第 9 章 場合の数と平均・ゆらぎ 74
13.4 ギブス因子とギブス和
温度τの時のエネルギーεの状態を見出す確率を表すボルツマン因子を、化学ポテンシャルµの時に粒子数N の状態を見出す確率を表すように拡張しよう。
大きなエネルギーと粒子数を持った熱だめRに熱的かつ拡散的に接触している多重度1の系Sを考える。Sの 状態をεs,Nsと指定した場合の全系R+Sの状態の数は、Rに許される状態の数に等しく、
g(R+S) =g(R)×1 (13.43)
系を見出す確率は状態数に比例するので
P(Ns, εs)∝g(N0−Ns, U0−εs) (13.44) これを使うと二つの状態を見出す確率の比は
P(N1, ε1)
P(N2, ε2) =g(N0−N1, U0−ε1)
g(N0−N2, U0−ε2) (13.45)
となる。エントロピーを使って書き直すと P(N1, ε1)
P(N2, ε2) = exp [σ(N0−N1, U0−ε1)]
exp [σ(N0−N2, U0−ε2)] (13.46) ε1やε2、N1、N2はU0やN0よりはるかに小さいので、エントロピーをテイラー展開して
σ(N0−Ns, U0−εs) =σ(N0, U0)−Ns
( ∂σ
∂N0 )
U0
−εs
(∂σ
∂U0 )
N0
+· · · (13.47) 温度τの定義と化学ポテンシャルµの表式を使って書き直すと
σ(N0−Ns, U0−εs) =σ(N0, U0) +Ns
µ τ −εs
1
τ (13.48)
結局
P(N1, ε1) P(N2, ε2) =
exp
(N1µ−ε1
τ
)
exp
(N2µ−ε2 τ
) (13.49)
となる。この
exp
(N µ−ε τ
)
(13.50) を「ギブス因子」もしくは「大正準分布」「グランドカノニカル分布」と呼ぶ。さらに、このギブス因子を粒子の あらゆる数とあらゆるエネルギー状態について足し合わせた和
Ξ(µ, τ) =
∑∞ N=0
∑
s(N)
exp
(N µ−εs
τ )
(13.51) を「ギブス和」もしくは「大分配関数」と呼ぶ。
このギブス和を用いると、状態を見出す確率は
P(N, εs) = exp
(N µ−εs
τ
)
Ξ (13.52)
物理量一般の平均値は
⟨X⟩=
∑∞ N=0
∑
s(N)
X(N, εs)P(N, εs) = 1 Ξ
∑∞ N=0
∑
s(N)
X(N, εs) exp
(N µ−εs
τ )
(13.53)
粒子数の平均値は
⟨N⟩= 1 Ξ
∑∞ N=0
∑
s(N)
Nexp
(N µ−εs
τ )
= τ Ξ
∂Ξ
∂µ =τ∂log Ξ
∂µ (13.54)
となる。
λ= exp (µ/τ)を「絶対活動度」、あるいは「絶対活量」と呼ぶ。このλを用いると Ξ =∑
N,s
λNexp (−εs/τ) (13.55)
粒子数の平均値は
⟨N⟩=λ∂log Ξ
∂λ (13.56)
となる。
エネルギーの平均値は
U =⟨ε⟩= 1 Ξ
∑∞ N=0
∑
s(N)
εsexp
(N µ−εs
τ )
(13.57) β= 1/τを導入すると、
⟨N µ−ε⟩=⟨N⟩µ−U = ∂
∂β log Ξ (13.58)
よって
U = (µ
β
∂
∂µ− ∂
∂β )
log Ξ = (µ
β
∂
∂µ−∂τ
∂β
∂
∂τ )
log Ξ = (
τ µ ∂
∂µ+τ2 ∂
∂τ )
log Ξ (13.59) 教科書にはないがグランドポテンシャルJはτ,V,µの関数で
J(τ, V, µ) =F−µN=U−τ σ−µN =−pV (13.60) 熱物理学では内部変化が許されるので、化学ポテンシャルが一定の下で系が安定で熱平衡・拡散的平衡なのは、エ ネルギーU が最小であり、多重度gが最大つまりエントロピーσが最大で、かつ粒子数N が最小(ただしµ <0) の場合。グランドポテンシャルJ はこれらの要請を満たし、化学ポテンシャル・体積一定で熱だめと熱的接触・
拡散的接触していて温度一定の安定で熱平衡・拡散的平衡な系において最小となる。つまり、グランドポテンシャ ルJ が最小となるようなエネルギーU とエントロピーσ、体積V 、粒子数N が、化学ポテンシャル・体積一 定で温度一定の安定で熱平衡・拡散的平衡な系で実現する。
拡張された熱力学の関係式は
dJ(τ, V, µ) =−σdτ−pdV −N dµ (13.61)
するとJの微分から
σ=− (∂J
∂τ )
V,µ
(13.62) p=−
(∂J
∂V )
τ,µ
(13.63) N=−
(∂J
∂µ )
τ,V
(13.64) さらに大分配関数との関係は、式(13.58)より
U−µN =− ∂
∂βlog Ξ =−∂τ
∂β
∂
∂τ log Ξ =τ2∂log Ξ
∂τ (13.65)
で一方
U−µN =J+τ σ=J−τ∂J
∂τ =−τ2∂(J/τ)
∂τ (13.66)
なので、両者を比較することで結局
J=−τlog Ξ (13.67)
となり、大分配関数からグランドポテンシャルを求めることが出来る。
第 14 章 量子統計
本講義の前半で、物質を構成する粒子はフェルミ粒子、力を伝える粒子はボーズ粒子、ということを説明した。
さらに、フェルミ粒子については二つの粒子が同じ運動状態と成ることが出来ないが、ボーズ粒子についてはい くつでも同じ運動状態と成ることが出来る、と言うことを説明した。ここではこれらの粒子の性質が、熱物理学 にどのように反映するのかを考える。
14.1 フェルミ粒子とボーズ粒子
量子力学に基づけば、どんな粒子も必ずフェルミ粒子かボーズ粒子かのどちらかに分けられる。半奇数のスピ ンを持つ粒子は「フェルミ粒子」、0を含む整数のスピンを持つ粒子は「ボーズ粒子」であって、その中間は存在 しない。電子やクオーク、光子といった基本素粒子だけでなく、その複合粒子も同じ法則に従い、陽子2つ中性 子1つ電子2つで計5つの粒子から構成される3He原子は、陽子も中性子も電子もスピン1/2を持つため半奇数 のスピンを持ち、フェルミ粒子である。一方、陽子2つ中性子2つ電子2つで計6つの粒子から構成される4He 原子は、ボーズ粒子である。固体の格子振動のフォノンもボーズ粒子とみなすことが出来る。
「準位」とはただ1個の粒子に対するシュレディンガー方程式の解で表される状態である。粒子間の相互作用 が弱い場合、N粒子系のシュレディンガー方程式の量子状態は、N 個の粒子のそれぞれに1個の準位を割り当て る事で近似できる。粒子の占有できる準位は通常無限個存在する。この準位モデルは、粒子間の相互作用が全く ない極限で、N粒子系の正確な解となる。1個の準位を占有する粒子の数の熱平均値を「分布関数」と呼び、εを 準位のエネルギーとすると、f(ε, τ, µ)と記される。
多粒子系を構成する粒子の種類がフェルミ粒子かボーズ粒子か、ということは系の状態に根本的で重大な効果を 及ぼす。量子理論を相互作用のない準位モデルに適用すると、準位の占有率について次のような法則が成り立つ。
• 同種のボーズ粒子は、1個の準位に、0個もしくは任意の整数個、存在できる。
• 同種のフェルミ粒子は、1個の準位に、0個もしくは1個、存在できる。
二つ目の法則は、「パウリの排他律」に他ならない。占有率の熱平均値は整数である必要はないが、占有率はこの ように整数でなければならない。
二種類の占有法則があるので、各準位に対するギブス和も二種類存在する。ボーズ粒子では準位占有数Nの和 は全ての整数値にわたって取ることになるが、フェルミ粒子ではN = 0とN = 1のみについて取ることになる。
ギブス和が異なるので、占有率の熱平均値f(ε, τ, µ)も異なる2つの量子分布関数が存在する。