第 7 章 中心力の下での運動 52
7.5 固有方程式 (7.28) 式の解
それでは(7.28)式
Lˆ2Q(θ, φ) =qQ(θ, φ) の解を考えてみよう。
交換関係 [
Lˆ2,Lˆz
]
= 0 (7.71)
が成り立っていることに注意すると、(7.28)式の解はLˆzの固有解とすることができる。つまり
LˆzQ(θ, φ) =sQ(θ, φ) (7.72)
である。詳細な検討を行うと、q=ℏ2l(l+ 1)、s=ℏm、Q=Ylmと書けることがわかる。ここでlとmは整数 で、l≥0、−l≤m≤lである。つまり、
Lˆ2Ylm(θ, φ) = ℏ2l(l+ 1)Ylm(θ, φ) (7.73)
LˆzYlm(θ, φ) = ℏmYlm(θ, φ) (7.74)
である。
lは方位量子数、mは磁気量子数、Ylm(θ, φ)は球面調和関数、と呼ばれる。球面調和関数Ylm(θ, φ)は複素数で、
lが小さい場合は次のようになる。
Y00(θ, φ) = 1
√4π (7.75)
Y10(θ, φ) =
√ 3
4πcosθ=
√ 3 4π
z
r (7.76)
Y1±1(θ, φ) = ∓
√ 3
8πsinθ e±iφ=∓
√ 3 8π
x±iy
r (7.77)
Y20(θ, φ) =
√ 5
16π(3 cos2θ−1) =
√ 5 16π
( 3z2
r2 −1 )
(7.78) Y2±1(θ, φ) = ∓
√15
8πsinθcosθ e±iφ=∓
√15 8π
z(x±iy)
r2 (7.79)
Y2±2(θ, φ) =
√ 15
32πsin2θ e±i2φ=
√ 15 32π
(x±iy)2
r2 (7.80)
Y30(θ, φ) =
√ 7
16πcosθ(5 cos2θ−3) =
√ 7 16π
( 5z3
r3 −3z r
)
(7.81) Y3±1(θ, φ) = ∓
√ 21
64πsinθ(5 cos2θ−1)e±iφ=∓
√ 21 64π
( 5z2
r2 −1
)x±iy
r (7.82)
Y3±2(θ, φ) =
√105
32πsin2θcosθ e±2iφ=
√105 32π z r
(x±iy)2
r2 (7.83)
Y3±3(θ, φ) = ∓
√ 35
64πsin3θ e±3iφ=∓
√ 35 64π
(x±iy)3
r3 (7.84)
上記の球面調和関数が、(7.73)式と(7.74)式を満たすことは、代入して確かめることが出来る。例えば、Y32に ついては、
Lˆ2Y32 = −ℏ2 [ 1
sinθ
∂
∂θ (
sinθ ∂
∂θ )
+ 1
sin2θ
∂2
∂φ2
] √105
32πsin2θcosθe2iφ (7.85)
= −ℏ2
√105 32π
[ 1 sinθ
∂
∂θ
(2 sin2θcos2θ−sin4θ) e2iφ
+ 1
sin2θ(2i)2sin2θcosθe2iφ ]
(7.86)
= −ℏ2
√105 32π
[ 1 sinθ
(4 sinθcos3θ−4 sin3θcosθ−4 sin3θcosθ)
−4 cosθ]e2iφ (7.87)
= −ℏ2
√105 32π
[4 cos3θ−8 sin2θcosθ−4 cosθ]
e2iφ (7.88)
= −ℏ2
√105 32π
[4(
cos2θ−1)
cosθ−8 sin2θcosθ]
e2iφ (7.89)
= −ℏ2
√105 32π
[−12 sin2θcosθ]
e2iφ (7.90)
= ℏ212Y32=ℏ23(3 + 1)Y32 (7.91)
LˆzY32 = −iℏ ∂
∂φ
√105
32πsin2θcosθe2iφ (7.92)
= −iℏ
√105
32πsin2θcosθ(2i)e2iφ (7.93)
= ℏ2Y32 (7.94)
また、球面調和関数は、より一般の場合、ルジャンドル陪多項式という特殊関数を用いて書くことが出来る。
Ylm(θ, φ) = (−1)m+|m|2
√ 2l+ 1
2
(l− |m|)!
(l+|m|)!Pl|m|(cosθ)eimφ (7.95) ここでPl|m|(ξ)がルジャンドル陪多項式である。なぜ固有値がlやmのような整数で表せるのかも合わせて、詳 しくは教科書を参照して欲しい。
球面調和関数の性質を詳しく見てみよう。いまl= 3の場合に注目してみる。mについてY3mはemiφの依存性 を持っている。φは0から2πまでz軸の周りを回転するように変化するので、φは0から2πへ変化すると、Y3m はemiφに従って、+から−、再び+と言う変化を|m|回繰り返す。波の振動回数が多いほど運動エネルギーが 高いのであるから、z軸の周りの回転運動エネルギーは|m|が大きいほど高い。
次に、θについて注目してみよう。θは0からπまでz軸が+の向きから−の向きへ変化する。θが0からπ まで変化する時、cosθは1から−1へ単調に減少し、sinθは0から1へ単調増加した後に、1から0へと単調減 少する。従って、Y30は、cosθ = 0つまりθ =π/2と cosθ =±√
3/5を満たす2つのθで0となる。Y3±1は、
sinθ= 0つまりθ= 0, πとcosθ=±√
1/5を満たす2つのθで0となる。Y3±2は、sinθ= 0つまりθ= 0, πと cosθ= 0つまりθ=π/2で0となる。Y3±3は、sinθ= 0つまりθ= 0, πで0となる。従って、θ= 0, πとなる極 を除くと、緯度方向には3− |m|の数だけ0となる節が存在し、緯度方向については例えばx軸の周りを一周する と3− |m|回の振動をする。緯度方向の運動エネルギーが|m|と共に減少することがわかる。
このことは、一般的なlについても成立する。Ylmは、z軸の周り方向つまり経度方向について|m|回の振動を し、緯度方向については例えばx軸の周りを一周するとl− |m|回の振動をする。従って、z軸の周り方向つまり 経度方向の回転運動について|m|と共に運動エネルギーが増加し、緯度方向については例えばx軸の周りの回転 運動についてl− |m|と共に運動エネルギーが増加する。結局、全体としての回転運動は常にlだけで決まること になるのであり、このことはz軸方向の角運動量Lˆzの固有値がℏmであって、全体の角運動量の2乗Lˆ2の固有 値がℏ2l(l+ 1)であることと矛盾しない。
mは−lからlまで変わるので、経度方向の回転運動が最大なのは|m|=lの時でありYlmはz軸の周りにまと わりついた形を取り、緯度方向の回転運動が最大なのはm= 0の時でありYlmはx-y平面の周りにまとわりつい た形を取っている。また、l= 0のとき、回転運動はしておらず、Ylmはどの向きでも同じである。
なお、以上の議論でz軸をある一つの方向に選んだのは人間の勝手であり、中心力の下での運動ではどのようにz 軸を選んでも構わない。いずれにしても回転運動の運動エネルギーはLˆ2の固有値だけに依存し、ℏ2l(l+ 1)/2mr2 と書けるからである。従って、Lˆ2の固有値が同じ様々なYlmの任意の線形結合をとっても、それは同じ回転運動 の運動エネルギーを持つ運動となるので、複素数の球面調和関数Ylmでなく、
Ylm=
Ylm (m= 0)
√1 2
[(−1)mYlm+Yl−m]
(m >0)
√1 2i
[
(−1)|m|Yl|m|−Yl−|m| ]
(m <0)
(7.96)
と定義される、実数形式の球面調和関数Ylmを用いて回転運動を議論するのが便利である。lが小さい時には、次 のようになる。
Y0,0 = 1
√4π (7.97)
Y1,0 =
√ 3 4π
z
r (7.98)
Y1,1 =
√ 3 4π
x
r (7.99)
Y1,−1 =
√ 3 4π
y
r (7.100)
Y2,0 =
√ 5 16π
( 3z2
r2 −1 )
(7.101) Y2,1 =
√15 4π
xz
r2 (7.102)
Y2,−1 =
√15 4π
yz
r2 (7.103)
Y2,2 =
√ 15 16π
x2−y2
r2 (7.104)
Y2,−2 =
√15 4π
xy
r2 (7.105)
Y3,0 =
√ 7 16π
( 5z3
r3 −3z r
)
(7.106) Y3,1 =
√ 21 32π
( 5z2
r2 −1 )x
r (7.107)
Y3,−1 =
√ 21 32π
( 5z2
r2 −1 )y
r (7.108)
Y3,2 =
√105 16π z r
x2−y2
r2 (7.109)
Y3,−2 =
√105 4π
xyz
r3 (7.110)
Y3,3 =
√ 35 32π
x3−3xy2
r3 (7.111)
Y3,−3 =
√ 35 32π
y3−3x2y
r3 (7.112)
ここで、l= 0をs軌道、l= 1をp軌道、l= 2をd軌道、l= 3をf軌道と呼ぶ。そして、Y1,0はpz軌道、Y1,1
はpx軌道、Y1,−1はpz軌道、Y2,0はdz2軌道、Y2,1はdxz軌道、Y2,−1はdyz軌道、Y2,2はdx2−y2軌道、Y2,−2 はdxy軌道、と呼ぶ。
上記の実数型球面調和関数は(7.74)式を満たさないが、(7.73)式を満たすことは代入して確かめることが出来 る。例えば、Y11については、
Y1,1=
√ 3 4π
z r =
√ 3
4πsinθcosϕ (7.113)
Lˆ2Y1,1 = −ℏ2 [ 1
sinθ
∂
∂θ (
sinθ∂
∂θ )
+ 1
sin2θ
∂2
∂ϕ2 ]
Y1,1 (7.114)
= −ℏ2 [ 1
sinθ
∂
∂θ(sinθcosθcosϕ)− 1
sin2θsinθcosϕ ]
(7.115)
= −ℏ2 [ 1
sinθ
(−sin2θ+ cos2θ)
cosϕ− 1
sin2θsinθcosϕ ]
(7.116)
= −ℏ2 [ 1
sinθ
(−sin2θ+ cos2θ−1) cosϕ
]
(7.117)
= −ℏ2 [ 1
sinθ
(−2 sin2θ) cosϕ
]
(7.118)
= ℏ22Y1,1=ℏ2l(l+ 1)Y1,1 (7.119)
このように、Q=YlmまたはQ=Yl,m、q=ℏ2l(l+ 1)となることがわかった。
7.6 (7.29) 式の解
回転運動に関する波動関数Qと固有値qがそれぞれYlmとℏ2l(l+ 1)と求まったので、次に(7.29)式の解を求 めてみる。つまり [
−ℏ2 2m
1 r
d2
dr2r+ℏ2l(l+ 1)
2mr2 +V(r) ]
R(r) =ER(r) (7.120)
を解くことである。
このためには、まずu(r) =rR(r)と置き直してやると便利である。すると [
−ℏ2 2m
d2
dr2 +ℏ2l(l+ 1)
2mr2 +V(r) ]
u(r) =Eu(r) (7.121)
である。この微分方程式は、rの範囲がr >0であることを除けば、一次元のポテンシャルの下で動く一次元の シュレディンガー方程式と同じである。ここでそのポテンシャルU(r)は
U(r) =ℏ2l(l+ 1)
2mr2 +V(r) (7.122)
である。今、V(r)がV(r)<0、かつr→0でV(r)∼rkただしk >−2と振る舞い、r→ ∞でV(r)→0である とすると、U(r)を図示することが出来る。r→0ではℏ2l(l+1)
2mr2 の項が支配的になり、 lが大きいほど大きな障壁 が現れ、中心に近寄れなくなる。この項は遠心力の位置エネルギーに対応する。しかしrが大きくなるとV(r)が 支配的になってU(r)<0となるが、さらにrが増大するとU(r)は0に近づく。このため、粒子は中間的なrの 領域に束縛されて運動する事になる。
u(r)の振る舞いを調べてみよう。r→0では[
ℏ2l(l+ 1)]
/2mr2の項が支配的なので、
[
−ℏ2 2m
d2
dr2 +ℏ2l(l+ 1) 2mr2
]
u(r) =Eu(r) (7.123)
を満たす。u(r)がrjという依存性を示すものとすると
−j(j−1)rj−2+l(l+ 1)
r2 rj = 2m
ℏ2Erj (7.124)
−j(j−1) +l(l+ 1) = 2m
ℏ2Er2 (7.125)
となる。右辺は0として良いので、つまりj =l+ 1でなければならない。従って、R(r)はr →0でrlに比例 する。
次にr→ ∞の場合を考える。このとき [
−ℏ2 2m
d2 dr2
]
u(r) =Eu(r) (7.126)
を満たすので、B=−Eとして、u(r)はexp (−√
2mB/ℏ2r
)に比例して急速に減衰することがわかる。ただし、
ここで束縛されて運動しているという条件を利用して、発散する解を捨てた。
V(r)の具体的な形を与えない限り、(7.29)式の解についてはこれ以上深入りすることが出来ないが、波動関数 はψ=Cu(r)Ylm(θ, φ)/rと書くことができることがわかった。