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や第5章で述べたように、知的財産部門は、知的財産の視点から、研究開 発戦略や事業戦略に対して、有益な情報・意見を的確に伝え、その内容をいかに活

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 197-200)

用すべきかについて研究開発部門や事業部門と十分な検討を行うことが重要である。

そのためには、知的財産部門が研究開発部門や事業部門に情報・意見を伝え、検討 を行うための何らかの体制・手段を整えることが必要である。 

 

(1)三位一体に向けた体制   

知的財産関連の情報は、先にも述べたとおり研究開発戦略や事業戦略の検討に 重要な影響を与えるものであり、また研究開発の効率を高める効果を持つことから、

それを有効に活用することは効率的な経営に資する。研究開発戦略や事業戦略を含 めた経営戦略に知的財産情報を活用するためには、単に情報を提供するだけではな く、具体的にそれをどのように活用するのかについて方向性を示すことが可能となる 仕組みを整備することが重要である。 

研究開発の現場においては、その主たる業務は研究開発を実施し、成果を挙げる ことであるから、知的財産情報が十分に活用されないおそれもあるため、知的財産部 門と研究開発部門は密接に連携をすることが求められる。また、研究開発は、その後 の事業を見据えたものが多いことから、研究開発の進捗と知的財産管理とを連携さ せることは、事業との連携でもあるとも言える。 

そして、その事業を見据えた研究開発から生まれた発明を権利化し活用するため の各フェーズで、例えば 

・どの発明を特許出願し、どの発明をノウハウとして秘匿するのか 

・特許出願を選択した場合に、どこの国に出願するのか 

・権利化後に、どの権利を維持し、どの権利を放棄するのか等 

の判断をするためには、第3章から第5章で述べたとおり、事業計画や事業の状況を 的確に把握する必要があり、知的財産部門と事業部門との連携は欠かすことができ ない。 

したがって、知的財産部門と研究開発部門や事業部門との連携を適切に構築・維 持するために、研究開発部門や事業部門との定期的な会議や、発明提案書・海外出 願要否検討書等のツールにより意思疎通を図ることも有益であることは先に述べたと おりである。 

さらに、企業経営戦略を立案・実行するためには、知的財産部門と研究開発部門、

知的財産部門と事業部門がそれぞれ連携すれば足りるということではなく、これら3 つの部門の有機的な連携も重要となる。 

 

 

 

 

 

[401] 各種会議を利用して、三位一体を実現(①D、②b)

 

当社は、本社に技術部門と研究開発部門を持ち、複数のカンパニーを持つ組織体制をとってい るが、次の会議や連絡会を開催して、三位一体の実現に向けて取り組んでいる。 

1.知的財産総括責任者会議 

技術担当副社長がヘッドとなり年1回開催している。参加者は各カンパニーの役員である。主 な議題は、知的財産部の取組全般、知的財産係争、中国における模倣品対策、知的財産教 育等で、全社的に共通認識を持ってもらうために開催している。 

2.知財管理マネージャー連絡会 

本社技術部門、本社研究開発部門及び各カンパニーの事業部の知的財産管理の実質的な 判断者である、知財管理マネージャーと本社役員が集まる連絡会が、知的財産担当役員 の主導により年2回開催される。主に知的財産関連業務の計画、知的財産関連業務の進 捗、知的財産情報を本社役員に報告する会である。

3.知的財産部−カンパニー連絡会 

知的財産担当役員が主導で各カンパニー役員と個別に連絡会を開催している。1年かけて全 カンパニーと連絡会を持てるくらいの頻度である。カンパニーの個別知的財産課題や意見交 換を行っている。 

4.技術部門会議 

技術担当副社長の仕切りで行われる本社技術部門の技術開発や知的財産管理に関する会 議で、知的財産部長も参加し、技術開発、技術 PR、環境、知的財産について議論する。 

5.研究連絡会議 

技術担当副社長の仕切りで行われる本社研究部門の研究開発や知的財産管理に関する会 議で、知的財産部長も参加する。 

   

[402] 社長も参加した特許会議(①C、②b) 

 

当社では、社長、常務取締役(CTO)、知的財産部長(執行役員)、事業本部と研究開発部門 の知的財産担当者(総勢10数名)が集まる特許会議を、特許部の主催で2ヶ月に1回開催してい る。この会議は、毎回1時間程度であり、会議の前半に特許部から部門別の出願件数、他社の出 願権利化状況、産業財産権法改正の趣旨説明と知的財産活動への影響など、毎回トピックを設定 して報告を行っている。会議の後半には、各事業本部、研究開発部門の知的財産担当者が、知的 財産に関係する各部門の取組を報告する。この会議では社長から、例えば特定分野について発 明を発掘し、特許出願を集中的に行うようになどの指示が出ることもある。 

また、当社では、会長、社長、全取締役、執行役員が一堂に会する会議が毎月開かれており、

様々な報告がなされる。この中で、知的財産部長が知的財産活動状況の概略について20分ほど の報告を行っている。 

   

[403] 知財部長から事業戦略及び研究開発戦略に関して提言(①E、②c) 

 

研究開発戦略、事業戦略、知的財産戦略の融合(三位一体の実現)を目的として、年1回の頻 度で海外の事業本部長が参集し、中期の三位一体戦略を決定する会議を行っている。その会議 は、大きく次の3つのパートで構成されている。①と②は、知的財産部長から行う。 

①知的財産の視点に基づいた、事業戦略及び研究開発戦略に関する提言 

②知的財産戦略の実行に向けた取組の報告 

③ディスカッション 

参加している事業本部長からは、具体的な業務に関する質問が飛んでくるので、かなり真剣な 場になる。また、知的財産部長は、この会議後に、知的財産戦略を説明するために全世界の当社 の拠点を巡っている。 

   

[404] 「知的財産戦略シート」を使用し、特許戦略会議を実施(①D、②b) 

 

特許戦略会議を事業部ごとに月1回(3時間くらい)開催している。開発部門から、事業部長、各 開発担当者が参加し、知的財産部からは、発明発掘・明細書作成等を行っている担当者を中心に 参加する。場合によっては営業部門も参加することがある。なお、事業によって異なるが、事業部 からの参加者は、7〜8名から、最高で10数名程度くらいの大人数である。 

数年前に、この会議を開始し始めた当時は、知的財産部は、ただ受け身でしか業務を行わない 部門であった。そのため、本来は特許出願するべき発明が埋もれているのではないかという危機感 があった。また、開発部門とともに知的財産を検討する必要性を感じていたし、同時に役員たちの 知的財産マインドも上げたかった。それらの意識が重なって、知的財産部の提案で、この会議を実 施するようになったのだが、創設するに当たっては、各事業部長から展開してもらった。事業部長 は、元技術者であり、知的財産部長も元技術者なので、知的財産部長にとっての元上司も多く(顔 なじみ)、会議の設置への理解も得やすかった。 

この会議では、開発テーマに係る出願計画、事業の進捗状況、各開発テーマの進捗状況、そ れに対する知的財産部の対応などを報告し、今後の方向性、スケジュール、管理体制などを検討 する。さらに、個々の発明についても海外出願要否、審査請求要否、登録後の維持要否の判断も 行っている。検討するに当たっては、「知的財産戦略シート」を使用している。「知的財産戦略シー ト」には、各事業における開発テーマがリストアップされており、テーマごとに、目的やねらいの他、

一括したスケジュール(出願はいつ頃、製品発表はいつ頃、開発終了はいつ頃)やアイデア提案 用紙の提出数、出願数、権利化状況、また競合他社の状況などが一つに取りまとめられている。こ のシートに一元化することで、スケジュール管理とテーマ(特許)管理が可能となり、結果的に質向 上につながっている。 

各参加者(事業部も知的財産部も)は、この会議で共通認識ができ、その認識を元に、次の会議 までに達成すべき目標などをお互いに管理し合い、両者納得した上で運営している。 

問題点としては、会議の開催頻度が現在1ヶ月に1回だが、1ヶ月の間に開発が進展してしまっ ていることが多く、開発の進捗状況に若干ついていけてないことである。また、開発の方向性は会 議で全てが決まっているわけではなく、市場や営業ニーズで変わってきたり、いきなり開発中止に なったり、隠れていた発明がいきなり大化けして製品の根幹を担ったりと日々変わっており、知的財 産部では把握しきれていない点がまだまだある。本当の意味で本会議の成果が表れてくるのは、し ばらく先のことだろう。 

知的財産部は特許のクレームを通して製品を見る一方、開発者は製品を通して特許を見る。こ の両者の視点がいい循環を起こし、結果的に協力していい特許にしていこう、また特許を意識した 研究開発を行っていこうという意識が定着していくだろうと考えている。 

   

[405] 新製品検討のルートに知財部が関与(①E、②b) 

 

当社では、新製品開発の決定のプロセスの中に、知的財産部の承認を経ることになっている。ま た、新製品開発のテーマ設定会議にも知的財産部は参加している。知的財産部としては、他社特 許の調査を行っており、この調査結果から回避困難な他社特許群が存在するなど特許リスクが高 いことが認められた場合には、新製品開発を却下される。新製品検討の具体的な承認ルートは、

次の①〜⑤の順に行っている。 

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