• 検索結果がありません。

特許の戦略的活用

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 126-156)

 

前章では、各企業の発明の保護に関する戦略について様々な視点から紹介してき たが、発明を保護すること自体は、各企業にとって手段であって目的ではない。すな わち、各企業において創造された発明という知的財産を、特許などの知的財産権とし て管理していく目的には、大きく「①自社事業からの利益の最大化」と「②知的財産権 から得られる直接利益の獲得」がある。 

もちろん、この他にも、特許権を取得することにより社内での発明インセンティブを 高めることや、企業や特許発明を利用した商品のイメージアップということもあるが、

特許権取得の目的の中心は、この①と②である。 

 

①自社事業からの利益の最大化 

特許権は排他的独占権であり、特許権者以外は、特許権者の許諾なく特許発明を 実施することができないため、自社で特許権を取得するということは、その特許発明 に関する事業を自社が行う場合に、その事業を有利に展開できるという利点がある。

つまり、「①自社事業からの利益の最大化」を目的として特許権を維持・管理する背 景には、自社が特許権を有していなければ、他社が自社と同じ事業を何の拘束もなく 自由に行うであろうという想定を前提としている。確かに、自社が最適な事業戦略を 模索し、そこに新たな市場が開拓されれば、他社も、その事業を行うこと(市場参入)

に魅力を感じるであろうという想定は、至極妥当なことである。 

 

②特許権から得られる直接利益の獲得 

特許権から直接に利益を獲得するということは、他社に対して、対象となっている 特許権をライセンス供与したり、売却したりすることを意味する。他社が、特許権のラ イセンス契約や購入を希望するということは、その特許発明を使用することによって 事業を成功させ、その事業から特許権のロイヤリティや購入費用を明確に上回る利 益を確保できると考えるためである。したがって、他社がロイヤリティや購入費用を支 払う価値があると判断される特許権を取得することが重要となる。 

 

特に、上記①の目的を追求しているつもりの企業であっても、客観的には、その目 的から逸脱し、特許出願自体が目的となってしまっているように見受けられる企業も ある。例えば、結果的に競合他社を牽制・排除することにもならない、あるいは進歩性 を十分に有していない発明を大量に特許出願している企業がある。その状況は、そ の業界において過剰な特許取得競争を煽り、権利にならない、あるいは活用されない 発明への研究開発費や知財管理費の投資という無駄も生み、結果的には、その企業 の問題のみならず、我が国産業の発展をも阻害しかねない。 

また、その企業内の研究者や知的財産担当者にとっても、特許出願自体を目的と していると見受けられるような発明の創造や権利化の業務を日々強いられることによ って、その志気が下がるのみならず、結果として本来求められる優れた発明の創造 や戦略的な知的財産管理へ注力できないことになる。 

 

なお、特許やノウハウについてライセンス契約を締結する場合には、公正取引委 員会が1999年7月30日に公表した「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁 止法上の指針」に留意する必要がある。 

 

※「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」 

http://www.meti.go.jp/policy/kyoso̲funso/pdf/tokkyo.pdf   

               

[262] コラム:特許権の活用するために企業内風土を変えることが必要

 

当社は、これまで特許権を取得することが知的財産活動の中心となっていたが、特許取得に 主眼をおくのではなく、取得した特許権の活用を見据えた戦略を策定するようになった。特許権 を活用するためには、まず企業内の風土を変える必要があり、経営管理や人事評価のやり方も 変えていくことが必要である。 

 

【1】特許による事業の維持・拡大への貢献   

1.競合会社・模倣品を排除(警告、差止訴訟) 

 

どのような企業であっても圧倒的に優位な地位を保ち続けることが難しい時代とな っており、事業を安定的に維持・拡大させることは、各企業の重大な目的となっている。

その目的を達し続けるためには、他社に対し少しでも優位性を確保できる要素を持ち 続けることがポイントとなる。そうした中で、法的に認められた排他的独占権である特 許権は、将来にわたって事業を有利に進めるための重要なツールの一つである。 

この有利なツールである特許権の活用方法の一つとして、特許権の排他性を追求 して、ライセンスをせずに他社を排除する手法がある。この手法は、自社特許に関す る事業を完全に独占できるために、事業から高い収益を上げる上で非常に効果的で ある。しかしながら、当該事業に他社が参入できないために、その事業の市場自体が 成長せず、むしろ縮小してしまうことがあり得ることや、競合他社に対して代替市場を 創造しようとする強いインセンティブを与える可能性があることに留意が必要である。 

こうしたメリットとデメリットを勘案して、どのような製品・サービスについて、どの時 期、どのような状態において排他性を追求すべきかを戦略的に検討することが重要と なる。排他性を追求する場合には、自社で独占実施する技術のみについて特許権を 確保するのではなく、自社が独占実施する技術の代替技術・周辺技術の領域まで含 めて、特許権を確保しておくことが効果的である。 

   

自社特許 

自社独占実施+他社排除領域  他社排除領域 

 

 

 

 

また、自社が一定の投資を行って技術開発した成果物である発明を、他社が勝手 に利用することを容認することは、研究開発投資を行った分だけ不利な状況になるこ とを十分に理解する必要がある。すなわち、他社による特許権侵害行為や模倣品に 対しては、絶対に許すことはできないという確固たる姿勢で、迅速に対処することが 肝要である。長らく他社の特許権侵害行為を黙認したという事実は、本来であれば当 然に認められるべき権利行使に対する正当性に疑問を呈される可能性も生じさせる。

また、模倣品対策としては、特許権のほか商標権・意匠権なども必要に応じ活用して いくことが有益である。 

   

[263] 「小さな池の大きな魚」戦略 

 

当社は、一つ一つの事業の規模は大きいものではないが、それぞれの事業では市場シェアの5 0%以上を常に目指している(「小さな池の大きな魚」戦略)。したがって、自社の事業に関係する 特許権は基本的に他社にライセンス供与しない。 

ただし、他社にライセンスをしないことにより、自社事業に係るマーケット自体の縮小、代替技術 の発生が懸念され始めた段階では、積極的に他社にライセンスするように方針転換する。 

   

[264] 特許とノウハウの組み合わせで独占を強化

 

当社は、ある製品事業で、大きな営業利益を上げることができている。その理由として、この事業 が設備投資の大きい寡占事業であることに加え、特許とノウハウの組み合わせが有効に機能して いることがある。 

具体的には、当社は、当該製品の成分・組成について特許を取得している。そして、この製品は、

その成分の配合が少しでもずれると良好な特性を得ることができない繊細なものである。したがっ て、当社の特許を回避しながら、当社の製品と同程度の特性の製品を製造することは難しい。これ に加えて、当社の工場内には細かい製造ノウハウが多数ある。こうした特許とノウハウの組み合わ せにより、当社は有利な製品を提供することができるために、この製品事業のシェアを確保すること ができた。 

さらに、このような高いシェアを一度形成してしまうと、事業は非常にやりやすくなる。その理由と しては、顧客メーカーも、当社の製品を最終製品に加工する際のノウハウを蓄積しながら事業を行 うようになるので、顧客メーカーの工場のラインに当社以外の製品が入るとラインが停止するなどの トラブルが発生してしまう。したがって、当社の顧客メーカーは、継続的に当社の顧客であり続ける 傾向にある。 

   

[265] 徹底的に排他性を追求して成功 

 

当社は、基本的に他社に特許をライセンス供与しない方針である。ある事業において、特許権 侵害の警告を競合会社に対して徹底的に行ったことがある。その結果、その競合会社の事業部門 自体を買収することになった。これにより、その事業はシェアを一気に拡大することができた。 

この事例は、当社にとって、特許権を活かした事業戦略の最高の成功事例となっている。こうし た成功事例は、知的財産部の活動の後押しとなり、同様の成功事例を生み出す原動力となってい る。 

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 126-156)