財産部員は、研究開発部署か ら提案された発明を個々に権利化することを主体に考えていたが、「選択と集中」の精神が深化す るにつれ、「活用できる権利」を生み出すことが重要視されるようになり、権利をどう活用するかにつ いて出願の段階から考える必要性が生じてきた。そして、知的財産部員が権利の活用を整理して 考えるためのツールとして、複数の特許を最適な群として管理するポートフォリオ管理を試み始め た。 

   

[337] 問題点解決のために群管理を開始 

 

当社が従来から行ってきた個々の発明ごとの管理には、次のような問題が生じていた。 

①事業部の製品開発計画と知的財産部の権利取得スケジュールが連動しておらず、知的財産 で保護されない製品が上市されることがあった。 

②発明者・知的財産部員・弁理士が技術マップと開発スケジュールを共有していないので、特 許取得率が低い。 

③プロジェクト解散後の知的財産係争・拒絶査定の対応が弱い。 

こうした問題を解決するために、製品を知的財産権で確実に守ることができるような戦略的な特 許取得を行うことを目的として、パテントポートフォリオの構築を目指した制度を運用し始めたところ である。 

   

[338] 価値ある特許のみの取得のために 

 

バブルの頃までは、特許権の取得・維持費用について、厳格に必要性を問われることは無かっ た。しかし、近年、各事業部の支出を厳格に精査されるようになる中で、特許についても同様の目 が向けられるようになってきた。そうした中では、自社で生まれた発明には何があり、そのうちの何 れを特許出願すべきであるか、さらには、特許権取得後にも何れの特許を維持すべきであるかとい うことを、的確に把握し、説明することが求められるようになった。そうしたことを行うためには、個々 の特許を全体として把握することが必要である。つまり、個々の発明や特許が、他の知的財産とど のような関係にあるかを整理できていなければ、その発明や特許に対する対応を的確に行うことが できないからである。 

 

 

 

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 156-172)