第 9 章 場合の数と平均・ゆらぎ 74
11.6 ヘルムホルツの自由エネルギーと分配関数の関係
ヘルムホルツの自由エネルギーF と分配関数Zの関係を見てみよう。F =U −τ σかつ σ=−
(∂F
∂τ )
V
(11.71) であるので、
F =U+τ (∂F
∂τ )
V
(11.72) U =F−τ
(∂F
∂τ )
V
(11.73) となる。少し書き直すと
U =−τ2∂(F/τ)
∂τ (11.74)
である。この変換は難しいが逆にたどれば理解できるだろう。
U = −τ2∂(F/τ)
∂τ (11.75)
= −τ2 [∂F
∂τ 1 τ +F
(
− 1 τ2
)]
(11.76)
= −τ∂F
∂τ +F (11.77)
である。
U =τ2∂logZ
∂τ (11.78)
であったので、両者を比較して
F =−τlogZ (11.79)
が導かれる。この式は大変有用で、多重度やエントロピーの議論をせずとも、F を分配関数Zから直接求めるこ とを可能とする。
この式を変形すると
Z= exp (
−F τ
)
(11.80) すると、量子状態sが占められている確率は、
P(εs) = exp(
−ετs)
Z = exp
(F−εs
τ )
(11.81) と書くことが出来る。
2価モデル系についてZからFを求めてみよう。2価モデル系において一粒子のエネルギー準位は
εs=−2msB (11.82)
ただし、s=±1/2。従って、一粒子の分配関数は Z1= exp
(mB τ
) + exp
(
−mB τ
)
= 2 cosh (mB
τ )
(11.83)
である。独立な事象については確率は積の形で書けるから、分配関数もかけあわせれば良いので、N粒子からな る全系の分配関数は
Z =Z1N = [
2 cosh (mB
τ )]N
(11.84) である。F=−τlogZより
F =−τ Nlog [
2 cosh (mB
τ )]
(11.85) この式は以前の計算結果(11.62)式と一致しているが、導出はずっと簡単である。同様にエネルギーは
U =−τ2∂(F/τ)
∂τ =−mBNtanh (mB
τ )
(11.86) エントロピーは
σ=U −F
τ =−mB τ Ntanh
(mB τ
)
+Nlog [
2 cosh (mB
τ )]
(11.87) スピン差の平均値は
⟨2s⟩=− U
mB =Ntanh (mB
τ )
(11.88) と容易に求まる。なお、この導出にスターリングの近似式が用いられていない事に注意して欲しい。ˆs 0つまり mB/τ ≪1のときには、tanhをマクローリン展開して
⟨2s⟩=NmB
τ (11.89)
この式は、前の章で求めたsとτの関係式
τ= (mB)2N
|U| =mBN
2s (11.90)
をsについて解き直したものである。ちなみに磁化も次のようにF から求めることも出来る。
M = ⟨2s⟩m
V =mntanh (mB
τ )
(11.91) あるいは
M =−1 V
(∂F
∂B )
τ
=mntanh (mB
τ )
(11.92) としても求められる。
第 12 章 ボルツマン分布と自由エネルギーと分配 関数 2
12.1 理想気体の概観
これまでの知識を元に、一辺Lの立方体の中を自由に運動している1つの原子からなる系について考えてみよ う。一粒子のシュレディンガー方程式は
− ℏ2
2M∇2ψ=εψ (12.1)
である。x, y, z= 0とx, y, z=Lに壁があるので境界条件ψ= 0が与えられるので、波長はどの方向も2Lを正 の整数で割ったものになり、波動関数は
ψ(x, y, z) =Asin (πnx
L x )
sin (πny
L y )
sin (πnz
L z )
(12.2) である。ここで、nx,ny,nzは正の整数である。エネルギー準位は
εn = ℏ2 2M
(π L
)2(
n2x+n2y+n2z)
(12.3) ここでスピンや原子構造などは無視している。一粒子の分配関数は
Z1=∑
nx
∑
ny
∑
nz
exp [
− ℏ2 2M
(π L
)2(
n2x+n2y+n2z)1 τ ]
(12.4)
Lが非常に大きいのでεnは連続だとして和を積分に置き換える。
Z1=
∫ ∞
0
dnx
∫ ∞
0
dny
∫ ∞
0
dnzexp[
−α2(
n2x+n2y+n2z)]
(12.5) ここでα2=ℏ2π2/2M L2τと置いた。指数関数の部分は三つの指数のかけ算と書けるので、積分は分離できて
Z1= [∫ ∞
0
dnxexp(
−α2n2x)]3
= (1
α
)3[∫ ∞
0
dxexp(
−x2)]3
= (1
α )3(√
π 2
)3
=π3/2
8α3 (12.6)
結局
Z1= L3 (2πℏ2/M τ)3/2
=nQ
n (12.7)
ただしn= 1/L3= 1/V は濃度、nQ =(
M τ /2πℏ2)3/2
は量子濃度である。
量子濃度nQはℏが現れていることからわかるように、量子力学的な物理量であるが、熱物理学では頻繁に現れ る。1気圧で室温における気体ヘリウムにおいては、n≃2.5×1019 cm−3、nQ ≃0.8×1025cm−3であるので、
n/nQ ≃3×10−6は1よりもとても小さい。気体ヘリウムは普通はとても希薄と言える。このようにn/nQ ≪1 であることを、気体は古典領域下にある、という。古典領域にある相互作用のない原子の気体のことを、「理想気 体」と呼ぶ。
Z1からエネルギーを求めてみると
U =τ2∂logZ1
∂τ = 3
2τ (12.8)
である。通常の単位に直すと
U = 3
2kBT (12.9)
で、これは原子1つ当たりの気体のエネルギーとして、良く知られているものである。
ここまでは1原子だけを考えてきた。立方体の中にN粒子ある場合はどうなるであろうか?2価モデルで説明し たように、事象が独立であるから確率はかけ算となり、分配関数もかけ算となるので、一粒子の分配関数をZ1と すると、全系の分配関数はZN =Z1N となる。しかし、2価モデルとは異なって、原子の場所は指定されていない し、原子は全く同じだから区別出来ない。そのため因子N!だけ数えすぎている。そこで正しい分配関数は古典領 域において
ZN = 1
N!Z1N = 1
N!(nQV)N (12.10)
である。因子N!はエントロピーに影響するが、実験でこの因子が必要な事が確認されており、また後に改めて別 の方法でこの考えが正しいことを確認する。
するとN粒子の理想気体のエネルギーは
U =τ2∂logZN
∂τ =3
2N τ (12.11)
となる。この式もよく知られている。自由エネルギーは
F =−τlogZN =−τ NlogZ1+τlogN! (12.12) スターリングの公式を使って
F ≃ −τ Nlog
[(M τ 2πℏ2
)3/2
V ]
+τ NlogN−τ N (12.13)
圧力は
p=− (∂F
∂V )
τ
=N τ
V (12.14)
すなわち
pV =N τ (12.15)
この式は理想気体の法則と呼ばれ、普通の単位を使うと
pV =N kBT (12.16)
もしくはmolで測った原子数nを用いて
pV =nRT (12.17)
である。これは良く知っている、理想気体の状態方程式である。ちなみに、気体定数R= 8.314 J/Kmolである。
さらにエントロピーは
σ=− (∂F
∂τ )
V
=Nlog
[(M τ 2πℏ2
)3/2
V ]
+3
2N−NlogN+N (12.18)
で、濃度n=N/V を用いて
σ=N [
log (nQ
n )
+5 2 ]
(12.19) となる。この結果は、単原子理想気体のエントロピーに関するサックール-テトロード方程式と呼ばれる。この式 にもnQを通してℏが含まれており、古典理想気体であってもエントロピーには量子力学の概念が必要だと言う ことがわかる。ちなみにエネルギーは
U =F+τ σ=3
2N τ (12.20)
と先の結果を再現する。なお、このエネルギーの式は、各粒子の各自由度からの寄与12τの足し合わせである。各 粒子は3次元の運動方向を持つためZ1が3乗の形になったのである。同じような議論は、高温で実現される古典 極限での調和振動子や二原子回転子にも見られる。
最後に等積比熱、つまり熱容量を計算してみると CV =
(∂U
∂τ )
V
= 3
2N (12.21)
である。普通の単位系では
CV = 3
2N kB (12.22)
である。