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から第5章においては、研究開発からの戦略的な発明創造を促進し、創造さ れた個々の発明をどのように研究開発の現場から発掘し、どのような目的をもって、

ドキュメント内 知財戦略事例集 (ページ 173-197)

それらの発明を戦略的に保護・活用していくのかということを述べてきた。また、第6 章では、創造された複数の発明を群としてとらえ、どのように効率的に保護・活用をし ていくのかという方法論について事例を中心に述べてきた。 

そして、このような発明の創造・保護・活用を実践するための知的財産部員の役割 や知的財産部門内の組織については、これまでの各章で個々に取り上げてきたが、

本章では企業組織全体の中での知的財産部門の位置付けについて事例を紹介しつ つ、知的財産部門の役割を述べていく。もちろん、第3章から第6章までに紹介してき た戦略的な発明管理を実行するために、画一的な最適管理体制が存在するのでは なく、各企業が企業規模や事業内容、事業範囲の広がり、事業拠点・研究開発拠点 の地理的な配置、特許出願件数の規模などに応じて、自社に適した発明管理体制を 整えることが重要である。また、知的財産部門は発明のみを対象とする組織ではない ことから、その他の知的財産(意匠、商標など)についても考慮する必要がある。 

ここでは、各社が最適な知的財産関連の組織体制を検討する上で参考となると思 われる企業の事例を特許出願規模

と共に示す。 

 

※特許出願規模は、各事例の表題末尾の括弧内に、①2004年の我が国への特許出願件数、

②2004年の国内出願のうちの海外へも出願された割合(グローバル出願率)の順に、次の 分類にしたがって記載している。 

①2004年の我が国への特許出願件数  A:1〜10件 

B:11〜50件  C:51〜300件  D:301〜1000件  E:1001件以上 

②2004年の国内出願のうちの海外へも出願された割合(グローバル出願率) 

a:10%未満 

b:10%以上〜30%未満  c:30%以上〜50%未満  d:50%以上 

   

1.知的財産業務の実行体制   

企業規模や事業内容、事業範囲の広がり、事業拠点・研究開発拠点の地理的な

配置、特許出願件数の規模など様々な要素によって、知的財産管理のための体制を

検討することが重要であることは上述したとおりである。そうした中でも、企業規模が

小さく、事業範囲が限定的である企業や、特許出願件数が少ない企業においては、

一つの知的財産部門で全ての発明管理を行うことが一般的である。他方、企業規模 が大きく、事業内容が広範囲にわたる企業においては、各事業部門の事業内容・事 業戦略、競合他社の状況等に応じて適切な知的財産戦略を立案し、実行していく必 要があることから、各事業部門の中に知的財産を扱う組織を配置することがあり、こ の場合、本社機能の中の知的財産部門と各事業部門内の知的財産部門とが併設さ れることも多い。 

いずれにしても、それぞれの組織体制には、メリットとデメリットがあるため、デメリ ットを緩和するために各社様々な工夫を凝らした組織を構築している。ここでは、集中 型(一つの知的財産部門で全ての知的財産管理を行う体制)、分散型(各事業部門 の中でそれぞれ知的財産管理を行う体制)、併設型(本社機能の中の知的財産本部 と各事業部門内の知的財産部門を併設し、知的財産管理を分掌する体制)の3つに 大きく分けて事例を紹介すると共に、それぞれのデメリットをなくすような組織上の工 夫をしている事例も紹介する。 

   

(1)集中型   

知的財産管理業務の遂行を一つの知的財産部門に集中させた体制が、この集中 型に該当する。このような体制を採用することは、知的財産に関する全ての情報が知 的財産部門に集まることから、複数の事業部門や関係子会社も含めた知的財産を一 元的に管理することが可能となり、知的財産戦略の立案や知的財産の管理業務を全 社統一的に実施できるというメリットがある。 

また、知的財産関連人材が知的財産部門に集中することで、知的財産人材の管 理が行いやすく、知的財産部門内における業務分担やローテーションを容易に実施 できる。したがって、この体制は、知的財産関連人材の知的財産に関する能力向上 や柔軟な配置の観点からもメリットがある。 

他方、事業部部門や研究開発部門との距離が生じて、事業部門や研究開発部門 の状況などの情報が入りにくくなり、発明発掘、特許情報の提供、権利活用などの活 動をするために必要な事業部門・研究開発部門との連携を実践しにくくなる事態が生 じ得るというデメリットが挙げられる。 

このデメリットを緩和するために、各企業は、各事業部門や研究開発部門に知的 財産部員の席を確保したり、事業部門や研究開発部門の責任者・技術者が知的財 産担当者(リエゾンマン)を兼務したりすることで、事業部門や研究開発部門との連携 を促進させるなど、様々な取組を行っている。ここでは、それらの取組の事例を以下 に紹介する。 

   

[359] 知財部は社長直轄(①A、②b) 

 

知的財産の業務を担うのは社長直轄の知的財産部である。知的財産部は、元研究者の部長

(訴訟を全て担当)、出願担当、調査担当、特許管理事務(予算含む)から構成される。社長直属 のおかげで、知的財産関係、訴訟係争関係の決裁が早いのが特徴である。 

知的財産部は、商品開発に当たって当該関連の特許状況を調べて特許マップを作成し、開発 技術や自他社開発商品の特許性検討会議に参画している。また、警告等受けた場合は、他社特 許回避策の提案や計画図、検討図の鑑定作業を行ったりもしている。知的財産部員で解決できな いことについては、特許事務所に相談をしている。 

   

[360] 知財部が契約業務を一括管理する体制(①B、②d) 

 

当社の知的財産部は、社長直属の本社管理部門の一つであり、10名ほどのスタッフで構成され ている。知的財産部の業務は、半分のスタッフが会社の契約関係全般を行い、残りの半分のスタッ フが特許・商標関係全般を行っている。当社の知的財産部は、知的財産関連の契約だけでなく、

共同研究開発契約や秘密保持契約など年間で数百件の契約業務を一括して行っている。 

したがって、知的財産部は、会社の契約の全体像を把握しているために、特許の出願戦略や特 許ライセンス戦略も立てやすい環境にある。また、他社との契約交渉に知的財産部が長けているこ ともあってか、当社は他社から高額のロイヤリティを獲得しようとしているわけではないにもかかわら ず、特許ライセンス収入が重要な収益源の一つとなっている。 

ただ、研究開発テーマの選定などには、知的財産部は全く関与していない状況にあり、今後の 課題と認識している。 

   

[361] 社長自身が知財担当役員(①C、②a) 

 

当社のコーポレートには、研究開発を支援する部隊が集まった部門がある。この部門には、

各事業部に属するよりも横断的に機能するほうが好ましい部署が集約されており、その 1 つとして知的財産全般を扱う部署が配置されている。

この部署は、知的財産担当及び技術に関連した法務全般を扱う法務担当からなっている。

知的財産担当役員は社長本人である。したがって、直接社長の判断を仰ぎながら仕事をして いる。知的財産担当は、特に「○○事業部担当」という形はとっておらず、開発プロジェク トごとに担当者を決めている。これは、知的財産担当は、どの事業部でもハンドリングでき る人材でなければならないというポリシーに基づいている。

 

 

[362] 事業部門から独立した知財部(①C、②d) 

 

当社では社長直下に知的財産部があり、知的財産部員は特許・技術情報を扱う部署を含めて4 0名程度である。知的財産部では、知的財産権の出願・権利取得・権利維持に関する検討・手 続、知的財産権の活用、第三者知的財産権の評価、訴訟等知的財産権全般に関する業務を担 当している。また、一部の渉外業務も含めて技術契約の審査、支援を行っている。著作権と不正競 争防止法については法務部と一緒に担当している。また、当社は、事業を他社と提携して行うこと に伴う特許を含む技術ライセンス業務が多いことから、事業部内にライセンスを専門に担当する部 署がある。 

以前に、知的財産と研究開発や事業とのリンクの必要性を感じ、知的財産の最も重要性の高い 事業部門の中に知的財産部を移したことがあったが、事業部門との連携強化体制が築けたこと、ま た全部門を対象とする本来の役割を考慮して、元のとおり事業部門からは独立させた知的財産部 に戻した。なお、以前は情報調査機能は研究所に分かれて存在していたが、現在は組織的には 知的財産部に統合されている。 

 

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