第 5 章 一次元の運動 1 36
5.2 無限に高い障壁で囲まれた井戸の中の運動
x軸上を一次元運動する質量mの粒子に対する時間に依存しないシュレディンガー方程式は {
−ℏ2 2m
d2
dx2 +V(x) }
ψ(x) =Eψ (5.7)
で与えられる。1次元系と言えども、この微分方程式が解析的に解けるようなポテンシャルはごくまれである。
ここでは最も簡単な場合として、まず無限に高い障壁で囲まれた井戸(無限に深い井戸型ポテンシャル)の中 の運動について考える。この時、ポテンシャルV(x)は
V(x) = {
0 (0≤x≤L)
∞ (x <0, x > L) (5.8)
と与える。
ポテンシャルの壁の高さが無限に高いので、井戸の内側の粒子が井戸の外に出るためには無限のエネルギーを 必要とする。このため、量子力学といえども、古典力学の場合と同じように、井戸の内側の粒子が井戸の外側に 出ることは出来ない。つまり
ψ(x) = 0 (x <0, x > L) (5.9)
である。
一方、井戸の内側の波動関数ψ(x)はV(x) = 0より
−ℏ2 2m
d2
dx2ψ(x) =Eψ (5.10)
に従う。この微分方程式の一般解は
ψ(x) =Cexp(ikx) +Dexp(−ikx) (5.11)
となるが、exp(ikx) = coskx+isinkxを使って書き直して、
ψ(x) =Asinkx+Bcoskx (5.12)
となる。ただし、
k=
√2mE
ℏ (5.13)
この振幅に相当する複素数の係数AとBは未知であり、次のように決まる。
井戸の外側でψ(x) = 0であったので、二つの境界条件を得る。
ψ(0) = 0 (5.14)
ψ(L) = 0 (5.15)
第一の式から、B= 0である。第二の式からkが kn = π
Ln (n= 1,2,3,· · ·) (5.16) と不連続(離散的)な値に限定される。これを「量子化された」と言う。ここで、波数kが量子化されたことを 明示するために、knのように添字nをつけた。これに伴い、この波数knに対応する波動関数をψnと書くことに する。
結局、解となる波動関数は
ψn(x) =Asinknx (5.17)
である。
この自然数nは、この系の量子状態を指定する「量子数」である。knが負の値を取らない理由は、(5.17)式か らわかるように、k−n= πL(−n)とkn= πLnが同じ波動関数を与えるためである。また、n= 0の場合、k0= 0と なり、ψ0= 0となって、どこにも粒子が存在しない物理的に興味のない状態となるので、排除する。
波数knが量子化されたことに起因して、エネルギー固有値も量子化され、
En= ℏ2kn2 2m = ℏ2
2m π2
L2n2 (n= 1,2,3,· · ·) (5.18) となる。この式から、まずnが大きくなるほど、エネルギー間隔∆En=En+1−Enが大きくなることがわかる。
また、質量mが小さく、Lの小さな狭い井戸に閉じ込められた粒子ほど、エネルギー間隔∆Enが大きいことが わかる。逆にmやLが非常に大きい極限では、knは連続変数となり、Enも連続値を取る。
(5.17)式の定数Aは、境界条件では決まらず、規格化条件
∫ L
0
|ψn(x)|2dx= 1 (5.19)
で決める。
∫ L
0
|Aψn(x)|2dx =
∫ L
0
|Asinknx|2dx (5.20)
=
∫ L
0
|A|21
2(1−cos 2knx)dx (5.21)
= |A|21 2
[ x− 1
2kn sin 2knx ]L
0
(5.22)
= |A|21
2L (5.23)
であるので、A=eiδ√
2/Lとなる(教科書は間違っている!!)。ここで、δは任意の実数であり、「位相」と呼ぶ。
存在確率が波動関数の絶対値2乗で与えられるように、δはどのように選んでも物理現象は変わらない。これを
「ゲージ普遍性」と呼ぶ。そこで、ここではδ= 0と選び、Aを実数とすれば、
ψn(x) =
√2
Lsinknx (5.24)
と波動関数が決まる。
(5.24)式は、両端が固定された一次元のひもが取る定在波と同じ形であり、節の数はn−1である。つまり、運
動エネルギー演算子はd2/dx2に比例するので、波動関数の曲がりが大きければ大きいほど、運動エネルギー(こ の場合はエネルギーと同じ)が増える。節の数が増えれば増えるほど波動関数の曲がりが大きくなるので、nが小 さいほどエネルギーが低く、nが大きいほどエネルギーが高いことになる。n= 1の状態を基底状態と呼び、それ 以外の全ての状態を励起状態と呼ぶ。
古典力学では井戸の内側に閉じ込められた粒子はE≥0の任意の値のエネルギーを取るのに対して、量子力学 では量子数nに応じた離散的な値のエネルギーだけが許される量子化が起こる。また古典力学では静止した状態 が最もエネルギーが小さくE= 0であるが、量子力学では基底状態のエネルギーはE1=π2ℏ2/2mL2と有限の値 を取る。この違いが量子力学の特徴である。
n= 1の基底状態は古典的な静止している状態に対応するにもかかわらず、幅Lの空間に波動関数は広がって いて、その位置は不確定さL/2を持っている。不確定性原理により、運動量もℏ/L程度の不確定さを有している ので、E1は(1/2m) (ℏ/L)2= (ℏ2/2m) (1/L2)程度でなければならない。実際、E1= (ℏ2/2m) (π2/L2)である。
波動関数から精密に計算すると、kn=nπ/L、および
∫
sin 2kxdx = −1
2kcos 2kx (5.25)
∫
xcos 2kxdx = 1 2
d dk
(∫
sin 2kxdx )
= 1
2kxsin 2kx+ 1
4k2cos 2kx (5.26) と
∫
cos 2kxdx = 1
2ksin 2kx (5.27)
∫
x2cos 2kxdx = −1 4
d2 dk2
(∫
cos 2kxdx )
(5.28)
= x2
2ksin 2kx+ x
2k2cos 2kx− 1
4k3sin 2kx (5.29)
を用いて、
< x >n = 2 L
∫ L
0
sinknxxsinknxdx (5.30)
= 2
L
∫ L 0
xsin2knxdx (5.31)
= 1
L
∫ L
0
x(1−cos 2knx)dx (5.32)
= 1
L [1
2x2− 1 2kn
xsin 2knx− 1
4kn2 cos 2knx ]L
0
(5.33)
= 1
L (1
2L2− 1 2kn
Lsin 2nπ− 1
4kn2 cos 2nπ−1
202+ 1 2kn
0 sin 0 + 1 4kn2 cos 0
)
(5.34)
= L
2 (5.35)
< x2>n = 2 L
∫ L
0
sinknxx2sinknxdx (5.36)
= 2
L
∫ L 0
x2sin2knxdx (5.37)
= 1
L
∫ L
0
x2(1−cos 2knx)dx (5.38)
= 1
L [1
3x3− x2 2kn
sin 2knx− x
2kn2 cos 2knx+ 1
4k3nsin 2knx ]L
0
(5.39)
= 1
L (1
3L3− L3
2n2π2cos 2nπ )
(5.40)
= (1
3 − 1 2n2π2
)
L2 (5.41)
< p >n = 2 L
∫ L
0
sinknx(−iℏ) d
dxsinknxdx (5.42)
= 2
L(−iℏkn)
∫ L
0
sinknxcosknxdx (5.43)
= 1
L(−iℏkn)
∫ L
0
sin 2knxdx (5.44)
= 1
L(−iℏkn) [
− 1 2kn
cos 2knx ]L
0
(5.45)
= 1
L (
−iℏ1 2
)
(cos 0−cos 2nπ) (5.46)
= 0 (5.47)
< p2>n = 2 L
∫ L
0
sinknx(−iℏ)2 d2
dx2sinknxdx (5.48)
= 2
L(ℏkn)2
∫ L
0
sinknxsinknxdx (5.49)
= 1
L(ℏkn)2
∫ L
0
(1−cos 2knx)dx (5.50)
= 1
L(ℏkn)2 [
x− 1 2kn
sin 2knx ]L
0
(5.51)
= 1
L(ℏkn)2L (5.52)
= (ℏkn)2 (5.53)
なので、
∆xn = √
< x2>n −< x >2n (5.54)
=
√(1 3 − 1
2n2π2 )
L2− (L
2 )2
(5.55)
= L
√1 12− 1
2n2π2 (5.56)
= L
2nπ
√n2π2
3 −2≥ L
2nπ ×1.136 (5.57)
∆pn = √
< p2>n−< p >2n (5.58)
= ℏkn (5.59)
= ℏnπ
L (5.60)
であり、
∆xn∆pn = L 2nπ
√n2π2
3 −2·ℏnπ L = ℏ
2
√n2π2
3 −2 (5.61)
> ℏ 2n
√3−2 = ℏ
2 (5.62)
となって、確かに不確定性原理∆x∆p≥ℏ/2を満たしている。
また厳密にE1=π2ℏ2/2mL2= (1/2m)(∆p1)2である。このように、E1は不確定性原理によって現れた有限な 値であり、「零点エネルギー」と呼ばれる。また基底状態は「零点振動している」と呼ばれる。
なお、⟨p⟩1= 0は基底状態が同じ大きさ|p|の運動量を持ったx >0向きの進行波とx <0向きの進行波の同じ 重さの重ね合わせの定常波になっていることを示しており、また∆p1=ℏπ/Lはそれらのx >0向きの進行波と x <0向きの進行波の運動量の大きさが共に|p|=ℏπ/Lであることを示している。
なお、「一次元の束縛問題では、固有状態に縮退はない」ことが一般的に成り立っている。