第 6 章 一次元の運動 2 44
6.4 有限の高さと幅を持つ壁に遮られた運動
有限の高さを持った障壁がある場合の運動を考えてみたい。ポテンシャルが
V(x) = {
0 (|x| ≥a)
V0 (|x|< a) (6.77)
という形状を持っている場合を考える。シュレディンガー方程式は (
−ℏ2 2m
d2
dx2 +V(x) )
Ψ(x) =EΨ(x) (6.78)
である。
まず領域I (x≤ −a)で、波動関数は
ΨI(x) =Aeikx+Be−ikx (6.79)
ただし
k= 1 ℏ
√2mE (6.80)
である。
次に領域II (−a < x < a)で、波動関数は
ΨII(x) =Ceik′x+De−ik′x (6.81) ただし
k′= 1 ℏ
√2m(E−V0) (6.82)
である。
最後に領域III (a≤x)で、波動関数は
ΨIII(x) =F eikx+Ge−ikx (6.83)
である。
これらの波動関数は、x=−aおよびx=aで連続でなければならないし、また一階微分も連続でなければなら ない。このため次の条件が必要となる。
Ae−ika+Beika = Ce−ik′a+Deik′a (6.84) A(ik)e−ika+B(−ik)eika = C(ik′)e−ik′a+D(−ik′)eik′a (6.85) Ceik′a+De−ik′a = F eika+Ge−ika (6.86) C(ik′)eik′a+D(−ik′)e−ik′a = F(ik)eika+G(−ik)e−ika (6.87) これらの式を行列形式にまとめると
(
e−ika eika ke−ika −keika
) ( A B
)
= (
e−ik′a eik′a k′e−ik′a −k′eik′a
) ( C D
)
(6.88) (
eik′a e−ik′a k′eik′a −k′e−ik′a
) ( C D
)
= (
eika e−ika keika −ke−ika
) ( F G
)
(6.89) 一つ目の式の両辺に右から逆行列をかけると、
( A B
)
= −1 2k
( −keika −eika
−ke−ika e−ika ) (
e−ik′a eik′a k′e−ik′a −k′eik′a
) ( C D
)
(6.90)
= 1
2k (
(k+k′)ei(k−k′)a (k−k′)ei(k+k′)a (k−k′)e−i(k+k′)a (k+k′)e−i(k−k′)a
) ( C D
)
(6.91) (C,D)と(F,G)の関係は、この式でaを−aに変換し、またkとk′を入れ替えることで得られる。
( C D
)
= 1 2k′
(
(k+k′)ei(k−k′)a −(k−k′)e−i(k+k′)a
−(k−k′)ei(k+k′)a (k+k′)e−i(k−k′)a ) (
F G
)
(6.92) これらの式から(A,B)と(F,G)の関係を得ることが出来る。
( A B
)
= (k+k′)2 4kk′
(
αe2i(k−k′)a γsin 2k′a
−γsin 2k′a βe−2i(k−k′)a ) (
F G
)
(6.93)
= (
M11 M12
M21 M22
) ( F G
)
(6.94) ただし
α = 1−
(k−k′ k+k′
)2
e4ik′a (6.95)
β = 1−
(k−k′ k+k′
)2
e−4ik′a (6.96)
γ = 2ik−k′
k+k′ (6.97)
である。
左から粒子が入射する場合には、右から入射することはないのでG= 0と置くことが出来、A =M11F かつ B=M21Fとなる。これから、透過確率Tと反射確率Rを求めることが出来る。
T = |F|2
|A|2 = 1
|M11|2 = 1 1 +(k2−k′2
2kk′
)2
sin2(2k′a)
(6.98)
R = |B|2
|A|2 = |M21|2
|M11|2 =
(k2−k′2 2kk′
)2
sin2(2k′a) 1 +(k2−k′2
2kk′
)2
sin2(2k′a)
= 1−T (6.99)
このように、1 =T+Rである。以上の検討は、E < V0の場合にもE > V0の場合と同様に当てはまる。
まずE > V0の場合を考える。古典的には、全ての粒子は壁に反射されずに、そのまま突き抜けるはずで、T = 1、
R= 0のはずであるが、上式からRは一般に0ではないことがわかる。分子が0になるときだけT = 1であるが、
この条件を満たすのは、nを整数として2k′a=nπの場合である。つまり E= ℏ2
2mk′2+V0= ℏ2 2m
(nπ 2a
)2
+V0 (6.100)
である。2aがポテンシャル障壁の幅であるので、ポテンシャル障壁の両端が波動関数の節になるような条件が、
T = 1に対応する。T = 1となるこの現象を、共鳴が起きている、と呼ぶ。
なお、以上の議論はV0<0であっても影響を受けないので、つまり有限な高さの障壁で囲まれた井戸を越える 一次元の運動にも適用可能である。このような場合にも、粒子は一般に反射を受け、完全に透過するのは共鳴条 件、nを整数として2k′a=nπを満たす入射エネルギーの時だけである。
次にE < V0の場合を考える。この場合、k′は純虚数になるので、次のκを導入する。
κ= 1 ℏ
√2m(V0−E) =−ik′ (6.101)
するとTとRは書き直すことが出来て、
T = 1
1 +(k2+κ2 2kκ
)2
sinh2(2κa)
(6.102)
R =
(k2+κ2 2kκ
)2
sinh2(2κa) 1 +(k2+κ2
2kκ
)2
sinh2(2κa)
= 1−T (6.103)
となる。古典的には、全ての粒子は壁に反射され、突き抜けるものはないはずであり、T = 0でR= 1のはずであ るが、上式からT は0にならないことがわかる。Eが小さくなるほどκは大きくなり、sinh (2κa)は指数関数的 に大きくなるが、それでもTは0になる訳ではない。これは、量子力学的なトンネル効果である。特に、κa≫1 の場合、近似的に
T
( 4kκ k2+κ2
)2
e−4κa (6.104)
と書ける。つまり、エネルギー障壁の幅2aや障壁の高さV0が大きければ、κaは大きくなり、T は指数関数的に 小さくなり、ついにはT 0となって古典的な結果と一致する。逆に、エネルギー障壁の幅や高さが小さいほど、T は大きくなる。