第 9 章 場合の数と平均・ゆらぎ 74
14.4 古典極限における理想気体
準位の占有率の熱平均値は、フェルミ粒子の場合はフェルミ-ディラック分布関数、ボーズ粒子の場合はボーズ-アインシュタイン分布関数となった。しかし、f ≪1の時には、両者は同じ分布関数となる。この極限を「古典 領域」と呼ぶ。フェルミ-ディラック分布関数とボーズ-アインシュタイン分布関数はまとめて
f(ε) = 1 exp(ε−µ
τ
)±1 (14.8)
と書くことが出来る。全ての準位に対してf ≪1であるためには、全ての準位について exp
(ε−µ τ
)
≫1 (14.9)
でなければならない。もしこの条件が満たされるならば、フェルミ-ディラック分布関数もボーズ-アインシュタイ ン分布関数も同じになって、
f(ε)≃exp (µ−ε
τ )
=λexp (−ε
τ )
(14.10) となる。この極限の結果は、「古典分布関数」もしくは「マクスウェル-ボルツマン分布関数」と呼ばれている。古 典という名前が付いてはいるが、量子力学に基づいた概念である。
さて、このような古典領域の理想気体の性質を考えたい。実は、古典領域の理想気体の性質は、単なる理想気 体の性質と称して前に考えた。しかし、N!という因子の取り入れ方がわかりにくかったこともあるので、ここで はギブス和を用いて、改めて考えてみたい。
まず化学ポテンシャルを考える。原子の総数の熱平均値は、実際にわかっている原子の数Nに等しくなければ ならない。分布関数は1つの原子の状態の占有率の熱平均値であったので、全ての原子の状態についての和を取 れば、原子の総数の熱平均値が出てくる。
N =⟨N⟩=∑
s
f(εs) (14.11)
ここでεsは状態のエネルギーである。ここでは、スピンの値が0の同一の原子からなる単原子気体を考える。分 布関数として古典分布関数を入れると、
N =λ∑
s
exp (−εs
τ )
(14.12) となる。この右辺の和は、体積V の中の1個の自由に運動する粒子に関する分配関数Z1に他ならない。よって、
N =λZ1 (14.13)
である。
Z1=nQV (14.14)
で、
nQ= (M τ
2πℏ2 )3/2
(14.15) は量子濃度であった。よって
N =λZ1=λnQV (14.16)
書き直して
λ= N nQV = n
nQ
(14.17) ここで粒子数密度n=N/V を用いた。結局、λは量子体積1/nQ中の原子の数に等しい。
λ= exp (µ
τ )
= n nQ
(14.18) であるから、古典領域においてはn/nQ≪1である。結局、単原子理想気体の化学ポテンシャルは
µ=τlog ( n
nQ )
(14.19) である。この式は、以前導出した式と一致している。nQの詳細を代入して
µ=τ [
logN−logV −3
2logτ+3 2log
(2πℏ2 M
)]
(14.20) とも書ける。
次に自由エネルギーを求めよう。
µ= (∂F
∂N )
τ,V
(14.21) であった。そこで
F(N, τ, V) =
∫ N
0
dN µ(N, τ, V) =τ
∫ N
0
dN[logN+· · ·] (14.22)
と書ける。 ∫
dxlogx=xlogx−x (14.23)
であるので、
F =N τ [
logN−1−logV −3
2logτ+3 2log
(2πℏ2 M
)]
(14.24) nQを使ってまとめて、
F =N τ [
log ( n
nQ )
−1 ]
(14.25) この式は、以前導出したN!という因子を考慮した場合の式と一致している。自由エネルギーは温度と粒子数密度 とともに増加することがわかる。
自由エネルギーFが求まったので、あとは偏微分の関係式を使って様々な物理量を計算できる。まず、圧力は
p=− (∂F
∂V )
τ,N
(14.26) から
p=N τ
V (14.27)
すなわち、pV =N τ である。
次にエネルギーは
U =F+τ σ=F−τ (∂F
∂τ )
V,N
=−τ2
[∂(F/τ)
∂τ ]
V,N
(14.28) から
U = 3
2N τ (14.29)
である。因子3/2はnQの中のτのべき指数から生じており、気体が3次元気体であるためである。古典極限に おける並進運動の平均運動エネルギーは、1原子の並進運動の1自由度あたりτ /2すなわちkBT /2に等しい。多 原子分子では回転の自由度や振動の自由度があるので、その自由度の分エネルギーが高くなる。
エントロピーは
σ=− (∂F
∂τ )
V,N
(14.30) から
σ=N [
log ( n
nQ
) +5
2 ]
(14.31) を得る。これは単原子理想気体に対するサックール-テトロード方程式であった。
体積一定のもとでの熱容量は
CV =τ (∂σ
∂τ )
V
(14.32) から
CV =3
2N (14.33)
である。普通の単位では、CV = (3/2)N kBである。一定圧力のもとでの熱容量はτ dσ=dU+pdV の関係式を用 いて
Cp=τ (∂σ
∂τ )
p
= (∂U
∂τ )
p
+p (∂V
∂τ )
p
(14.34) 理想気体の場合Uは温度だけによって、体積にも圧力にもよらないので、(∂U/∂τ)pは(∂U/∂τ)V と同じである。
Cp=CV +N =5
2N (14.35)
普通の単位では、
Cp=CV +N kB =5
2N kB (14.36)
である。