第 7 章 中心力の下での運動 52
7.7 水素原子の場合の解
である。今、V(r)がV(r)<0、かつr→0でV(r)∼rkただしk >−2と振る舞い、r→ ∞でV(r)→0である とすると、U(r)を図示することが出来る。r→0ではℏ2l(l+1)
2mr2 の項が支配的になり、 lが大きいほど大きな障壁 が現れ、中心に近寄れなくなる。この項は遠心力の位置エネルギーに対応する。しかしrが大きくなるとV(r)が 支配的になってU(r)<0となるが、さらにrが増大するとU(r)は0に近づく。このため、粒子は中間的なrの 領域に束縛されて運動する事になる。
u(r)の振る舞いを調べてみよう。r→0では[
ℏ2l(l+ 1)]
/2mr2の項が支配的なので、
[
−ℏ2 2m
d2
dr2 +ℏ2l(l+ 1) 2mr2
]
u(r) =Eu(r) (7.123)
を満たす。u(r)がrjという依存性を示すものとすると
−j(j−1)rj−2+l(l+ 1)
r2 rj = 2m
ℏ2Erj (7.124)
−j(j−1) +l(l+ 1) = 2m
ℏ2Er2 (7.125)
となる。右辺は0として良いので、つまりj =l+ 1でなければならない。従って、R(r)はr →0でrlに比例 する。
次にr→ ∞の場合を考える。このとき [
−ℏ2 2m
d2 dr2
]
u(r) =Eu(r) (7.126)
を満たすので、B=−Eとして、u(r)はexp (−√
2mB/ℏ2r
)に比例して急速に減衰することがわかる。ただし、
ここで束縛されて運動しているという条件を利用して、発散する解を捨てた。
V(r)の具体的な形を与えない限り、(7.29)式の解についてはこれ以上深入りすることが出来ないが、波動関数 はψ=Cu(r)Ylm(θ, φ)/rと書くことができることがわかった。
R3,0(r) = 2
√3 ( 1
3aB
)32( 3− 2r
aB
+ 2r2 9a2B
)
e−3aBr (7.132)
R3,1(r) = 2√ 2 9
( 1 3aB
)32 ( 2r aB − r2
3a2B )
e−3aBr (7.133)
R3,2(r) = 4 27√
10 ( 1
3aB
)32( r2 a2B
)
e−3aBr (7.134)
これらの解が前の節で調べたr→0の振る舞いやr→ ∞の振る舞いを満たしていることは容易に確認できる。
また、実際に上記のRn,l(r)が(7.29)式を満たしていることも確認できる。V(r) =−e2/4πε0r =−ℏ2/maBr に注意すると、例えばR3,2(r)については
[
−ℏ2 2m
1 r
d2
dr2r+ℏ22(2 + 1)
2mr2 +V(r) ]
R3,2(r) (7.135)
= [
−ℏ2 2m
1 r
d2
dr2r+ ℏ26
2mr2 +V(r) ] 4
27√ 10
( 1 3aB
)32( r2 a2B
)
e−3aBr (7.136)
= 4
27√ 10
( 1 3aB
)32[
−ℏ2 2m
1 r
d2
dr2r+ ℏ26
2mr2 + ℏ2 maBr
] (r2 a2B
)
e−3aBr (7.137)
= 4
27√ 10
( 1 3aB
)32 ℏ2 2m
[
−1 r
(
6r−6 r2 3aB
+ r3 9a2B
) 1 a2B + 6
a2B − 2r a3B ]
e−3aBr (7.138)
= 4
27√ 10
( 1 3aB
)32 ℏ2 2m
[
−1 r
( r3 9a2B
) 1 a2B
]
e−3aBr (7.139)
= − ℏ2 2ma2B
1
32R3,2(r) (7.140)
= E3R3,2(r) (7.141)
と確認できる。Rn,l(r)の一般形は、特殊関数のラゲールの陪多項式を用いることで書くことが出来る。
Rn,l(r) =−
√( 2 naB
)3
(n−l−1)!
2n{(n+l)!}3 ( 2r
naB
)l
e−naBr L2l+1n+l ( 2r
naB
)
(7.142) ここでLmn(z)はラゲールの陪多項式である。Enの導出や、軌道量子数lが0からn−1までであると言う制限の 導出も含めて、詳細は教科書を参照して欲しい。
結局、水素原子の場合には、波動関数がψ=Rn,lYlm(θ, φ)と書くことが出来ることがわかった。このように波 動関数は、3つの量子数(n, l, m)の組で指定することが出来る。
Rn,l(r)の詳細を見てみよう。前の節で述べたように、r →0でRn,l(r)はrlに比例し、r→ ∞でRn,l(r)は exp
(−√
2m|En|/ℏ2r
)つまりexp (−r/naB)に比例する。また、rが0から増大するにつれて、n−l−1個の節 が存在する。つまり、nが多いほどlが小さいほど振動が多くなるので、r方向の運動エネルギーが高くなる。そ して、指数関数の項からわかるようにnが大きいほどr大に広がり、rの多項式の項からわかるようにlが大きい ほどr大に広がる。
実際の波動関数は、Rn,l(r)とYlm(θ, φ)またはYl,m(θ, φ)をかけたものである。Rn,l(r)は、rが0から増大する につれて、n−l−1個の節が存在し、一方Ylm(θ, φ)またはYl,m(θ, φ)については、φの増大と共に|m|回の振動が 現れ、θの増大と共にl−|m|回の振動が現れた。全体の波動関数の振動回数は、(n−l−1) +|m|+ (l−|m|) =n−1 と、nだけで決まり、このことがエネルギー固有値Enがnだけで決まっていることと関係している。
なお、n= 1,l = 0の軌道を1s軌道、n= 2,l = 0の軌道を2s軌道、n= 2, l = 1の軌道を2p軌道、n= 3, l= 0の軌道を3s軌道、n= 3, l= 1の軌道を3p軌道、n= 3 ,l= 2の軌道を3d軌道、n= 4, l= 0の軌道を4s 軌道、n= 4, l= 1の軌道を4p軌道、n= 4, l= 2の軌道を4d軌道、n= 4,l= 3の軌道を4f軌道、と呼ぶ。
一般に、最低のエネルギー状態を「基底状態」と呼び、それ以外の高いエネルギー状態を「励起状態」と呼ぶ。
電子は基底状態にあることがほとんどであるはずだが、光や熱によってエネルギーを吸収して励起状態に移るこ とが出来る。励起状態からは、その逆に、光や熱によってエネルギーを放出して、基底状態に戻ることが出来る。
水素原子において軌道エネルギーは不連続なので、放出されるエネルギーもとびとびになる。それが光によって 放出されたとすると、観測される光の波長分布(スペクトル)もとびとびになるはずである。実際、これは輝線ス
ペクトルとして実験的に観測されている。むしろ、その輝線スペクトルを説明することが、量子力学が形成され る大きなきっかけとなった。
最後に、各軌道がr方向にどのくらいの広がりを持っているのかを見てみよう。規格化条件は
1 =
∫ ∞
0
∫ π 0
∫ 2π 0
|Rn,l(r)Ynl(θ, φ)|2r2sinθdrdθdφ (7.143) であるので、角度方向のθとφだけ積分を実行しr依存性だけ残した波動関数の動径密度分布P(r)を定義する。
P(r) =
∫ π
0
∫ 2π
0
|Rn,l(r)Ynl(θ, φ)|2r2sinθdθdφ (7.144)
= |Rn,l(r)|2r2 (7.145)
なお定義により
1 =
∫ ∞
0
P(r)dr (7.146)
を満たす。1s軌道におけるP(r)の最大値を示すrを求めてみると
dP
dr = d
dr [
4r2 ( 1
aB
)3
e−aB2r ]
(7.147)
= 4 ( 1
aB
)3(
2r−r2 2 aB
)
e−aB2r (7.148)
なので、dP/dr= 0を満たすのはr=aBとなる。同様にr方向に節のない2p軌道については dP
dr ∼ d
dr (
r4e−22raB )
(7.149)
= (
4r3−r4 1 aB
)
e−aBr (7.150)
なので、dP/dr= 0を満たすのはr= 4aB。3d軌道については dP
dr ∼ d
dr (
r6e−32raB )
(7.151)
= (
6r5−r6 2 3aB
)
e−32raB (7.152)
なので、dP/dr= 0を満たすのはr= 9aBとなる。aBは水素原子の1s軌道の広がりの程度と一致していること、
主量子数nの軌道はn2aB程度の広がりを持つことがわかる。